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2010年3月 3日 (水)

継ぐのは誰か 医師会が消えた後の医療行政と業界団体の関わり

大淀病院事件の判決と関連してネットで検索してあちこちのブログ記事を斜め読みしているのですが、一頃あれほど騒がれた「何事だ!恥を知れ!」式の騒動と裏腹に、何か妙にヌルい内容の記事ばかりが目について拍子抜けしているところです。
世間一般的には旬を過ぎた事件ということで残っているのは興味を持って経過を見守ってきた人だけということなのかも知れませんが、過日のマスコミ報道といいこの手のひら返しぶりはどうにも気持ちが悪いですよねえ(苦笑)。
ただこういう現象を見ていて思うのは、当時の毎日新聞のスクープ(笑)だけで終わっていれば決してこういう事態にはならなかったと想像できるわけで、やはりネットであれ何であれ医者も専門性の壁に隠れていないできちんと言うべきことは言っておかないと、後々大変なことになるという一つの教訓にはなったのかなということでしょうか。

まあ本日そうした話題はそれとして、先日こういう記事が出ていましたが御覧になったでしょうか。

勤務環境の改善は「今後も相談」―日産婦学会・海野氏(2010年3月1日CBニュース)

 日本産科婦人科学会は2月27日、定例記者会見を開き、海野信也・医療改革委員会委員長(北里大医学部産婦人科学教授)が4月の診療報酬改定について、「十分に(産婦人科の)状況を(厚生労働省に)ご理解頂くチャンスがあった。それは大変良かった」と評価した。ただ、「勤務環境の改善は、今後も(厚労省と)相談していかなければ」との見解を示した。

 海野氏は会見で、4月の診療報酬改定に当たって、昨年1月に学会としての要望事項をまとめて相談するよう厚労省から要求され、6月に要望したと説明し、「コミュニケーションの中で改定を進めて頂いた」と述べた。
 しかし、新設を要望していた「勤務環境確保加算」は取り入れられなかったため、「勤務環境の改善は、今後も相談していかなければ」との見解を示した。
(略)

今回の診療報酬改定作業で産科は優遇されたという話が各方面で報道されていますけれども、学会からも産科の窮状などについて厚労省に主張すべきを主張していくのは当然として、ここで少しばかり注目すべきなのは「昨年1月に学会としての要望事項をまとめて相談するよう厚労省から要求され、6月に要望した」という一文ですよね。
かねて中医協からの医師会外しなどの話を見ても判る通り、医療行政において旧来の団体が「指定席」を失いつつあるということは確かですが、一方で行政の側にしてもそれは医療に対する窓口を狭めるという意味もあるわけですから、何かしらそれに代わるものを用意したいと考えるのも当然でしょう。
こうした交代要員として各診療科の代弁者たる学会組織が適当なのかどうかは判りませんが、もう少し診療科横断的な活動をしている医療系団体というのは医師会以外にももちろんあるわけですよね。

再診料引き下げ「初めから頭にあったのでは」-日病協・邉見副議長(2010年02月26日CBニュース)

 日本病院会など11団体でつくる「日本病院団体協議会」(日病協、議長=小山信彌・日本私立医科大学協会病院部会担当理事)は2月26日、代表者会議後に記者会見を開いた。会見で邉見公雄副議長は、来年度の診療報酬改定における医科の改定率の内訳が示されたことについて、「入院」の点数を充実させようという民主党の意図との認識を示した。その上で、「外来」の財源について言及し、「外来には救急、小児、周産期もあるから、再診料は下げるというのが、頭に初めからあったのではないかというふうな感じはする」と述べた。

 邉見副議長は「逆にいえば、厚労省の役人が怒られても『政権与党が悪い』という逃げ道をつくるための一つの布石だったかもしれない」とも述べ、「そこは良く解釈するか、悪く解釈するかによる」とした。
 また「外来診療料」について、「(再診料の議論に)出すと69点とか下がる恐れがあるから、意図的に出さなかった」と明かした。

■「特定看護師」、見解は未統一

 また、日本医師会が創設に断固反対の姿勢を示す「特定看護師」(仮称)に関連して、小山議長は看護師の「職掌拡大」には前向きな姿勢を示した。さらに邉見副議長も、医師の補助者として看護師の業務を増やしていく方向では「皆一致している」と述べたが、「特定看護師」の是非については日病協で統一的な方向性はまだ出ていないとした。

前段部分にしてもすでに開業医再診料切り下げで頭に血がのぼっている医師会との温度差を感じさせますけれども、とりわけ後段の特定看護師制度創設に対する見解などは、「日医のすべてを懸けて反対」とまで言い切った先日の医師会のコメントと比べると、明言は避けながらもあきらかな差があるところですよね。
衰退した医師会にかわる新たな医師系団体としてどこが出てくるのかと注目されているところですけれども、近年の勤務医優遇政策と絡めて考えると行政側としても病院系団体を無視するわけにはいかないだろうと思える一方、逆に医師会の方ではますますかたくなに政権との距離をおいてきているようにも見えるのは興味深いところです。
唐沢会長が親自民・反民主路線の継続を公言している医師会としてはおいそれと民主党の政策に賛成を唱えるわけにもいかないという事情もあるのでしょうが、医療業界内でも賛否数多であるだろう特定看護師制度あたりをとっかかりに、そろそろ政権との距離感絡みで医師会とは違うぞという独自見解をアピールしていく団体は今後も増えてくるんじゃないかと思いますね。

この夏にはまた参院選がありますけれども、とりわけ前回の衆院選を踏み絵にして医師会と歯科医師会の待遇があれほど露骨に分けられたという史実を前にすると、各医療系団体も政権との距離の置き方について色々と悩むところが多いのではないかと思います。
すでに久しく以前から医師会などより看護協会の方がはるかに大きな政治力を持っているとはよく言われるところですけれども、非常に面白いなと思うのは相変わらずマスコミなどが医療系圧力団体の代名詞として取り上げるのは有名無実となりつつある医師会ばかりで、言ってみれば他団体は国民の目線が届かない水面下で好き放題出来たという側面もあったわけですよね。
そうした状況の中で非常にさりげなくこういうニュースが流れてきているあたりにも興味深いものがありますけれども、これも一般紙などではほとんど取り上げられない話題の類かなという気がします。

参院選での民主支援確認 医療技術者7団体、小沢氏と面会(2010年2月26日日経ネット)

 民主党の小沢一郎幹事長は26日、日本臨床衛生検査技師会など医療技術者7団体の代表と面会した。7団体側は政策要望書を小沢氏に手渡し、夏の参院選での民主党支持を約束した。面会後、日本臨床衛生検査技師会の小崎繁昭会長は記者団に「政権与党になった民主党と接触する機会がなかった。我々が抱える問題を解決してほしいと申しあげた」と語った。

 これまで7団体は自民党を支援してきたが、政策を実現するメドがつかないなどの理由で、民主党支持に転じた。出席者によると、団体の要望に小沢氏は「医療技術者の働きは重要だ。政策実現のため力を合わせよう」と応じた。7団体の会員数は合わせて約16万7千人になる。

コメディカル7団体が民主党に要望書を提出(2010年3月1日CBニュース)

 日本放射線技師会や日本作業療法士協会など7分野のコメディカルの職能団体はこのほど、各団体の要望書を民主党に提出した。日本放射線技師会は、診療放射線技師教育を4年制とし、卒後臨床研修制度を導入することなどを要望している。

 日本放射線技師会の要望書では、既存の診療放射線技師の教育について「臨床実習の単位数が少ない」「基礎医学や臨床医学の充実が必要」などと指摘。養成教育の内容を見直し、4年制大学化や卒後臨床研修制度の導入などを要望している。

 また、同会が独自に認定し、放射線の管理や医療被ばくの情報開示を行う「放射線管理士」や、医療施設の放射線関連機器の保守や点検をする「放射線機器管理士」の専門職を有効活用することを求めている。

 一方、日本作業療法士協会は、2012年度の診療報酬と介護報酬の同時改定で、地域生活移行支援を推進することなどを要望。具体的には、▽リハビリステーションスタッフの急性期病棟への配置▽「単独型の訪問リハビリテーション・ステーション」の創設▽地域包括支援センターへの作業療法士の配置―を求めている。

全般としては昨今珍しくもない「ブルータス、お前もか」な話ですが、面白いのは放射線技師なども今の現場でさほど余っているというわけでもないと思いますけれども、教育年限延長(従来は短大卒でも可)や卒後臨床教育制度導入などを主張するというのは、早くも将来を見据えて供給抑制をかけようとしているということなのでしょうか。
ちなみに医師会の会員数は16万3千と言いますからほぼ7団体と同等程度ですが、これが看護協会ともなりますと一気に60万を超えますから、その政治力が医師会など足元にも及ばないというのも当然だと納得するところですよね。
良くも悪くも一挙手一投足がマスコミからも世間からも(多くは非好意的目線で、でしょうが)注目されている医師会と比べて、これら諸団体は注目度は低いですが実際にはそれだけの力はあるわけですから、医療行政の行方を考える上で無視するわけにはいかないはずなのに、あまりに情報が少ないというのは困ったものだと思います。

例えば前述の特定看護師制度に関しても一番の当事者といえば看護協会ら看護系団体となるはずですが、先日その看護協会が初めて公式見解として日本版ナースプラクティショナー(NP)の創設・法制化を求める意見書を厚労省に提出したというニュースは、言ってみれば筋違いの医師会の反対意志表明と比較しても意外なほど注目されていませんでした。
この件なども推測するに看護業界内部においても恐らく異論数多なんだろうと思われるところですし、一般論的に権限拡大を是とするだろう業界団体としては妙に賛意表明が遅れたのもそのあたりの影響かとも推測するのですが、最近やたらと情報発信が多い(苦笑)医者と比べるとネット上でも今ひとつコメディカルの声が聞こえてこないという印象ですね。
いずれにしても夏の参議院選挙が近づくほどに業界団体と政治・行政との関わり方が今以上に問われるようになってくるのでしょうが、当「ぐり研」でも今後はこういったコメディカル領域の動きもより積極的に取り上げていくべきなのかと思っています。

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