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2010年3月26日 (金)

不景気な時代なりの稼ぎ方

医療業界内部では最近不景気な話ばかりが飛び交っていますけれども、(少なくとも少し前までは)病院や診療所には金融機関も喜んで金を貸してくれていたといった話があるように、世間的には結構カタい商売だと見られているところがありますよね。
医療費削減政策で現場は青息吐息だと言いながら赤字でも病院は続いているし、もう無理です、店をたたみますなんてことを言い出せば世間を挙げてバッシングするぞとプレッシャーもかかっているわけですから、確かに貸し倒れのリスクも低いということなのでしょうか。
一応法的に見ると医療は金儲けを目的にやってはいけないということになっていて、営利団体の参入は規制されているのが現状ですけれども、他産業が医療業界以上に軒並み不景気という今の時代だけに、底堅い成長産業としての医療に対する期待感というものは少なからずあるようです。

医師不足は商機だ  県内 人口増で見込める需要(2010年3月17日読売新聞)

医療法人 開業に関心  金融機関 支援を強化

 埼玉県が医師や医療法人から熱い視線を集めている。全国で最も深刻な医師不足状態にある一方、人口は減っておらず、新規参入や事業拡大の可能性があると見込まれているからだ。県内の金融機関も商機とみて、医業向けの営業体制を増強している。

   ■札幌から進出

 川口市で昨秋、内科を開業し、今春には春日部市に内科・小児科を開くという医療法人「39会」。実は札幌市から進出してきた。

 北海道では、働き盛り世代向けの人工透析の夜間診療で成功を収めたが、「札幌経済は厳しく、新たなチャレンジはなかなか難しい」と理事長の星野継二郎医師。「新規事業のチャンスがあるのは首都圏。いろいろ調べた結果、春日部近辺が特に有望と考えた」と話す。

 川口市の内科は、高齢者福祉施設向けの訪問診療専門。まずは内科で知名度を高め、いずれ得意の人工透析の訪問診療も始める計画という。

 約720万人を抱える埼玉県は今も人口が増え続けているが、医師の数は追いつかず、10万人あたりの医師数は、都道府県別の最下位争いの常連。本格的な高齢化が始まるのはこれからで、医師需要はまだ増える余地がある。

■融資残高4%増

 地元金融機関も動きを活発化させている。

 信金大手の埼玉縣信用金庫(熊谷市)が、法人事業部に医療福祉チームを設置したのは1年前。診療所の譲渡を検討する高齢の開業医や、提携医師を探している福祉介護施設の紹介を足がかりに、開業を後押しして融資につなげる戦略だ。

 チーム発足から9か月で新規取引先59件を獲得。医業向け融資残高は4・1%増の361億円で、同時期の信金全体の融資残高がほぼ横ばいとなる中、好成績と言える。県内勤務医の独立に加え、群馬や千葉の医師からの相談も少なくないという。

 武蔵野銀行(さいたま市)は、2005年に2人体制の医療福祉チームを設置し、09年には、病院担当2人・開業医担当2人体制に移行。融資残高はチーム発足から09年9月までに、92%増の546億円に伸びたという。埼玉りそな銀行(同)も06年から医療経営コンサルタントと提携し、体制を強化している。

   ■妻も受け入れ

 医療経営コンサルタント「メディカル・マネージメント・リサーチ」(神奈川県藤沢市)の島村宏社長は、1995年頃から、埼玉での開業を顧客の医師らに勧めるようになった。

 ただ、関東での人気開業地は長年、都会的なイメージがある東京都と神奈川県で、「埼玉を勧めても、必ず医師の奥さんの反対で話がつぶれた」と明かす。

 しかし、国の医療費抑制政策が本格化した04年頃から、埼玉での開業に医師の関心が高まり始めた。医師にも先行き不安感が広がる中、妻側が埼玉を受け入れるケースが増えてきたという。

何やら金儲けを狙ってと言えば悪いイメージもあるかも知れませんが、医療需要と供給のアンバランスが著しい現状を改善することは需要側である住民のメリットにつながり、結果として供給側にとってもこの時代に低リスクで営業をやっていけるという、言ってみればwin-winの関係が成立しているわけですから悪い話ではありませんよね。
医療重視をうたって政権交代を果たした民主党政権下で初めてとなった今回の診療報酬改訂で実質横ばいに終わったことから、現場では医療費はもうこれ以上増えないという悲観的な見方も広がっている向きがありますが、逆に見れば医療費削減政策も底を打ってもうこれ以上減ることもないという言い方も出来るかと思います。
それに加えて近年医療と別枠になった介護に関しては今後ますます需要も増大する一方、国としても医療に回していたかなりの部分を今後介護の方に誘導するという姿勢を維持しているわけですから、民主党の成長戦略で医療を経済の牽引役にと云々されるまでもなく、医療関連産業は21世紀の安定的な成長産業であるという考えがあっても全くおかしくないところでしょう。

問題は医療費が増えるかどうかということではなく、あくまで国がこれ以上医療に予算を割かないという国庫負担の制約なのだと考えれば、国の財政に負担にならない範囲で、あるいは国にとって税収面などでむしろメリットになる方面で幾らでも医療需要を喚起していくことは可能でしょう。
その点で考えてみると、現在の日本における国民皆保険制度では全国どこでも誰でも同じ医療を受け(られ)るという建前になっていますが、そうなると総理大臣だろうが無職の生活保護受給者だろうが同じ医療を受けられる一方、少し余分にお金を出してより良いサービスを受けられるという世間では当たり前の選択肢も存在しないということでもあるわけですね。
医療が産業としての側面を強調され、今後一般的なサービス業にならって利潤と顧客満足度の向上を追求していこうとするほど、この保険診療の縛りというものが足かせになってくる局面が増えてくる道理ですが、日医辺りが「医療への市場主義原理に断固反対する!」なんて長年目を光らせている影で、現場の医者達はすでに保険制度の限界を感じているのかとも思えるのがこちらの調査結果です。

医師の4人に1人は皆保険制度に「No!」(2010年3月23日日経メディカル)より抜粋

 「国民皆保険制度は堅持すべき?」に対する、たくさんの投票とコメントありがとうございました。

 今回のテーマについては、日経メディカル オンライン(NMO)、日経ビジネスオンライン(NBO)ともに、「Yes(堅持すべき)」が多数を占めました。NMO(医師)は73%が、NBO(患者)は93%が「Yes」と回答しています。

 「誰もが、必要なときに必要な医療を受けられる」国民皆保険制度が、何物にも代えがたい安心感を国民に与えるとともに、世界最高のパフォーマンスを誇るといわれる日本の医療を支えてきたと、多くの医師・患者が考えている証だと考えられます。米国や欧州での在住経験がある複数の読者からは、日本の皆保険制度を賞賛する声が寄せられました。

医師の4人に1人が「No!」の理由

 ただ、気になるのは、皆保険制度への評価に、医師と患者の間で少々温度差があったことです。NBO(患者)の「No(堅持せずともよい)」はわずか7%だった一方で、NMO(医師)の「No」は27%ありました。この20%の差の理由を考えることが、日本の医療制度の今後を考える上での、大きなヒントになるような気がします。

 寄せられたコメントを見る限り、皆保険制度に対する医師の評価が患者に比べて低くなった原因は、大きく分けて2つあるようです。

 まず第一が、医療費への公費(税金)投入が国家財政の重荷になるに伴い医療費抑制の動きが強化され、医療機関の経営や医師個人の収入面に打撃を与えている現状への不満です。皆保険制度の下で誰もが必要な時に必要な医療を受けるには、被保険者である国民としても相応の負担が必要になります。しかし、新たな負担には反対し、「医師の給与は高過ぎる」といった批判を繰り返す国民が少なからずいることにも、嫌気が差しているのでしょう。

 第二が、「コンビニ受診」に代表されるような安易な受診の増加です。そうした傾向が強まるにつれ、対応に追われる医師が疲弊し、医療崩壊につながっていると考えている医師は、決して少数ではありません。また、権利意識が過剰に拡大した患者が増えた背景の一つに、「診てもらって当然」という感覚を喚起しやすい皆保険制度があると感じている医師もいるようです。医師患者関係の悪化が、皆保険制度の否定につながっている面があるのかもしれません。

 NMOには「一度、国民皆保険を廃止して、国民が医療のことを考える機会を作ってはどうか」という意見が寄せられました。このコメントは、医療を支える立場として感じている上記のような強い不満が、背景になっているのでしょう。
(略)
 このほかでは、混合診療に関しても、多くのコメントをいただきました。混合診療は、皆保険制度の存続を考える上で、“諸刃の剣”となり得るものです。前回の記事でも簡単に触れましたが、財源面では貢献が期待できるものの、安易な拡大には、皆保険制度の崩壊を促す危険性が伴います。混合診療については、また改めて、取り上げるつもりです。

 また、これまで触れてきた皆保険制度にまつわる問題に関しては、フリーアクセスの影響も大きいと考えられ、皆保険制度固有の欠点とは言い切れない面もあります。ですので、次回は、「フリーアクセス」の是非について皆さんにお尋ねしたいと思います。
(略)

一つ注意しておくべき点としては記事中にも触れられていますけれども、皆保険制度撤廃がいわゆるコンビニ受診等による現場の疲弊を軽減するとは必ずしも限らず、治療代を払えないから病院に来ないという人間は確かにいる一方で、金があろうがなかろうが病院に飛び込んでくる人間というものも確実にいるのも事実であるということです。
つい先日皆保険制度実現がほぼ決まったアメリカの医療の実態を描いて一頃話題になった映画のように、支払いが出来ないなら追い出されても仕方がないという他産業並みの社会的コンセンサスがなければならないでしょうが、各地で相次ぐ診療費踏み倒し問題などを見るにつけ、そうした合意形成は未だ遠いと感じられるところですよね。
皆保険制度を破棄することはすなわち応召義務を撤廃し、治療費支払い不可能な患者層に対して別枠の医療を(公立病院等で?)提供するシステムの整備とセットでなければならないし、それが出来ないなら明らかに支払能力も意志もない相手に対する診療をどうするかという悩みが、今以上に現場の負担となってくるだろうという現実も受け入れる覚悟がなければならないでしょう。

もちろん医療の産業化と言えばこういう際どい話題ばかりというわけではなく、もう少し合法的で社会的にも受け入れやすい話も幾らでもあるわけですよね。
最近見ていて面白いアイデアだなと思ったのが、近頃世間的にも注目されている中国からの観光客招致と絡めたこんな試みです。

糖尿病治療プラス観光ツアー、中国からモニター27人…徳島「世界にPR」(2010年3月22日読売新聞)

 徳島県が、糖尿病治療と観光を兼ねたツアー「メディカルツーリズム」を誘致するため、第1陣として中国からモニター27人を招いたツアーが始まった。参加者は21日、徳島大学病院で検診を体験するなどした。県は「『糖尿病治療と言えば徳島』と世界にPRしていきたい」と張り切っている。

 中国、インドなど食生活が変化しつつあるアジア諸国では糖尿病患者が急増。県は、糖尿病による死亡率が都道府県でワースト1位が続き、徳島大を中心に治療、研究が進められていることから、糖尿病の検査・治療と観光をセットで提供すれば、それらの外国からたくさんの客を招く観光活性化策になると考えた。

 今回のモニターツアーには、中国の一般参加者のほか、旅行会社やメディア関係者が参加。一行は20日に来日して鳴門市の渦潮や大塚国際美術館などを見学し、21日はうち10人が検診を受けた。22日は三好市のかずら橋などを観光し、23日に帰国する。

 検診で、参加者らは血圧や体重を測り、血管内皮機能検査(FMD)、内臓脂肪CT(コンピューター断層撮影法)などの糖尿病検査を受け、通訳の説明を熱心に聞いた。

 昼食は「メタボリックヘルスランチ」として、サケの香草焼き、県名産のそば米汁など、計661キロカロリーに抑えた食事を味わった。昼食後、医師が検査結果を説明した。

 参加した教師の朱欽樵さん(65)は「中国でも健康への関心が高まっている。旅行しながら治療できるのは人気が出るのでは」と好印象。朱月香さん(62)は「設備が素晴らしく、医師、看護師ら病院のスタッフはとても親切だった」と満足そうだった。

県の医療観光ツアー 中国から27人参加

 糖尿病の治療や検診と観光を組み合わせた「医療観光」を進めている県は、中国からメディア関係者ら27人を招待して3泊4日の体験ツアーを催している。参加者は20日に来日し、21日は徳島大学病院で検診を受けた。22日からは県内観光の予定で、県は感想や評価をもとに、県内の観光業者とツアー客の受け入れ態勢などを話し合っていく。(三輪さち子)

 県は糖尿病死亡率の全国ワースト1位が14年連続だったことを逆手にとり、糖尿病治療の研究、臨床の拠点づくりを目指す。さらに、国内だけでなく中国などのアジアから糖尿病患者や予備軍を呼び込み、滞在中の観光にもつなげようという計画だ。

 今回参加したのは、中国の旅行会社9人、雑誌やテレビ関係者9人などで、この日は通訳に付き添われた10人が受診。糖尿病の合併症である動脈硬化を早期に発見する最新機器による検査や、内臓脂肪CT、心電図や心エコーなどを体験した。同病院で同じメニューを受診すると通常は4万8千円という。

 参加者の1人、旅行会社社長の金礼鳴さん(45)は、「最近の上海では、健康を気にする人が多い。観光だけでなく、検診があるので来てみようと思った」と話した。ほかには、「徳島大学の医療技術の水準が高い」「患者を大事にしてくれる」「食べ物が安心して食べられる」といった意見が出た。

 香川征・同病院長は「糖尿病予防にはアフターケアが重要。検診を受けた後、食生活などのデータをやりとりしたり、現地の医師との連携を深めたい」と話した。

 参加者は22日以降、阿波おどり会館で踊りを体験したり、うだつの町並みやかずら橋の散策をしたりして、体を動かしながら観光名所を回る。費用は上海―徳島間の渡航費や宿泊費など計560万円。県の全額負担だが、参加者の感想をもとに改めて計画を練り、5月開幕の上海万博で糖尿病の医療観光をアピールする

ご存知のように保険診療では予防的処置というものは認められていませんから、健診の類はもともと日本人であっても保険診療外の全額自費になるわけですが、加えて最近では日本の医療の相場が非常に安いということが知られるようになってきたのか、保険が使えなくとも日本に来た方が安くて質の良い医療を受けられると考え始めた諸外国の富裕層も増えているようですね。
以前にも「中国の医療を経験した後では、日本の医療は至れり尽くせりだ」という話題を紹介しましたけれども、実際に中国での調査で「モラルに欠ける職業人ランキング」の第一位に医師があげられたと言いますから、そうした面でもアピールすることは出来るでしょう。
観光とセットなどとわざわざ言わずとも、外国に来てまで単に病院に寝泊まりするだけでそのまま帰るとも常識的に考え難いでしょうから、観光客誘致を考えている地元自治体にとっても多少の出費は宣伝費として考えても元は取れるという計算が立ちやすいのではないかと思えます。

もちろんこうした企画も全てが良いことだらけというわけではなく、一番の問題はただでさえ不足が叫ばれている国内の医療リソースが外国人向けに消費されてしまうことによる、医療供給の更なる切迫ということが予想されますよね。
これは医療に限らないサービス業全般の話ですけれども、わざわざ高いお金を払ってでも遠くからやってこようというような顧客の方が飛び込みでやってくる顧客よりは優良顧客の比率が高いだろうことは間違いないわけで、経営的にもスタッフの心身のストレスという面からもそちらの方がメリットがはるかに多いということになれば、当然より多くのリソースを振り向けようかという話になってくるでしょう。
日本では国境線を超えての医療スタッフ移動というものは今まであまり盛んではなかったのも確かですが、欧州などではよりよい労働環境を求めてあちらの国からこちらの国へと移っていくことはごく当たり前のことで、英国などでは医師流出として社会問題化しているような側面がありますから、今後日本国内にいながらにして良い職場環境が得られる道があるというなら忌避する理由もないわけです。

今後様々な方面で工夫がこらされて保険診療の枠の外で収入を得るということが一般的になってくれば、医療を成長戦略の柱と位置づける民主党政権としても現場の工夫として推奨していくのか、逼迫する医療需給を悪化させる因子として制限を加えて行くのかの選択を迫られる局面も出てくるかも知れませんね。

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