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2010年3月 1日 (月)

事故調議論は振り出しに?そして本日大淀事件判決…

総論賛成、各論反対と言えば何やら「さっさと決めてしまわんかい!」と言いたくなるような話も多いですけれども、議論の叩き台自体がひっくり返りそうな勢いなのが最近の事故調議論です。
旧政権下ではいつの間にか厚労省側の容易してきた大綱案に基づいて全国各地でシンポジウムという名の説明会?が開催されるなど、反対論・慎重論を無視するかのような無理押しが目立っていたところが懸念されていたわけですが、これがかねて自案を厚労省に黙殺されてきた民主党政権になりますと、今度は厚労省案の方が闇に葬られかねないというのですから面白いものです。

死因究明、現時点で法案化するなら「民主党案」―民主・梅村氏(2010年2月22日CBニュース)

 民主党の梅村聡参院議員は2月22日、日本救急医学会が開催したランチョンミーティングで、医療事故の調査に関する民主党の考え方について講演した。この中で、院内での調査委員会や医療メディエーター(対話促進者)の活用などを盛り込んだ民主党案が2008年6月に党内決定されていると指摘。現時点で国会に法案を提出する場合は、厚生労働省が同月に公表した「医療安全調査委員会設置法案(仮称)大綱案」ではなく、「民主党案、もしくは民主党案を骨格にした法律案」を提出するとした。

 このほか、厚労省の大綱案と民主党案の違いにも言及。民主党案のキーワードを「Autonomy(自律)」、大綱案は「Authority(権威)」とした上で、「Authorityに頼った解決は手続きがクリアで楽だが、そこに頼った解決を医療界が選択すれば、永遠に国民の皆さん、患者さんから信頼を勝ち取ることができないことにつながる」と強調。「今、やらなければならない医療界の自律的な働きから手を離すことをどう考えるのかという重大な視点を忘れているのではないか」と述べた。
 一方、民主党案については、「普段、医療界でやっている自律性をそのまま医療事故の場面でも医療紛争の場においても発揮してくださいということ」と述べ、大綱案の対案としてではなく、全く違う思想の下に作られていると強調した。

 今後のタイムスケジュールについては、来年の通常国会で法案が出るかどうかは「不透明」としつつも、「少なくともその時点までに一定の検討を加えていく」とした。

医療事故調、大綱案見直し 厚労政務官が意向表明(2010年2月23日47ニュース)

 厚生労働省の足立信也政務官は23日、2008年6月に同省が公表した医療事故の原因究明に当たる第三者組織「医療安全調査委員会」(仮称)設置法案の大綱案について「そのまま成案になるということはないと考えている」と述べ、見直しに着手する考えを示した。衆院予算委員会で民主党議員の質問に答えた。

 民主党は野党時代の08年6月、各医療機関内に設ける委員会での「院内調査」を原則とする独自案を作成している。厚労省は今後、両案を比較しながら、原因分析を担う医療版事故調の在り方について慎重に検討を進める構えだ。

 ただ、医療事故の被害者や遺族の間には、再発防止の徹底に向け中立公正な第三者組織の早期設立を求める声も根強く、足立政務官の対応には反発も出そうだ。

 厚労省の大綱案は、(1)新組織の調査チームは医師や法律家らで構成(2)解剖結果やカルテの分析、関係者からの聞き取りを実施し、報告書を作成(3)標準的な医療行為から著しく逸脱した医療と認められる場合、新組織から警察に通知―などを柱としている。

 しかし一部の医療関係者は、警察への通知を認めた点について「むやみな捜査介入を招く」と批判

「医療事故の被害者や遺族の間には、再発防止の徹底に向け中立公正な第三者組織の早期設立を求める声も根強」いということであればなおさら、真実を証言すれば自分が不利になる大綱案では再発防止に結びつく正しい教訓は得られないということは、かねて航空事故調との比較においても批判が繰り返されている話です。
このあたり大綱案が全く合目的的でない制度設計であることが明らかであると指摘されているにも関わらず「とりあえずまずは開始しろ」と主張を繰り返すというのであれば、あるいは表に掲げた看板の裏に何かしら別な意図でもあるのかと痛くもない腹を探られることにもなりかねませんから、肝心なところを曖昧にしたままの高度に政治的な判断に基づいた決着と言うものは避けなければならないでしょう。
そしてもちろん、再発防止の徹底ということであれば医療業界内部でも幾らでも行っていけることはあるわけですから、事故調議論の行方に関わらず業界内部でも引き続き自律性を発揮していく必要があることは、梅村氏に指摘されるまでもなく言うまでもない話ですよね。

さて、奈良・大淀病院事件の民事訴訟判決が今日出るということはすでに各方面からアナウンスされていますけれども、なかなか世間の関心も高いようですね。
「産科医療のこれから」さんではかねて大淀事件の傍聴記を掲載いただいていますけれども、「マスコミ各社が傍聴券を並んだり、以前もそうでしたが原告側の弁護士さんゼミ学生が総動員されて、傍聴券に並んだり」でなかなか傍聴も大変なんだそうで、毎度毎度頭が下がります。

「妻は助かったのではないか」奈良・妊婦死亡訴訟判決前に夫が心境(2010年2月26日産経新聞)

 奈良県大淀町の町立大淀病院で平成18年8月、分娩(ぶんべん)中に意識不明に陥った五條市の高崎実香さん=当時(32)=が19病院から転院を断られた末に死亡した問題で、夫の晋輔さん(27)らが診断ミスが原因として、町と大淀病院の担当医に対して約8800万円の損害賠償を求めた訴訟の判決が3月1日、大阪地裁で言い渡される。晋輔さんは26日、大阪市内で取材に応じ「裁判を通じて、実香が助かったのではないかと強く思った」と話した。

 被告側は母体救命体制の不備などを指摘して「医師は最善を尽くした」と主張しており、地裁の判断が注目される。

 訴状などによると、実香さんは18年8月7日、分娩のため同病院に入院。陣痛が始まった後に頭痛を訴え、8日午前0時過ぎに意識を失った。家族は脳の異常の可能性を訴えたが、医師はCT検査を行わず、午前6時ごろに大阪府内の病院に転送。実香さんは同16日、脳出血で死亡した。

 原告側は「医師はCT検査を実施し、脳出血と診断して高度医療機関へ転送すべきだった」と主張。一方、被告側は診断が適正だったとした上で「脳出血を理由に転送されても、同じように受け入れ不能だった」として棄却を求めている。

 晋輔さんは「子供が大きくなったときになぜ母親が死んだのか、納得のいく答えを出してやりたかった」と提訴の理由を振り返った上で、「二度と同じことが起こらないようにしてほしい」と改めて訴えた。

奈良・妊婦転送死亡:賠償訴訟 救命可能性どう判断 診断ミスも争点--来月1日判決(2010年2月27日毎日新聞)

 奈良県大淀町立大淀病院で06年8月、同県五條市の高崎実香さん(当時32歳)が分娩(ぶんべん)中に意識不明となり、転送先で死亡した問題を巡り、遺族が町と産科医に約8800万円の賠償を求めた訴訟の判決が3月1日、大阪地裁で言い渡される。主な争点は、転送の判断に影響した診断ミスと救命可能性の有無。19病院に転送を断られたことから、産科救急医療体制の不備も浮き彫りになった問題で、司法判断が注目される。【日野行介、高瀬浩平】

 原告は、夫晋輔さん(27)と転送先で生まれた長男奏太ちゃん(3)。

 訴えなどによると、実香さんは06年8月7日、分娩のため同病院に入院。8日午前0時ごろ頭痛を訴え、間もなく意識不明になり、けいれんを起こした。産科医は妊娠高血圧症の子癇(しかん)と診断。病院は産科救急の転送先を探し始めたが、19病院から受け入れを断られた後、同5時47分ごろ、約60キロ離れた国立循環器病センター(大阪府吹田市)に搬送された。

 頭部CT検査で血腫が見つかり、帝王切開で奏太ちゃんが生まれたものの、実香さんは同月16日、脳内出血で死亡。原告側は「当初から脳の異常を疑っていれば、適正な対応ができ、救命できた」と主張し、町と産科医側は「当初の段階では誤診とは言えず、救命可能性もなかった」と反論している。

 裁判では、別の産科医と脳外科医が鑑定を実施し、産科医は「脳内出血と子癇は症状が類似しており、診断は不適切ではない」と判断。脳外科医は「脳内出血は午前0時ごろ発生したと考えられる」とし、2人とも「脳内出血の可能性を考慮すべきだったが、(その場合は)短時間での手術が必要」などとして救命は困難だったと指摘した。鑑定結果が判決でどう評価されるかが焦点となりそうだ。

 判決を前に26日、大阪市内で記者会見した晋輔さんは「奏太に母親がなぜ死んだのかきちんと説明したい」と述べ、判決に期待を寄せた。

この一件を巡っては医療と無関係な人々からも青木絵美氏を始めとする毎日新聞奈良支局の動きに疑問の声が上がっていましたけれども、その一連の騒動の発端とも言うべき毎日新聞にしてからがこうまで引いた記事になってきている、また近頃では何やら「医者も大変だよ」なんて特集まで組んでいたりするあたりに、何やら時代も変わったなと感じるところではありますかね。
この件が非常に興味深いと思われるのは、例えば上述の記事の中にもありますように原告の高崎氏側は「きくなったときになぜ母親が死んだのか、納得のいく答えを出してやりたかった」だとか「二度と同じことが起こらないようにしてほしい」といったように、真相究明と再発防止ということを今回訴訟の大きな動機としていることをかねて述べていらっしゃるわけですね。
ところが「産科医療のこれから」さん達有志のご尽力による傍聴記を拝見してみますと、どうもこういう割にはずいぶんと非合目的的なことをされて来たんだなという印象も拭えないところなんですね。

大淀事件 証人喚問 高崎さん編(2008年7月15日ブログ記事)より抜粋

(略)
病院側弁護士(金)
 先日、国循の池田先生(産婦人科部長)からお子さんの出産時の状況はかなり危なかったので、その後の発達の状態が心配なので、たびたび診せにくるようにお話したはずだが一度も来られないと心配しておいででした。新聞やテレビを見る限り、元気そうだから良かったともおっしゃっていましたが、そう説明された覚えはありませんか?

高崎さん
 記憶にありません。。。でも2-3度小児科の方に他のことで受診しています。

病院側弁護士(金)
 10月10日の話合いには私も参加していましたが、本件が報道される前の話ですが、国循のカルテ開示は御家族でないとできないので、そちらからカルテやCTを取り寄せていただいて、その後お話しする予定でしたよね。約束しましたよね?私どもはお待ちしていたのですが、国循から資料を取り寄せする努力はしていただいたのでしょうか?

高崎さん
 えっと、それは。。。先生にお願いしたのですが。。。。

病院側弁護士(金)
 原告側弁護士のことですか。

高崎さん
 はい。

病院側弁護士(金)
 手続きしていただいたかどうか質問しているのですが。

高崎さん
 していません。
(略)

病院側弁護士(金)
 病院との約束を結果的に反故にしたわけですね?

高崎さん
 はい。

病院側弁護士(金)
 先週ね、国循にみんなで揃っていって産婦人科の先生と脳外科の先生にお話をきいてきました。でもあなたはこなかった。どうしてですか?

高崎さん
 。。。。仕事が入っていまして。。。。特別な仕事で。

病院側弁護士(金)
 一ヶ月以上前から予定日は決まっていたはずです。予備日もあったはずです。シフトを変えてもらったりできなかったのですか?

高崎さん
 。。。。仕事の日にちはかえられないものと私は認識していました。

病院側弁護士(金) 
 あなたは真実を知りたいと常々言ってきましたが、「真実より仕事」と言うわけですね

高崎さん
 。。。。。。
 (裁判官にまぁまぁと言われる。)

(略)  

病院側弁護士(う)
 へんなことを聞くな、とお思いかもしれませんけれど、大事なことで、そちらは弁護士費用まで請求されているものですからきちんと答えてくださいね。
 10月10日の病院との話合いの時には裁判する意志はなかったとさっき仰られた。で、全国的に大々的に報道をされたのが10月17日です。このときは裁判の決意をされていたわけですか?

高崎さん
 いえ、していません。

病院側弁護士(う)
 報道の方と知合ったのが10月14ないし15日ということでしたね。原告側弁護士はそれから知合ったということになりますよね。ところで裁判をしようと思われたのはいつごろですか?

高崎さん
 3度目の話合いを病院に断られてからです。ミスを認めてほしかった。誤診と、搬送をもっと早くできなかったのかということを。

病院側弁護士(う)
 0:14の意識消失から1:37の痙攣までの間が今争点になっていますよね。
 素朴な疑問なんですけれどね、0:14の時点ではCTを撮らなくていい、脳疾患ではないと決めたのは内科医の先生なんですよね。1:37にはCTの話はともかく搬送の準備を始めています。
 どうして訴えている相手が、内科医じゃなくって、産婦人科医なんでしょうか

高崎さん
 それは。。。。。。。(黙り込む)

病院側弁護士(う)
 ところで国循の先生からきいた話では、もう入院中の時点から報道の方から問い合わせの電話などが入っていたと聞いているんですが、知っていましたか?

高崎さん
 知っていました

病院側弁護士(う)
 それは毎日新聞でしたか?

高崎さん
 知りません。
(略)

しかし弁護士先生も毎日新聞にこだわるかと思うところですが(苦笑)、ここで注目すべき点としては高崎氏が国循のカルテ取寄せを「家族でないと請求できないから」とわざわざ大淀病院側からも頼まれていたにも関わらず行わなかったり、国循での関係者が揃っての話し合い(あるいは症例検討会のようなものなんでしょうか?)にも参加していなかったりと、むしろ真相究明になど関心がないかのような振る舞いをしていることですよね。
これには質問する弁護士先生も「真実より仕事」なんてきついことを言っていますけれども、一方で死因は脳出血であったことがすでに明らかであったのにも関わらず、そちらの問題に関してコンサルトされた大淀病院の内科の先生でも、実際に脳出血の治療にあたった国循の先生たちでもなく、死因については一番何も知らないであろう産科医を訴えている不思議についても突っ込んでいますね。
だから高崎氏がどうだと言うことも出来るのかも知れませんし、実際にネット上ではあちこちで突っ込まれているのも事実ですが、こういうところに前述の医療事故調議論ともつながる話の難しさというものが現れているのではないかなという気がするんですよね。

事故調の議論でいろいろと言われていることの中で一番の問題点として上げられるのが、どのように言葉を変えてみようが結局のところ処罰を前提にした大綱案方式の事故調査では、本当の真相究明には結びつかないということですよね。
この点で例えば事故調には患者側の代理人も加えるべきだなんて話も一部で出ているようですが、当事者として証言をするわけでもない無関係な代理人なるものの存在が真相究明にどんな意味があるのかと考えた場合に、どうも客観的という言葉とは裏腹にともすれば話を主観的な(あるいは、感情的な)方向にもっていこうとする意図を感じないではいられません。
別にそうした行為が良いとか悪いとか言う話とは全く違った次元で、そちらの方向に進めば進むほど真相からは遠ざかりますよということを多くの人々が危惧しているからこそ大綱案に反対論が根強かったわけですが、本来医療側も患者側も同じ「真相究明と再発防止」を目指していたはずが、ともすれば医療側対患者側という対立の構図に落とし込まれて合目的性から遠ざかるばかりなのは残念なところです。

何より真相を知りたいという患者側にとってはもちろん、正確な事実を元に最善の再発防止を図りたい医療側にとっても一番困ることは、事故調が出来てはみたものの出てくる証言が「藪の中」状態に陥ることだと思いますが、そうであるからこそ処罰を前提とした真実追求など真実からかえって遠ざかるだけだと言われるわけですよね。
「お白洲」に座らされた人間がどこまで真実を語るかと言うことを考えた場合に、何より真実を知りたいと医療訴訟の原告となった患者側が訴訟の後にはそろって「真実は何も判らなかった」と口を揃えていることからも容易に類推できるところではないかと思いますが、そうであるからこそ航空事故調などでは免責の保証と引換にしてでも証言の真実性を担保して再発防止を第一に目指しているわけです。
目的については誰も異論がない、そのために有効な方法論というものもとっくに明らかになっている、そうであるのに敢えてその道を外したいということであれば、「やはり表看板の下には何か別の…」と勘ぐられても仕方がないという話になってしまうわけですが、敢えてそうしたいという方々はきちんと説得力のある説明をしていく義務はあると思いますね。

何にしろ大淀事件の公判を通じて高崎氏らは望んだものを得られたのかどうか、本日14時開廷だと言いますから明日の朝刊には関連した記事が掲載されるんじゃないかと思いますが、報道各社がどのような記事を出してくるかといったあたりにも注目しながら結果を待ちたいと思います。

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