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2010年1月 6日 (水)

新成長戦略に見る課題

世間では相変わらず不景気の寒波が吹き荒れているようで、この冬も派遣村は盛況だそうですね。
そんな中で「医療は成長産業」と主張し野党時代から医療政策の方針転換を示唆してきた民主党政権が、新成長戦略の根幹として医療・介護分野での雇用拡大を目指すとの方針を掲げてきました。

医療・介護で新規雇用約280万人―政府が新成長戦略の基本方針(2010年1月4日CBニュース)

 政府はこのほど、「新成長戦略」の基本方針を決定した。新たな需要の創造によって雇用を生み、国民生活の向上を目指す。「高い成長と雇用創出が見込める」として、成長けん引産業と明確に位置付けた医療・介護分野では、2020年までに新規雇用約280万人、新規市場約45兆円を創出することを目標として掲げた。

 「輝きのある日本へ」と題した新成長戦略の基本方針では、重点分野として、▽健康▽環境・エネルギー▽アジア▽観光・地域活性化▽科学・技術▽雇用・人材―の6分野を挙げた。

 医療・介護など健康分野では、サービスの基盤強化を柱の一つとして挙げた。具体的には、医師の養成数を増やすとともに、勤務環境や処遇を改善することにより、勤務医や医療・介護従事者を確保する。医療機関の機能分化や高度・専門的医療の集約化、介護施設や居住系サービスの増加を加速させ、質の高い医療・介護サービスを安定的に供給できる体制の整備を目指す。

 また、日本発の革新的な医薬品、医療・介護技術の研究開発促進も盛り込んだ。創薬ベンチャーの育成を推進するほか、新薬や再生医療などの先端医療技術、情報通信技術による遠隔医療システム、医療・介護ロボットなどの研究開発や実用化を促進する。そのため、ドラッグラグやデバイスラグの解消を喫緊の課題と指摘しており、治験環境の整備や承認審査の迅速化を進める。

 さらに、高齢者が住み慣れた地域で暮らすため、地域主導で地域医療の再生を図ることが重要と指摘。その上で、医療・介護・健康関連サービス提供者のネットワーク化による連携や、情報通信技術を活用した在宅での生活支援ツールの整備などを進めるとした。

 このほか、今後独居や介護が必要な高齢者が増加することを踏まえ、バリアフリー化された住宅の供給を促進することや、アジア市場での医療関連サービスの展開や医薬品などの海外販売を促進することなども盛り込まれている。

 政府はこの方針を基に、具体的な政策を盛り込んだ「新成長戦略」を今年6月をめどに取りまとめる。その際に、今後実現すべき目標を時系列で示した「成長戦略実行計画(工程表)」を併せて策定する方針。

これを見るだけでも色々と議論の余地はありそうな話ですけれども、そのあたりの詳細に関してはいずれまた具体案が出てきてからということになるのでしょうね。
よく「新たにものを生み出さない社会保障費に金をつぎ込むと国が衰退する」なんてことを言う人もいますが、公費負担の拡大に関しては確かに未だどこまでつぎ込むのか検討の余地はあるとしても、雇用の場として大きな国内人材需要を生み出すと考えればこれは国の経済成長に寄与する一大産業と考えることが可能ですよね。
その意味で医療・介護を巨大な内需と捉えるという大方針は非常にアグリーなのですけれども、問題は今後詰められていくことになるのだろう各論がどうなっていくのかという部分で、特に人材不足、供給過少が深刻化している介護領域においては早急に何かしらの方針を打ち出していってもらいたいものですが、問題はその人材確保ですよね。
先日も少しばかり取り上げましたように介護業界と言えば仕事がきつい、そのくせ低収入と不人気職種として圧倒的な評価を得ているのは世に知られた話ですが、単に介護報酬を引き上げれば良いといったレベルでない問題も多々あるというのがこちらの記事です。

介護・失業、二重苦の中高年 勤務に制約、難しい再就職(2010年1月3日朝日新聞)

 家族の介護と失業に同時に直面した中高年の「介護失業者」たちが、再就職の壁に突き当たっている。親や配偶者の世話を1人で担うため、勤務時間に制約があり、バイトでしのがざるを得ないケースが目立つ。介護が引き金となる貧困。二重の苦境にあえぐ人を支える安全網は見えてこない。

■認知症の母、残業できない

 長野県千曲市の男性(46)は05年に仕事を辞めて以来、再就職先が見つからない。認知症の母親(79)と2人暮らし。母がデイサービスから帰ってくる夕方5時ごろには家にいなければならず、残業ができない。20社以上の面接を受け、落とされた。

 そもそも仕事を辞めたのも介護が理由だった。母は火をつけっぱなしにして台所を黒こげにし、自分が押し入れにしまったのに、「通帳がない」と涙ぐんだ。母をみながら工場で臨時職員として働く生活に疲れ、抗うつ剤を処方してもらった時期もあった。

 そんな時、勤務先から「より高度な作業についてほしい」と打診があった。責任の大きな仕事につけば夕方に終わる保証はない。これまでも入院した母に付き添うために休むことがあり、これ以上は迷惑をかけられない、と退職を決めた。

 10月、朝食を食べ終わった母が言った。「勤めに行かねえんか」。思わず声を荒らげた。「誰のおかげで仕事が決まらないと思ってんだ。ばかやろう」。母の言葉は認知症のせいだと分かっているのに、感情をコントロールできない自分が怖くなった。

 母の厚生年金と、遊歩道の草刈りなどたまに入る単発の仕事だけでは生活費は足りない。貯金を崩しながらの日々。12月、特別養護老人ホームへの入所申し込みの手続きを始めた。会社の面接で「母が入所すれば残業できる」と言えるからだ。ほかに方法はないと思う。

■合い間に職探し、年齢の壁

 「先の見通しが全くたたない」。築50年以上の木造借家。入浴などに介助が必要な「要介護2」の母親(83)と2人で暮らす京都府の男性(55)はため息をつく。レンタルした介護ベッドのそばの壁には、日ごとに母に飲ませる薬を入れるポケットがついた「投薬カレンダー」がかけられている。

 家電メーカーの工場に情報処理技術者として派遣されていたが、08年11月、業務縮小で人材会社から突然、リストラの通告を受けた。派遣切りだった。同じ時期、入院していた母が退院し、自宅で介護が必要な状態になった。

 家事を切り盛りしていた母は週3回の透析が必要となり、介護保険で週2回、ホームヘルプサービスを利用する。食事の支度や洗濯、買い物などの家事、入浴介助が男性にのしかかった。

 介護の合間にハローワークに通う。母の体調変化もあり、定時の仕事は厳しい。フレックスタイムを導入する3社に応募したが、年齢の壁もあり、すべて不採用だった。

 今秋、失業給付も切れた。パート勤めだった母の年金と自分の貯金を取り崩して暮らす。役所で生活保護について聞いてみたが、貯金が残っていることもあり、「現段階で申請相談には乗れない」と告げられた。

 最近は、新聞よりもスーパーの特売広告のチラシを読む時間のほうが長くなった。「いつまで経済的に持つかわからない。でも、どこにも頼る先がない」

■離・転職急増、14万人超える

 介護が原因で仕事を失う人の数は増え続けている。総務省によると、2006年10月から07年9月までの1年間に、家族の介護や看護を理由に仕事を辞めたり転職したりした人は約14万4800人。97年10月からの1年間に比べ、6万人近く増えた。

 一方、厚生労働省の07年の調査では、同居の家族を介護する人の4割弱が40代と50代。介護の担い手としては少数派だった男性も全体の28.1%に達し、01年調査時の23.6%から増えた。

 昨秋以降の急激な雇用悪化で、10月の有効求人倍率は0.44倍、正社員では0.27倍と低迷。安定した仕事を見つけにくい状態が続く。介護生活を続けながらの再就職は元々ハードルが高いが、不景気がそれに追い打ちをかける。

 介護のプロに家族を託して働こうにも、介護保険の施設は順番待ちの待機者があふれる。生活保護は預貯金や資産、扶養義務などの審査が厳しく、特に現役世代は利用しにくいと指摘されている。(十河朋子、清川卓史)

 〈「男性介護者と支援者の全国ネットワーク」事務局長の津止(つどめ)正敏・立命館大教授(地域福祉論)の話〉 少子高齢化や非婚化などによって家族のあり方が変化し、働き盛り世代が家計を支えながら介護を担う時代になった。介護を機に離職して収入が激減し、残業や出張ができないことで再就職もままならない。期間やサービスが限定された介護休業制度や介護保険制度では不十分だ。介護による貧困を食い止め、安心して介護ができる生活をどのように支えるか。行政や企業、社会全体が多方面から模索する必要がある。

基本的に老いと言うものは改善することがない状態ですから、短期的・一時的な対応でどうこうできるものではないはずであって、まずはきちんと受け入れるだけのキャパシティーを社会的に確保しておかなければならないでしょう。
多くの地域ですでに簡単には入所できないほど待機待ちのハードルが高くなっていますけれども、実際問題介護報酬の低さなどから来る事業としての採算性の乏しさはもちろん、資本力があっても需要増大に対応して業務拡大を図ろうとしても人材が集まらない、需要過多なのに人手不足だからこそ余計に労働環境が悪化して余計に人が来ないと言う悪循環が発生しています。
本来こうした方々の場合こそ介護業界に加わって自分の親と一緒に他の方々の介護にもあたって下されば言うことはないはずですし、そのために国が経営面や人材確保の配慮をすべきなのでしょうけれども、長年他業界で済む暮らしてきた中高年者の場合「親の面倒だけならともかく他人の面倒までは」と尻込みをされてしまうのが難しいところですよね。

一部の地域ではデイサービスやグループホームなど比較的負担の軽い領域でこうした中高年の(セミ)リタイヤ層を活用してうまく回しているところもあるようですけれども、考えてみると昔は地域の共同体で行っていたことが生活形態の変化で一度崩壊してしまっていたものを、今改めて再構築しているのだという考え方も出来るかと思います。
昔はとにかく子供から老人まで同じ共同体内で生活していたものですからどこの子供であっても身近に爺ちゃん婆ちゃんが大勢いて、それは中にはボケてきて妙なことを言う人もそれなりにいましたけれども、そういうのも含めて老人の個性ということで「あの爺ちゃん面白いわ」と笑って受け入れられるような老人への慣れがあったものですが、今は核家族化もあって下手すると年寄りなんて帰省時くらいしか見ないという子供も多そうですよね。
そういう視点で見てみると単に「人手が余っているから人手が足りないところに回そう」というレベルの話ではなくて、例えば小児期からの教育で地域の老人たちと触れ合う場として介護の現場を活用していくといったことが老人に対する忌避感の軽減に繋がりそうなんですが、将来を見越して今のうちから動いておかないとますます介護アレルギーが深刻化していきそうで心配です。

そういう長期的な話は置くとしても、昨今ではケシカランことに失業者、貧困者を食い物にする商売、俗に言う「貧困ビジネス」というものが結構あちこちであるようですよね。
今の時代「介護をやります」という志を持った人はそれだけで保護対象にしてもいいくらいに貴重な原石だと思うのですけれども、その社会の宝をすら犯罪まがいの行為の対象にしてしまうというのは極めて大きな社会的損失なんじゃないかと感じさせられる話題がこちらです。

新規採用者に多額の出資金要求 各地でトラブル (2009年12月29日神戸新聞)

 新規採用された人たちが会社から多額の「出資」を求められたという相談が、各地の消費生活センターなどに寄せられている。兵庫県立生活科学総合センターは、雇用情勢の悪化を背景に「職を手放したくないとの思いから我慢するため、問題が表面化しにくい。おかしいと思ったら相談を」と呼び掛けている。(小林伸哉)

 神戸市の男性(49)は今春、物流会社を辞めた。5年ほど前から何度も適性検査を受けさせられては「結果が悪い」と給料を減額された。既に年約150万円カットされたが、さらに減額を通告されたのだ。16年勤めた会社の退職金は、約540万円だった。

 約30社の求人に応募。妻と2人の娘を養うため、正社員にこだわった。多くは書類選考で落とされ、望みを失いかけた5月、特別養護老人ホームを建設、運営の準備を進めているという会社(神戸市中央区)のチラシに目が留まった。

 「正社員大募集」。21~35万の月給。面接だけですんなり採用された。総務担当として法人登記の手続きやオフィス確保などに奔走した。間もなく「配当金は5%。必ず返す」と会長(60)らが出資を求めてきた。預金を取り崩し100万円を手渡した。

 入社から数週間で常務を任された。同時期に入社した男性(38)も老人ホームの運営に携わったことすらないのに、入社から5日で社長に指名された。会長は「素人の発想が必要だ」といったが、業務の見通しや経営の状況は知らされず、雑用と経費負担を押しつけられるようになった

 「給料が出せない」。「融資が出るまでつなぎ資金を」。数万から数十万円単位で負担を求められるたびに「会社存続のため」と自らに言い聞かせ応じた。出資は計約370万円に上っていた。

 賃金未払いに陥っていたのに、会長らはハローワークで新たに求人を計画。「出資できる人を集める」のが理由という。耐えられなくなり、8月、約20人の従業員と退社。10月、会長は姿を消した。事業はまったく手つかずで、出資金は戻らず4カ月分の給与約66万円のうち支払われたのは26万円ほど。それも大半は、自分の出資金が原資だった。他に従業員4人が計260万円を出していたという。

 男性は9月から警備員になり、寒空の下、慣れない仕事を続ける。「安定した仕事に就きたい気持ちを利用された。許せない」。警察にも相談するつもりだ。

実際問題として介護業界もどこも経営が厳しいのは分かりますけれども、これはやはりあからさまに黒と思われる反面、当事者として考えるといかにも引っかかってしまいそうな話ではありますよね。
医療など特にそうですが、基本的に日本の社会保障システムというのは性善説で組み上げられているところがあって、皆が少しずつ我慢をすることで初めて上手く回っていく、それ故にモンスターなんてものが紛れ込むと大騒ぎになるという(ある意味冗長性が乏しいとも言えますが)現実があります。
逆にそれだけに悪いことをしようと思えば結構できてしまうところもあるわけですが、悪いことをした結果被害をこうむるのが一番の社会的弱者だと言うことになればこれは何ともやりきれない話ですよね。

医療分野というものは一応民間資本も参入していますが、例えば医療法人というものは剰余金の配当が出来ないなどで営利法人とは区別されていることからも判るように、基本的に儲けを求めてやるものではないということになっています。
民主党政権が医療・介護領域を産業としてもっと大きなものにしていくつもりなのであれば、パイが大きくなっただけうまい分け前も増えると喜び勇んで参入してくる人々もまた多いのではないかと思いますけれども、例の病院の株式会社化の議論などとも絡めて、巨大産業となれば当然そこに企業としての営利の追求という話も出てくるはずなんですよね。
今後具体的な話を進める前に今までの医療の経営理念との整合性というものをどう取っていくべきなのか、そのあたりに関しても早急に議論を深めておいた方がよさそうに思いますね。

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