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2010年2月19日 (金)

医療安全を阻害する最大の因子は何か?

労働環境と労働者の権利保護の問題というもの、他業界ではもうずいぶんと前から労組があったり弁護士や労基署が労働者権利保護に動いてくれたりとあったわけですが、医者の世界においてはつい最近になって動き始めたばかりという現実があります。
昨年に日本史上初めての医者の労組が出来上がったなんてことが話題になりましたが、かつては労基署などに電話しても医師だと判った途端に電話を切られたなんて「都市伝説」があるくらいで、要するに医者は労基法無視で働かさなければこの国の医療が回らないのだという暗黙の了解が関係各方面の共有するところであったわけです。
その風潮が変わってきた一因として厚生労働省という組織の立ち上げで医療畑と労働畑の行政が一本化され、両方面の競争意識もあって労働畑が医療畑にも介入してくるようになってきた、なんて噂もありますけれども、いずれにしても最近は労基署も医療業界で仕事をする決意をようやく固めたと言うことなのか、あちこちの病院で手入れが行われたなんてニュースがぼちぼち出てくるようになりましたよね。
何より当事者である医者の側がまともな労働者の権利というものに目覚めつつあるということも大きいのでしょうが、労基法無視で彼らを酷使してきた病院側の方でも多少はそうした世間の空気を読んできたと言うことなのでしょうか、先日地方紙にこういう記事が出ていました。

大分大 超勤手当336人不払い 昨年11月まで 2年間2億4500万円(2010年2月16日西日本新聞)

 大分大学は16日、教職員計336人に対し、2007年12月から09年11月までの2年間、超過勤務手当の一部を支払っていなかったと発表した。総額は計約2億4500万円で、給料支給日である今月17日、一括して口座に振り込むという。

 同大によると、不払い対象は医学部の医師が9割、残りが医学部の看護師や一般事務職員など。不払い額は1400-約737万円。1人当たり平均約73万円で、不払いの超過労働時間は延べ計9万225時間。

 昨年4-8月に時間外労働を検証するため初実施した内部監査で判明。今年1月まで再調査で精査していた。「勤務者と管理者の待機時間に対する認識の違いが原因」(人事課)としている。

 労働基準法に基づき、請求権のある2年分を今回支払い、それ以前については調査していないという。該当者でこの2年間に退職した人でも、請求があれば支給する方針。不払い分の支給財源は大学の運営費交付金で賄うとしている。

 羽野忠学長は「適正な勤務時間管理ができていなかったことは誠に遺憾。今後はこのような事態が発生しないよう努める」とコメントを出した。

労基法無視の代名詞とも言える大学でこの種の超勤手当云々の話となると、何故か一番超勤が多いはずの医師が無視されているというのが昔からの定番だったのですが、最近は時代が変わってきたということなのか、医師にも超勤手当が発生するのだと認めてくださるようになったようですね(笑)。
しかし「勤務者と管理者の待機時間に対する認識の違いが原因」って、いまさら一体どの口をぬぐってそんな寝言を言っているのかと言いたい人も多いんじゃないかと思いますが、まさか「医者に労基法が適用されないのは当然ですよ。うちじゃ昔からずっとそれでやってきたんだし」なんてコメントも出せなかったということなんでしょうか?
ちなみに「今後はこのような事態が発生しないよう努める」なんてことを言っていますけれども、これがまたどんな斜め上方向に逸脱した再発防止策を考えだしてくれるものやら、そちらの方でも楽しみは多そうですよね(苦笑)。

経営の厳しさをます病院経営でも、勝ち組となっているところはほぼ例外なく医者集めに成功しているところであるということが明らかになってきていますけれども、病院の最大の収入源が診療報酬であり、その診療報酬は医師の指示し実施するところの診療行為に基づいて発生するということを考えれば、これは非常に当たり前の現象であると思います。
要するに長期的な成功を目指すのであればまず第一段階としてスタッフを手厚く遇さなくてはならない、それが出来ない施設は行き詰まるのも当然だという話なんですが、今までは一番の当事者であるはずの医者自身がそのあたりの感覚がずれていて、待遇交渉など考えもしないまま限界一杯まで頑張った挙句に燃え尽きて立ち去ってしまうということが、今日言うところの医療崩壊現象の発端でもあったわけです。
このあたりは労働者としての権利云々以前にパイロットの勤務時間に制限が課せられているのと同じことで、人の命を預かる以上はまず何よりも自らが健康で正しい判断を下せる心身の状態を維持するよう努めなければならない義務があるはずで、例えば日本全国96%の病院で行われている「日勤-当直-日勤」の最低36時間以上の連続勤務など医療安全を損なう最たるものであるわけですよね。

患者の健康を守るためにはまずその診療にあたる医療スタッフの健康を守らなければならない、過労状態での診療などとんでもないということを、何より命をあずける患者の側から要求して行くべきなのでしょうが、実のところ一方の当事者であるはずの医療スタッフ側に問題意識が乏しかったというのも事実ではありました。
特に昔は医者というと労働環境などに口出しするなど邪道という妙な風潮があって、医局命令でどんなところでも黙って飛んでいくのが当たり前と言う感覚が主流でしたけれども、幸い最近では若手の先生方を中心に、適切な休養もまた医療の質を向上させる大事な要素であるという認識が広まっているように見えるのは良い傾向だと思います。
とりわけその傾向を推し進めているのが例の新臨床研修制度で、自分で勤務先を選ぶという他業界では当たり前の就職活動を行うことに慣れてしまったこれからの時代の医者は、当然勤務条件等にもちゃんと目が行くでしょうから、医者など安くこき使って当然という古い医局派遣時代の価値観から脱却できない施設は今後も「新臨床研修制度のせいで医者が来ない」と嘆いて見せるしかないということですよね(まあある意味正解ですが)。

もちろん労働環境の健全さの指標として金銭的評価だけが全てではありませんけれども、数字として一番比較しやすい金銭的評価すらもきちんと出来ないような施設がスタッフをどのように遇しているかを想像してみれば、簡便な指標としての有用性としてこれがなかなか馬鹿にできないものがあります。
ところがそうした旧い体質そのままの病院が待遇改善等の自助努力など全くやる気もないまま「医師不足だ!国が何とかしてくれなければ困る!」としきりに泣きついた効果が出たということなのでしょうか、ここに来て時代の流れに逆行するかのような動きが出てきているようです。

厚労省:研修医高給に歯止め 年720万円以上補助金減額(2010年2月17日毎日新聞)

 大学医学部を卒業して2年以内の初期臨床研修医の給与に差がありすぎるとして、厚生労働省は11年度から、年720万円以上の給与を払う研修病院には補助金を減額する方針を固めた。17日開かれた医道審議会部会に諮り、了承された。厚労省は研修医の給与の目安を年360万円としており、医師不足を背景にした過度の厚遇に歯止めをかけることにした。

 04年度から制度化された初期臨床研修は、質の向上のため、研修医の他病院などでのアルバイトを禁じる一方、月30万円の収入が保証されるよう設計された。厚労省の09年度調査では、研修病院1072施設の1年目の平均給与は年410万円だったが、700万円以上も26施設あった。最高は1075万円で、最低の204万円と5倍以上の差がある。

 このため11年度からは、基本給が目安の2倍を超える病院に対し、研修医1人当たり百数十万円になる補助金を一定額減らすことで、格差の是正を図る。一方で給与が年360万円に満たない病院への対応も今後議論する。厚労省医師臨床研修推進室は「研修医確保の努力は否定しないが、制度の趣旨を逸脱するような高額化は避けたい」としている。

 また、今年度の募集から設けられた都道府県別の定員上限について、定員を一気には減らさない激変緩和措置を来年度募集でも続けることも、同部会で了承された。【清水健二】

非常に面白いなと思うのは、高給を出しても優秀な人材を集めた方が結局組織の業績が伸びるということはどこの業界でもやっている話で、そうであるからこそ人材のヘッドハンティングなどということが当たり前に行われているわけですよね。
高給を出しても利益が出るかどうかの判断はそれぞれの施設で考えるべきことであって、本来の「研修医が生活のためバイトに精出すことなく研修に専念出来る待遇を保証する」という臨床研修制度の趣旨からすれば、むしろ最低限の待遇すら満たしていない施設にまず何らかのペナルティーを課すのが筋というものでしょうが、何故かこういう話になってくるあたりに面白い力学が働いているんだろうなあと思うところです。
こう言いますと国民目線からすれば医者を安く使える方が医療費も安上がりでいいじゃないか!と思うかも知れませんけれども、このあたりを考える上で先日ちょうどこんな書き込みを見かけたので紹介しておきましょう。

882 名前:_ねん_くみ なまえ_____[sage] 投稿日:2010/01/30(土) 22:10:20 ID:???
同業者間の競争で
糞企業が社員を酷使して強引に業績上げる

「嫌なら辞めろ」「辞めるよバーカ」
糞環境で酷使された社員はさっさと辞める

糞企業はろくな人材が集まらず
無理が祟って潰れる

適正な価格と労働環境を提供した企業が
糞企業分のパイと雇用を回収する

労働者「競争原理万歳」

同業者間の競争で
糞企業が社員を酷使して強引に業績上げる

しかし「既卒だとやりなおし効かないし・・・」と奴隷社員は辞めない
それどころか「は?社会舐めてんの?俺なんかこの前サビ残○○時間ですけど?」
と奴隷自慢を始める

糞企業が鬱と自殺者を排出しながら強引に規模拡大
まともな企業が競争に負けて消滅

社員は逃げ場はなくなりサビ残当たり前のブラック会社しか選択肢が無くなる
「仕事があるだけありがたいと思わないと・・・」「生活さえできれば・・・」

会社役員「競争原理万歳」

さてこの場合、良悪という評価基準がどこにあるのかということで、従業員にとっては悪い企業でも顧客にとっては良い企業ということはあるだろうという考え方もあるわけですが、医療業界の場合はどうでしょうか?
医者ももちろん労働者ですから労働環境や待遇が勤務先を決める要素の一つになるのは当然ですが、一方で高い給料をもらって仕事が楽でも医者が去っていく病院が多々あるように、やはり技能職として能力発揮の機会がないような場所は嫌だと言う感覚も根強いわけですよね。
医者が逃げ出している病院と医者が集まってきている病院、一般論としてどちらがより良い医療をしているかと言えば、これは内部の実情を知っている人間からすれば一目瞭然ですが、公権力の介入によって悪貨が良貨を駆逐するという状況にもっていくことが果たして患者側たる国民のためになるのかどうかです。
このあたり、医師免許所持というだけの素人さんしかいない厚労省では、現場の感覚を代弁できるブレインがいないのだろうなと今更ながらに危惧されるところですが、面白いのは一見して無茶なように見えて医療資源集約化という同省の持論からすれば非常に合目的的でもあった今までの政策と比べて、これは何やら総務省的と言いますか、少し中の人が違うのか?とも感じられるところですかね。

医療と言う極度にマンパワー集約型の産業で、しかも保険診療など公的に認められた部分以上の現場の裁量で運用されている領域が大きい場合、スタッフの士気を落とすとどういうことになるのかと言えば、これは直接的に利用者に跳ね返ってくるということになるのは当然です。
早い話が医者が来ない!大赤字続きだ!と大騒ぎしている地方公立病院などで、他を圧倒する素晴らしい顧客サービスを誇っている施設がどれくらいあるのかと考えてみれば誰にでも判る話だと思いますけれども、接遇面の不満以上にそもそもやる気のないスタッフに命をあずけるのは誰だって躊躇しますよね。
医師大量養成政策が功を奏して大幅な医者余りにでもなった時代ならばともかく、医療崩壊とまで言われる今の時代に現場の士気を下げる方向でのバランス調節が何かしら良い結果を産むとは全く思えませんが、何かしらこのところの医療政策と言えばそういう逆方向への迷走ばかりが目立つように思うのは自分だけでしょうか。

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