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2010年2月 5日 (金)

不足というなら定量的評価というものも必要でしょうが

最近は全国どこでも医師不足だ、医師不足だと大騒ぎですが、これと歩調を合わせるかのように出てきている議論が「医師強制配置論」です。
先日は大田市立病院が崩壊したと話題になった島根県で医療を考えるシンポが開かれたそうですが、やはりここでもキーワードは「医師強制配置」になったようですが、こうしたことを唱えている人々、唱えていない人々の依って立つところというものに注目してみると、今までの医療業界内におけるポジションで非常にクリアに色分けが出来るようにも見えて興味深いですよね。

石見地方の医療考えるシンポ/島根(2010年2月1日中国新聞)

 医師、看護師不足が深刻化している島根県石見地方の医療を考える「地域医療シンポジウム」が31日、江津市の市総合市民センターであった。休日が取れない過酷な勤務や、一人で数役をこなす医師の実情が報告され、行政の取り組みや医師養成のあり方なども論議した。

 済生会江津総合病院(江津市)は今春、24人の常勤医師のうち3人減員となり、看護師も退職6人に新採用は今のところゼロであると報告。連続36 時間勤務が発生する医師の勤務実態も説明した。隣の大田市立病院が救急告示を取り下げる影響も懸念されるが、西尾聡事務部長は「救急告示は守る。時間外受診を控えてほしい」と会場に訴えた

 11人いた医師が8人に減った公立邑智病院(邑南町)の石原晋院長は「医師同士が専門外の診療を助け合う総合診療を工夫している。県東部に偏在する医師を一定の強制力で計画配置することも必要」と指摘した。

 県病院事業管理者の中川正久氏は「初期臨床研修制度の必修化など、医師を引き揚げる大学側にも事情がある」とした上で「政治課題として世論を盛り上げよう。数年後には地元医学生を優遇する奨学金制度など県の取り組みの効果も期待できる」などと話した。

失礼ながら当直明けが休みという病院は全国でわずか4%しか存在しないわけですから、今どき連続36時間がどうこうと言われても労基法くらい遵守してくださいねとしか言えないのですけれども、その状況で事務が先頭に立って「今まで通りの態勢で働かせます」と大見得を切ってしまうあたりに、彼らが強制配置論を唱えざるを得ない一因もあるのかなとも思うところです。
さて、医師の偏在と言えば厚労省が長年主張してきたところですけれども、実際のところどのように偏在しているのかというデータが先日報道されましたこちらです。

人口当たり医師数に16.4倍の地域差―日医総研(2010年2月2日CBニュース)

  2次医療圏別の人口当たり医療施設従事医師数に、2008年末現在で最大16.4倍の地域差があることが2月1日、日本医師会総合政策研究機構(日医総研)のまとめで分かった。06年末時点の16.0倍からやや拡大した。日医総研では「もともと人口当たり医療施設従事者数が多い2次医療圏で、さらに増加したため」としている。

 08年末現在の人口当たり医療施設従事医師数が最も多い2次医療圏は東京都区中央部で、1000人当たり11.78人。最も少ないのは愛知県尾張中部で0.72人だった。
 このほか、多いのは東京都区西部(4.78人)、福岡県久留米(4.06人)、島根県出雲(3.98人)、栃木県県南(3.77人)などで、東京都区中央部が他を大きく引き離している。一方、少ないのは茨城県常陸太田・ひたちなか(0.84人)、北海道根室(0.87人)、茨城県鹿行(同)、北海道宗谷(0.91人)などだった。全国平均は1.85人。

なんだ、島根なんてむしろ多い方なのに何を贅沢を言っているんだという意見もありそうですけれども、元になっている日医総研のレポートを見てみるとメディアが取り上げなかった面白いことが判りますよね。

二次医療圏別に見た医師不足と医師偏在(2008年版)(2010年2月1日日医総研)

人口1,000人当たり医療施設従事医師数の多い二次医療圏は、2008年では、東京都区中央部(千代田区、中央区、港区、文京区、台東区)11.78人、東京都区西部(新宿区、中野区、杉並区)4.78人、福岡県久留米(久留米市、大川市、小郡市、うきは市、大刀洗町、大木町)4.06人などである(表 3.1.2)。都市部にあり、大学附属病院などの医師数が多い
そのほかの二次医療圏も大学附属病院所在地であり、人口に比べて医師数が多い。たとえば、島根県出雲(出雲市、斐川町)には島根大学、鳥取県西部(米子市、境港市ほか)には鳥取大学、山口県宇部・小野田(宇部市、美祢市、山陽小野田市)には山口大学がある。

要するに一見して医師数が豊富に見える地域というのは単に大学病院所在地にしか過ぎないわけで(東京などになりますとこれに厚労省の医系技官なども含まれるでしょう)、そういう場所にいる医師免許所持者をすなわち医者として頭数に数えてよいものかどうかという疑問があるわけです。
ネット上を見てみましても当然そういったところを指摘する声が多いわけで、こうした統計ですなわち医師過剰地域などと言われても何ら実のない話になってくる危険性があるわけですよね。

41 名前:卵の名無しさん[] 投稿日:2010/02/03(水) 08:28:07 ID:w+TjG26k0
>東京都区中央部で、1000人当たり11.78人
当たり前じゃないか。
この数には、技官、タレント、評論家、東大研究員が入っているのだろう。
しかも昼間人口は考慮していない。
統計が偏在を作っている

42 名前:卵の名無しさん[] 投稿日:2010/02/03(水) 08:33:00 ID:MTJZluCo0
>>34
医者も分化が進んで,最早“医者”というくくりでは語れないんじゃないか?
1000人当たり11.78人の地域では,化粧品皮膚科医,アロマセラピー医,タレント医まで含まれてるんじゃないの?

逆に医師が少ないという地域を見ていきますと、これが必ずしも田舎や僻地で医者が少ないというものではないということも理解出来ると思いますが、体感的にも都市部の病院の方が田舎の病院よりも多忙であるとは多くの医療従事者が実感しているところだと思いますから、これは医師不足という言葉の定義をどのようにするのが実態を表すのに適切かという問題ともつながってくるかという気がします。

人口1,000人当たり医療施設従事医師数の少ない二次医療圏は、2008年では、愛知県尾張中部(清須市、北名古屋市ほか)0.72人、茨城県常陸太田・ひたちなか(常陸太田市、ひたちなか市、常陸大宮市ほか)0.84人などである(表 3.1.3)。
愛知県尾張中部は名古屋市近郊、茨城県常陸太田・ひたちなかは水戸市近郊にあって、人口に医師数が追いついていないものと推察される。
これに対して、北海道根室(根室市、別海町、中標津町ほか)、北海道宗谷(稚内市、枝幸町ほか)は医療施設従事医師数そのものが少ない。医療施設従事医師数は、北海道根室で72人、北海道宗谷で65人である。
なお、ひとつの二次医療圏としてもっとも医療施設従事医師数が少ないのは、島根県隠岐(隠岐の島町、西ノ島町ほか)の29人であるが、人口も2万2,466人と少ないので、人口1,000人当たり医療施設従事医師数は1.29人である。

さて、絶対数もさることながら、より喫緊の課題となりそうなのが医師数の増減ではないかとも思います。
マスコミ報道(笑)などによれば、近年では医師が田舎から逃げ出して都市部に集中しているという話になっているようですけれども、一方で人口自体も田舎から都市部へと集中しているわけですから、医者の頭数以上に地域の人間が減っているのであれば医療の需給バランスはむしろ供給側に傾くということになりますよね。

2006年から2008年にかけて、人口1,000人当たり医療施設従事医師数の増加率が高かった二次医療圏は、青森県下北地域(むつ市、大間町、東通村、風間浦村、佐井村)17.7%増、奈良県西和(大和郡山市、生駒市ほか)16.2%増などであった(表 3.2.1)。
医療施設従事医師数に着目すると、青森県下北地域では14.7%(2006年95人、2008年109人)増加であった。むつ市で臨床研修医が2006年の7人から2008年には14人に増加した一方、佐井村では無医村になった。
奈良県西和では医療施設従事医師数が15.7%(2006年503人、2008年582人)増であった。このうち県立病院のある三郷町で49人増加した。
愛知県海部(津島市、愛西市、弥富市ほか)は、医療施設従事医師数が16.3%(2006年387人、2008年450人)増加した。整形外科医が20人増加しており、リハビリテーション病院などで採用があったのではないかと推察される。
長崎県対馬(対馬市)は、医療施設従事医師数は5.6%と微増(2006年54人、2008年57人)であるが、人口が減少したので、人口1,000人当たり医療施設従事医師数は10.7%増であった。
(略)
2006年から2008年にかけて、人口1,000人当たり医療施設従事医師数の減少率が高かった二次医療圏は、静岡県賀茂(下田市、東伊豆町ほか)21.8%減、長野県木曽(木曽町、上松町ほか)13.1%減などであった(表 3.2.2)。
静岡県賀茂では、医療施設従事医師数が23.9%(2006年117人、2008年89人)減少したが、当該医療圏では、診療報酬不正請求事件を起こした病院があったことが報道されている(医師数減少との関係は不明)7。
北海道南檜山(江差町、上ノ国町ほか)の医療施設従事医師数は16.2%減であった。江差町で2006年に3人いた研修医が2008年にはいなくなり、もともと医師数が2006年37人と少なかったため、減少率が大きくなった。

こうして見るとマスコミ諸社の報道通り、地方から逃げ出した医者が大都市圏に集中してきているという様相が見て取れるでしょうか?(苦笑)
いやあ、青森県下北地域あたりも最近では都会化がよほど進んでいるというこということなのかも知れませんけれども、不肖管理人などは寡聞にして存じ上げませんでしたけれどもね(笑)。
ちなみにマスコミと言えば、ここのところはさすがマスコミの尽力の賜物であると恐れ入るしかない影響力ですかね?

産婦人科・産科医師数の減少数がもっとも多い二次医療圏は、奈良県中和(橿原市、香芝市、大和高田市ほか)である(表 4.2.2)。奈良県中和には奈良県立医科大学附属病院があるが、同病院では、2007年8月に救急搬送の妊婦を受け入れることができず、その後、複数の病院でも受け入れられず、流産にいたった事例が報告されている。

レポートではまとめとしてこんなことを書いていますけれども、何故医者が次から次へと逃げ出していき、国の強権で強制配置をなどと叫ばなければならないのかと考えた場合に、耳の痛い施設も多いのではないでしょうか。

医師は報酬だけではなく、労働環境なども判断して勤務場所を決定する。医療機関が他の診療科の医師やコメディカルを安定的に雇用でき、安全対策や訴訟対策、教育研修、再生産などを不足なく行えるようになってはじめて、特定の診療科の医師の激務やリスクが解消される。

色々と見所は他にもあるのでしょうけれども、世の中で今までイメージだけで語られていた話が、ある程度データと照らし合わせて見てみるとどうも実態を反映していないんじゃないかということはままあって、これもまたそうした事例の一つになるということなんでしょうか。
あちこちで医師不足、医師不足と大きな声が飛んでいますけれども、逆に医師過剰という地域はまずあり得ないわけで、どこも大なり小なり医師不足という共通の問題を抱え込んでいる中で、声の大きい者だけが政策的優遇によって得をするということにでもなれば、それこそ公平性を欠くということにもなりかねないという懸念はあると思います。
医師強制配置計画の是非はまた別問題としても、強制配置を推進するというのであればそれはどこにどれだけの医者を送り込み、どこからその医者を引き抜いてくるというのか、その配置を決めた根拠となるデータは何なのかといったことが明らかにされないことには、最悪の場合年来の土建行政と同じく「医者が欲しければ…」と中央政府の地方支配カードが増えるだけということにもなりかねないでしょう。

まずはそのあたりの客観的指標をどのように設定して行くべきなのか、その前提としてとっくに鬼籍に入った人間や臨床に携わっていない人間までカウントしている(とされる)厚労省のデータだけで語ってよいものなのか、議論を尽くすべきところはまだまだ幾らでもあると思うのですが、あまりそうした方向に話が進んでいるという噂も聞きませんよね。
医療の世界はエヴィデンスに基づいて行動するように社会的にも求められているわけですから、社会の方でもそれなりのエヴィデンスを用意してから医療を語るのが筋なのではないかと思いますし、そうでなければ誰かの意図に沿って思いがけない話にいつの間にかなっていた、結局関誰も幸せにはなれなかったなんて、いつものパターンにはまりかねないと思いますね。

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