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2010年2月 4日 (木)

揺らぐ国民皆保険制度

医療関係の話題ではあちこちで「過去最低」というネタが近年多いですけれども、国民皆保険制度自体の根幹も過去最低を絶賛更新中というのがこちらのニュースです。

市町村国保の保険料収納率が過去最低に―厚労省(2010年2月2日CBニュース)

 2008年度の市町村国保(国民健康保険)の保険料(税)収納率が全国平均88.35%で、1961年の国民皆保険制度開始以降、最も低かったことが、厚生労働省が2月2日に公表した速報値で分かった。

 保険料(税)収納率の全国平均は前年度比2.14ポイント減。過去最低だった2004年度の90.09%を大きく下回り、初めて90%を割った
 都道府県別に見ると、収納率が最も高かったのは島根の94.19%で、以下は富山(93.76%)、愛媛(92.45%)など。一方、最も低かったのは東京の84.26%で、栃木(85.14%)や大阪(85.49%)も低かった。
 厚労省は収納率低下の要因について、収納率の高い75歳以上が市町村国保から「後期高齢者医療制度」へ移行した制度上の理由が大きいとみている。また、景気悪化などの影響も考えられるという。収納率向上に向けては、都道府県や市町村に対し、引き続き収納対策に力を入れるよう指導する。

 08年度の市町村国保の実質的な単年度収支は、2384億円の赤字。前年度と比べて1236億円の改善が見られたものの、厚労省は「依然として厳しい財政状況」と指摘している。
 一方、保険料(税)の滞納世帯数は、09年6月1日現在で445万4000世帯(前年同月比2万9000世帯減)。市町村国保の全世帯に占める滞納世帯の割合は20.8%で、データがそろっている1998年以降、最も高かった。厚労省は、分母となる全世帯数の減少(同27万8000世帯減)などが要因とみている。

■「広域連合」は1420億円の黒字-後期高齢者医療制度

 また厚労省が2日に発表した、「後期高齢者医療制度」の運営主体である後期高齢者医療広域連合の08年度財政状況(速報値)によると、実質的な単年度収支は1420億円の黒字だった。
 保険料の収納率は全国平均で98.75%。このうち、特別徴収(年金からの支払いのため収納率100%)分を除いた普通徴収では96.95%だった。
 また、08年度分の保険料を滞納している被保険者数は09年6月1日現在28万人で、全被保険者数に占める割合は2.08%だった。

国保の場合、制度的に非正規雇用者や無職の人々が入ってくるわけですから、未収が多くなるのは当然とも言えるかと思いますけれども、以前にも紹介しましたように各自治体では減免制度なども設けられていますから、低所得者であってもきちんと手続きを行っていれば保険証を取り上げられることもなかったのにという場合がままありますのでご注意ください。
このあたりの構図は年金の未納問題とも似通ったところがありますけれども、あちらでも「長年高い掛金を払ってわずかな年金をもらうより生活保護の方がマシ」なんて声が出ているのと同様、健康保険の方でも「高い保険料を払ってもどうせ元は取れないんだから、最初から払わない方がマシ」と考える人々が増えてきているという現実があります。
幸いにも年金制度と比べると健康保険の方では制度自体に関する信用はまだ崩壊していないように見えますけれども、「なぜ一部の人間の医療費を健康な俺たちが負担しないとならないのか」という声が大きくなってきた場合に、政府としてこれにどう答えるかという回答は用意しておかなければならないでしょうね。

さて、「他人の医療費を負担させられている」という不満に対する回答の一つであったはずの後期高齢者医療制度ですが、こちらも野党時代から民主党が悪の権化のように言い立てていた流れがある以上、政権与党になって冷静に考え直した後でも今更続けましょうとは言い出しにくい状況に追い込まれてしまいました。
またぞろ高齢者を国保に戻すとなれば一時的に未収率は改善するでしょうが、高齢者医療費を圧縮し皆保険制度自体の破綻を避けるという当初の長期目標からすると明らかな後退となりかねませんが、ちょうど先ごろ厚労省から新制度の原案が出てきたところです。

【社会保障】高齢者医療、65歳以上は国保に加入 厚労省が新制度素案(2010年1月12日日経ネット)

 厚生労働省は、65~74歳と75歳以上を区分した現行制度に代わる新しい高齢者医療制度の素案をまとめた。65歳以上は原則として、自営業者や無職の人が加入する国民健康保険(国保)に加入する。ただ、現役世代とは別勘定とし、医療の実態にあわせ、応分の負担を求める。保険料率は都道府県単位で決める。2013年度の創設を目指すが、負担の調整で曲折も予想される。

 現行制度では高齢者を65~74歳の「前期」と75歳以上の「後期」に分けている。74歳までは市町村単位で運営する国保や企業の健康保険組合など現役世代と同じ保険に加入。75歳以上は別枠の後期高齢者医療制度に加入、医療給付費の1割を負担する。

いや「負担の調節で曲折も予想」と言いますが、制度上同じ国保に入れると言ったところで中身は別勘定で給付に応じた負担をというのであれば、それは単に看板だけを変えたということと何か違うのでしょうか?
このあたりは厚労省から出た素案ということですから、あるいは官僚側が取り敢えずの叩き台としてまとめてみましたという話なのかも知れませんが、いかにも本質的には何も変えたくないという官僚の思惑がにじみ出ているということであれば納得は出来るところです。
逆に今後与党政治家の側からこういうシステムで話を推進するようなコメントが出てくるということになりますと、なんだ結局民主党も名前が気に入らなかっただけで、後期高齢者医療制度自体をやめるつもりはなかったんだなという話になってきそうですよね。

実のところこの高齢者医療費の押し付け合いというのは連鎖反応を引き起こしていまして、例えば以前にも紹介しましたように近年大企業が自前の健保組合を持つことをやめるようになってきた、その結果国が公費を投入している中小企業向けの協会けんぽに加入者が移り財政を圧迫しているという話がありました。
企業が自前で組合を持っていても高齢者医療費の負担で保険料率が高くなる一方である、そうであるなら自前で持つ意味がないということになるわけですが、実際大口破綻として話題になった西濃運輸などでは、保険料率を政管健保以上に引き上げざるを得なくなったことが組合解散を決めた動機になったということです。
政府の方では先ごろこの協会けんぽの財政を立て直すためとして、国費投入と共に大企業の持つ健保組合に負担を求めることにしたと言いますが、当然ながらこういう状況では反発も出ようかという話ですよね。

健保連会長、協会けんぽ救済「肩代わりは断固反対」(2009年12月4日日経ネット)

 健康保険組合連合会の平井克彦会長は4日、厚生労働省が協会けんぽ(旧政府管掌健康保険)の救済案を発表したことを受け記者会見した。「国が負担すべき財源を健保組合に負担させるものだ」と指摘した上で「総力を挙げて断固反対する」と語った。厚労省は健康保険法の改正案などを来年の通常国会に提出する方針で、波紋が広がっている。

 厚労省は4日の社会保障審議会医療保険部会に、中小企業の会社員らが加入する協会けんぽの財政を支援する案を示した。協会けんぽが75歳以上の後期高齢者医療に拠出する支援金を来年度に約2500億円減らし、大企業の会社員らが加入する健康保険組合が約1400億円、公務員が入る共済組合が約1000億円負担する内容だ。

 厚労省は協会けんぽに比べ財政にゆとりのある健保組合と共済組合に肩代わりさせる意向だが、実現すれば健保加入者などの保険料は上がる可能性が高い。平井会長は「健保組合もかつてない財政危機に直面している」と指摘し、救済案は協会けんぽを優遇していると非難した。 (23:45)

いずれ更なる議論を必要とするだろうこうした制度的な問題はさておくとしても、国民皆保険という建前が揺るいで来ますと医療現場でも相応に大きな影響が出てこないわけにはいきません。
例えばやってくる患者の1割、2割といった比率で無保険者が入ってくるということになれば、いくら患者の金銭的負担に無頓着だった日本の医者とは言えど、患者を前に「支払額はどのくらいになりそうか」「そもそも支払えるのか」といったことを念頭に置いて診療にあたらざるを得なくなりますし、病院としても未収金対策というものをちゃんと行っていかなければ立ち行かないでしょう。
今の日本では治験などと言いますと被験者がなかなか集めにくいところもありますけれども、例えば製薬会社や医療機器メーカーにとっては治療費負担ということを餌に被験者を集めるという、海外で当たり前に行われているやり方が日本でもやりやすくなってくるかも知れないと考えれば、これはドラッグ・ラグなどの解消には有益となるかも知れないですよね。
もちろん患者の側も医療費の支払いということは今まで以上に意識せざるを得なくなってくる局面が多々出てくるでしょうから、民間の保険会社などにとっては例えば健康保険の掛金よりも安上がりで、そこそこの医療サービスを保証するような無保険者向けの第二の健康保険といったものも考えられるかも知れません。

そう考えていくと、ちょうど海の向こうのアメリカでは国民皆保険制度導入を巡って未だ激論が続いていますけれども、何やら日米双方がお互いの医療制度を参考にシステムを組みなおしてきているようにも見えますかね(実際には全くそういうわけではないにしても)。
日本の場合はアメリカほどには医療費が高騰していませんから、案外皆保険制度を離れて各人が身の丈に応じた「応分の医療、応分の負担」という自己選択を行っていくにはよい環境なのかも知れませんが、そのためにはまず医療従事者の認識もさることながら、「よく判りませんから先生の判断でよろしくお願いします」なんていう、妙なあなた任せの医療習慣を患者の側からも改めていかないといけないでしょう。
何にしろ55年以来続いてきた自民党政権も案外あっさりと終焉を迎えたわけですから、61年に発足した国民皆保険制度もそろそろ抜本的な制度改革があっても全くおかしくないわけですが、少なくとも「命はお金にかえられない」などといった古き良き牧歌的な医療というものはもはや取り戻せそうにもない時代情勢なのは確かなのでしょう。

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