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2010年2月 8日 (月)

「汚物は消毒だ~っ!!」(AA略)って、昔の漫画にありましたね確か(遠い目)

医療の現場における情報開示の重要性というものが言われてすでに久しいですが、少しずつこうした話も進んでいるとは実感しますね。
先日の新聞にもこういう記事が載っていまして、少し長いですが引用させていただきます。

医療の質…診療実績、数値化広がる(2010年2月2日読売新聞)

他の病院や医師と比較…意識向上

 合併症の発生率や、治療に入るまでの待ち時間など、病院内の診療実績を分析し、医療の質の向上に役立てようという動きが広がっている。

 様々な指標を用いて達成度を公表することで、医師や看護師らの意識を高め、より良い医療につなげる取り組みを追った。

QI委員会

 東京・築地にある聖路加国際病院では月1回、コーヒーやサンドイッチを手にした医師や看護師ら30人ほどが早朝に集まる。

 「それでは『QI委員会』を始めます。各項目の達成状況を報告してください」。福井次矢院長が切り出すと、担当者が「救急受診から入院まで4時間以内の割合」や「糖尿病患者の血糖が基準値内にコントロールされている割合」などについて、前月までのデータや目標を達成できなかった原因の説明を始めた。

 こうした診療の過程や結果を測定した数値は、「QI(Quality Indicator)=質指標」と呼ばれ、1990年代ごろから医療の質を評価するため欧米で用いられるようになった。

 同病院がQIの測定に取り組み始めたのは、福井院長が就任した2005年。まずワーキングチームを設置、海外の先行例を参考に約60指標を設定し、診療実績の分析を始めた。翌年からQI委員会に改編し、現在では約110項目に増えた指標の中から重点的に取り組むものを毎年選んで目標値を決め、会議で達成状況や対策を議論、成果を冊子で公表している。

ばらつき減少

 QIを測り公表するのは、医療の質の向上が狙いだ。福井院長は、標準的医療を意識しつつ、他の医師や医療機関と診療実態の比較が可能になるため、より良い診療をしようという動機付けになり、診療のばらつきを減らすことができると説明する。実際、同病院では糖尿病治療で大きな改善効果が見られた。

 糖尿病患者の場合、血糖値を示す「Hb(ヘモグロビン)A1c」が6・5%未満で「良好」、7%未満で「可」とされる。06年の診療実績では「7%未満にコントロールできている患者の割合」は51%で、医師別では82%から39%と大きくばらついていた。要因を分析すると、糖尿病を専門としない医師の数値が悪く、処方する薬が専門医と違うことが分かった。

 そこで、医師別の数値を匿名で公表し、専門医による院内勉強会を何度も開催したところ、07年には62・5%に向上。医師別でも、数値の改善に加え、専門医が紹介した最新の診療指針に沿って薬の処方内容が変更されていた。林田憲明副院長(循環器内科)の場合、勉強会前後で59・2%から90・5%に著しく向上した。「匿名でも他の医師と比べた自分の位置が分かり、どうしたら良くなるかなと診療を見直す機会になった」と振り返る。院内には、「重症者を多く診ている医師もおり、数値を示すのは不適切」などの反発もあるが、林田副院長は「“密室的な診療”を漫然と続けるのでなく、糖尿病を診る医師全体の診療レベルを底上げすることが患者さんの利益につながる」と話す。

課題

 こうした取り組みは、他の病院でも始まっている。国内では聖隷浜松病院(浜松市)が1999年から検討を始め、2003年にデータ分析を実施、05年からは結果をホームページで公開している。国立病院機構でも、全国145病院で07年度から独自に設定した26項目の指標でデータ収集を行っている。

 しかし、「全国の病院に広げていくには課題も多い」と、日本病院会副会長を務める堺常雄・聖隷浜松病院院長は指摘する。

 そもそも、医療の質を客観的に評価する指標の設定が難しい。また、多忙な医師の仕事を増やすことなくデータ収集・分析ができる体制整備も必要だ。聖路加国際病院では、診療情報管理士ら6人を配置しているが、専従スタッフを雇用する余裕が、すべての病院にあるわけではない。堺院長は「データ収集に適した電子カルテの開発にも費用がかかる。医療の質を担保するには、こうした費用をかける必要があることを国民に理解してもらうことも大切だ」と話している。(内田健司、本田麻由美)

 QI 医療の質は、スタッフ数や医療機器の整備状況などで決まる「構造」、診療や看護の実態を反映した「過程」、生存率に代表される治療成績などの「結果」――という三つの基準で評価される。同じ治療でも人によって効果が違うため、結果だけでは質を評価するのは難しい。このため、標準治療が実践されているのかなど、過程の評価が重要とされている。

米英、診療報酬に反映

 海外では、医療の質を測り、結果を現場で活用する動きが一層進んでいる。

 院内死亡率などの診療成績を病院ごとに明らかにしようという動きが1980年代に始まった米国。2001年には、米医学研究所が医療の質のばらつきを指摘した上で「医療機関や保険者が質の向上を目指すべきだ」と提言、社会的な関心を集めた。また、米国臨床腫瘍(しゅよう)学会が、がん診療の質を測る指標の開発に取り組むなど、学会単位で他施設と成績を比較する事業が進んだ。このほか、高齢者向け公的保険では03年以降、指標の達成度に応じて、病院の診療報酬を変える仕組みが導入され、質の改善が進んだとの報告もある。英国でも04年から、開業医を対象に、質を反映した支払い制度を始めている。

 医療の質指標の研究を進める東尚弘・東大准教授(公衆衛生)は、「こうした取り組みが実際に患者の健康増進に結びついているかどうか、今後の検証が必要だ。評価の基準や体制の整備が十分でない日本では、報酬と関係づけるのは時期尚早だが、まずは指標を設定して測ることが重要だ」と話している。

◇ ◇ ◇ ◇
[プラスα]病院選びに役立ちます

 患者にとって、医療の質指標はどんな意味があるのだろうか。

 医療の質に詳しい埴岡健一・日本医療政策機構理事は「指標は万能ではないが、患者が医療機関を選択する場合に有効なものもあり、積極的に関心を持ってほしい」と話す。ただ、数値の意味をどう判断するかは簡単ではない。患者の病態や重症度には、ばらつきがある。見かけの成績をよくするため、医療機関が患者を選別する可能性もありうるからだ。

 厚生労働省の研究班は昨年、5臓器(乳、肝、大腸、胃、肺)のがんと緩和ケアについて、206の指標(http://qi.ncc.go.jp/)を作成した。取り組みが進めば、治療経過を病院ごとに評価することも可能になる。埴岡理事は、「数値の意味や読み方、有効性について、患者が理解できるような情報を提供する取り組みも必要になる」と話している。

卒後一定年数を過ごすと基本的に自立してしまう医師相互の診療の質改善という面でこうした試みはそれなりに意味がありそうですが、しかし今の時代ですと、とりわけ公立病院などでは、うちはこんなに実績悪いんだから来るなよ!お前ら来るなよ!って先生も結構いそうな気もするんですが(苦笑)。
それはともかく、ここで注目していただきたいのが末尾にある「医療の質評価が患者の病院選びに役立つ」というテーマなんですが、これに関連する興味深いデータとして厚労省が患者はどうやって病院を選ぶのかという調査をしていまして、その結果こういうことがわかってきています。

病院を選択する際の情報について、情報が「必要であった」と回答した外来患者を項目別にみると「医師などの専門性や経歴」が48.5%と最も多く、「受けることができる検査や治療方法の詳細」47.7%、「安全のための取り組み」34.7%となっている。
(略)
病院を選択する際の情報について、情報が「必要であった」と回答した入院患者を項目別にみると「受けることができる検査や治療方法の詳細」が50.8%と最も多く、「医師などの専門性や経歴」49.6%、「治療に要する平均的な入院期間」43.7%となっている。

要するに患者の側として最も求めている情報というのは自分が求める医療が専門の医者がいるかどうか、その施設で受けられるかどうかといった情報で、昨今あちこちで診療科閉鎖が続いていることを考えるとこういう情報が患者としては切実なのかなとも感じられるところです。
一方でこれら患者が求める情報のうちで「生存率、合併症発生率などの治療結果」といった医療の質評価がどれくらい求められているのかと言えば、外来患者の24.0%、入院患者の30.3%に過ぎず、いずれも「実施している治験の治験薬」についで低い方から二番目という、考えように依ってはずいぶんと意外な結果となっているのですね。
例えばこれを一般の客商売に置き換えて考えてみますと、店がうどん屋なのか蕎麦屋なのか、料理人の専門がフレンチかイタリアンかといったことに注目が集まる一方、味がうまいかまずいかはあまり興味がないというのは、なかなか奇妙な話にも感じられるところです。
「そんな当たり前の情報も看板に掲げていないからいけないんだ!」と一部の方々からはまたお叱りを受ける可能性もありますが、逆に「基本的にどこもそうまずいということもないんだろう」と顧客の皆さんが考えているのだとすれば、これはこれで医療に対する信用もまだ捨てたものではないとも受け取れる話ではないでしょうか。

さて、先日は患者に無料で明細つき領収書交付を義務付けるという話が出てきましたけれども、少なくとも導入推進派の側からはこうした「もっと医療の情報を」という流れの延長線上で語られているのがこちらの件なのですね。

レセプト電子請求の医療費明細書、無料発行を義務づけへ(2010年2月3日朝日新聞)

 厚生労働省は3日の中央社会保険医療協議会(中医協)で、原則すべての患者に医療費の明細書を無料で交付するよう医療機関に義務づける案を提示した。大筋で一致し、導入に向けて調整に入った。

 明細書の無料交付は、患者への情報提供の必要性から肝炎などの薬害被害者らが強く要望している。現在は、レセプト(診療報酬明細書)を電子請求している医療機関に限り、患者から求められた場合に発行を義務化。費用も実費徴収が認められている。

 厚労省案は、レセプトを電子請求している医療機関には無料発行を義務化する。コンピューターに明細書発行の機能がない場合は、現行通り患者の請求を条件とし、実費徴収も認める方針だ。電子請求をしていない医療機関には無料発行を義務づけないが、明細書発行の有無について患者への周知を求める。

 レセプトを電子請求している病院は9割超に上るが、診療所では半数程度。

 この日の中医協では、患者ら支払い側の委員が改めて明細書交付の重要性を強調。診療側の委員らも「交付には賛成」と応じた。ただ、交付が義務化されることで医療機関の負担が増えることや、薬などがすべて明記されることで告知前の患者にまで病名が分かってしまうことなどの懸念も示された。
(略)

記事中にもすでに幾つかの懸念というものが表明されていることが見て取れますけれども、このあたりは患者側代表として参加しているあのお方の長年の悲願であった話ですから、結果はどうあれ意外にすんなりと導入が決まってさぞやお喜びのことであろうと思えるところですよね。
そもそもこの前段階ともいうべきレセプト電子化の議論のところで「電子化すれば医療の不正が簡単に判るようになる!だから医師会が導入に反対している!」という人たちが一方にあって、ところが現場の状況を知っている人間ほど「いやそれはちょっとズレた議論なんじゃないか?」と感じていたところではなかったかと思います。
このあたりは例えば料理屋の領収書に「今日のお料理は群馬産の人参1/3本、長野産の玉ねぎ1個…」などと書かれていた場合を想像してみれば、一般人にその日の料理が真っ当であったかどうかおいそれと判るものではないという極めて常識的な類推をしてみればよいかと思うのですが、何にしろすでに一部方面では信仰の域にまで達している気配がありますから基本的には時代の要請だとは思いますね。

しかし一方で、こうした情報開示というものが単に無意味であるだけならまだしも、これが時として有害ですらあるのではないかという議論が以前からあることは留意すべきところで、このあたりのメリット、デメリットや実効性というものに関しては、かねて導入を推進してきた方々を中心に今後の検証が待たれるところではないかと思います。
中でも有害論の代表的なところではいわゆる病名告知問題などと絡めて「知りたくもない情報を知らされない権利が侵害される」という話ですけれども、当の本人に病名を告げないという他人任せな医療習慣はすでに時代にそぐわないところが多々ありますから、これを契機にそうした古い伝統が改められ、医療側、患者側ともに意識改革が進むとなればそう悪い話ではないのかも知れません。
今回も導入(ほぼ)決定に至る実際の議論の経過を見てみますと、やはりここでもそうすんなりと決まったというわけではないようですが、そんな中でも例によって例のごとくな厚労省の詐術まがいのテクニック(苦笑)が炸裂していることには注目しておかなければならないのですが、まずは2月3日の議論から見ていきましょう。

患者の「知る権利」と「知りたくない権利」 ─ 明細書で激論(2010年2月4日ロハス・メディカル)
より抜粋

 薬の種類や検査の内容など診療内容を詳しく知るのは「患者の当然の権利だ」という考えがある。これに対し、自分の病名を知りたくない患者もいるため、「希望者にだけ知らせればいい」という考えもある。(新井裕充)

 4月の診療報酬改定に向けて2月3日に開かれた厚生労働相の諮問機関・中央社会保険医療協議会(中医協、会長=遠藤久夫・学習院大経済学部教授)で、レセプト並みに詳しい医療費の明細書が議論になった。
 ※ 明細書について、前回改定での議論など詳しくはこちらを参照。

 レセプトは、医療機関が保険者に診療報酬を請求するために提出する診療報酬明細書で、投薬の内容などが詳細に記載されている。このレセプトと全く同じではないが、診療内容が詳しく記載されている明細書の発行は既に進んでいる。現在、レセプト(診療報酬明細書)をオンライン請求している医療機関には、希望があった患者に明細書を発行することが義務付けられている。 こうした中、明細書の発行を義務付ける医療機関をさらに増やすことを求める患者団体もある。その背景にあるのは、医療事故や薬害などの訴訟。いざという時のために、患者が受診した際の情報をあらかじめ保管しておく必要があると考えるのだろう。

 現在、「求めがあった場合のみ」「有料または無料」で明細書が発行されているが、これでは不十分であると考え、「全患者に」「無料で」─という2点を強調している。

 中医協でも、患者を代表する立場として参加している委員が、「全患者に」「無料で」という2つの条件で明細書を発行することを求めている。これを受け、厚労省は2月3日の中医協で「レセプトの電子請求を行っている保険医療機関等については、以下に掲げる正当な理由のない限り、すべての患者に対して明細書を無料で発行する」という案を示した。

 これに支払側の委員は賛成したが、診療側委員は反対した。同日の議論で診療側は、「患者への情報提供が必要」との考えにはこれまでと同様に賛同しており、「明細書の発行」それ自体には反対しなかった。
 しかし、希望しない患者に対しても発行すること、つまり「すべての患者」に発行することに対しては反対意見が相次いだ。自分の病名を知りたくない患者もいるし、プライバシーの保護という観点からも「欲しい人にだけ発行すればいいのではないか」などと主張した。
 また、「無料」という点についても診療側から意見や質問が相次いだ。明細書を発行するコンピューターシステムの改修やソフトウェアなどの費用、患者の質問やクレームに対応する職員の配置など、コスト面での支援を求める声があった。1時間を超える議論の末、最終的に合意に達することはできず、継続審議となった

 ただ、明細書の発行などに必要なコストについては、支払側の委員から前向きな検討を求める意見もあった。このため、今後は「すべての患者に発行する必要があるか」という点が大きな焦点になるとみられる。
 なお、患者を代表する立場の委員はこれまで、「すべての患者」への無料発行を求める主張を繰り返してきたが、この日は「トヨタ記念病院」を例に挙げて説明した。このため、診療側の委員から「トヨタ記念病院は発行ボタンを押さない患者には発行していない」との声も出ている。
(略)

2月3日の段階ではこの後議論が非常に錯綜していて、診療側では情報開示という総論では基本的に反対論は出ていない一方で、各論として実際に導入されるとこんなことになるが対応をどうするのかといった意見が列挙されていました。
総合してまとめると、診療側委員からの意見は「希望者に出すことは全く問題ないが、全員に強制的に発行する点には反対」「発行に要するコスト負担に関しての配慮が必要」という二点に集約されるのではないかと思います。

・領収書発行に対応するようにソフトを変えるコストはどうするのか?[安達秀樹委員(京都府医師会副会長)]

・毎回レセプト並の情報を出すとなった場合個人情報流出が懸念されるが、記載内容はどうするのか?[渡辺三雄委員(日本歯科医師会常務理事)]

・治療内容から原疾患が判明する懸念や、本人が意識がない場合に他人に情報が流出する懸念があるがどうするのか?[嘉山孝正委員(山形大学医学部長)]

・患者との間に新たなトラブル発生が予想されるが、その対策にかかる経費負担はどうするのか?[邉見公雄委員(全国公私病院連盟副会長)]

・保険者が全患者にレセプトを発行するのが筋なのではないか?[西澤寛俊委員(全日本病院協会会長)]

・紙資源消費やプライバシー保護の問題もあり、希望しない患者も含めて全員に渡す必要があるのか?[鈴木邦彦委員(茨城県医師会理事、日本医療法人協会副会長)]

こうした診療側の意見を受けて、患者側の意見として最後にこういう発言が出てきたわけですが、素直に彼らの求めるところというものを聞くならば「そんなことには誰も反対していない」と診療側もいうしかないわけで、それが何故こうも議論が錯綜するのかということですよね。

[勝村久司委員(連合「患者本位の医療を確立する連絡会」委員)]
 ちょっと......、(明細書発行の)イメージなんですけど、僕はまあ......、(明細書を無料で発行する病院として)6~7年前に広くテレビや新聞で報道された「トヨタ記念病院」(愛知県豊田市)というのが初めてこれをやった。
 それを国立の(ナショナル)センターが同じようにやった。それはどういうやり方かというと、「原則、発行します」。「いらない」という人には無理矢理渡さない。

 ▼ トヨタ記念病院は「すべての患者」に発行している病院ではない。あくまでも、明細書の発行を希望した患者に対してのみ発行しているので、「すべての患者」とは言えない。同院のホームページ「診療費のお支払い方法」では、「自動精算機 ご利用方法」として、「診療明細書が必要な方は、画面上『診療明細発行』を押してください」と書かれている。会議終了後、診療側の委員が「トヨタ記念病院には必要か不要かを確認する発行ボタンがある」と保険局医療課の佐藤敏信課長に指摘。これを受け、佐藤課長は勝村委員に「トヨタ記念病院の例を出されるなんて」などと抗議した。診療側のある委員は「窓口で必要か不要かを尋ねるのはいいのではないか」と話しており、佐藤課長も「いるかいらないかを(窓口で)きくのはいいんですよね?」と勝村委員に確認していた。もし、希望する患者に発行することを求める主張であれば、それは「すべての患者への発行を求める主張」とは言えないだろう。

 それ(明細書の無料発行)をやって......、まあ、嘉山さん、僕は薬害のこともいろいろ......、薬害も気になっていることは1つなんですが、僕は中医協の委員になったことを受けてですね、患者の皆さんに単価を知ってほしい。中医協が決めている単価を知ってほしい。それが一番。(中略)

 ▼ この点について診療側委員は反対していない。「明細書を発行する必要があるか」という論点、これは争いがない。明細書発行の必要性を肯定したとして次に、発行する対象者(すべての患者か)、発行費用(有料か無料か)などが問題になる。この日は、いろいろな論点がごちゃまぜになって議論されてしまった。
 この後、国民を代表する立場の公益委員である小林麻理委員(早稲田大大学院公共経営研究科教授)が患者への情報提供の重要性を訴えたが、それは診療側も賛成している「入り口の議論」なので発言の趣旨が不明。「患者への懇切丁寧な説明を独立の点数として評価すべき」という意味はないだろう。

[小林麻理委員(早稲田大大学院公共経営研究科教授)]
 いろいろな観点が混ざってしまってですね、議論の収拾が付かなくなっている......。私、基本的なことを申し上げるんですけれども、この議論の始めは、医療という分野においては患者と医療提供者側の間に、非常に情報の不均衡がある。非対称性があるということだと思うんですね。

 ですから、患者は自分のことを知りたいけれども、リテラシーがないということもありますけれども、そのことを、情報提供していただきたい。情報という観点から言うと、(医療者と)全く同じレベルに達していないわけですね。医療提供者側は何でもご存じだ思うんですけれども、それについて患者は知りたい。

 ▼ その必要性には診療側も同意している。主要論点から若干ズレているからか、それとも疲れているのか、傍聴席はややしらけ気味の空気。総会開始から、もうすぐ6時間になる。

 だから、同じレベルになってほしいということで、そのことがやはり必要なんじゃないかということだと思うんです。基本的な考え方としては、やはり情報を持っているほうがやはりそれを提供してあげて、同じレベルにしていただくということが基本的に必要ですし、そんなことが今、勝村委員がおっしゃったように、患者のリテラシーを高めていく。

 リテラシーを高めるために、医療提供者側にいろいろな......、何て言うんでしょうかね、「ナビゲーター」と言いますか、そういうことをしていただかなくてはいけない、説明していただかなければいけないのですが、そこまでは今すぐに求めることはできないけれども、患者の要求と言いますか......。

 患者自身が要求......、と言いますか、患者自身が「自分はよく知っているからこれはいらないよ」というその......、情報の非対称の世界にあってはですね、「自分が拒否できる」っていうレベルにあればもちろんいいんですが、拒否できるレベルにないものですから、そこを医療提供者側からやはり情報を頂くというのが基本的な考え方だと思います。(以下略)

 ▼ 小林委員の発言は以上。この後も議論は迷走し、継続審議となった。ところで、本件とは直接関係がないかもしれないが、患者本人の意思が確認できない場合は誰の意思を尊重すべきだろう。例えば、回復不能な植物状態の患者の延命を中止する際、妻は同意したが患者の両親は反対して争いになった場合、本人の意思を代替できるのは配偶者だろうか、親だろうか。

記者氏も突っ込みを入れていますけれども、まあこういう経緯を見ますとこれはどうも早々にまとまる話ではないんだろうなとは思えるところですよね。
ところがわずか数日の間に、この状況が全く一変しているというのですから驚くしかありません。

「散らかっている部屋を綺麗に」? ─ 情報公開と患者のプライバシー(2010年2月7日ロハス・メディカル)より抜粋

 「散らかっている部屋に他人が入れば綺麗になる」─。医療事故や薬害を防止するため、医療機関が保有する情報をできる限り公開すべきだという考えがある。これに対して、患者のプライバシー保護の観点から、投薬や検査の内容、傷病名などの個人情報が他人に漏れる危険性を指摘する声もある。(新井裕充)

 ※ 意見が対立した2月3日の審議はこちらを参照。

 厚生労働省は、患者にとって分かりやすい診療報酬や医療の透明化などを進めるため、診療内容が詳しく分かる医療費の明細書をすべての患者に無料で発行する医療機関を現在よりも増やしたい意向だが、明細書の発行を希望しない患者がいることや、診療費を立て替え払いした他人に患者の情報が漏れる危険性などを指摘する声もある。

 例えば、交通事故で救急搬送された患者の診察費を他人が立て替え払いした場合、患者の個人情報を含む明細書を他人に発行してもいいか、別のケースではどうか。個別の事例ごとに医療現場の判断に委ねるのか。もし、患者がプライバシー侵害などを主張する場合、その相手方は医療機関か国か、責任の所在をどう考えるのか─。

 患者情報の取り扱いについてあいまいな点を残したまま、明細書の発行をめぐる議論はひとまず決着した。4月の診療報酬改定について審議する厚生労働相の諮問機関・中央社会保険医療協議会(中医協、会長=遠藤久夫・学習院大経済学部教授)が2月5日に開かれ、厚労省が示した明細書の発行案を全員一致で了承した。

前回の提案では、「正当な理由のない限り、全ての患者に対して明細書を無料で発行する」としていたが、今回は「正当な理由のない限り、原則として明細書を無料で発行する」に修正。明細書の発行を希望しない患者などへの対応について、「会計窓口に『明細書を希望しない場合は申し出て下さい』と掲示すること等を通じて、その意向を的確に確認できるようにする」と付記した。
 つまり、患者のプライバシー保護を医療現場の運用に委ね、クレーム対応などの負担も現場が負うということ。今回の修正案は、「全ての患者に対して」の文言を削除して、「全員発行」の方針を一歩下げたように見せながら、「事実上の全員発行」を医療機関の責任と努力で進めさせていくという、まさに厚労省らしい玉虫色の書きぶりだった。

厚労省の担当者は、「大きな枠組みは前回提出したものと同じ」と説明。会議終了後の記者説明でも、「全員に発行する方針は変わらない」と言い切った。厚労省の方針が大きく転換したわけではないのに、診療側の委員は笑顔で厚労省案を支持。意見が割れた2日前とは違って、笑い声があふれる和やかな雰囲気の中での決着だった。

 全員一致で了承された後、長年にわたって明細書の全員発行を訴えてきた勝村久司委員(連合「患者本位の医療を確立する連絡会」委員)がようやく口を開いた。すると、それまで笑顔だった診療側委員の表情がみるみるうちに曇り始めた。しかし、"時既に遅し"だろう。勝村委員は次のように述べた。
 「自分の部屋は非常に散らかっていて片付けていない。だから、お客さんが僕の部屋に入ろうとすると、いろいろと理由を付けて『入ってくれるな』と言うんですけど、どうしても『入ってくる』と言ったときに初めて部屋を掃除する。綺麗にしていこうという努力をしていく。そういう情報開示の力っていうのが、きっとあるんじゃないか。それは、入ってくる人が国民であり患者であり、本当にそこの主役である人が入ってくる。(医療現場の)皆さんが本当に一生懸命やっている所に力になっていこう。一緒に片付けていこう。何をやったら完璧ということはないかもしれないが、こういう一歩を頂けたことはありがたいと思う」
(略)

議論の流れを見ていきますと、邉見公雄委員(全国公私病院連盟副会長)から「現場の負担を少しでも軽減するように、国や自治体が患者からの疑問点を相談できるような態勢を整えて欲しい」といった要求があり、鈴木邦彦委員(茨城県医師会理事、日本医療法人協会副会長)から「何が起こるか不安があるが、文言が修正されたので同意する」という発言がある。
しかし基本的に文言が変わった以上は診療側には反対する理由もないということなのでしょうか、記者氏もいうように何故か和気藹々といった雰囲気で話が進み、これらをまとめて座長の発言が続くわけですが、この直後に問題のあの御方の発言が出てくるわけです。

[遠藤久夫会長(学習院大経済学部教授)]
 (診療側が全員同意したので笑顔で)はい、どうもありがとうございます。診療側の委員の皆様から、大変、見識のある......(会場、爆笑)。

 ▼ たぶん皮肉だろう。前回の議論を終えた後、業界記者の間から「要するに反対でしょ」「反対なら反対とはっきり言えばいいのに」といった声が出ている。

 また、あの......、今後議論する上で非常に大きな問題点を出していただきましたので......。これはある意味で、まさにこの明細書を発行することに伴ってさまざまな課題がクローズアップされたということでありますので、次年度以降、十分に検討していきたいというふうに思っております。

 そういうことでありまして、2号(診療)側としてはさまざまなご意見の内容につきましては、今後検討することを条件にして、22年度からこの(厚労省が示した)スキームを導入するということに賛同すると、このように理解してよろしゅうございますね?

 (診療側委員、一斉にうなずく)

 はい、ありがとうございます。1号(支払)側、何かご意見ございますか。はい、勝村委員、どうぞ。

[勝村久司委員(連合「患者本位の医療を確立する連絡会」委員)]
 えと......、あの......、あ、ありがとうございます......。(委員ら、笑い)

 ▼ 診療側委員は一斉に笑顔で応えた。とても和やかでいい雰囲気だが、この後の発言で診療側委員の笑顔が消えていく......。

 あの......、えと......、まあ、いつも僕たちが言っていたのは......。

 自分の部屋は非常に散らかっていて片付けていない。だから、お客さんが僕の部屋に入ろうとすると、いろいろと理由を付けて「入ってくれるな」と言うんですけど、どうしても「入ってくる」と言ったときに初めて部屋を掃除する。綺麗にしていこうという努力をしていく。そういう情報開示の力っていうのが、きっとあるんじゃないか。

 それは、入ってくる人が国民であり患者であり......、本当にそこの主役である人が入ってくるということで、そういう所で......、皆さんが本当に一生懸命やっている所に力になっていこう。一緒に片付けていこう。

 (個人情報の問題など)いろんな危惧とか、そういう問題があるのは十分理解できますし、その危惧も患者にしてみたって......、言っていただいてるってことなんで、今後の課題ということでは非常にありがたいと思います。

 ただ、私たちも同じような危惧とか重々......、その上で、いろんな呼び掛けを始めていっている所をじっくり見てきて、その上で広げていっていいんじゃないかって思っているということもご理解いただけたらと思いますし、あの......。

 何をやったら完璧ということはないかもしれませんけども、こういう一歩を頂けたことはありがたいと思いますし......、あの......、今日出していただいた原案通りで今回始めていただけるということはとてもありがたいと思います。(以下略)

 ▼ 医療機関が情報公開を進めることは患者のためになるという趣旨の主張と思われるが、これは患者代表による一種の"パターナリズム"だろうか。この後、診療側の安達秀樹委員(京都府医師会副会長)が勝村委員の「散らかっている」という発言に突っ込みを入れたが、勝村委員は「救急を一生懸命やっている方に十分に手当てが行っていないとか、そういうものが僕の言っている『散らかっている』という意味」と釈明した。

さて、そこで改めて冒頭に提示されておりました厚労省側の「今日出していただいた原案」なるものが問題になってくるわけですけれども、これをよくよく見てみますとなかなか微妙な発言が並んでいまして、何故これで諸手を上げて賛成に転じるという話になるのか疑問無しとしません。
まずは前回異論が出された費用負担の問題や全員発行の必要性などについて「一応検討しています」とばかりに言及があった一方で、それに対して幾つかの文言を変えてみましたと文書を指し示しながら、口頭ではこういうことを言っているわけですね。

[保険局医療課・渡辺由美子保険医療企画調査室長]
大きな枠組みは前回提出したものと同じでございまして、レセプトの電子請求を行っている保険医療機関につきましては、正当な理由のない限り、すなわち(自動入金機の改修が必要など)以下のような例外を除いては、「原則として明細書を無料で発行していく」ということでございます。

 その際に、各保険医療機関ではその旨をしっかり院内掲示していくということ。それから、明細書の発行を患者さん等につきましては、例えば、会計窓口に「明細書を希望しない場合は申し出て下さい」というような掲示を行うこと、こういったことなどを通じまして、「その意向を的確に確認できるようにするという形にしてはどうか」ということでございます。

 従来通りの扱いになる例外(正当な理由)については、前回提示した通りでございます。
(略)

「正当な理由」 (了承済み)

① 発行関係
 イ 明細書発行機能が付与されていないレセコンを使用している保険医療機関等である場合
 ロ 自動入金機を活用しており、自動入金機で明細書発行を行おうとした場合には、自動入金機の改修が必要な保険医療機関等である場合
② 費用徴収関係(実費徴収が認められる場合)
 上記①のイ又はロに該当する場合

診療側委員は文書で示された添付文書の文言変更なるものに目を奪われたということなのか、「これで我々の要求は通った」とばかりに一斉に賛成に回ったようですけれども、上記の渡辺由美子氏の発言内容を見ていく限りでは、物理的にシステムが発行に対応していない場合を除いては「原則として明細書を無料で発行していく」という、まさに「大きな枠組は前回提出したものと同じ」という話にしか聞こえません。
と言いますか、前回いろいろと意見を出していた診療側の委員にしても、この内容で何がどう変わったのかと冷静に考えてみれば何も変わっていないことに気がつきそうな話なんですけれども、例によって無駄にダラダラと長いばかりの議論に疲れて本質を見誤ったとでもいうことなのでしょうか(苦笑)。
まあしかし、中医協の診療側委員も今回大きく入れ替わったということで、言ってみれば中医協素人ばかりになっているわけですから、海千山千の厚労省や支払側委員を相手にうまく手玉に取られてしまったとしても仕方がないということではあるのですかね?

管理人としては基本的にこうした情報開示の流れに賛成する立場ですし、今回のような話もむしろ全施設に導入してこそ現場意識改革の上で意味があることだと思いますけれども、費用負担や負担軽減策といった具体的な対策が一切なされないまま、多忙な現場の仕事を更に増やすだけの話として決着してしまったことには大きな危惧を抱くものです。
何にしろこの件、大きな問題が出てくるとすれば実際に現場に導入されてからの話になってくると思いますけれども、今まで以上に細々としたトラブルが出てくるだろうことだけはほぼ確実だと思いますから、各施設では今からその対応策というものの検討にとりかかっておいた方がよいのかも知れませんね。

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» 診療内容が詳しく分かる医療費の明細書を、「すべての患者」に「無料で発行」することを、医療機関に義務づける事には断固反対する! [うろうろドクター]
先日、[http://blogs.yahoo.co.jp/taddy442000/31026148.html 「レセプト並み明細書の義務化」は医療崩壊を促進する。]という記事を書きましたが、 2月5日の中医協では、何とそのまま成立してしまったそうです… 正直、嘉山先生には失望しました。 まあ、このまま実施して、大学病院や大病院に『医療不信』が渦巻き完全に崩壊するのも一興ですが… 私は座視できません。 {{{:  厚生労働省は、患者にとって分かりやすい診療報酬や医療の透明化..... [続きを読む]

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