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2010年2月23日 (火)

地域医療崩壊の実例 三重県の場合

三重県と言えば、かの聖地尾鷲(ちなみに全く関係ないですが、ググっていましたら尾鷲の近くには「もう一つの聖地」があったらしいですね)を擁する土地柄ということで色々と言われる土地柄でもありますが、そうした事例が発生することからも判る通り医療崩壊の先進地でもあるとも言えるわけです。
その三重からの話題でなかなかショッキングな一言て始まるのが、こちら中日新聞に掲載された三重県伊賀市の上野総合市民病院のニュースです。

しあわせは見えるか 検証・新年度県予算案(5)(2010年2月19日付中日新聞)

「4月からは病気にならないようにしてください」。自治会長らを集めた会合で、上野総合市民病院(伊賀市)の村山卓院長は真剣な表情で続けた。「このままだと救急医療ができない日が確実に出る。今の病院は、皆さんの健康を365日、24時間守れる体制ではありません
5年前に9人いた内科医は現在、6人。さらに4月、退職などで4人に減る。通常の診察に加え、夜間や休日の救急までこなすのはかなり厳しい。同じように医師不足に悩む名張市立病院、岡波総合病院(伊賀市)と一昨年から始めた救急輪番にすら、穴があきかねなくなる。
伊賀築の人口十万人当たりの医師数は117人と、全国平均の206人を大きく下回っている。三病院とも医師が少ないため、一人にかかる負担が重くなり、退職者が相次ぐ悪循環に陥っている。
名張市立病院は非常勤の医師を確保して輪番日に対応するが、「重篤な患者を見ている時、複数の受け入れは断らざるを得ない」(中野伸宏事務局長)。救急車で50分ほどかかる奈良県などの病院に患者が運ばれることもある。

地域医療の崩壊が危ぶまれる中、限られた医師数で救急体制を維持するため、地域の病院が連携して役割分担などを進める動きが出てきた。
伊賀、名張の両市長や三病院の院長らでつくる検討委員会は、上野総合と名張市立の二病院を経営統合し、5~10年先に救急の拠点となる400床規模の新病院も造る方針を決めた。手始めに二病院の担当を急性疾患と慢性疾患に分け、医師を効率的に振り分ける構想を描く。
県は昨年策定した地域医療再生計画に伊賀地区の体制整備を組み込み、新年度予算案に名張市立病院の電子カルテ導入に向け3750万円を計上した。将来的に病院間で患者の情報をやりとりできるシステムの整備へ一歩を踏み出す。
地域医療再生計画は2015年までの五年間が対象。地域の実情に応じた取り組み案を募った結果、「中勢伊賀」「南勢志摩」の二つの医療圏に重点を置いた。本格的なスタートとなる10年度は、国の交付金50億円のうち4億8千万円を予算化した。
医師確保対策と並ぶ大きな柱が、救急体制の強化。県全体での取り組みとして、救急病院の空床確保支援などに手厚く盛った。県医療政策室の担当者は「地域が連携して救急体制をつくり上げる取り組みを支援していく」と話す。

記者の目
医師の絶対数が不足する中、地域内の医療機関の「連携」がキーワードになってきた。今の施設や人員を集約し効率化しなければ維持できないほど、救急医療の現状は深刻だ。
伊賀地区で輪番制の開始時に「当直時間帯の患者受け入れは救急車に限る」というルールを徹底したところ、軽症者が救急車を呼ぶ事態が増え、消防、医療関係者を悩ませた。病院や行政がどんなに知恵を絞り、予算をつぎ込んでも限界はある。「連携」の輪に市民が加わることが大事だ。(木下大資)

今どきどこにでもあるような話といえばそれまでですが、この伊賀地域での三病院救急輪番制というもの、つい先日にも新年度以降は受け入れ不能日が発生する見込みと市が発表したくらいで、すでに実質崩壊寸前な状況に追い込まれているのは確かなようです。
ただ興味深いなと思うのは、この状況を受けて例えば副市長が「今までは『何が何でも』と思っていたが、そういう(空白のある当番表を発表する)時期が来るかもしれない」と妙に悟ったようなことを言ってみたり、前述のように院長から「4月からは病気にならないようにしてください」なんてコメントが飛び出してみたりと、何か一昔前なら「無責任だ!」と総バッシングを受けかねないような突き放した発言が当事者からポンポンと出てくるところですよね。
それだけ開き直らざるをえない状況に現場がなってきた以上は取り繕っても仕方がないということなのかも知れませんが、この種の事例で常に問題となる市民側の受容度、あるいは民度というものを考えた場合に、こういう実情を率直に語って見せることが「知らなかった!これからは改めよう!」となるのか、それとも…なのかは微妙なところなのかも知れません。

こういう地方の医療崩壊ネタとなれば、近頃では地域住民の動向(あるいは、民度)が必ずネットでも問題になりますけれども、記者氏の言う「市民が加わることが大事」という「連携」の輪というものにしても、受け入れを救急車限定にすると軽症患者が救急車を呼びまくるというような当地の状況では、なかなか絵に描いた餅という気がしないでもありませんよね。
実際、尾鷲の事例にしても最初の契機は例の「三千万も出せば助教授が」云々の市議会での高額報酬批判であったように語られていますが、その前段階となったのが報酬額開示後に市民からの批判の声が高まったことであって、市議はそうした民意を受けて行動しただけという意見もあるようです。
別に厚労省の思惑に乗らずともこうした状況になれば、中小病院が並立して共倒れになるよりは医療リソースを集約化して対応するしか現実問題選択肢がないのかも知れませんが、この病院統合の話がまたなかなか交渉が難航しているようで、ここでもキーワードは統合と言う名のもとに救急廃止を受け入れるかどうか市民次第ということになりそうですよね。

地域医療体制整備計画検討委:公立2病院の経営統合、11年度実施で準備 /三重(2010年2月19日毎日新聞)

 ◇上野総合市民、名張市立の公立2病院
 ◇伊賀、名張両市が合意 機能再編も「10年度早期」--検討委で報告

 伊賀、名張両市は上野総合市民、名張市立の両公立病院の経営統合について、11年度中の実施に向け、準備することで合意した。両病院の機能の再編についても、10年度の早期に実施し、岡波総合病院と、時間外の救急患者を診療する急性期を担当する公立病院の2病院による輪番体制への移行に向けて協議する。

 17日夜、伊賀市四十九町の県伊賀庁舎であった伊賀地域医療体制整備計画検討委員会(会長=内田淳正・三重大学長)で両市が報告した。会議には、伊賀・内保博仁、名張・亀井利克の両市長らが出席。両市は今年度中をめどに経営統合について議定書をつくる。

 検討委のこれまでの会合では、両公立病院と岡波総合病院による現在の2次救急輪番制の維持は今後は困難としたうえで、10年以内での伊賀地域の拠点病院の整備▽それまでの急性・亜急性期別の両公立病院の機能分担▽両公立病院の経営統合--について合意していた。

 検討委で両公立病院は今後、医師らでつくるワーキンググループを設置し、機能分担などについて考えることを決めた。

 検討委終了後、取材に対し、内田会長は「市民感情を考えると、どちらの病院を急性期にするか決めるのは、委員会の越権行為。ワーキンググループで具体化してほしい」と話した。【宮地佳那子】

まあ内田会長も面倒に関わりたくなかったということなのかも知れませんが、医師らが決めたら決めたで「何故我々の街の病院は救急を受け入れないんだ!けしからん!」という市民感情の問題は相変わらず残るわけですから、誰が決めるにしても悩ましいところではあるでしょうけれどもね。
こうまで歯切れの悪い話で終わっているというのも、実際問題としてなかなか市民感情的に救急廃止の受け入れが難しいという予感があるということなのかも知れませんが、いずれ問題を放置し先送りするばかりでは全てを失うだけであるという現実には、何より当事者として市民自身が気付いてもらわないことにはどうしようもありません。
この種の問題では市民自身が問題意識を共有してうまく行っているところもあれば、逆に「他はともかくあそこだけは勘弁して」と密かにブラックリスト入りしている地域もあるやに側聞しますけれども、やはり医者と言う存在も人間であるだけに、どうせなら地域住民と良好な関係を築けそうな地域で仕事をしたいと考えるのも当然だとは理解しなければならないでしょう。

ところで、この三重県の医療崩壊という現象に関してもう一方の当事者とも言うべき三重大ですが、先ごろ同大病院長が県議会の場でこんなコメントを出しているのがちょっとした話題になりました。
こういうものを見てみますとどこか牧歌的と言いますか、昨今ネットなどでも色々と火花が散っている生々しくドロドロとした議論の世界とは別にこんな世界もあるんだなと、どこかホッとするところがありますが(苦笑)、一方でこういう現状認識でよいのか?という疑問もわくところでしょうか。

内科医不足 総合診療医養成で対応 三重大病院長が方針(2010年2月10日伊勢新聞)

 県議会の健康福祉病院常任委員会(北川裕之委員長、八人)は九日、三重大学医学部付属病院の竹田寛院長と同大学院医学系研究科の駒田美弘科長を参考人に招き、医師派遣や医師養成の展望などについて聞いた。竹田院長は、地域医療の医師不足の主な原因は、内科医不足に帰すると述べた。

 駒田研究科長は、医学部定員の地域枠確保や医師修学資金貸与制度を踏まえ「県出身の研修医、医師は増えていくのでは。ただ時間がかかる」と指摘。医師養成について、竹田院長は「総合診療医(家庭診療医)を増やす。併せて、内科医を循環器や消化器など総合的な診療ができるよう変えていこうと思う」との方針を示した。

 家庭診療医は一次医療を受け持ち、外科や内科、皮膚科などの総合医療をこなす「何でも屋」で、若い医師らの人気を集めているという。同院長は、内科医不足を補うのに役立つのではとの見解を示した。

 「どういう努力をすれば後期研修医が来てくれるのか」との委員からの質問に、竹田院長は「医学生があこがれる先生が一人いて、最新鋭装置が一台あれば」、駒田研究科長は「医学生にいい印象を持たせる『魅力づくり』が必要」と述べた。

 また、県立病院改革の基本方針で民間譲渡の方向性を維持しながら、「検討継続」となっている一志病院を、竹田院長は「家庭診療医の成功例として全国で有名になっている。県は、それを売りにして医者を集める方向にしていけばいいのではないかと思う」と語った。

まあ、その…その路線で大勢の何でも屋がそろって、三重の医療がうまく回るようになればこれに勝ることはないんでしょうが…
しかし医師の数が少ない地方ほど何の病気でも見てくれる(診てくれるかどうかは別として)医者が増えていくのは何かと便利がよいのかも知れませんが、それが若い医師らの人気を集めているという認識はどうなんでしょうね?
確かに訊ねてみれば彼らも「何でも出来るようになりたいです」とは言うでしょうけれども、それは将来やりたい専門分野があった上で「でも他の分野も一通り出来るのが格好良いですよね」といった話であって、言ってみれば甲子園だのプロだの現実的な話にまだ全く縁のないような子供が「ボクもイチロー選手みたいになりたい」というのと似たようなレベルのことなのではないかと思いますけれども…
このあたり、どうも三重大というところはいささか現状認識に浮世離れしたところがあるということなのか、先日もこんな調査結果を堂々と発表してきているということが注目されます。

医師の卵、へき地「OK」7割…武田・三重大教授ら全国調査(2010年2月15日読売新聞)

 全国各地で医師を志す若者にへき地での勤務をどう思うか尋ねたところ、「従事したい」と答えた医学生や研修医は約7割に上ることが、武田裕子・三重大教授(地域医療学)のグループによるアンケート調査で明らかになった。へき地では深刻な医師不足に陥っているが、武田教授は調査結果を踏まえ、「勤務を前向きに受け止めている若者は多く、どう現場に導くかが課題となる」としている。

 調査は2008年から昨年にかけ、全国41大学の医学生(4、6年生)と342医療機関の初期研修医計1万1128人を対象に行い、計7199人から回答を得た。へき地での勤務について回答したのは6965人で、「積極的に」(12%)、「一定期間ですむなら」(57%)を合わせ、4810人が「従事したい」と回答。「なるべく避けたい」(20%)、「自分にはありえない」(7%)の回答を大きく上回った。

 最終的に勤務地域を決める際の条件を19項目挙げ、何を重視するかを尋ねたところ、「協力し合える医師が身近にいるか」が87%で最多、「子供の教育環境」(83%)、「自分のライフ・スタイル」(81%)と続いた

 武田教授らは「十分な診療支援が得られる環境を整え、医師自身のキャリア形成につながるようへき地勤務を組み込めば、医師の確保につながる」と指摘。山田赤十字病院(三重県伊勢市)から、医師の不足している尾鷲総合病院(同県尾鷲市)に研修医を短期間派遣している制度を解決策の好例に挙げ「短期間ずつでも配置するようにすれば、地域医療を支えていける」と話している。

まあそれはね、こういうアンケートが回ってきて「いやボクは絶対僻地なんて行きません!」なんて書いちゃう人間もそうそうはいないでしょうけれども(苦笑)、実際に勤務地を決める際の優先する条件というものを見てみますと、現実問題これらはいわゆる僻地とは最も縁遠いような内容ばかりがならんでいるわけですからねえ…(苦笑)
こういうデータを元にして「現場の若手も僻地で勤務したがっている!後は彼らを現場に導く制度作りだけだ!」なんて(半ば確信犯的に)本気で動き出そうと構えていらっしゃる方々も大勢いらっしゃるわけですから、それこそ迂闊なリップサービスは後で自らの身に降りかかってくるという緊張感を学生時代から持っていないといけない時代なんでしょうね。

それとはまた別件で、この種の何でも屋ということになるとかねて「キャリアアップにならない」とか「一度総合医に転落?すると専門医には戻れない」とか、色々とネガティブなことばかりが語られてきたという歴史的背景がありました。
実際に今回の診療報酬改定を見ても高度医療を施すような大きな基幹病院への手厚い?優遇ぶりと比べると、こうした何でも屋がどう扱われているかというあたりに国のホンネが見え隠れしていますけれども、確かに安上がりに何でもやってくれる医者が増えればそれだけ国としては助かるのも道理ですよね。
武田先生も学生アンケートの結果に一喜一憂するだけではなく、具体的にどう僻地診療を医師のキャリア形成につなげるのかという提案を出していけるようであれば、御研究も更に実の有るものになるんじゃないでしょうか。

しかし三重大さんと言いますと正直医療の世界ではそれほど大きな勢力という認識もなかったのですが、こうして見てみますとなかなか興味深いネタを輩出していらっしゃるあたり、意外に侮りがたいオリジナリティーを発揮していらっしゃいますよね(苦笑)。

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コメント

>>新年度予算案に名張市立病院の電子カルテ導入に向け3750万円を計上した。

この期に及んで電子カルテ導入ですか? 見事に死亡フラグが立ちましたね。
医療事務あたりを増やして、医師の雑用を減らすとかとう考えは出ないのかな?
変に電子カルテ導入するとバイト医確保の敷居が高くなるんですよねー

投稿: 浪速の勤務医 | 2010年2月23日 (火) 11時29分

どうせ潰す病院にこういう無駄金をと思うところでしょうが、まあ田舎では各方面にアメもしゃぶらせておかないことには何事も進みませんから…

投稿: 管理人nobu | 2010年2月24日 (水) 09時57分

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