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2010年3月 4日 (木)

医療の絶対性が失われた時代におけるインセンティブ

全く本日の話とは関係ないところから入りますけれども、大淀病院事件の判決と相前後して、こういう署名記事が出ていましたことをご存知でしょうか?
内容自体は全く当該事件と関係のない記事ですので紹介だけにとどめておきますが、末尾の署名にご注目ください。

【参考】がんを生きる:/62 ICU症候群/上 「帰って」面会の両親拒否 /大阪(2010年3月2日毎日新聞)

>【青木絵美】
>【青木絵美】
>【青木絵美】

ひところ医療記事から離れていらっしゃったように側聞しておりますが、もうほとぼりが覚めたつもりなんでしょうか、再びこの世界に戻っていらっしゃったのですね(苦笑)。
しかしほとぼりが覚めたにしてもみそぎが済んだとは到底言えないのは当然ですし、何より青木絵美氏ら毎日新聞奈良支局のご尽力もあってか医療崩壊の流れは今も脈々とこの国に息づいています。
そしてここにもう一人、やはりこの国の医療の行く末を憂い、今や社会的にも大きな影響力を発揮しているあのお方もあいかわらず御壮健のようですね。

「医療崩壊」に警鐘 岡山で県民公開シンポ 医師不足、地域格差訴え(2010年2月28日山陽新聞)

 地域医療の在り方をテーマにした第2回岡山県民公開医療シンポジウム(県病院協会、県医師会主催、山陽新聞社など後援)が27日、岡山市中区古京町の三木記念ホールで開かれ、病院関係者や市民約400人が医師不足や地域格差などの課題を考えた。

 「医療崩壊」と題し基調講演した埼玉県済生会栗橋病院の本田宏副院長は、国が長年続けてきた医療費の抑制策で医師不足などさまざまなひずみが生じているのに、国民に正しい情報が伝わっていないと指摘。

 「今後、団塊世代の高齢化で医療需要は爆発的に増える。今、医療費や医師数を増やさなければ、取り返しがつかなくなる」と警鐘を鳴らした。その上で「医療崩壊を防ぐのは国民共通の社会的責任。医療に関心を持ち、医療者とともに声を上げてほしい」と呼び掛けた。

 続くシンポジウムで、新見市の石垣正夫市長、津山中央病院の徳田直彦院長が医師不足に悩む県北医療の窮状を訴えた。

今や本業よりもこちら方面の方で御活躍されているような気配もある大先生ですけれども、ネット上でも相変わらず大人気のようですね。
しかし当事者の書き込みを見ると非常に気になるのが、どうもこうした大先生の活動を自らの思惑のために利用している勢力も多いようですね。

153 名前:卵の名無しさん[] 投稿日:2010/02/28(日) 18:39:45 ID:s9ATz6bq0

>>146
ホンダラ論理破綻ひどすぎる。
西日本を中心に人口比医師数は非常に多い。
岡山も多い県のひとつだろう。たいした人口でもないのに、旧六の丘大がある上に、底辺私大もあるしな。
医師数増やしても意味なしを証明しているのが西日本なのに、西日本まで来て講演三昧。

155 名前:卵の名無しさん[age] 投稿日:2010/02/28(日) 19:29:29 ID:L/WZLvwX0

>> 153 146
主催が県病院協会と県医師会が主催という呉越同舟な取り合わせで?だったが
往って見て判った。爺医と県の役人ばっかり
おれたちがリタイアするころには関係ない、とのお言葉でした。
イパーン人は1/4ほどで、おば(あ)ちゃん多し。
盛んにH先生に喝采してた。ン年まえには肥炭に喝采してたんだろうによ。
崩壊は医者にせいじゃねぇという衆愚向け宣伝にはなってだろ。
それだけだが。

大先生のことはおくとしてもこうした話を聞いていますと、医者も近頃では利用者である国民の声、あるいは大きく言えば世論の動向というものをずいぶん気にするようになってきたんだなと感じるところですが、こうして他業界並みに世論を味方につけるための仕事に精出すようになったことは良い傾向だと思いますね。
一昔前には専門家として最善手を示し患者を導かなければという正義感、責任感の裏返しもあってか、医者は横柄だ、患者のいうことに耳を貸さないと叩かれたものですけれども、今の医者は正しく説明をした結果受け入れないのであればそれは患者の自己責任という適度な距離感も保てるようになってきたし、正しいことをやっていれば黙っていても判ってもらえるなんて妙な幻想も抱かなくなってきたということでしょう。
一方で自己の絶対性を確信しなくなった今の医者はずいぶんと打たれ弱くなってきているという考え方も出来るかと思いますが、医療崩壊を阻止したいという側から見ても単に「医者の責任感はどうした!」なんて念仏を唱えていれば事足れりとするのではなく、きちんと情宣活動を行い理性と感情の双方から医者の支持を得ていく必要が出てきたということですよね。

医療行政においてもそういう医者側の心理の変化に配慮しなければますます医療崩壊を加速させるということになりかねませんが、多くの場合医療現場に対するムチばかりが大騒ぎされる中で、どうやってアメ(インセンティブ)をアピールするかということが、財政的にも出すべき実弾に乏しい為政者側の大きな課題ということになるのでしょうね。
このあたり、大先生の提唱する斬新な理論によれば、とにかく医者を増やせば全ては解決する!逃げ出していった医者達も大喜びで奴隷労働に帰ってくるようになる!ということになっているようですけれども(苦笑)、実際にその仮説が正しかったのかどうかは将来の検証に委ねるとしても、医者とはその程度のアメを見せれば大喜びで尻尾を振って見せる生き物であると思われていることの方が面白いなと思いますね。
そういう観点からちょこちょこと報道されてくる医療行政のアメの部分を見てみますと、何かちょっとズレているかなと思う話も結構あるように思えて面白いんですが、最近ではつい先日大騒ぎの末に決まったばかりのあの話が早速反故にされかねない勢いだという話が目に付きます。

開業医の24時間電話相談、義務付けを見送り 上乗せ料金は維持 厚労省(2010年3月2日産経新聞)

 長妻昭厚生労働相ら政務三役は1日、平成22年度の診療報酬改定で導入される休診時間帯に開業医が行う電話相談サービスについて、当初予定していた24時間対応の義務付けを見送る方針を固めた。開業医が電話相談に24時間応じることで救急病院の負担軽減を狙ったが、開業医から「負担が大きすぎ、通常の診察に影響が出る」との批判が相次いだため方針転換した。

 患者は新サービスを始める開業医に対し、再診時には常に上乗せ料金(地域医療貢献加算)を支払う仕組みとなるが、緊急時に電話相談できなくても上乗せ料金を支払わなければならなくなる可能性もある。

 新サービスでは、開業医が主にかかりつけ患者を対象に、診療時間外に電話で症状や処方薬の問い合わせに応じたり、重症の場合は近隣の救急病院を紹介したりする。ただ、上乗せ料金を患者へ請求できる条件として、厚労省が「24時間の電話相談対応」を義務付けようとしたことに地域の開業医や医師会が猛反発したため、救急患者の多い午前0時ごろまでの対応や地域の複数の開業医で分担して電話相談に応じる場合などでも「上乗せ料金」を認める方向で調整する。

「かかりつけの患者からの電話に24時間対応できる体制を」なんて大上段に振りかぶった事を言っていた割にはのっけから「あれれ?」な話なんですが、しかし今後詳細をつめていくにしても「地域の複数の開業医で分担して電話相談に応じる場合などでも「上乗せ料金」を認める方向」なんて、また何とも曖昧なことを言いだしたものだなとは思いますね。
これを見て思うのですが例えば地域でグループを組みましたと言って加算を取る場合に、かかりつけ患者から「電話相談に応じてくれなかった!」とクレームがついた時に処分を受けるのは、電話相談に応じなかったその日の当番医なのか、それともグループ対応ということで金を取っているかかりつけ先の診療所なのか、果たしてどっちなんでしょうね。
患者側からすると「本来かかりつけの医者が対応するべきなのにいい加減な医者にたらい回しにされた!金も取られているのに!かかりつけ医許すまじ!」なんてことになりそうに思うのですが、そういう風に考えてみますとこれは昔懐かしい「何かあったら隣組の連帯責任」なシステムということになるんでしょうか?

さて、総務省と言えば自治省からの流れで自治体病院と縁が深い省庁で、厚労省-財務省のラインが医療財政縮小政策を続けてきた中でも地方自治体病院への支援を続けてきたように、病院統廃合と医療資源集約化を目指す厚労省筋とは少しスタンスが違うのかなと思って見ているのですが、最近ではどうもさらに手を広げようとしているようですね。

民間の二次救急医療機関に財政措置―総務省(2010年2月2日CBニュース)

総務省は来年度から、地方公共団体が私的二次救急医療機関に助成する経費について、特別交付税措置を新たに講じる。交付額については未定で、これまでの私的二次救急医療機関に対する地方公共団体の助成額や救急患者の受け入れ実績などを踏まえ、具体的な算定方法を検討する。交付は12月の予定。
 これまで二次救急医療機関に対する財政措置は、公立病院に対する普通交付税や、病院を開設していない市町村が日赤病院や済生会病院などの公的病院に財政支援を行う場合の特別交付税があった。今回の措置はこのほかの私的病院を対象とするもの
 厚生労働省や総務省消防庁の調べによると、2008年の三次救急医療機関の設置主体は、「公立」が108施設、「公立以外」が106施設とほとんど同数であるのに対し、二次救急医療機関については、「公立」が699施設に対し、「公立以外」が2354施設で77.1%を占めている
 また 1996‐2008年の二次救急医療機関数の推移を3年ごとに見ると、「公立」は1996年の671施設から2002年には768施設にまで増加したが、その後は減少傾向で、08年は699施設だった。一方、「公立以外」は一貫して減少傾向で、1996年の3461施設から2008年には2354施設となり、12年間で3割以上減少している。
 さらに、08年に医療機関が傷病者を受け入れなかったのは、二次以下の医療機関が約10万4000件で、三次医療機関が約3万2000件だった。二次医療機関の機能不全から受け入れられなかった患者の多くが三次医療機関に搬送されるため、三次医療機関でもベッドが満床になるなど、受け入れ不能の状況にあるという。

まあ昨今どこの病院でもお金を出してくれるなら歓迎ですということなのかも知れませんが、この話を見て面白いと思うのは救急医療のインセンティブとしての補助云々もさることながら、こんなところまで総務省が関わってくるんだなということですよね。
確かに地方自治体のやることを支援するという形で間接的に民間病院も支援するということは可能なんでしょうが、しかしこのロジックを認めるということであれば医療機関は全てその所在するところの自治体の医療システムと大なり小なり関わり合いがあるわけですから、最後には総務省が全ての医療現場に介入できるという話になってくるのではないでしょうか?
この救急の補助金というものも本来なら診療報酬上のことで手当をしていくのが筋なのでしょう、実際に救急受入れ実績に応じて報酬に差をつけるなんて話は久しく前から言われていますけれども、こういう話はいろいろと各方面にしがらみの多い(笑)厚労省より総務省の方が話が早いというのも事実ではあるのでしょうかね。
このあたり厚労省と総務省の関係がどうなのかは判りませんけれども、この調子で手を広げて行っていずれ省庁の権限を犯された!と喧嘩になっていくのか、あるいは医療なんて面倒くさいことは全部そちらにお任せしますなんて押し付け合いになる、なんてこともあり得るんでしょうかね(苦笑)。

さて、最後はちょっとした小ネタなんですけれどもこういう話を紹介しておきましょう。

へき地の医師への住宅補助を強化―厚労省(2010年2月25日CBニュース)

 厚生労働省は、へき地の医師・看護師が住宅を新築・増改築する際の補助を強化することを決めた。2月25日の「へき地保健医療対策検討会」で明らかにした。

 これまでの同検討会での意見などを受けて、同日までに財務省との調整を終え、「医療施設等施設整備費補助金」の交付要綱を改定した。2010年度から適用する。
 改定によって、過疎地域特定診療所を含むへき地の診療所などの医師・看護師、へき地医療拠点病院の医師への住宅補助について、限度となる面積をいずれも 80平方メートルにまで拡大する。改定前は、診療所の医師・看護師住宅が50平方メートル、医療拠点病院の医師住宅が64平方メートルだった。補助率は2 分の1で変わらないが、1平方メートル当たりの限度額をそれぞれ1.8%引き上げる。

これ、マンション暮らしが当たり前な都市部の人は何とも思わないのかも知れませんけれども、昔から多世帯同居していたり納屋から離れまでセットになった広い家を見慣れている田舎の感覚でいうと「なんか、小さくない?」と思ってしまう話ではあるんですよね。
50平方メートルというとこんな感じ、80平方メートルというとこんな感じですが、こういう田舎でいうと医師と言えば町長村長を抜いて下手すると村一番の一番の高給取りでしょうに、せっかく家を新築するというのにこんな小ぢんまりしたものになってしまうのかと、少し意外な感じもする話ではあります。
おそらくこの制度、へき地公立病院などで官舎を建て替えるという時に使うように設定されていたんじゃないかと思うのですが、しかし今までは50平方メートルが上限だったなんて話を聞くにつけ、厚労省はへき地なんぞに来る医者は妻子をおいて単身赴任だと決めて掛かっていたということなんでしょうか?(苦笑)

しかしまあ、当今では雨露をしのぐ場所があるだけでも恵まれている、ありがたいと思うべきなのも確かなんでしょうけどね…

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