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2010年3月16日 (火)

大淀判決確定 その時日医は

先日原告側請求の全面棄却の判決が出た大淀事件民事訴訟ですが、原告側が控訴しないことを決定したそうです。
本件に関する一連の騒動がひとまずこれで決着したという形になりましたが、改めて亡くなられた高崎美香さんのご冥福をお祈りします。

奈良の妊婦死亡:遺族が控訴断念(2010年3月15日毎日新聞)

 奈良県大淀町立大淀病院で06年8月、同県五條市の高崎実香さん(当時32歳)が分娩(ぶんべん)中に意識不明となり、19病院に受け入れを断られた末に死亡した問題を巡る訴訟で、遺族側は15日、町と産科医に求めた賠償請求を棄却した今月1日の大阪地裁判決について、控訴しないことを決めた

 大阪地裁判決などによると、分娩のため大淀病院に入院していた実香さんは、06年8月8日午前0時ごろ頭痛を訴え、間もなく意識不明となった。19病院に受け入れを断られ、午前5時47分、約60キロ離れた国立循環器病センター(大阪府吹田市)へ搬送。実香さんは長男奏太ちゃん(3)を出産したが、同月16日に死亡した。判決は「救命の可能性は極めて低かった」などとして、遺族側の請求を退けた。

しかし、この記事を掲載するに至った毎日新聞担当記者の心中如何ばかりかと、思いを馳せずにはいられないところではありますね。
さて、本件なども大きな契機の一つとなって、近年医療事故調など第三者機関設立を求める声が高まっているのは周知の通りです。
厚労省主導で進められてきた事故調議論は、かねて自党案を完全スルーされてきた民主党が政権与党となって以来すっかり振り出しに戻った感もありますが、いずれにしても当事者のほとんどが総論としての第三者機関設立には反対していないということにはなっているようです。
こうした総論賛成、各論反対という状況の中で、昨今すっかり存在感が希薄になっているとも噂される日医が先日突然こんなことを言い出したというのは、これは何やら背景の意図について色々と想像できる話ではありますよね。

医療事故、自律的処分システムを 日本医師会検討委(2010年3月10日47ニュース)

 医療事故への対応について協議してきた日本医師会(日医)の検討委員会は10日、原因究明と再発防止に向け医療の専門家を中心とした第三者機関を設置し、事故を招いた医師に対する行政処分を自律的に行う新たな仕組みを構築すべきだとする答申を公表した。

 現行では医師の行政処分は、医道審議会の答申を受け厚生労働省が決定しているが、答申は「医療の専門家の立場から医道審に対して、医師の再生のために勧告するシステムが必要」と指摘。

 医業に携わることが不適格と判断した悪質な医師に対しては免許取り消しなどの厳しい対応を取る一方、それ以外のケースでは事故を教訓とした上で現場に復帰できるよう援助する仕組みを想定している。

 検討会は、医療関係者や弁護士、法学者らで構成。医療事故調査の手法などについて10回にわたり協議を重ねた。

刑事処分の「後追い」でない行政処分システムを-医療事故で日医(2010年3月10日CBニュース)

 日本医師会の木下勝之常任理事は3月10日の定例記者会見で、日医の「医療事故における責任問題検討委員会」(委員長=樋口範雄・東大大学院法学政治学研究科教授)が取りまとめた「医療事故による死亡に対する責任のあり方について-制裁型の刑事責任を改め再教育を中心とした行政処分へ-」と題する唐澤祥人会長への答申を公表した。答申では、医療事故への対応で、刑事処分の「後追い」でない行政処分の新システムを構築することなどを提言している。

 同委員会は2009年1月に唐澤会長から「医療事故による死亡に対する刑事責任・民事責任・行政処分の関係の整理、並びに今後のあり方に関する提言」について諮問され、10回にわたり議論を重ねて答申を取りまとめた。

 同委員会では、厚生労働省が08年6月に公表した「医療安全調査委員会設置法案(仮称)大綱案」に関する議論のほか、実際の医療事故で刑事処分や行政処分が行われた5つの事例の検討などを行った。
 答申では、医療事故への対応では刑事処分が先行し、それを行政処分が後追いする現状があると指摘。このような仕組みによって萎縮医療が生じ、救われるはずの生命が救われない例や、形式的な行政処分だけで復帰した医師が同様の誤りを繰り返して失われた生命があったとすれば、「法のシステム自体が『犯罪的』だといわざるをえない」とした。
 その上で、システムの抜本的改善の必要性を強調。形式的な刑事処分はやめ、刑事処分は故意またはそれに準ずる悪質なケースに限定すべきとした。さらに、行政処分についても形式的な処分はやめ、医療者がいかにして再生を図れるかに焦点を置く処分を基本にすることなどを求めた。

 同委員会は答申で、(1)医療事故に対する原因究明と再発防止策を検討するシステムを構築する(2)医療事故の原因となった医師について、刑事処分の後追いでない行政処分のシステムを新たに構築する(3)医療事故にかかわるシステムは専門職たる医療者が中心となる自律的システムとして構想し、その中に国民の代表も取り込んだ透明性のあるシステムにする-の3点を提言。
 (1)のシステムについては、院内調査委員会がまず役割を果たすべきとする一方、すべての医療機関に設置することは困難として、社会の安全弁(セーフガード)として第三者機関を設置する必要性を指摘した。

 会見で木下常任理事は、「民主党に対して、提言した医療安全に資する新たな法のシステムの考え方を取り入れた、新たな法案の早期の作成を要望したい」と述べた。
 また、08年6月に発表された、院内での事故調査委員会や医療対話仲介者(メディエーター)の活用などを盛り込んだ民主党案について、「院内事故調査委員会や別の所で原因究明をして、遺族が納得しなければいつでも警察に飛び込んでいいという仕組みなので、現行と何ら変わりはないという受け止め方をしている」などと述べた。

この報道から幾つか気になるところはあるのですが、まずこの答申を出した「医療事故における責任問題検討委員会」なる存在、座長が法学者であることからも判りますように医療側だけで議論しているわけではないという点には注目すべきかと思いますね。
一応は医師をもってその構成員としている日医という組織でありながら出てきた答申が、妙に医者が書いたらしくない内容になっているのもそのあたりの要因が大きいのでしょうが、この答申の対象となるべき行為主体が日医そのものではなく、未だ存在しない第三者機関なり改善された医道審なりといった別組織であるところに、全員加盟の弁護士会などと異なる日医の立場の弱さが垣間見えるところです。

刑事処分の後追いでない行政処分システムというものは、かねて言われる医療側の自律性ということとも関連して社会的にも求められているところですが、少なくとも日医が主催するのでは何らの強制力も存在しないことは目にみえていますから、当然そこには厚労省なりお上の権威に頼らざるを得ないわけで、結局のところ何の自律か、医者の首を黙って差し出すだけではないかという声は出てきそうですよね。
あるいは更に深読みしてみますと、厚労省の側からすると一応は代表的な医師団体と言うことになっている日医の側からこういうことを言ってきてくれるというのは、司法を経由せず独自に医師をコントロールする上でウェルカムな話ですから、日医と厚労省との間で阿吽の呼吸があったのかといった邪推も成り立つ話ではあるでしょう。

いずれにしても日医と言う組織が医学的に圧倒的な存在感を発揮してきた歴史的経緯があるというのなら別ですが、基本的に単なる開業医の利権団体だとか、よく言って非民主的な政治屋集団だとかいった世間の認識がある一方で、医療の専門家集団とは必ずしも見なされていない日医が提唱する自律システムに、医学的妥当性というものが果たして保証されるのかという懸念は誰しも抱くところではないでしょうか。
このあたりは医療行為の妥当性は医療の専門家が判断するべきであるということから考えれば、医療における一定の権威である各専門学会が主体性を発揮すべきなのが筋であろうし、実際体外受精問題や臓器移植問題などと絡めて一部学会では(実効性はともかく)自律性を発揮しつつあった経緯もあるわけですから、その動きをより広範に広げていく方が正道なんじゃないかという気はしています。

個人的意見としてはこうした自律システムによる原因究明と再発防止もさることながら、それと両輪をなす広範な無過失保証制度導入による患者救済と言うものが、医療側と患者側との不毛な対立を回避するために是非とも望まれるのではないかと思うのですが、一向にその方面での議論が盛り上がらないのはやはり先立つものが…ということなんでしょうかね(苦笑)。
一方で民主党に要望を云々という話を聞いてあれ?医師会もついに民主党を相手にするようになったのか?(苦笑)と思うところですが、ちょうど昨日報道されたニュースを見ますとこれは唐沢路線破棄は既定路線なのか?とも思えるような話になっているようですよね。

日医連が献金凍結 自民の要請断る(2010年3月15日東京新聞)

 長く自民党に巨額の政治献金を続けてきた社団法人「日本医師会(日医)」の政治団体が、昨秋の政権交代以降、原則的に献金を凍結していることが、関係者の話で分かった。自民党の影響力が低下したことや、自民党に偏った政治活動に対する日医内部からの批判を考慮したとみられる。最大の献金先だった自民党の政治資金団体「国民政治協会(国政協)」への凍結も通告した。 

 四月に実施される日医会長選で、親自民や親民主など路線の異なる三候補者が争う見通しで、四月以降の献金をどうするかは、新執行部が判断することになりそうだ。

 日医は長年、政治団体「日本医師連盟」を通じて政治献金を支出してきた。近年の献金額は年間五億円程度で、その九割以上が自民党や同党の派閥、厚生労働族議員に渡っていた

 日医連の政治資金収支報告書によると、国政協への献金は毎年三月に行われ、二〇〇六年は一億五千万円、〇七年は二億円、〇八年は一億五千万円だった(〇九年分は未公開)。関係者によると今年一月ごろ、自民党側から例年通り国政協への献金要請があったのに対し、日医側は当面、献金を凍結する方針を伝えた

 また個々の国会議員への献金は、主に夏と年末の二回に分けて行われており、昨年末の分が凍結対象とみられる。

 一方、献金とは別枠で、パーティー券の購入は継続しているという。

 自民党からみると、日医連は最大の“スポンサー”。国政協の収入は毎年四十億円前後で、日医連からの献金が収入全体の5%程度、政治団体からの収入の四割程度を占める

 日医は政権交代後、医療政策に対する影響力が低下し、日医連の活動方針から「自民党支持」の文言を削るなど、政治活動の在り方を見直す動きが出ていた。

単に金銭的に見ても自民党にとって日医からの金は決して小さくない収入であったという話ですが、先の衆院選でも医師の多数派が民主党を支持したという昨今の医療業界内出の世論を前にした場合、果たして日医と言う組織に民主主義は存在していたのかと考え込まざるを得ない話でもありますよね。
日医としても民主党との関係修復は図りたいようで、今年の始めにも日医と民主党との間で初めての勉強会が開かれ、「日本医師会と民主党では医療政策に大きな違いはない」なんて歯の浮くようなセリフの応酬があったと言いますけれども、そうなりますと難しくなってくるのが先ごろ「自分が三選されれば参院選も自民候補支持で」と公言してしまった唐沢現会長の立場でしょうか。
4月の会長選ではかねて民主党支持を表明している茨城県医師会の原中勝征会長ら対抗候補も立候補を表明していて、普通に考えればとっくに終わっている人間が今更復活してくるとも思えないところではありますけれども、かねて民主的な選出方法としては定評のある(笑)日医会長選だけに、一体どんな結果が待ち受けているのかと今から楽しみではありますよね。

しかしまあ、仮に会長選の結果次第で日医が民主支持に転向したとしても、今更大きな政治力を発揮出来るようになるかと言えば、多分に疑問無しとしないところではあるのですが…

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コメント

> 基本的に単なる開業医の利権団体だとか、よく言って非民主的な政治屋集団だとかいった世間の認識がある一方で、医療の専門家集団とは必ずしも見なされていない日医が提唱する自律システムに、医学的妥当性というものが果たして保証されるのかという懸念は誰しも抱くところではないでしょうか。

ご指摘もっともです。かつての武見のように内部から改革できるかどうか。できないなら皆保険制度ともに葬るというのがいいと思いますが。

> 日医と厚労省との間で阿吽の呼吸があったのかといった邪推も成り立つ話ではあるでしょう。

厚労省からすると患部にせこい勲章でも与えておけばそこそ言うことを聞くというところでしょう。

> 会長選の結果次第で日医が民主支持に転向したとしても、

もし二大政党制に移行するのであれば、内部に自民党派と民主党派を作って執行部の擬似的に政権交代を行う必要があります。ただ、昨今の政治の世界のスピードはあまりに早い。参院選前後に大変動がある可能性があります。まあこれに付いていくのは相当難しいですか。

投稿: ya98 | 2010年3月18日 (木) 00時49分

会長選がどうなるか見物です
この状況で唐沢氏が再選された方が面白そう

投稿: | 2010年3月18日 (木) 07時30分

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