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2010年4月23日 (金)

無過失保証制度の広範な導入は実現するか?

本日まずはこちら、最近出ていました二つの記事を紹介しておきましょう。

「輸血準備ない中絶手術で死亡…医師を書類送検へ」(2010年4月15日読売新聞)

 静岡市清水区の女性(当時45歳)が2005年、同区内の産婦人科医院(閉院)で受けた中絶手術の前処置がきっかけで死亡する事故があり、静岡県警は、必要な輸血の準備をしなかったことが死亡につながったとして、執刀した60歳代の男性院長と妻の医師を業務上過失致死容疑で静岡地検に書類送検する方針を固めた。

中絶手術の死亡で医師が刑事責任を問われるのは異例

 捜査関係者などによると、女性は05年9月に同医院で中絶手術の前処置として子宮を拡張する手術を受けた際、院長らは器具で子宮周辺を傷つけた。子宮の全摘出手術をしたが、輸血の準備を怠ったため、女性が大量出血を起こしたのに対応できず、女性を失血死させた疑いがもたれている。

 女性の遺族は、院長を相手取り約9300万円の損害賠償を求めて08年2月に静岡地裁に提訴(係争中)。09年9月に業務上過失致死容疑で院長を県警に刑事告訴した。告訴状では、子宮の全摘出手術にあたり、〈1〉出血を防止する義務を怠った〈2〉輸血の準備を怠った〈3〉全摘出手術を行う前に総合病院に転院させるべきだった――などと指摘。県警は第三者の医師にも意見を求め、輸血の準備を怠ったことのみについて責任を問うことにした。

 院長は読売新聞の取材に対し、「コメントできない」としている。

『周産期医療の崩壊をくい止める会』の2医師を米国内科学会が表彰(2010年4月21日ロハス・メディカル)

 米国内科学会が、世界各地で社会貢献活動を行った会員を毎年表彰している『Volunteerism and Community Service Award』に、周産期医療の崩壊をくい止める会で活動した2医師が選ばれた。カナダ・トロントで22日から始まる同学会総会で表彰式が行われる。(川口恭)

 受賞したのは、小原まみ子・亀田総合病院腎臓高血圧内科部長と湯地晃一郎・東京大学医科学研究所附属病院血液腫瘍内科助教の2人。それぞれ個別に受賞理由はあり、共通していたのが『周産期医療の崩壊をくい止める会』の活動だった。

 今晩の飛行機でトロントへ向かうという小原医師と湯地医師は「嬉しいです。こういった草の根発祥の地味な活動が認知され、評価されたことに感銘を受けました」と感想を述べた。

冒頭の読売の記事、詳細は今ひとつ明らかではない中でもいろいろと想像できるものがある事例ではありますけれども、別ソースで見てみますとこの事件も医師側は過失を認め償う意志を示していたのにこうまでこじれたのも、医師の申請した保険金支払いを日医が拒んだからという思いがけない経緯があったようですね。
その意味で本日のテーマである無過失保証制度と深く関わってきそうな事例ですけれども、何にしろ医療の場とは人の命を救うことを業務としているということになっていて、その方面の問題ではとりわけ世間の厳しい目線が注がれている、それだからこそうっかりすると小さな溝が大きな対立関係へも直結してくるということでしょう。
その意味では福島県・大野病院事件という、関係者双方にとって何とも不幸としか言いようのない事例を契機に危機感を持った関係者が立ち上げた「周産期医療の崩壊をくい止める会」という組織の活動が、国際的にも注目され評価されるという意味は決して小さなものではないでしょうし、こうした活動の持つ意義を国民も認識していってもらいたいところです。

最近では東京都のいわゆる「スーパー総合」が稼働を始めるなど一方で医療そのものを充実させて良くという動きも社会的危機感を背景に続いていますが、どれほど質的、量的にリソースが充実したところでやはり一定割合でいわゆる不幸な事例が発生するのは避けられないというのは、何も医療に限った話でもない社会常識と言うべきものであるはずです(それを忘れたゼロリスク症候群というものも昨今蔓延しているようですが…)。
そうであるからこそリスクを最小化する努力と同時に、いざ何かしら起こってしまったときの話も同時進行で進めていかなければならないわけですが、この一つの試みとして最近各地で動き始めているADRだとか、医療メディエーターだとか言った紛争に至る以前での問題解決のためのシステムがあります。
広い意味では医療事故調やその実現に向け最近継続が決まった死因究明のモデル事業などもこの範疇に入ってくるはずですが、久しく以前から関係者それぞれの思惑が入り乱れて堂々巡りが続いている事故調議論と比べると、どうやらこちらの方が各方面に異論が少ないだけに実働へ向けてスムーズにいっているようですよね。

医療ADR推進へ連絡調整会議が初会合―厚労省(2010年3月27日CBニュース)

 厚生労働省は3月26日、医療裁判外紛争解決(ADR)機関の活用の推進に向け、「医療裁判外紛争解決(ADR)機関連絡調整会議」(座長=山本和彦・一橋大大学院法学研究科教授)の初会合を開いた。医療ADRが一般にはまだなじみがない上、各地で取り組みにばらつきがあることから、同会議では関係者らが情報共有や意見交換を行う。この日は、各地で医療ADRに取り組む弁護士や医療従事者、患者団体の代表者など22人の委員が出席し、これまでの取り組み事例などを基に議論した。

 会合では、初めに厚労省医政局の阿曽沼慎司局長があいさつし、「医療ADR機関の設置は、ますます増えていくと考えられ、厚労省としても、患者側・医療機関側双方が利用しやすい環境を整えていかなければならない。この会を、今後の医療ADRのあり方を幅広く学ぶ場としていきたい」と述べた。
 続いて、全国的にも比較的早い段階で医療ADRへの取り組みを始めた東京と愛知の弁護士会、医療ADRを専門に扱うNPO法人として全国で初めて法相の認証を得た千葉県の「医療紛争研究会」が、それぞれの取り組み事例を報告した。
 このうち、2007年9月に医療ADRを創設した東京三弁護士会は、新たな試みとして「東京三会方式」を報告。従来は、申立人と被申立人の間に入る仲裁委員は1人だったが、東京三会方式では患者側・医療機関側の代理人を数多く務めたベテランがそれぞれ1人ずつ加わり、計3人の体制で紛争解決を図っていく。特に患者側にとって理解が難しい医療紛争の話し合いをスムーズにするのが狙いで、こうした取り組みによって、これまでに話し合いが行われたケースのうち約6割が和解に至ったという。
 また、千葉県の医療紛争研究会は、昨年4月から1年間に行った手続きの実施状況について報告した。それによると、研究会に寄せられた相談は151件に上り、このうち調停の申し立てに至ったのは24件(約15%)だった。同研究会会長の植木哲委員は、「手続きの段階で、必ず医療相談を行っている。相談は無料で、ほとんどのケースがこれで解決している」と説明し、調停に至る前段階に注力している点を強調した。

 各地の事例報告に対して、佐々木孝子委員(医療過誤を考える会代表)は、「被害者は真相究明のために当事者(医療機関側)との対話が欠かせない。仲裁人との話し合いで、当事者が出て来ないことに納得しているのか疑問」とした。
 これについて、児玉安司委員(第二東京弁護士会代表)は、「ドクターが患者や家族と向き合って対話するのは大事。しかし、それでも収まらない時に、中立の第三者が加わって話を聞くことで、スムーズに話が進むこともある」と述べた。

 同会議の事務局では、次回の具体的な日程は未定としているが、今後も3、4か月に1回程度のペースで定期的に会合を開く考えだ。

この第一回のADR機関連絡調整会議の詳細というものが例によってロハス・メディカルさんの方で取り上げられているんですけれども、医療側や患者側、弁護士といったいかにも火を吹きそうなメンツを揃えていながら、殺伐とした議論が続く事故調などとは違って(苦笑)理性的で充実した話し合いの時間となっているらしいのは幸いだと思いますね(もっとも、こういうところに出てくる人はどの立場であれ「聞く耳を持つ」人達なんでしょうが)。
今のところまでの実績から相談のうち大半は和解に至っていて、しかも賠償金額や医療訴訟の数は増えていないというなかなか喜ばしい成果を挙げているようですし、こうした経験を積み重ねることで仲介者は元より医療従事者側もコミュニケーションスキルが向上しているらしいという副次的効果もあるようですが、中でも注目すべきかと思ったのが一番揉めそうに思える産科領域の相談が少ないという報告ですね。
千葉県で医療紛争相談センター代表をつとめる植木哲氏がこの現象を評して「おそらく無過失補償に行っていると思われる」とコメントしていますけれども、以前から繰り返し取り上げていますように先行する北欧などの例を見ても、やはり広範な無過失保証制度の導入こそ医療紛争自体の防止もさることながら、何より紛争化による患者側と医療側との相互不信の際限なき増大を防ぐ盾となり得るということの傍証ではないかという気がします。

この無過失保証制度の産科領域以外への拡大に関しては国にしても財政厳しい折にどうかという話ですが、利用者である患者負担で保険料を設定するとすればそのあたりはクリアできそうな一方、患者側の意識として医療事故すなわち医療ミスという発想が抜け切れていない現状で、果たして「なんで俺たちが医者の尻拭いの費用まで負担しないといけないんだ」なんてことを言われず済むかどうかですかね。
今現在の産科無過失保障がもっと認知され「これって意外にいいじゃないか」という認識が広がってくれば結局そちらの方が得であると理解してもらえるんだと思いますが、当面財務省やら厚労省やらが自分からこういうことを言い出すこともなさそうだなと見ていたんですが、何やら最近は医療が大きな社会的関心を寄せられているということもあってか、政権与党の側からはこんな言葉が飛び出しているようです。

「無過失補償制度」や「介護環境整備」盛り込む-民主マニフェスト素案(2010年4月21日CBニュース)

 民主党の「国民生活研究会」(中野寛成会長)は4月21日、医療・介護・年金分野を担当する第一分科会の会合を開き、夏の参院選マニフェスト作りに向け最終調整に入った。会合では、同分科会がまとめた素案を基に、細かい表現などについて詰めの作業が行われた。素案には、医師の過失の有無にかかわらず金銭補償をする無過失補償制度の検討や介護環境の整備などが盛り込まれている

 素案は、医療と介護分野だけで11項目。具体的には、▽医療提供体制の整備▽医療の安全安心▽予防医療の推進▽感染症等の対策▽アレルギー・化学物質対策▽メンタルヘルス▽歯科医療改革▽終末期の環境整備▽介護労働者の処遇改善▽要介護認定の見直し▽介護家族支援対策―。

 医師不足の解消については、一歩踏み込んだ内容となった。昨年の衆院選マニフェストでは「OECD(経済協力開発機構)加盟国平均の人口当たり医師数を目指し、医師養成数を1.5倍にする」と具体策を示したが、今回の素案では、増えた医師が地域医療を担える体制づくりも含んだ内容になっている。「医療提供体制の整備」の項目には、2012年度の診療報酬改定の「増額」も明記された。

 「医療の安全安心」の項目には、医療従事者が訴訟リスクを恐れて「委縮医療」が生じていることを問題視し、無過失補償制度の導入を検討課題に挙げた。介護分野では、介護労働者の処遇改善だけでなく、「介護疲れの家族のために」という表現を使い、介護家族への支援を打ち出している。

 同分科会は素案に、この日の議論に基づく修正を加え、最終案として同研究会に報告する。

留意していただきたいのは前述したスウェーデンの例で言えば補償額は一件あたり120万円程度と決して高額なものではなく、日本の医療訴訟の相場を考えると一見してむしろかなり低額とも思えるのですが、勝訴率が半数を切るという医療訴訟と違ってこちらは広く薄くと言いますか、細かいことはどうあれ不幸な結果となった事例には漏らさず非常に広範に補償しましょうということです。
その結果何が起こるかと言えば患者側は医療従事者のあら捜しをして法廷戦術を有利になんてことを考える必要がない、というよりむしろ医療側と協力して情報を提供してもらい早く認定を受けた方がいいということですし、医療側にしても患者と一緒にお金を出してもらえるよう共闘関係を結んだ方が心情的にも金銭的にもはるかに楽なのですから、自然両者が不毛の対立的関係に陥る可能性が非常に低くなるわけですよね。
実際のところ民主党が選挙に勝ってマニフェストがそのまま実現するかどうかは未だ不透明ですけれども、この種の社会保障問題というものは国民目線を意識すると表立って反論するということがなかなか難しい部分もありそうですから、案外野党側からも今後似たような対抗案が出てくるという可能性もあるんじゃないかと期待しておきましょうか。

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