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2010年1月 5日 (火)

海外医療事情 東アジアから

しかしアメリカの新医療保険絡みの議論などを見ていても思いますが、相対的に見て日本の医療制度は質とコスト、アクセスの容易さが高いレベルで保たれているにしても、さすがに今現在すぐに他国でそのままを導入せよと言うには色々と難しいところがあるのも確かですよね。
すでにある程度出来上がってしまっている欧米先進国の医療制度はしばしばあちこちで取り上げられていますけれども、比較的取り上げられることが少ないのが近場のアジアの医療事情で、そのなかから最近面白いなと思ったニュースを今日は二つばかり紹介してみます。
まずはこちら、中国人からみた日本の病院事情ということなんですけれども、逆に向こうの医療事情というものが垣間見える話ですよね。

【中国ブログ】日本の病院、スタッフみんな「模範労働者」?(2009年12月23日サーチナ)

  来日間もなく日本での診療を余儀なくされた中国人にとって、日本の医療機関におけるスタッフのサービスは「至れり尽くせり」だととらえられることが多い。日本在住の中国人ブロガー、房麗燕さんもこのほど、自身がかつて医療通訳を務めた際の、病院側の「サービスのよさ」について触れている。

  房麗燕さんは、日本では中国とは違い、医師が患者に対して、患者の病状や対処法を説明する義務があると紹介、専門用語も分かりやすく説明してくれると伝えた。また、自身が医療通訳を受け持った際、医師らは来日間もない中国人の患者に対し、専門用語をオンラインの翻訳機にかけるなどして、病状や治療法を何とか伝えようと努力していたと紹介、その懸命な姿に「語句自体はトンチンカンなものもあったが、伝えようとする患者への心配りに目頭が熱くなった」と振り返っている。

  房麗燕さんはまた、看護師らをはじめとする医療スタッフの働きを「一人ひとりが模範労働者のようだ」とも評し、清拭(せいしき)や食事の介護、排泄物の処理に至るまで、仕事と割り切っていやな顔ひとつせずこなすスタッフの姿に感動したという高齢者の、「自分の子どもでもここまでしてくれるか分からない」との“声”を紹介、日本における一般的なサービスと、その意識の高さを伝えた。

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  日本の医療現場には現在、医師をはじめとする医療スタッフらの労働条件の悪化や、医療の地域格差、医療費の負担など、医療を施す側、受ける側ともに深刻な問題が存在する。

  一方、中国では、高額な医療費が深刻だ。中国での医療費の自己負担率は、たとえ保険に入っていたとしても、日本と比べて相当に高いといわれる。

  また、貧しい農村地域では、保険料自体を支払えず、保険に加入できない層もあるといい、完全自己負担、という高額な医療費を負担できず、医療を受けられない「医療難民」の存在も問題視されている。このため、中国では、治療費の不払いなど“踏み倒し防止”を目的とした「前払い」制度を採用する病院も存在。「地獄の沙汰(さた)も金次第」を地で行くスタイルに驚く外国人は多いという。(編集担当:金田知子)

色々な人が取り上げていることに、中国では「お金を払わなければ治療は受けられない」という前払いの原則が徹底されていて、それこそ緊急時であってもまずは支払いが優先されるのだと言う話は聞くところです。
このあたりは実際問題として保険にも入っておらず支払能力がない人も多いという現実がありますから、病院の方でも倒産したくなければきちんと取り立てをしなければ立ち行かないという事情もあるのだと思いますが、そうした点は実のところ日本でも人事ではありません。
特に公立病院などですと従来未払金の取り立てにもあまり熱心でないという歴史的経緯があり、近年では「あそこに行けばタダでみてもらえるコンビニ病院」などと一部に好評を博している施設もあるやに側聞しますが、すでに半数が赤字と言う日本の病院に未払者を抱え込めるほどの余裕などどこにもないはずなんですよね。

一昔前から病院ごと、地域ごとに様々なブラックリストの存在が噂されていますけれども、以前であれば薬物中毒者などが中心であったものが常習的未払い者もリストアップされるようになってきているとかいないとか。
もちろん意図的に支払い拒否ということになればこれはこれで問題ですけれども、例えば急病を患った時にちょうど手元に持ち合わせがないといったようなことは誰にでもあるわけですから、夜間救急などの保証金支払いが高騰するだとか、支払い能力が確認出来ない患者は公立病院に転送するといったことが多くなってくると結局困るのは善良なその他大勢の善良な人々であったということになりかねません。
最近では失業者の増加ともあわせて無保険者の救済ということが日本でも言われるようになりましたが、このあたりの金銭的保証というものをある程度公的に担保しておくと一部患者層の救急受入などもずいぶんとスムーズに運ぶようになるんじゃないかとも思うのですが、一頃騒がれた無保険児童の救済措置などとセットで是非とも恒常的対策として考えていただいきたいものです。

さて、こちらお隣韓国ではまた少し変わった話題が出ているようですけれども、これも決して人事だとは思えないような話ですね。

「皮・眼・整でなければ…」浪人するインターン/韓国(2009年12月23日東亜日報)

志望していない科に進むぐらいなら、もう1年準備したほうがましだと思った」。彼は、検診センターや療養病院など一般医として働き、来年、再受験する計画だ。「一般医の給料は500万ウォン台で悪くないけれど、しばらく臨時職で仕事をしなければならない不安はあります。それでも、三浪する友人もいるので…」。

公衆保険医として勤務する金某氏(27)は、早くも浪人を決めた。「08年のレジデント募集で整形外科を志望したけれど、落ちました。悩んだ末、修了予定のインターン課程を途中で辞め、軍隊に入りました」。インターンの成績や筆記試験、面接などでレジデント審査が行われるが、落ちたため、インターンの成績を上げようと判断したのだ。彼は、落ちた同期男性の半分以上は自分のようにインターン修了を辞め、軍隊に入ったと説明した。「もちろん、除隊後、また大変なインターン生活が待っていると考えただけで呆然とするけれど、インターンの成績を確実に上げ、整形外科に進みたいです」。

12月2日に締め切られた2010年度レジデント前期募集で、85人の定員の皮膚科に134人、95人定員の整形外科に130人が志望するなど、相対的に楽で収入が多い「皮眼整(皮膚科、眼科、整形外科)」が依然として人気だ。一方、外科は305人の募集に対し、145人だけだった。収入が多い専攻への「なだれ現象」が厳然と存在する中、人気の専攻を選択しようとし、浪人する医師も増えている。定員割れの専攻の追加募集に応じるよりも、人気の専攻に再挑戦することが良いと判断しているのだ。今回の募集で、146人定員に対し270人が志望し、最高倍率(184%)を記録するなど新たに人気を集めている精神科に志望したあるインターンは、「以前は、事前に科長に相談し承認を受けたり、別の専攻を狙ったけれど、今は成績が届かなくても人気専攻に志望し、落ちても再挑戦する人が大半です」と話した。

インターンを控えた医大生や専門医も、「浪人する医師」が多い現実に共感している。胸部外科医師を夢見ていた医学生も、病院で実際に医療点数や劣悪な勤務環境を経験すれば、心が変わらざるを得ないということだ。また、給料を考えず、研修を終えた後も大学病院で教授として残らない限り、専攻を生かすことが難しい外科の不確かさが、「浪人」を煽いでいるということだ。

大韓専門医協議会の朴チヨン事務局長は、「過去に人気の科がなかったわけではないが、ここ数年間、『皮眼整』へのなだれ現象がひどくなり、浪人する人が増えている。今年、政府の支援で、胸部外科など不人気の科でも多くの『ニンジン』を提示した。果たしてこれらの科が追加募集をした時に、どれだけ多くの医師が心を変えるかは未知数だ」と話した。

日本でも診療科毎の定員を制限せよだとか、医者が来ない地方には国が強制的に派遣せよだとか色々と言う人がいますけれども、その結果何が起こるのかというひとつの未来絵図がこちらなんだろうと思います。
それは志望してもいないところであっても妥協して働くという人も一定数はいるでしょうけれども、果たしてそういう人が患者のために自らの知識と技量を日々高め精進しようなどといった「志の高い医者」になるものだろうかという素朴な疑問はありますよね。
しょせんは食っていくために仕方がなく我慢しているだけなんだから、適当に最低限の仕事だけをこなして手を抜けるだけ抜いた方が楽だという考えに一度染まってしまうと、医者と言う仕事はこれがまた非常に裁量の余地が大きなもので、何しろ全ての医療行為は医者が指示を出さない限り始まらないわけですから幾らでも手抜きは出来るわけですよね。

公立病院と言えば事務職の働かなさぶりはよくネタに取り上げられますけれども、他方で公立病院一筋何十年という「大先生」が外来は予約のみでせいぜい日に数人、入院は全部若い人に丸投げで毎日医局で新聞を読んで時間を潰しているなんて光景が時々あります。
あれが院内全ての医者に蔓延してしまった光景と言うものを想像するだけでもなかなか楽しいものがありますが、「こんな病院辞めてやる!」なんて言う奴はむしろまだ元気いっぱいな方で、士気が低下するとは結局そういうことなんだろうと思いますね。
医者と言うのは基本的にマゾ属性の人間が多いなんてことを言う人間もいますけれども、確かにうまいことおだてて使いこなせばこれほど辛抱強く勝手に働いてくれる人種もいない反面、うっかり「俺ってもしかして不当に虐待されてる?」なんて世の不条理(笑)に目覚めてしまうと幾らでも戦う手段を思いつく程度の知恵は持っているわけで、実際近頃では「公立病院マターリ穀潰しコース」なんてものを狙ってかかる人もいるとかいないとか。

余談はそれとして、アジア諸国などはまだまだ公的医療制度自体がまともに機能していないとか、逆にオイルダラーで医療費全て無料なんてちょっと他国では参考にし難いようなシステムであったりとか、なかなか参考にするのに良いモデルケースになりそうな国が限られてきます。
そんな中で比較的日本と近いシステムを組み上げた韓国などは割合見ていて学ぶところが多いなと思っているのですけれども、そう言えばマスコミなどから欧米の医療は素晴らしい!なんてことを言う声は聞こえても、医療界からどこの国のシステムを参考にこんな風に改善しようなんて声が上がることはあまりないように思いますね。
日本の医療はともかく日本の医療システムが改善の余地がないほど万全であるとは到底思えないのですが、そのあたりは長年の各方面の折衝から組み上げられたなどという日本的事情からにわかに動かし難いものとなっているのだとすれば、せっかく政権交代もしたのですから思い切った制度改革を行っていくチャンスではあると思うのですけれどもね。

例えば医療の経営面だけを見ても漠然と診療報酬が低いなんて話ばかりが話題に上りますが、無保険者の増大であるとか、未払金の増加などといった話題を見ても、皆保険で取りっぱぐれないことを前提とした医療体制はそろそろ限界だと思えますし、実際現場が困っているのだから対策を考えないといけないはずです。
医療制度改革なんてことは長年念仏のように言われてきましたけれども、結局後期高齢者医療制度も潰されそうですし、医療費も相変わらず上げるでもなく下げるでもなくという状況ですし、どこがどのように改革されつつあるのかよく判らないんですけども、ここらで業界団体の方から思い切った改革案の一つでも出してみれば良いだろうにとも思います。

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