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2010年2月 2日 (火)

診療報酬改訂作業に見る医療行政の主導権争い

政治主導をうたう民主党政権となって初めての診療報酬改訂作業が、中医協を主戦場に少しずつ進んでいまして、関係各方面では「今までとは違う」「いや何も変わっていない」と意見も感想もさまざまに出ているようですよね。
そんな中で先日こういう記事がひっそりと出ていまして、ああそう言えば一昔前にはそういう団体もあったなと改めて遠めの目線で思い出したところです。

日医、診療報酬改定に意見公募で反対投稿 中医協外され(2010年1月22日朝日新聞)

 2010年度の診療報酬改定をめぐり、日本医師会(日医)は、厚生労働相の諮問機関・中央社会保険医療協議会(中医協)がまとめた骨子に対する見解を公表した。骨子で「検討」とした救急病院で受診した軽症患者への「特別料金」の導入には反対を表明。再診料の引き下げも容認しない考えを示した。

 中医協の骨子については、15日から22日までを「パブリックコメント」手続きの期間とし、一般からの意見を募集している。政権交代後、日医の執行部は中医協メンバーから外されたため、今回初めてパブコメ手続きにのっとって意見を出すことになる。

 中医協が、救急病院などを受診した軽症患者から特別料金を徴収する仕組みを検討していることについて、日医は「現段階では時期尚早」と、議論の不十分さを指摘。そのうえで「患者は自ら判断できるわけではなく、かえって重症化を招く恐れもある」と主張している。この項目は、病院勤務医の負担軽減策として中医協の医師ら診療側委員が検討を求めたものだが、日医は逆の姿勢を示した形だ。

 また、病院(600円)と診療所(710円)で格差がある再診料については、「診療所を下げて統一することは認められない」と強調。診療所分を引き下げたうえで、地域医療への貢献度に応じて加算するという厚労省の足立信也政務官の考えを批判した。

まあ日医さんも何を言おうが発言の自由は存在するという話なんですが、ここでは元医師として厚労行政の主導権を握っていくべきだと内外から期待されている足立氏に対して、日医が批判的姿勢を示していることにまず留意しておいていただきたいと思います。
しかし面白いのは、救急病院の特別料金徴収によって開業医に軽症患者を誘導するという方針によって、開業医の利権団体である日医にどんな損があるのかということが見えないんですが、見てみますとこの日医の見解というものが、先日ご紹介しましたところの中医協での患者代表ら支払側委員のスタンスと非常に似通っていることにも気付かされます。
元より日医と言う組織は決して医師達の代弁者などではないとは昔から言われていたところで今さらの話なんですけれども、こういうのを見ると今更ながらに「日医=医者の代表」なんて世間の見方には無理があると感じざるを得ないところですよね。

さて、この短い記事からもうかがい知れる足立氏と日医の確執というものがどこから出てきているのかという話なんですが、ちょうどこちらの記事などが参考になるかと思いますので紹介しておきたいと思います。

ガバナンス・国を動かす:第1部・政と官/3(その1) 日医退けた「病院族」(2010年1月4日毎日新聞)

 ◇審議会崩しを官僚警戒

 「密会」の場所は、東京都文京区のJR御茶ノ水駅に近い日本救急医学会の事務所が主に指定された。昨年11月初めから月末まで計5回、厚生労働省の足立信也政務官(52)は通称「検討チーム」の医師6人と人目を避けて会合を重ねた。

 チームは、診療報酬のあり方を議論するため、足立氏の肝いりで作られた。医師不足が深刻な周産期医療の再生策を提言している海野信也・北里大教授ら大学病院系の医師が中心だ。6人は足立氏の非公式アドバイザーとして、診療報酬の改定に深く関与した。

 診療報酬の配分を決める正式な機関は「中央社会保険医療協議会」(中医協)だ。健康保険組合など支払い側と医師ら診療側、学者ら公益委員をメンバーとする審議会だが、複雑な利害調整は厚生官僚が担ってきた

 医師で元筑波大助教授の足立氏は、長妻昭厚労相と連携しながら、中医協主導の配分方式を見直したかった。ひそかに検討チームとの会合を重ねたのは、動きを知られたくなかったからだ。

 足立氏らの最終目標は、診療報酬の配分を医師不足の病院に手厚くすることだった。そのためには開業医の利益を代表し、自民党厚労族と結びついている日本医師会(日医)を、中医協メンバーから排除する必要があった

 ただ、中医協の新メンバーはすんなりとは決まらなかった。

 「長妻さん、本当にしっかりしてほしいところです」。昨年10月12日夜、足立氏や仙谷由人行政刷新担当相に後任選びを催促する携帯メールが送られた。送り主は、東京大医科学研究所の上(かみ)昌広特任准教授。長妻厚労相が日医の排除をためらっているのではないか、との危機感がにじみ出ていた

 上氏は全国の勤務医と幅広いネットワークを持ち、足立氏らと医療改革に取り組むグループを作っている。日医に代わる中医協人事についても相談を受けてきた。

 10月26日、長妻氏は足立氏らの意向に沿って、日医の代表3人全員を排除する人事を発表した。

 「病院族」。厚労省内には、検討チームのメンバーや上氏らをこう呼ぶ官僚がいる。自民党の族議員や日医に代わり、自分たちの知らないところで政策に影響力を及ぼしつつあることに対する官僚の警戒感がそこに表れている。

 10年度の診療報酬は昨年12月23日、プラス0・19%と10年ぶりの引き上げで決着した。予算案には「急性期入院医療におおむね4000億円程度を配分」と異例のただし書きがあった。中医協で決まるはずの配分を、先取りしたものだ。これにより救急患者を受け入れた病院の報酬が手厚くなる。病院族の勝利だった。

 「彼らはこんなに世の中を動かせるんだと分かってしまったから、今は楽しいだろう。ただ下手をすると、火遊びになる」。厚労省の幹部官僚はいまいましそうに語った。

要するに日医を主たるアドバイザーに官僚が主導して決定されてきた従来の診療報酬改訂作業というものに対して、民主党政権では政治家と病院側代表とが主導して政策を決めたがっている、その結果主導権を奪われつつある厚労省官僚が面白からぬ思いをしているという記事です。
ここでは「病院族」などという新しい用語が登場していますけれども、開業医を代表するとされてきた日医のスタンスからすると病院側の声が大きくなってくる状況というものは確かに面白くはないでしょうから、この辺りに日医と足立氏の確執の芽が生まれていたのだとすれば確かに納得できる話ではありますよね。
実際に診療報酬改定作業の流れを報じられている範囲で見ている限りでも、診療所など開業医に対する報酬を削って病院に回すというのが厚労省、財務省を問わず既定の路線視されているところがありますから、ここまでを見ていれば記事にある通り、政治家と病院族によって厚労行政が主導され始めているとも受け取れる状況ではあるわけです。

ところが一転して、同じ毎日新聞社の手になるこちらの記事になりますとずいぶんと印象が異なって感じられるのですが、まずは記事を引用してみましょう。

読む政治:診療報酬増を「偽装」 「長妻氏主導」空回り(その1)(2010年1月31日毎日新聞)

 ◇玉虫色の数字、実質ゼロ改定 官僚、巧み操作

 「財務省との激しい交渉では、基本的な社会保障を守っていくため神経を使った」

 14日、厚生労働省の講堂に都道府県の担当幹部らを集めた会合で、長妻昭厚労相は0・19%増と10年ぶりにプラスとなった診療報酬改定など、10年度予算の成果を誇った

 10年度予算の社会保障費はほぼ同省の意に沿う内容に落ち着いた。最近顔がふっくらし、口数も増えた長妻氏を周囲は「自信を深めている」と見る。ただ長妻氏が「政治主導の実績」と誇示する診療報酬のプラス改定を巡っては、官僚が数字を操作しプラスを「偽装演出」していたことが明らかになった。

 「プラス改定は公約同然」。昨年12月末、診療報酬の交渉で長妻氏が「押し」の姿勢に終始し、藤井裕久財務相(当時)を辟易(へきえき)させていたころ。その少し前から、水面下で別の動きが進んでいた。

 「玉虫色で工夫できませんかね。計算方法を変えるなりして

 12月上旬、財務省主計局の会議室。財務省側から木下康司主計局次長、可部哲生主計官、厚労省側から大谷泰夫官房長、岡崎淳一総括審議官らが顔をそろえる中、最後に財務省側は診療報酬の決着方法を示唆した。

 「財務省から見ればマイナス改定でも、厚労省から見るとプラスということか」。厚労省側はそう理解した。

 診療報酬の改定率は、医師の技術料にあたる「本体」(10年度1・55%増)と、薬の公定価格などの「薬価」(同1・36%減)を差し引きした全体像(0・19%増)で表す。

 厚労省は当初、薬価の下げ幅を1・52%減と試算していた。ところがそれでは「本体」との差が0・03%増で実質ゼロ改定になってしまう。長妻氏は「プラスが前提」と強調していただけに、厚労省は財務省の示唆を幸いと、ひそかに数字の修正に着手した。

 その手口は1・52%の薬価削減幅のうち、制度改革に伴う新薬の値下げ分(0・16%、約600億円)を診療報酬の枠外とし、みかけの削減幅を1・36%に抑えることだった。制度改革で浮く金は診療報酬の内か外か--そこに明快なルールがない点に目をつけたのだ。これで「プラス改定」と説明できるし、何より浮いた600億円を、財源探しに苦心していた中小企業従業員の医療費に充てられることが大きかった。

 財務省が一転、0・19%増を受け入れたのは、真の薬価削減幅は1・52%のまま、診療報酬改定率は0・03%増で実質ゼロ改定と言えるからだ。「脱官僚」を掲げる長妻氏も、巧妙な官の振り付けで踊った形となった。

 「こういうのが役人の知恵なんだよ

 厚労省幹部は、そううそぶいた。

 10年度予算の編成を乗り切り、自信を深める長妻氏は、硬軟取り交ぜて省内の統治に乗り出した。しかし依然、空回りも目立つ。

こちらの記事では政治家側が政権のメンツが掛かっているとしてプラス改定にこだわった、ところが実際に財務省との折衝を担当する厚労省官僚は阿吽の呼吸で実質ゼロ改訂を見た目プラス改定という表看板だけを掲げられるように「工夫」した、「これで政権のメンツが保たれた!」と大喜びした大臣以下政治家達は結局官僚の手のひらで踊らされたに過ぎなかったというシナリオになっています。
実際問題あれをプラス改定だと大喜びしているのは民主党の先生方くらいなもので、医療現場では政権が変わっても相変わらずこの調子かと冷めた見方が一気に広がったわけですから、少なくとも政治主導でプラス改定を勝ち取ったと長妻大臣が胸を張って言えるような内容には到底思えない話であるのも確かですよね。
さて、「藪の中」ではありませんが、当事者それぞれの視点でこうまで同じ現象の別な側面が描かれてくるということになりますと、結局のところ診療報酬改定作業で一体誰が主導権を握っているのかと疑問に思うところですけれども、少なくとも相矛盾しているかに見える記事の中で一致していることは、名目上の厚労行政トップである長妻大臣があまり実質的な主導権を発揮出来ていないということになるのでしょうか。

しかし毎日の記事ではすっかり悪役扱い(笑)の厚労省官僚ですけれども、総額で実質ゼロ改訂という財務省との折衝の結果はすでに済んだ事として、今後その実際の割り振りを行っていく作業の中で、彼らがどういう医療の未来絵図を思い描いているのかが見えてくるということになるのでしょうか。
一流大学を卒業した知的エリート中のエリートであるはずの彼らが、まさか得意技は目先の数字のごまかしだけで、医療の行く末?何それ食べられるの?なんてビジョン欠如のその場しのぎの仕事しか出来ないなんてオチは、今更あるまいとは思うのですが…

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