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2010年4月27日 (火)

何でも昔どおりが一番いいと言うわけでもなく お産の話題に事寄せての雑感

本日まずは二つばかりの記事を最初に紹介してみたいと思います。

病院出産、10年後に20%減 産婦人科医会が推計(2010年4月22日47ニュース)

病院勤務の産科医の就労環境を改善しなければ、10年後に病院(20床以上)で扱える出産数は、2009年の約54万件から約20%減る可能性があるとの推計を、日本産婦人科医会常務理事の中井章人・日本医科大教授がまとめた。

 女性医師が子育てなどのために、労働環境が過酷な出産診療から離れると予測されるのが理由で、中井教授は「(環境の)迅速な改善が必要」としている。

 同医会の09年8月の全国調査では、女性産婦人科医の約3割が、自分自身が妊娠・育児中だった。その一方で、病院勤務医の勤務時間や当直回数はここ1、2年ほとんど変わらなかった。中井教授の推計では、勤務形態の改善がなければ出産診療に携わる女性医師が減り、10年後には病院勤務の産科医が25%減少。病院の出産受け入れ件数は約41万件に落ち込むとしている。

 一方、診療所(19床以下)で09年に扱った出産数は約53万件。「診療所は親子や夫婦で運営されているケースが多く、生活に合わせた多様な働き方が可能」(中井教授)として、10年後も48万件程度を維持すると推計している。

安全なお産 地域で守る 診療所で健診 病院は分娩 セミオープンシステム(2010年4月21日中国新聞)

 ▽中国地方でも導入進む

妊婦健診は診療所で、分娩(ぶんべん)は病院で―と、医療機関が連携してお産をサポートする「セミオープンシステム」。中国地方でも導入する医療機関が増えている。医師不足が続く中、病院の産科医の外来負担を軽減し、安全なお産を地域全体で守ろうとの取り組みだ。

 セミオープンシステムは、妊娠中期までの妊婦健診は最寄りの診療所が担い、出産が近づいた段階の健診や分娩を病院が受け持つ仕組み。診療所の医師が病院に出向き、分娩まで立ち会うオープンシステムとともに導入が進んでいる。

 産科医不足で、分娩を扱う病院や産科の閉鎖が進む中、病院に負担が集中するのを緩和するため、厚生労働省も後押ししてきた。中国地方では、県立広島病院(広島市南区)など7病院がセミオープンを、鳥取県立厚生病院(倉吉市)など2病院がオープンを導入する。

 ▽医師負担減る

 2008年以降、セミオープンを取り入れた国立病院機構呉医療センター(呉市)と中国労災病院(同)。市内の8カ所の診療所と連携する。平均14回の妊婦健診のうち10回を診療所が担当。病院が受け持つ健診は4回程度に減ったという。

 呉医療センターで昨年、7人の医師が扱った分娩は925件。分娩以外にも、婦人科のがんの手術や抗がん剤治療、外来、当直勤務をこなす。「導入によって医師の負担が確実に減り、妊婦の安全にもつながっている」と水之江知哉産婦人科長(51)は強調する。

 同センターと診療所は情報を共有するため、市医師会が作成した独自のノートに検査結果などを記入し、連携に力を入れている。受診した市内の女性(36)は「診療所での健診では、ノートに詳しい検査結果や注意点を書いてもらったし、出産は病院なので安心感もある」と理解を示す。

▽周知を目指す

 国立病院機構浜田医療センター(浜田市)と済生会江津総合病院(江津市)も浜田市内2カ所の診療所と07年から連携する。

 浜田医療センターは昨年、3人の医師が約440件の分娩を扱った。「対応できる限界に近い」と小林正幸周産期診療部長(52)。今年に入り、1日に6、7人の出産があった日もあった。「システム導入以降、外来診療が1時間半は短縮でき、肉体疲労の軽減になった」と評価する。

 ただ、同市が昨年10月から3カ月間、出産後の母親たち95人にアンケートした結果、システムを利用しなかった人が36人(37・9%)いて、利用が一部にとどまる実態も浮き彫りになった。「システムを知らなかった」との回答も多かったため、市は、市内の薬局にポスターを張るなどし、周知を図る。

 浜田医療センターの小林部長は「妊娠した段階で『まず診療所へ』と思ってもらえるように、機会あるごとに説明していきたい」と話している。(治徳貴子)

分娩の安全性が二十世紀に100倍にも向上したというのは周産期医学の一つの輝かしい成果だと思いますけれども、その背景事情の一つとして昔は地域の産婆や助産院レベルで扱っていたお産を病院で扱うようになってきたということもありますよね。
ところが今や総合病院にとって産科は経営的お荷物であったり、激務のあまり産科医確保自体が困難で婦人科のみなんてところも増えてきているわけで、いずれにしても今後は単に安全安心だけを考えて何でも病院にいけばいいというものでもなく、リスクに応じた適切な出産施設の使い分けということが必要になってきたということでしょう。
一方ではお産が安全なものとなり過ぎた弊害とも言うのでしょうか、「出産は病気ではない」なんてことさらお産の危険性を軽視するかのような風潮も出てきたためか、近頃では病院外での自然なお産なるものもじわりと人気なんだそうですが、昨今では産科医のサポート役としても期待される助産所の運営も決して問題なしとしないようです。

安心して産める街に/川崎のママたち(2010年4月22日朝日新聞)

 「川崎市を『安心して産める街』にしてほしい」と訴えて、市内の母親たちのグループが関係団体への働きかけや勉強会に取り組んでいる。市議会には病院と助産院の連携強化などを求める請願書を提出。子連れで21日の会合に集まったメンバーからは「出産は全女性、全市民にかかわる問題」などの声が出た。

 きっかけは同市多摩区の稲田助産院に昨年2月に訪れた危機。同市高津区の嘱託医が体調不良で契約解除を申し出た。改正医療法で2008年4月から助産院には産婦人科の嘱託医と緊急時の搬送先となる医療機関の確保が義務づけられている。同助産院は新しい嘱託医がみつかるまでの約2カ月間、分娩(ぶんべん)予約の受け付けを中止。市内の計10以上の医師と医療機関に断られ、ようやく東京都立川市の産婦人科病院が引き受けてくれた

 「何で川崎の助産院なのに(嘱託医療機関が)東京なの?」。稲田助産院で出産、その後も子育てサロンなどに通っていた母親による「クローバーの会」のメンバーが疑問を持った。同助産院で現在3歳の次男を出産した池田多英子さん(32)=川崎市多摩区=は「調べてみたら、川崎はお産の後進自治体だったんです」と話す。

 「川崎には病院と助産院をつなぐ施策がない」と代表の吉田美穂子さん(37)=同。同助産院の藤井よし江院長(66)が嘱託医療機関探しの大変さを阿部孝夫市長に文書で訴えたところ、「民間事業所の契約に行政がかかわることは難しい」と自助努力を求められた。藤井院長は「行政がフォローしてほしい」と訴える。

 請願書の中で同会は、緊急時の搬送時間短縮や嘱託医療機関の確保のために病院や助産院などの「お産場所」の間の連携を強化すること、助産院のような地域のお産場所も最大限活用した産科医療計画の策定も求めている。(美土路昭一)

俗に言うところの自然なお産なるものと安全性の追求とはしばしば対立的な概念とも成り得るというのは以前にも紹介しました通りですが、いつの時代の水準かと思うようなトンデモなレベルでの助産行為を行っている助産所もあるというのが現実で、ただでさえ産科医療訴訟全盛の時代にあって一部助産所が嘱託医が見つからず苦労しているという話が全国的に珍しくありません。
助産所というものはそもそも正常分娩しか扱ってはならないということになっているのですが、一つには何を以て正常分娩であるかとは分娩が無事終わってみなければ判らないということがあって、さらには正常分娩しか扱ってはならないはずにも関わらず無理矢理異常分娩を扱っている(あるいは、そもそも正常か異常かも判断していない?)のではないかと思われる事例が多々あるとは以前にも紹介した通りです。
本来ならこういうことは医療事故だ!また尊い犠牲が!なんて話題に飛びつくのが大好きなマスコミ諸社が率先して取り上げていそうな話題ですけれども、これまた以前にも取り上げたように医者や病院には厳しく、助産所にはそうではないという彼ら特有の業界事情があるためか、こうした客観的な安全性のデータはほとんど世間の知るところになっていないのは残念ですよね。

もちろん一部の明らかに今の時代にあってもらっては困るレベルの前(あるいは前々?)世紀の遺物的助産所や、半ば確信犯的としか思えないようなトンデモ系助産所はともかくとして、大多数の助産所は長年真面目に地域のお産を取り扱ってきた方々であるわけですが、一方で基礎的な医学知識の欠如は仕方がないとしても、分娩経験という点でこれら施設も圧倒的に症例数が足りないというのも事実ですよね。
以前に老助産師の方が分娩取り扱い百例目ということで記事になっていましたが、産科医にすれば研修医レベルの症例数とも言える話で、要するに産科医が毎年のように目にする症例が助産師にとっては生涯に一度目にするかどうかの稀な症例となる、となればその経験値不足が搬送の判断遅れにつながってきてもおかしくないということです。
命の価値が重い今の時代であるからこそ、病院産科医不足の時代を乗り切るためとは言っても単に緊急避難的にもっと助産所を活用しましょうというだけでは駄目で、まずこうしたリスクの差というものを妊婦も産科医も知った上で適切な使い分けをしていくと同時に、例えば院内助産所のような開業助産所よりも密接に医療と連携した助産形態も模索していかなければならないだろうということでしょう。

その意味では今の時代まじめな助産所ほど異常な妊娠をしっかり鑑別していかなければならないと、日々あれこれと猛勉強していらっしゃる最中だと思いますけれども、医学の側でもこのあたりを簡便な基準で明確化していく責任があることは言うまでもないことで、例えば先日妊娠糖尿病の診断基準が変わったという記事を御覧になった方も多いかと思います。
ところがこの基準の厳格化という話、何も知らないで見ればお産がより安全になってメデタシメデタシとも受け取れるような記事ですけれども、考えようによっては今の病院産科医疲弊を更に推し進めかねないような話でもありそうですよね。

<妊娠糖尿病>診断基準を厳格化(2010年3月11日毎日新聞)

日本糖尿病・妊娠学会、日本糖尿病学会などは、妊娠をきっかけに発症する妊娠糖尿病の診断基準を厳格化する方針を決めた。

世界糖尿病妊娠学会が世界約2万3000人の妊婦を対象にした調査を基に取りまとめた診断基準を採用、より軽い高血糖の人にも治療を促すことにした。

妊娠糖尿病は従来、妊娠前に発症した糖尿病も含んでいたが、同学会などは「妊娠中に初めて発見または発症した軽い高血糖とし、明らかな糖尿病は含めない」と変更し、一般的な糖尿病と区別した。

そのうえで、空腹時血糖値(1デシリットルあたり92ミリグラム以上)、75グラムブドウ糖負荷試験の1時間後の血糖値(同180ミリグラム以上)、2時間後の血糖値(同153ミリグラム以上)の三つの検査値のうち、1項目でも該当した場合、「妊娠糖尿病」と診断することにした。従来の診断基準は2項目に該当することが必要だった。

数字的な基準で見ると糖尿病としてはずいぶんと厳しいものではないかなという気がしますけれども、助産所はもちろん一人でやっているような開業産科医にとってもこの基準変更は極めて大きな意味を持ちそうな気がするところで、これではますます何でも病院送りという傾向に拍車もかかるだろうし、万一にも何かあった時には「妊娠糖尿病なのに漫然と放置した!」なんて責められそうな悪寒ですよね。
こうなると正常分娩しか扱えない助産所は元より、合併症のあるハイリスク妊婦が激増して分娩施設がひどく限定されてしまいそうな話ですが、産科の先生方はこんな自分の首を絞めるようなこと言い出して大丈夫なのかなと思ってよくよく記事を見てみますと、この基準見直しを決めたのがどうも産科学会などが主体というわけでもなくて、糖尿病学会など産科領域からすると外野勢力であるらしいということは面白いですよね。
こういうのを見るとよく話題になる帝王切開30分ルールなんてものもそうですが、今や医療を議論するには特定専門分野だけで話をしていても駄目で他の専門分野であるとか、司法の判断に医学的裏付けを与えている鑑定医の質の担保だとか、あるいは国民に情報を流すマスコミのレベル向上に至るまで、幅広く横断的に議論していかないと結局混乱が増していくばかりなんじゃないかという気がします。

最近ではネットというものが発達して、平素なかなか聞けないようなちょっとしたことも何人もの専門家から即座にアドバイスをもらえるようになったというのは非常にありがたいことでもあり、異業種理解といった面でもここ数年で本当に認識が変わってきたなと感じるところですが、未だ専門家同士や興味のある人々レベルにとどまっていて広く一般の認識を変えるまでに至っていないのも確かですよね。
しかしまあ、医療業界内部だけでもちょっと専門科や出身大学系列が違うと同じ疾患でも全く違う治療をしていたりということはままありますけれども、助産師ら医療関連業界や法曹、医療行政、マスコミ、さらには広く国民全般に到るまで認識のすり合わせを行っていく作業を考えると、これはちょっとしたどころではすまない大仕事にはなりそうですが、是非ともやっていかなければならない事でもあるのでしょう。

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