« いきなり逆風の日医新会長 その使われ勝手は? | トップページ | 困窮する新聞業界で進む合従連衡 »

2010年4月16日 (金)

事業仕分けが医療の世界にも波及中ですが

民間でもコストカットが盛んに叫ばれているご時世ですから、国も仕分けだなんだとあちこちで支出の見直しをしているというのは当然と言えば当然の話ですよね。
先日は診療報酬支払いのチェックを担当する「社会保険診療報酬支払基金」と「国民健康保険団体連合会」の仕事ぶりがヌルいんじゃないかと、行政刷新会議事業での厳しい指摘を受けて厚労省が検討会を発足させたと言う話題を軽く紹介してみましたけれども、この詳細が聞こえてくるほどになかなか愉快な話なんですよね。

レセプト審査の業務・組織体制の見直しに着手◆Vol.1年内をメドに議論、「長妻大臣も非常に高い関心を持っている」(2010年4月9日m3.com)

 厚生労働省の「審査支払機関の在り方に関する検討会」が4月8日開催され、座長には東京大学大学院法学政治学研究科教授の森田朗氏が就任した。社会保険診療報酬支払基金(支払基金)と国民健康保険団体連合会(国保連)における審査支払業務の質の向上、効率化等を推進するために、組織と業務の両面から検討するのが検討会の目的

 会議の冒頭、厚労省保険局長の外口崇氏は、「医療保険の審査支払機関を取り巻く環境は、レセプトの電算化の状況により、大きく変化している。医療費が増嵩を続ける中で、適正な保険診療の確保、貴重な保険料等を原資とする審査・支払業務の効率性への期待がますます高まっている。また行政刷新会議や規制改革関連の会議においても、審査支払機関のあり方について様々な指摘がなされている」と検討会の目的を説明した。「審査支払機関について、このように公開の場で議論をすること、また支払基金と国保連の関係者、ユーザーが一堂に会して議論するのは初めて」(外口氏)。

 今後、月1回開催し、年内には一通り議論を終える予定。それを待たずに、議論の過程で改善可能な点については、逐次着手していく。次回は4月22日に開催され、支払基金と国保連の現状についてヒアリングを行う予定。

 「長妻大臣が非常にこの問題に関心、意欲を持っている」(吉田学・厚労省保険局保険課長)。4月12日に予定されている「厚生労働省省内事業仕分け」の第1回でも、支払基金が仕分けの対象になる。

委員は、診療側、保険者、学識経験者などから成る。日本歯科医師会、日本薬剤師会の代表は入っているが、日本医師会の代表は現時点では入っていない

 電子レセプトは昨年末で全体の7割に

 8日の会議は、厚労省が支払基金と国保連の現状を説明、その後、委員によるフリーディスカッションの形で展開された。

 審査の状況は下記の通り(医科歯科の合計。件数ベース)。

支払基金
 請求件数5億8288万件、査定件数494.2万件 → 査定件数率0.848%
 (2008年5月~2009年4月審査分、原審査の状況。返戻分除く)
国保連
 請求件数6 億1128万件、査定件数341.7万件 → 査定件数率0.559%
 (2008年4月~2009年3月審査分、原審査の状況。返戻分除く)

 外口氏が言及したように、電子レセプトの普及は急速に進んでいる。支払基金によると、全レセプトに占める電子レセプトの割合(件数ベース。医科・歯科・調剤の合計)は、2008年4月は全体の46.6%(うちオンライン請求8.5%)だったが、2008年10月51.2%(同12.8%)、2009年 12月71.2%(56.4%)という割合だ。

 レセプト査定率の都道府県、機関別格差が問題視

 厚労省資料「(参考)支払基金に対する主な指摘事項」を見ると、短期的にはレセプト審査の効率化、中長期的としては審査支払機関という組織のあり方がそれぞれ課題であることが分かる。

 ディスカッションでは、レセプト審査の問題点として、査定率の格差が上がった。社会保険中央総合病院名誉院長の斉藤寿一氏は、「国保連と支払基金では、審査基準が異なっている。また地域によっても、審査基準の濃淡がある。国民皆保険の中で、ダブルスタンダードであることがおかしい。審査は一つの視点で行うことが、国民の納得を得る上で必要ではないか」と指摘。

 国際医療福祉大学大学院教授の渡辺俊介氏も、「47都道府県あるいは市町村によっても査定率は違う。理由として、審査員の確保などの問題が考えられる。また支払基金と国保連でレセプト審査の手数料が違うのはなぜか。さらに電子レセプトによって、査定率がどの程度、改善されているのかについても把握する必要がある」との問題意識を提示。同時に、「診療所は総合的な医療、病院は2次、3次医療と機能分化が進んでいる。医療提供体制と審査支払のあり方を考える必要がある」との考えを示した。

 東邦大学医学部教授の長谷川友紀氏も、「レセプト審査は、経済効率だけを求めるのではなく、医療の質、安全にいかに寄与するかを考えるのが世界的な潮流」とし、「米国では成功報酬あるいはペナルティー的な考えが導入されている。審査基準をそろえ、コストを削減するだけでは今のニーズに応えられない。また医療機関は査定されても、何が問題か、平均はどうか、どこが逸脱しているのかなどを知るすべがない。こうしたデータを持っているのは審査支払機関であり、データの活用によって何が可能になるかなども検討することが必要」などと述べた。

 保険者の立場から、中国電力健康保険組合常務理事の高田清彦氏は、「支払基金の事務費は868億円に対し、査定額は232億円。査定率がすべてではないが、再審査請求は保険者が努力した結果であり、これは支払基金が1回で済ますべきものではないか。審査を委託しない方が国民にとって低コスト。自分の答案を自分で審査するような今の体制を変えなければいけない。なぜ支払基金に委託しなければならないのかと聞かれたときに、それに対する答えは持ち合わせていない」と指摘、効率性の向上を求めた。

委員は、診療側、保険者、学識経験者などから成る。日本歯科医師会、日本薬剤師会の代表は入っているが、日本医師会の代表は現時点では入っていない。

 審査支払機関は統合か、競争か

 現状では、支払基金と国保連という二つの審査支払機関があるが、保険者がこれらを通さず直接審査をすることも可能だ。

 日本歯科医師会社会保険委員会委員の遠藤秀樹氏は、「審査率という観点で業務を見るのはどうか。レセプト審査はあくまで適切な医療を実施するためのものであり、そのための審査支払機関のあり方を考えるべき。最初に支払基金と国保連の統合ありき、という議論ではない。保険者と医療機関の両方から中立の立場で審査することが、国民皆保険維持のためにも必要」と述べ、「保険者による直接審査」を牽制。

 2009年11月の行政刷新会議の「事業仕分け」では、(1)レセプト審査率と手数料を連動、(2)国保連と支払基金の統合、という方向性が示されている

 保険課長の吉田氏は、「統合か否かについては、『委員の議論を踏まえて』というのが回答。ただ、事務局としては行政刷新会議で、統合という答えが出ているので、きちんと正面から受け止めなければならない。一方で、『競争性』という意見も出ている。したがって、統合が金科玉条ではなく、統合すべき部分、あるいは競争すべき部分は何かなど、細かい議論を重ねていただきたい」との見解を語った。

 座長の森田氏も、「事業仕分けは、あくまで組織論での話であり、支払基金と国保連が同様のことをやっているのは無駄ではないかという視点からの議論だった。レセプト審査の内容まで踏み込んで議論したわけではないだろう。そもそもどういう競争をさせるのか、組織だけでなく、審査内容そのものについての議論が必要」と求めた。

 単にレセプト審査のコストと査定率・額に着目するのではなく、まずレセプト審査の目的を明確にし、その上でその目的に見合った審査支払機関の組織形態を検討することが必要だろう。

 「(参考)支払基金に対する主な指摘事項」(2010年4月8日の厚労省資料) 1. 審査の実効性・効率性の確保
事務費(コスト)と査定額(成果)が見合っていないのではないか(事務費868億円、査定額232億円)
査定率の都道府県間における差異の存在
レセプト電子化に対応した業務効率化、審査能力の向上(手数料の引き下げ、査定率の向上)
2. 審査支払業務のあり方
保険者による直接審査を拡充し、支払基金の関与を減少すべき
国保連との統合により重複している機能の効率化を図るべき
・ 国保連との競争を促進し、保険者の選択を拡充すべき
3. 法人運営の適正化・透明化
・ いわゆる「天下り」への批判
・ 保有する不動産、積立金を売却・取り崩し、手数料を引き下げるべき
・ 一般競争入札など、契約の適正化の徹底を図るべき

マスコミが大好きな不正請求なるものを見つけてくるこの査定という作業、世間で言うような正義の味方的なものでは決してないということはすでに各方面から指摘されている通りですけれども、少なくとも患者の受ける医療の質を下げる効果はあっても上げる効果はなさそうだというこのシステムが、金を出す側の保険者にとっても不満たらたらであるということには注目すべきですよね。
記事によれば査定率の格差というものが槍玉にあげられたそうで、「審査は一つの視点で行うことが、国民の納得を得る上で必要ではないか」なんてことを言っていますけれども、それ以上に国民の納得を得る上で必要なのが232億円の査定額という身入りを得るために、支払基金の事務費に868億円も費やしているという、まさに「審査を委託しない方が国民にとって低コスト」という状況であるわけです。
世間では以前からその天下り団体としての性質に非難たらたらですけれども、天下りだろうが非効率だろうが最終的に国民がメリットを享受出来るのならともかく、現状では有名なEPO訴訟のように査定額を引き上げるためだけに医療の質を悪化させている、しかも何らコスト削減にも役立っていないという、全くもって存在意義が問われることになっているわけですね。

問題はこうした状況の改善策として「レセプト審査率と手数料を連動」とか「競争性」という言葉が出てきているということですが、こちらの記事なども併せて見てみると何やら現場での状況が見えてくるように思いますね。

「レセプト査定率」の支部間格差、厚労省が実態調査へ(2010年4月12日CBニュース)

 厚生労働省が4月12日に実施した省内事業仕分けでは、大手企業の社員が加入する健康保険組合などの診療報酬について審査、支払いを行う特別民間法人「社会保険診療報酬支払基金」(支払基金)が仕分け対象となった。支払基金の中村秀一理事長は、人員削減や余剰資産の売却などの改革案を提示したが、仕分け人の民間有識者からは「説明責任が足りない」「政策提案が必要だ」など厳しい声が上がった。各都道府県支部の審査委員会が行うレセプト(診療報酬明細書)審査で、保険診療のルールに適合していない「査定」の割合が支部間で異なる点について、長妻昭厚労相は「どういう理由でこれだけ離れているのか。それを是正するためにはどういう手法が必要なのか。サンプル調査も含めてきちんと現状把握をしていきたい」と述べ、実態調査に乗り出す意向を示した。

 事業仕分けで中村理事長は、▽国からの財政支出の削減▽2015年度までに少なくとも525人の職員を減らす「組織のスリム化」▽宿舎などの余剰財産の売却▽審査の充実や業務の効率化―の4項目から成る改革案を説明。
 仕分け人の河北博文氏(河北総合病院理事長)は、「もしかすると、一部の業務は民間の保険会社に委ねることも可能かもしれない」と民間企業参入の可能性について言及。一方、大久保和孝氏(新日本有限責任監査法人パートナー)は「競争原理の導入は不可避だ」と強調し、支払基金のガバナンスの在り方を提言した。

■支払基金の手数料、「歯止め掛ける仕組み考えたい」―長妻厚労相

 仕分け人の評価結果を受け、長妻厚労相は「コストが上がるから(保険者からの)手数料も上げるとなると、コストの削減努力をしなければ、お金が入ってくるということにもなりかねないので、それに歯止めを掛けるような仕組みを考えていきたい」と発言。また、「レセプトデータは宝の山」とした上で、「中医協(中央社会保険医療協議会)などでもこれまで以上に分析を進め、効果の上がる医療に取り組んでいくので、効果の高いレセプトのチェックをお願いしたい」と支払基金側に求めた。

■国保連との統合、「現段階では発言控えたい」―中村理事長

 事業仕分け終了後、中村理事長は記者団に対し、国民健康保険団体連合会との統合問題について、「厚労省の方に投げられている問題だと思うので、支払基金としての思いはあるが、現段階では発言を控えたい」と述べ、具体的なコメントを避けた。

これを見ても厚労省の側は議論の叩き台となるデータすら提示出来ないというくらいにやる気がなさそうだという話ですし、支払側の方ではしっかり支払額を削ってくれるかどうか以外には興味はない、そして仕分け対象の支払基金の側もとりあえず目先の批判さえかわせれば後はどうでもいいという態度が見て取れるわけです。
それぞれの立場からするともっともな発言という見方もできますけれども、要するにここで議論されているのはあくまでも仕分け人の注文に対する回答案の作成作業であって、そこには医療の質的担保とレセプト審査作業との関係はどうかといった、国民の健康向上のために何が良いかといった話は全くお呼びではないということですよね。
その観点でみると今回日医は話し合いの場に呼ばれてすらいませんけれども(笑)、医療側が「レセプト審査はあくまで適切な医療を実施するためのものであり、そのための審査支払機関のあり方を考えるべき」なんて本質論を提示したところで「そんなものは仕分け人も国民も求めていない。以上、終了」という結論が見え見えでしょう。

となると今後の議論の流れとしては、例えばレセプト電子化推進による自動足切りライン設定だとか、得られた査定額に見合った報酬額の設定といった話にもなってきそうなんですが、厚労省の進めるDPC(定額支払)拡大路線などとも併せ見る時、日本もいつの間にかアメリカ式に医療の内容を患者でも医者でもない誰かが決めていくという方向に来ているんだろうなという気がしてきます。
国策としてそうなんですから保険診療で食わせてもらっている現場の人間が文句をいう筋合いではないのかも知れませんが、医者も今後は「それはねえ、医学的には極めて有効なことが証明されているんですけれども、我が国の保険診療では認められてないんですよ」なんて患者さんにきちんと説明して、混合診療推進というもう一つの国策のため世論盛り上げに協力していけということなんでしょうかね?

|

« いきなり逆風の日医新会長 その使われ勝手は? | トップページ | 困窮する新聞業界で進む合従連衡 »

心と体」カテゴリの記事

コメント

コメントを書く



(ウェブ上には掲載しません)




トラックバック

この記事のトラックバックURL:
http://app.cocolog-nifty.com/t/trackback/519753/48099492

この記事へのトラックバック一覧です: 事業仕分けが医療の世界にも波及中ですが:

« いきなり逆風の日医新会長 その使われ勝手は? | トップページ | 困窮する新聞業界で進む合従連衡 »