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2010年5月17日 (月)

一向に減る気配のない未受診妊婦、そろそろ背後にあるものにも目を向けなければならないのでは

本題とはあまり関係ないのですが、ちょっとした記事をまず一つ紹介しておきましょう。
「産科医、事故」とキーワードが並びますと、ひと頃なら「またリピーター医師の犠牲が?!」なんてマスコミさんやら市民団体やらのの格好の餌という時代もありましたけれども、同じキーワードでこういうものが引っかかってくることもあるのだなと考えさせられたのがこちらの記事です。

車事故、記憶失い台風で証拠消え…保険金求め医師が提訴(2010年5月16日朝日新聞)

深夜、緊急手術の呼び出しで病院に向かう途中に事故を起こし新車が全損。一時、意識を失いながら、なんとか病院にたどり着くも、患者の容体が安定して手術の必要はなし。おまけに台風と記憶喪失で事故現場が分からなくなり、保険金の支払いを拒否――。そんな「不運」な40代の産婦人科医の男性(岐阜市)が、東京の大手保険会社を相手取り、保険金など約880万円を求めて岐阜地裁に提訴した。

 訴状などによると、男性は岐阜市内の産婦人科医院の院長。2009年9月28日午前1時40分ごろ、「緊急帝王切開が必要な患者が出た」との呼び出しがあり、約20キロ離れた愛知県犬山市の関連医院へ自分の車で向かった。

 しかし、途中でハンドル操作を誤った男性は草むらにつっこみ意識を失う。意識が戻ったのは約30分後。何とか病院に到着したが、すでに患者の容体は落ち着き、手術の必要はなかった

 この事故で、男性の車は全損。英国の「ロータス」社製の車は、2カ月前に約800万円で購入したばかり。保険の支払いを求めたが、男性の記憶があいまいで、さらに事故の10日後に通過した台風のせいで証拠が散逸。「現場が特定できない」と車両保険の支払いを拒まれた

 男性側は「調査が速やかになされていれば現場は特定できた」と訴えた。保険会社側は「訴状が届いたばかりなので、詳細を確認してから対応を決めたい」としている。(贄川俊)

不謹慎ながらまるでマンガのような展開と思ってしまいましたが、ご本人にすれば真夜中に呼び出された挙句事故には遭って新車が潰れるわ保険金は出ないわで、ふんだりけったりとはまさにこのことなんでしょうが、開業の先生で他の開業医の応援に行っていたということなんですかね?
これで患者さんまで大変なことになっていたら泣きっ面に蜂どころの話ではなかったところでしょうが、幸いにもそちらは大過なかったようで文字通り不幸中の幸いだったということでしょうか。
しかし産科がいろいろな意味でハイリスクであるのはこういう思わぬアクシデントのみに限ったことでもなく、先ごろこんな調査結果が公表されて社会的にも少しばかり話題になっているところですが、こういう話はもはや産科医を少々増やした程度でどうこうなるようなものではないことは明らかですよね。

未受診出産152例 大阪府が昨年初調査(2010年5月13日産経新聞)

 妊婦検診をほとんど受けないまま分娩(ぶんべん)したり、全く検診を受けないで飛び込み出産したケースが平成21年の1年間で、大阪府内で152例あったことが12日、分かった。府内でお産する人の500人に1人の割合で、未受診の理由について33%が「お金がない」などの経済的理由をあげたという。飛び込み出産は近年、増加する傾向にあるといわれているが、実態は分かっておらず、都道府県が全数調査を行ったのは全国で初めてという。

 妊婦検診は母体と胎児の健康を確保することを目的に、出産までに14回程度の検診を受けることが望ましいとされている。しかし、医療機関などによると、検診を受けないまま出産するケースが増加しているといい、府が初めて実態調査に乗り出した。

 調査は府内で分娩を取り扱うすべての施設にあたる約160施設が対象。妊婦検診の受診回数が3回以下か、最終受診から3カ月以上受診していないケースを調べた。

 未受診妊婦の152例のうち、妊婦の年齢は13歳から43歳までの平均28・3歳で、未成年は24人。中学生も2人いたという。40%が初産で、69%が未婚だった。母体の41例に妊娠高血圧症候群などの合併症があったほか、早産や子宮内感染など、新生児の健康に問題がある事例も73例。死産も3例あった

 妊婦検診を受けなかった理由については「お金がない」「失業し経済的に苦しかった」といった経済的理由を挙げる人が最も多く33%で、「妊娠に気づかなかった」「どこにいってよいか分からなかった」という知識の欠如をあげた人が21%。また、育児の多忙や不倫、離婚といった複雑な家庭事情を理由にあげた人もいた。

飛び込み出産:昨年152件 500人に1人、未受診妊婦 /大阪(2010年5月13日毎日新聞)

◇府と大阪産婦人科医会が初調査

 妊婦健診を十分に受けず、分べんに至る「飛び込み出産」(未受診妊婦)が09年1月からの1年間で府内で152件あったことが、府と大阪産婦人科医会の調査で分かった。医師の処置の必要な出産が69%を占めたほか、育児放棄(ネグレクト)などが懸念される例もあり、未受診妊婦が医学的だけでなく、社会的にもハイリスクである実態が浮かび上がった。「飛び込み出産」について都道府県レベルの調査は全国初めてという。【佐藤慶】

 府内の全産婦人科医療機関166施設に依頼し、95施設から調査協力の回答を得た。回答していない施設は過去に受け入れ実績がなく、府内の事例をほぼカバーした。調査では、「受診回数3回以下」「最後の受診から3カ月以上未受診」のいずれかに該当する妊婦を「未受診妊婦」と定義した。

 調査結果によると、29施設で152件の未受診妊婦の報告があった。府内で出産する500人に1人の割合で、未受診妊婦の69%が未婚、40%が初産婦だった。

31・7%の新生児が新生児集中治療室(NICU)を利用したほか、死産も3例あり、周産期死亡率19・7は08年の全国値4・3を大幅に上回った。受診しなかった理由は「経済的な理由」が33%で最も多く、妊娠に気づかなかったり、どこに行ってよいか分からないなどの「知識の欠如」が21%で続いた。府は「制度を知らない人や社会的に孤立している人に対して妊婦健診を周知し、受診率向上につなげたい」としている。

どこの自治体であれ少なくとも数回以上は無料での健診枠を確保しているはずですから、検診受診三回以下というのは経済的側面だけでの対応では限界があることを伺わせる話ですが、注目すべきは未受診妊婦という集団は様々な意味での訳あり妊娠がかなり多いということ、根本的な妊娠に対する知識が欠如している人々も相当数いるということですよね。
こうした若年世代では物心ついてから病院にかかったことがないという人間も多いでしょうから、これらは単に医療機関の努力でどうこうなるものではなく、学校現場におけるきちんとした性教育や行政による広報活動、社会的な支援策など地域社会全体が関わった対応が必要となるということでしょう。
一方で注目されるのが未受診妊婦の比率が全体の1/500という比較的少ない比率であるにも関わらず、合併症や周産期死亡率の高さなど医学的な問題は非常に多いということですが、この点は昨年末に別件で報告された東京都のデータでも未受診妊婦は搬送に手間取るとされている件と合わせて、非常にハイリスクな出産環境に置かれているということがわかる話です。

一般通報の4割が未受診妊婦-都の搬送コーディネート業務実績(2009年12月23日ロハス・メディカル)

 東京都が8月末に開始した妊婦や新生児の救急搬送コーディネーターについて、11月30日までに93件の実績があったことが22日、都が公表した調査で分かった。コーディネーターが通報を受ける経路は、119番通報から直接コーディネートにつなげる「一般通報」と、産科クリニックなどから産科救急の機能を持つ施設に搬送を依頼をする「転院搬送」があるが、「一般通報」でコーディネートされた妊婦の約4割がかかりつけ医のいない「未受診妊婦」だった。都の担当者は「何かあった時にスムーズに受診できるように、妊娠が分かったら母子手帳を持ち、かかりつけの産科医療機関を持ってもらいたい」と話している。(熊田梨恵)

 昨年都内で起こった妊婦の救急け入れ困難の問題を受け、都は受け入れ先を迅速に探すための搬送コーディネート業務を8月31日から開始している。東京消防庁内で119番通報を受ける指令室に席を置く助産師がコーディネーターとして交替勤務で24時間対応し、受け入れ先が決まらない妊婦や新生児の搬送について、医療機関や119番からの問い合わせを受けている
(略) 
 都によると、8月31日から11月30日までにコーディネーターが行った搬送は93件で、このうち転院搬送が52件、一般通報が41件だった。

 かかりつけ対応ができないために一般通報となった41件の内訳を見ると、「未受診」が41%と最多で、次に「かかりつけが遠方」27%、「かかりつけがビル診などのため夜間対応なし」12%、「受け入れ不能」10%などだった。

 転院搬送の理由では、「切迫早産」60%、「前期破水」26%、「PIH(妊娠高血圧症候群)」6%、「IUGR(子宮内胎児発育遅延)」4%、「切迫流産」2%、「胎児機能不全」2%など。

 都が同日開いた周産期医療関係者の集まる有識者会議で、杉本充弘委員(日本赤十字社医療センター産科部長)は「未受診妊婦が前より増えていると思う」と発言し、都内の外国人などの人口についての実態把握を都に求めた。杉本委員は会合終了後に取材に応じ、「コーディネーターからの搬送依頼を受けていても未受診妊婦が多くなったと感じている。妊婦検診は14枚の券で補助されている【編注】が、病院に行く時間的な余裕もないのかもしれない。社会の不況や経済的な状況の一部の断面かもしれないと思う。また、東京独特で、妊婦さんが地域や周囲とのご近所付き合いがなくなっていて、状態が悪そうでも声を掛け合ったりするような感じではなくなっているのでは」と話した。

【編注】「妊婦検診は14枚の券で補助」...東京都では、母子手帳に付いている14枚の受診票を産科医療機関の窓口で提出することで、一定の検査については都内の病院ならどこでも無料で受けられる。

土地柄による未受診者比率の差というものを考慮に入れたとしても、いまさらご近所づきあいがどうとかいうレベルの話でもなくなってきているのかとも思えますが、当然ながら未受診妊婦は受け入れにもこうして手間取る、受け入れられても切迫した状況下で一からデータを集め方針を即座に決定しなければならないと言う状況が、先程の記事にも出たような周産期の各種問題が高率に発生する原因ともなっていそうです。
これらはいずれも単なる事実の提示としてはいまさら感の強いニュースでしかありませんけれども、未受診妊婦を減らしていくことが医療現場のみならず地域社会全体としての課題だと考えるならば、いずれの記事も物足りないなという印象が拭えないところですよね。
未受診妊婦問題の根本的解決は一朝一夕になることでもありませんが、一方で将来に向けて問題解決を図るためには厳しいことを言うようですけれども、まず社会的に未受診というのは悪いことであって許されないのだというコンセンサスをもっと作り上げていかなければ、いわば一番最後の瞬間に関わるだけの医療現場に近いあたりだけで騒いでいても仕方がないという気がします。

例えば無免許運転というものはバレれば社会的に大きなバッシングを受けて当たり前だというコンセンサスが成立していて、お金がなくて教習所に通えなかっただとか、仕事が忙しくて更新出来なかったなんて言い訳は通用しないわけですが、一方で未受診妊婦ということになると今のところ上記の記事におけるスタンスでもわかるように、同様のケースであっても非難というよりは同情的というに近いですよね。
一方で免許証がなくてもきちんと運転技術が伴っていれば事故などで社会に迷惑をかける確率は一般ドライバーとそう変わらないかも知れませんが、未受診妊婦が社会と、何より生まれてくる子供に迷惑をかける確率は確実に高いというデータがこうして出ているわけですから、どちらが社会的正義からより遠い存在かと言えばこれは明らかなように見えます。
だからと言って未受診妊婦は見つけ次第逮捕しろなんて話にもなりませんけれども、まずこうした行動が子供に対する無責任というだけでなく、自分自身にとっても社会にとっても悪い行為であるという認識を広めていかないことには、経済情勢も性習慣もおいそれと改善する見込みがない時代だけにいつまでたってもこの問題は解決しそうにありません。

調査によれば妊娠にまつわる様々な知識や制度を知らなかったという人も多いですけれども、全ての人が全ての法律に通じているわけでもないのに法に違反すれば裁かれるのが法治社会の常識で、言ってみればそれは「知らない方が悪い」と言われても仕方がないところですし、一方では若年者妊娠の増加などを見ても学校教育できちんとした知識を授けておくことは極めて重要な社会的義務だとも言えそうです。
いまさら「おしべとめしべが…」という時代でもないでしょうけれども、せいぜいが妊娠する行為をすると妊娠してしまうことがあります、なんてレベルの性教育では全く意味がないことは明らかなわけですから、そもそも妊娠の兆候とはどんなものか、妊娠かなと思った時にどういう対応をしなければならないかといった実際的な知識は、妊婦検診システムの周知ともセットで取り上げておくべきではないかという気がします。
このあたりは一見すると昔ながらの性教育問題の延長であって、未受診妊婦受け入れ問題で大騒ぎに成っている医療現場からはるかに遠い世界のようにも見えますけれども、結局のところそういう社会的背景を地道に改善していくところから始めていかないと仕方がないんじゃないでしょうかね。

幸い?こういう医療現場と遠いところでの社会的構造的な未受診妊婦対策というものは、いくら熱心にやったところで医療費を減らすことはあっても増やすということは全くない道理ですから、未だ医療費増に神経を尖らせている方々にとっても受け入れやすい方法論なのではないかという副次的効果もありそうですしね。
何にしろ医療費を減らすために病気になる前の対策が重要なんだと、昨今ではメタボだなんだと大騒ぎしながら社会的に対策をやってきているわけですから、未だ解決の見通しが全く立っていたい未受診妊婦問題においても同じように、広く社会を巻き込んだ大掛かりな対策をやっても何らおかしくはないんじゃないかと言う気はしています。

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