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2010年5月20日 (木)

包括支払いの罠 自戒を込めてちょっと復習

制度が出来上がってそれなりの期間運用もされてきているにも関わらず、相変わらず大きな落とし穴にはまっていく人々が後を絶たないということは結構ありますよね。
先日ネットの掲示板を読み流していて、思わず「あ~、あるある」とつぶやいてしまったのがこちらの書き込みでしたが、この場合いつまでも穴にはまる人間が出てくることが問題なのか、そんな穴をいつまでも放置しておく方が問題なのかと、ふと考え込んでしまう話ではあります。

927 投稿日:2010/05/18(火)

他の医療機関に入院中の患者家族が代理で薬処方希望で
来た時、説明するのが大変。

928 投稿日:2010/05/18(火)

>927
それ困るね。うちも精神病で自殺未遂の患者が入院中に
ドクターも薬剤師も知らないうちに
家族が勝手に2週間分の精神病の薬をかかりつけ医からもらって来やがった。

うち、DPC何だけど、これって、10割分かかりつけ医から請求来るんだよなあ。
勘弁してほしい。

よくDPCと言いますが、厳密に言えば包括払い制度が正しい呼び方で、DPC(Diagnosis Procedure Combination)というのはその支払額を決めるための診断群分類の意味ですから誤用なんですが、慣習的に包括払い自体をDPCと呼んでいることもあってここでもその呼称で統一します。
さて、冒頭の書き込みなども一体何のことやらと思われる方も多いと思いますが、DPCで入院中はその間の薬代も込みで報酬が出ているという建前ですから、他院での投薬などDPCの支払い範疇に含まれる医療行為を受けた場合には、いわば保険の二重取りになるという理屈です(そこでしか出せないような特殊な投薬などは別ですが)。
厚労省ではこうした場合「包括部分を出来高算定は出来ず、(当事者間の)合議で精算するように」と言っているようですが、実際問題としては受診先の医療機関では保険で全部査定されてしまうわけですから、その分を丸々入院先に請求してくるということになるわけですよね(保険制度上はDPC側に対して一括で支払いを行っている理屈ですし)。

さて、現実的な問題はこうしたことが起こった場合誰が悪かったのかという話で、患者をDPCで入院させていながら他院を受診させた入院先が悪いのか、他院でDPCで入院していることを確認もせず処方した受診先が悪いのか、それとも場合によっては入院先も知らない間に勝手に他院に薬を受け取りに現れた患者が悪いのかと言うことです。
意外にDPC病院の人もシステム自体を知らないことが問題をややこしくする場合もあるようですが、考えてみればDPC病院にいるような先生は言ってみればサラリーマンで、あまり保険診療の細々とした計算などする機会もなかろうとまだしも同情の余地はあるものの、実際にそのあたりの計算・管理を預かっているはずの事務方がそれを知らないということでは問題ですよね。
開業をされている長尾和宏先生がそのあたりのやり取りに憤慨されてブログに書かれていますけれども、一応は病院の医事担当者でしょうに「知りません。そんなことは聞いたこともありません。」では一体この病院の経営はどうなっているのかと心配になってくる話です。

DPC病院入院中患者さんへの投薬を巡る無用なバトル(2010年2月17日ブログ記事)

ある有名なDPC(包括払い)病院に膝の手術で入院中の患者さんのご家族が、午前中の最後に糖尿病の薬を取りにきました。DPC病院に入院中の患者には診療所からの投薬は禁止されています。もし投薬すればあとで必ず問題にされペナルテイを科せられます。しかし、ご家族は納得されません私が意地悪をしていると思っているようです。その病院の看護師が取りに行くよう指示したそうです。さっそく病院の医事課に電話しました。事務担当者さえもそのルールを知らないようです。情けない話です。バトルになりました。

病院担当者「もうすぐ退院するのだから投薬してあげればいいじゃないですか?
私「それは法律で禁じられています。そんな基本的なことを、看護師さんもお宅も知らないのですか?」

病院担当者「知りません。そんなことは聞いたこともありません。先生が初めてです。
私「とにかく入院中はダメなのです。今から、保険者か近畿厚生局に電話をしてどちらが正しいか調べてください。院長先生も知らないようですので言ってあげてください」

2時間後、私の携帯電話に院長先生からかかってきました。

院長「調べてみたら長尾先生の言うとおりでした。こちらが間違っていました。すみません」
私「他意はありませんから、気を悪くしないでください。どうか職員みんなに教えてあげてください」
院長「しかし、なんであかんのやろ?
私「知りません・・・」

このようなバトルは時々しますが、今日のように院長まで巻き込んで徹底的にしたのは初めてです。その病院のために私が悪者になってやろうと思いました。

DPCの病院は投薬すれば持ち出し(=損になる)になりますから、出来るだけ投薬したくありません。気持ちは分かります。しかしこちらもお上からみすみす処分を受けるような行為をするわけにもいけません。入院中か否かは処方箋の日付けから足がつきます。

しかし、そもそも、包括性の医療機関と出来高の医療機関が連携すれば、必ずこのような押し付け合いが起こります。予想された自然の摂理です。病院が悪いのではなく、実は規則がおかしいのです。地域医療連携を進めるにはこのような根本的な部分の整合性を確保する必要があります。いまの医療政策にはここらが全く抜け落ちています。

実現可能な提案として病院から依頼のFAX1枚があれば、かかりつけ診療所から一定範囲内の投薬可能となるよう規則を変えればいいだけなのです。厚労省はそんな知恵すらないのでしょうか?それとも現場を全く知らないのでしょうか?すべては患者さんに利便が図れる制度にちょっと変えればいいだけなのに、誰もそれができない。不思議です。

DPC時代、投薬を巡る無用なバトルはなんとかして欲しいものです。時間の無駄です。なにより患者さんとご家族に迷惑をかけます

制度的な問題点は長尾先生がほとんど指摘されているところですが、元々DPCが導入された当時から各病院内で「いったん入院させたら最低限のことしかやらないように。それまでに必要なことはなるべく外来ですませておけ」とお金に厳しい病院ほど医者を厳しくしつけているわけですから、入院中にかかりつけの薬が切れたなんて言われれば「あ、それ向こうでもらってきて」とも言いたくなるのが自然ですよね。
昔は大病院などでは一旦入院させたら来る日も来る日も検査漬けで、こっちは大病で入院しているのにいったいいつになったら治療が始まるのかと患者さんが切れた、なんて話もごく普通にあったわけですが、近頃では逆に入院させるのは手術前日から術後最低限の期間だけ、入院前には連日外来に通って検査漬けなんてことが当たり前で「面倒くさくてかなわん」とこれまた患者さんには不評のようです。
甚だしきは糖尿病など基礎疾患のコントロールはあらかじめそちらの病院でお願いしますなどと言ってくるくらいはまだ理解可能ですが、〇〇日に手術しますからそれに合わせてあらかじめ○単位ほど輸血しといて下さいねなんてことを言ってくる病院もあったりで、ある意味そこまで徹底すると感心するしかありませんよね。

このあたりは長尾先生の提唱するような話がいいのか、それでは抜け道が多すぎて(その気になれば内科入院などほぼホテルコストだけでやれる理屈ですからね)DPCの意味がなくなるからと別な方法論を考えるべきなのか、制度設計上の議論も必要ではあるのでしょうが、何にしろ現場の人間にとっては今更ながらに厄介な話ではあります。
当座こういう無用のトラブルを避けるためにどうしたらいいのかと誰しも思うわけですが、当然ながらまず第一にDPC病院側は制度をしっかり承知してコストの取れない患者を外に出さないということが一つでしょうけれども、万一それに漏れた患者がやって来た場合には長尾先生のようによほど腹をくくって(笑)かからないと、患者さんは病院の許可を得て来ているつもりですからなかなか対応が難しい場合も多そうに思えます。
調べていましたらちょうど岐阜県保険医新聞にこの場合どうすべきかと言う話が出ているのですけれども、地域開業医の外来診療での現実と比べてこの対処法なるものをどう考えるべきか、まずはそのまま引用してみましょう。

解説「DPC病院の入院患者に投薬は可能か?」 -かかりつけ医としての対処法-(2009年8月10日岐阜県保険医新聞)より抜粋

 「これまで当院を受診していた患者がDPC対象病院に入院した。患者の家族が薬を出してほしいとやって来たが、出してよいか」。DPC対象病院の増加に伴い、ここ最近、こうした相談事例が増えている。本稿では、DPCの仕組みとかかりつけ医療機関に求められる対処法を紹介する。
(略)

かかりつけ医の対処法

 では、DPC対象病院に入院する患者又はその家族が薬を出してほしいと来院した場合、かかりつけ医療機関はどう対処すればよいのか。別掲で明らかなように、投薬の費用はDPC対象病院の入院料の中に包括評価されている。つまり投薬についてはDPC対象病院が責任を持って対応しなくてはならないということだ。もし、患者や家族の求めに応じて投薬してしまうと、患者は入院先とかかりつけ医療機関双方から薬剤料を二重に請求されることになる。また、かかりつけ医療機関が薬剤料をレセプト請求しても後日保険者による再審査請求により査定され、持ち出しになるなど問題点が多い。
 以上を踏まえ、かかりつけ医療機関として求められる対処法を述べる。①ほとんどのケースにおいて患者や家族から入院中の投薬の申し出があるものと考えられるので、入院先を聞き出すことが重要である。②聞き出した情報からDPC対象病院であることが明らかな場合には、患者や家族に対して当院では投薬できないので、入院先から投薬してもらうように説明する。③入院先がDPC対象病院か分からない場合は、病院に直接電話で確認する。④患者がDPC対象病院に入院していたことが査定などによって後に判明した場合は、査定分をDPC対象病院に実費請求する必要も生じる。⑤上記④を防ぐための手段として、患者が入院中の場合には窓口に申し出るよう院内掲示物などにより周知するのも1つの方法と考えられる。
 以上によりある程度の対処は可能と考えるが、複雑なケースなどでお困りの場合にはいつでも相談に応じるのでお気軽に協会までお問い合わせいただきたい。(F)

なんと言いますか、「ここの道路には穴が空いていて時々落ちる人がいます」と言う現実を前にして、やれ警備員を立てるべきか足元注意の看板を目立つようにすべきかと議論しているような感じで、これでは確かに「時間の無駄」としか言いようがありません。
「ほとんどのケースにおいて患者や家族から入院中の投薬の申し出があるものと考えられるので、入院先を聞き出すことが重要である」とはそのとおりなんでしょうが、外来にやってきた患者全てに「あなたは今現在DPC病院で入院加療を受けていますか?」と聞いて回るわけでもないでしょうから、実のところこの前段階として入院していることを外来で患者が申告するかどうかという問題があります。
これが意外に思われるでしょうが患者自身が何も言わないことがあったりして困るわけですが、入院していることが判ったとして特に長尾先生のケースのように先方から指示されて来院しているような場合、わざわざお金と時間をかけてやってきた患者さんが制度がそうなんだからと素直に納得するかどうかです。
最終的に納得したにしてもその説明と同意に要するマンパワーはコスト請求するわけにもいかないわけですから、忙しい中で時間を割いた先生にとっては文字通りの泣き寝入りという話でしょうけれども、やはりこの辺りは単に制度を周知徹底していくというだけでは今後も幾らでも犠牲者がでそうな話で、早いところ制度的に穴自体を何とかしていただくというのが筋ではないのでしょうかね?>厚労省さん

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コメント

管理人さんは、DPC包括入院中の患者の他医療機関受診について今回取り上げられたようですが、4月の改定でDPC包括よりもDPC以外の病棟の入院においての他医療機関受診が問題になっているようですね。
DPC包括入院については、他医療機関での保険請求はあいかわらず不可でDPC病院が精算ということになっていますが、DPC病院のほうではその治療を自院でやったことと同じに取り扱えるようになりましたので若干縛りが緩和されたのかなと感じます。まぁ、黙って受診されてしまえば元も子もないのですが・・・
一方、そのほかの病棟については、他医療機関受診されると入院中の病院も入院料を減額(特に療養などの包括病棟は大幅減)させられるし、他医療機関も投薬については原則、受診日の分しか認められないため、その他の分は査定対象になりうるとなっています。
すでにいろいろな団体から批判が続出しているようで国会でも取り上げられたようですから、今後においてもこの他医療機関受診についてはいろいろ出てきそうですね。

投稿: とおりすがる | 2010年5月20日 (木) 10時57分

投薬については「受診日」の分しか認められない。今回この一言が入ることで全ての病院が事実上DPCとほとんど変わらない扱いになりましたね。
密かに忍び込ませて、中医協でも誰も問題に気づかないまま通ってしまったようです。
官僚の高笑いが聞こえてきそうな案件です。

投稿: 投薬については「受診日」の分しか認められない | 2010年5月20日 (木) 12時35分

そうなんですよ。
今回ほんのさわりしか書きませんでしたけれども、少し調べるだけでも「何故?」と疑問符テンコ盛りの話が山積で、しかも診療報酬改訂を経てもよくなるどころかむしろ悪くなっているのはどうなんだと思います。
そもそもこのあたりは改訂作業の議論の中でもほとんど取り上げられていなかったように思いますけれども、作業に参加するようなエライ先生方はこんな細々としたお金の話には興味がないのか、それとも誰かがそちらに話が向かないように誘導していたのか、そして誘導していたのだとすれば、それによってどういうメリットがあるのかということでしょうね。

投稿: 管理人nobu | 2010年5月21日 (金) 11時50分

いきなりすみません。

去年の6月7月に、夫が入院中に他科受診させてしまっていました。
他科受診という概念も知らず、私がかかっている不妊治療クリニックでの人工授精だったのですが(夫は通院しなくてもよく、私が容器で精液を持参)その時に夫の診察券と保険証も提示しました。人工授精は私の方での自由診療になりますが、夫の方が再診料と精液検査代として保険診療となり診察代は600円ほどでした。
医療費控除の為に領収書をチェックしていて、ん?入院中に他のクリニックに行った事になる…と思い調べたところ他科受診と分かり、勝手にしてはいけない事だったと今さら気付きました。
どちらの病院からもまだ何も言われていないのですが、これからどうしたらいいでしょうか?
入院中の領収書にはDPC包括料がかかっていたので、クリニックでの診察代を全額入院していた病院にお支払いすればいいでしょうか?
不躾に質問してすみません>_<

投稿: おく | 2016年3月 4日 (金) 14時36分

何も言ってこないなら放置でよろしいかと

投稿: | 2016年3月 4日 (金) 17時10分

いきなり質問したのにありがとうございますT_T!

小心者なので入院先の病院に申し出ようかと思っております。他院での自己負担600円だった場合、全額の2000円以外にも入院先の病院は損害がかかっているものなんでしょうか?いくら請求される事になるかビクビクです…

投稿: おく | 2016年3月 4日 (金) 19時52分

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