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2010年1月14日 (木)

規制緩和というけれど

規制緩和というのも言われて久しいところですが、実際にはいろいろとしがらみがあってなかなかうまく進むものではないようですね。
世の中には強権をもってでもさっさと実現した方がよい規制緩和もあれば、それなりに意味があって存在(少なくとも、一部の人々はそう考えている)していて実施すべきか迷わしい規制緩和もあると思いますが、医療の分野で最近言われているのが看護師の業務拡大という話です。
表向き言われている正論としては「医者がそんなに忙しいなら、業務分担すればいいんじゃない?」ということなんですが、これもなかなか根強い反対論があるようで、こういう記事を見ていますとなるほど既得権者の抵抗とはこういうものなのかと考える人々も多いんじゃないでしょうか(苦笑)。

患者の9割は、看護師の業務範囲の拡大に賛成(2010年1月6日日経BP)

「看護師ができる医療行為を拡大すべき?」に対する、たくさんの投票とコメントありがとうございました。
今回のテーマについても前回(「診療報酬は引き上げるべき?」)(※)と同様に、日経メディカルオンライン(NMO)と日経ビジネスオンライン(NBO)の投票結果に大きな差が出ました。
「看護師ができる医療行為を拡大すべき?」との問いかけに対して、NMO(医師)では「Yes」が36%で「No」が64%。約3分の2の回答が「No」です。
一方、NBO(患者)では、「Yes」が圧倒的多数で92%となっています。

コメント欄を見る限り、投票結果が好対照となった大きな理由の1つは、看護師に対する医師の不信感にあるように思えます。
看護師の質のバラツキが大きすぎる」「結局、(ナースプラクティショナーのような)新職種の尻ぬぐいを医師がしなければならないのかと思うと、げんなりしてしまう」「悪貨は良貨を駆逐する」「看護師の権限拡大のみが目的」「現行の法律下でもできる点滴などの業務を嫌がるのに、業務範囲の拡大を望んでいる看護師がどれほどいるのか?」といった声がその代表例と言えます。
このほか反対意見としては、「医療の質に大きな影響を与える問題が、医療費削減や医師の負担軽減、医師不足の解消を目的に議論されるのはおかしい」「看護師の業務範囲の拡大により、責任の所在が不明確になってしまうのではないか?」「看護師不足が一層深刻化する可能性がある」といった指摘が目立ちました。

★課題は医療の質の担保

一方、看護師の業務拡大に賛成する理由は、NMOもNBOもさして変わりません。「医師の業務負担の軽減に貢献する」「医療費の抑制に役立つ」「看護師でも高い能力とやる気を持ち研鑽を続ける人の中には、初期研修医ややる気のない医師よりも確かな見立てをする人もいる」といった声がNMO、NBOの双方から聞かれたほか、実際に米国でナースプラクティショナー(NP)と働いた方からの、NPに対する賞賛のコメントも寄せられました。
ただし、基本的に賛成の立場を取る方の中にも、「医療の質」の低下に対する懸念は少なからず見られます
「講習を受けてすぐなれるような資格でなく、欧米のようにきちんと教育して、厳格な試験を課し、できる医療行為をきちんと定めたうえで新たな資格を与えるべき」「業務範囲の拡大を、看護師資格の保有者全員に適用するのは非常に危険」――。

実は、「医療の質」への不安を抱いているという点では、NMOで「No」と投票した方とNBOで「Yes」と投票した方にそれほど大きな違いはないのかもしれません。
業務範囲の拡大を進めるとすれば、質の担保をどう図るかが、最大のハードルとなります。
この点は賛成派・反対派の共通認識でしょうから、ここを論点にすれば、建設的な議論ができるような気がします。
いろいろな意見があるかと思いますが、最初から「無理」と議論の門戸を閉ざすのはどうでしょうか?

このほか、NPのような新しい資格を創設するのであれば、業務の責任範囲や待遇などに関してもきちんと検討しておかないと、導入の効果は上がらないという指摘も複数ありました。
業務範囲の拡大の議論の中で新資格の話が浮上した場合には、こうした視点も忘れてはならないと思います。
なお、NBO側には、「NPの導入は、医療界の既得権益擁護体質、および医師が儲かるための現在の医療の在り方に、一石を投ずる効果を持つものと思われる。一刻も早い導入を希望する」といったコメントも寄せられました。
NBOで「Yes」の投票が多数を占めた背景には、一部、医師に対する不信感もあるのかもしれません。

最後に。「看護師の業務範囲について議論するのであれば、同じくチーム医療の一員である薬剤師などの他職種も取り上げるべき」とのコメントが寄せられました。
確かに、その通りです。チーム医療には、薬剤師や理学療法士、作業療法士など様々な職種が参加しています。
今回は便宜上、看護師だけを取り上げましたが、今後は様々な職種を交えて議論する必要があるでしょう。(終わり)

個人的に看護師の業務拡大には賛成派を自認していますが、記事中にも取り上げられていますけれども、ぶっちゃけ医者には看護婦の技能は信用しても、その知識は信用していないという人は結構多いんじゃないかと思いますね。
相応に多くの医者が大学医局などとの絡みで看護師教育というものにも携わった経験があるんじゃないかと思いますが、やはりその辺の専門学校に何年か通って習い覚えたハンパな(失礼)知識だけで看護師になり、その後技能面ではともかく知識面でのアップデートは全くされていないままという人たちが大勢いるというのも事実です。
看護師などは年中医者の処方や指示を見ていて、何となくこういう患者にはこういうことをやるんだなといった知識は下手な研修医なんかよりずっとたくさん持っていたりする、それじゃ「何故そうするの?」ということを聞いてみると全く理解していなかったり、見当外れな考え方をしていたりする場合がままあるものです(これは能力や資質というより、学生時代からのトレーニング法の差が大きいと思いますが)。

効かない治療を延々とやっているくらいならまだ可愛げがありますけれども(医療財政逼迫する折り、本当はいけないんですが)、背景知識がないが故にやっちゃいけないことをしちゃう可能性をどう排除していくかが患者側から見たひとつの課題でしょうが、医師側にとってはこれに加えて責任の所在はどうなるのかという問題も大きいところですよね。
ナースプラクティショナー(NP)なりが最初から最後まで自己判断と自己責任でやっていただけるというのであればいいだろうと言う意見もあるかも知れませんが、同じように大きな裁量が認められている助産師と産科医の関係がどうなっているかということを考えると、正直理念は理解できても頭が痛いと考えている人も多いのではないでしょうか。
結局今の現場の医者に他人の責任までかぶっていられる程の余裕が無いのが全ての原因だとなれば、それじゃ医師の負担軽減のためには一部の権限を他に移して…と議論が堂々巡りになっているところもあります。

こうした問題をきちんと解決するには、やはり行為の責任を取れる程度に見合ったきちんとした知識を身につけるべくしかるべき医学教育を受けさせなければならない、それだったら結局社会人入学なりで医学部に入っていただくのとどう違うの?という話になってくるわけで、実際近頃では看護師など現場経験者の社会人入学というのは増えてきてもいるし持て囃されているところがありますよね。
さて、ちょうどこの1月12日に行政刷新会議が開かれたそうで、例の新成長戦略と絡めて一層の規制緩和が必要だとかいった話になっているらしいのですが、そこで配布された資料の中にこんなことが書かれているようなんですね。

資料2-1 規制・制度改革の進め方(2010年1月12日配布資料)より抜粋

○ 「新成長戦略(基本方針)(平成21 年12 月30 日閣議決定)」も踏まえ、新たな需要の創出に向け、本年前半に行政刷新会議において取り組む規制・制度改革の重点分野は以下の分野とし、具体的テーマ、見直し方法等を早急に決定し、改革を行う。このため、行政刷新会議に規制・制度改革に関する分科会を設ける。(略)
○ また、許認可や各種申請に係る書類の簡素化など、行政の無駄根絶・効率化にも重点を置く。
○ 見直しに際しては、国民の目に見える形で検討を進めるとともに、1月18 日から受付を開始する「国民の声」についても、積極的な活用を図る。
○ 6月を目処に対処方針を取りまとめる。

資料2-1 参考資料1 重要取組課題(平成21 年12 月4日規制改革会議)

◎ 下記のうち、囲い線を付したものを、特に緊急性が高い「チャレンジテーマ候補」(13 項目)として選定。(管理人注:★印)

1.医療分野
①保険外併用療養(いわゆる「混合診療」)の在り方の見直し★
②医療情報に係る改革(レセプト等の電子情報の利活用の促進と直接審査など保険者機能の強化)★
③診療看護師資格の新設
④医師国家試験受験資格の拡大

⑤公立病院の医師の兼業禁止の在り方の見直し
⑥(独)医薬品医療機器総合機構の改革
⑦再生・細胞医療の臨床環境整備
⑧一般用医薬品の郵便等販売規制の緩和
(略)

ここで注目しておきたいのが、規制改革会議で今後の重要取組課題として取り上げられたもののうちでも下記の二つです。
直接的に結びつけられて語られているわけではありませんけれども、看護師の業務範囲を拡大していく上でNP導入というのはすでに既定路線化している、さらに一歩進んでやる気のある看護師に関しては何かしら別ルートで医師免許を取得する道を用意してもいいんじゃないか、なんてシナリオが想像できませんでしょうか?

③診療看護師資格の新設
④医師国家試験受験資格の拡大

ご存知のように医師国家試験というものは非常に合格率が高くて例年ほとんど9割近くに達するという「ぬるい」試験だと言われていますが、実際人並みに気の利いた学生ならちゃんと受験勉強さえしておけば滅多に落ちることはないという状況でした。
司法試験などと違って医師国試がこういう状態だと言うのは、昔は医師のトレーニングは免許を取ってから実地に鍛えるものだという認識が一般的だったからというのもあるのでしょうが、医師国試受験の条件として「医学部を卒業していること」という一項があったことも大いに関係しているのでしょう。
要するに少なくとも建前として「医学部で六年間学ぶことを義務付けることで、受験する学生に一定の質は担保されているはずだ」という大前提があったはずなんですが、そこへバイパスルートを入れると当然前提条件が崩れてくるわけですから、これは当然医師国試と言うものもきちんと医師としての能力、資質を問う試験へと変えていかなければ質が担保できないということになりそうじゃないですか?

そう考えてみると、今の学生は地域枠だ、定員拡大だと入学時点でこそずいぶんと優遇されていますけれども、なんだ卒業する時のハードルはむしろ今まで以上に高くなるんじゃないか?なんて想像も成り立つわけなんですよね(苦笑)。
しかしこの点、昔から言われているように医師国試には採点基準も合否ラインも公表されていないけれども、毎年の試験の難易度はその都度違っているのに合格者数はほとんど一定に保たれている以上、何よりも数で足切りしてんじゃないかと噂されていた話とも通じるところがあると思うのですけれどもね。
厚労省が今後も同じように国試のさじ加減で医者の数を一定でコントロールしていくつもりがあるのであれば、大々的に医学部定員を拡大したり現場からの別ルート受験者を受け入れるようになったところで、結局のところさして医者免許合格者の数は変わらないんじゃないかという想像も出来るかも知れません。

まあしかし、数多い中からきちんと成績優秀者をセレクションして合格させるという機能がきちんと働くようになるということであれば、結果として新卒医師のレベルアップに繋がり国民にとっては万々歳ではないかという考え方もあるかと思いますが、そのあたりは医師数増によるアクセスの容易化とクオリティー維持という相反する要素をどうバランスさせていくかという話なんでしょうね。
すでに歯科医師試験や司法試験では合格者数を急増させたばかりに様々な問題が噴出しているなんて話を聴くと、足りないからと迂闊なことをしてしまうとこれまた大変なことになってしまう危惧もありますが、その点で今年の医師国試の難易度や合否判定のさじ加減などにも注目しておいた方が良いのかも知れません。

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コメント

思うんですけど、患者が看護師の医療範囲を広げるのに賛成だと言うのは
医師には敷居が高過ぎて言えない事も看護師には軽く言えるって思ってるからじゃ
ないでしょうか?
要するに看護師を信頼をしてるのもあるでしょうが、一方で看護師を軽んじて
甘く見てるんじゃないかと思えますね。
きつい事を言われても医師には反論できないけど看護師には出来るとか?
看護師は女性が多いですからね。高圧的な男性患者とかの対策も必要だと思いますよ。NP制度作るなら。

投稿: 通りすがり | 2010年1月14日 (木) 10時26分

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