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2010年1月13日 (水)

一難去ってまた一難?!

厚生労働医系技官である木村盛世(きむら もりよ)氏と言えば以前にも新型インフルエンザに関する厚労省批判で取り上げさせていただいたことがありますが、かねてから厚労行政に関する歯に衣着せぬ批判を展開して話題になった御仁です。
その木村氏ですが、先ごろ東京女子医大での心臓手術に関わる医療事故で無罪判決が出た佐藤一樹氏についてTwitterでこんなことを書いているのですが、これは果たしてどうなんでしょうね。

#   佐藤一樹医師は無罪が確定したにもかかわらず、厚労省医療政策局医事課長のみが行政処分を行使しようとしている。自分の権限をひけらかすためとしたら職権乱用も甚だしい。http://obgy.typepad.jp/blog/2008/07/post-1341-38.html    4:56 PM Jan 10th   webで   

#   行政処分の事務を行っている医師資質向上対策室(局長伺定めの組織)は行政処分に反対しているが、医事課長のみが佐藤医師の処分に前向きというおかしな話。    5:04 PM Jan 10th   webで   

#   医事課長は文科省出向の事務官。臨床医を処分することで権限がますと考えたらしく、これに医系技官が同調する。本来医療を守るべき医系技官の幹部達が医療現場に恐怖政治を敷いている許しがたき構図である。    5:06 PM Jan 10th   webで   

#   医療崩壊に拍車をかけて喜んでいる医系技官幹部を裁くのは、国民しかいないだろう。    5:12 PM Jan 10th   webで   

#   厚労省医政局杉野医事課長は冤罪被害者である佐藤一樹医師の聴聞を強硬に推し進めようとしている。職権濫用の杉野氏こそ処分に値するだろう。    約2時間前   movatwitterで   

え?佐藤先生裁判で勝ったのにそんなこと出来るの?!と思うところなんですけれども、そこでwikipediaの「行政行為」の項目などを参考にしながらにわか勉強してみますとこの行政処分(行政行為)というもの、かなり恣意的に(あるいは、好き勝手に)やっちゃってしまえる性質のものであるようなのですね。
例えばこれが法に基づく処分ですとまず対象となる行為を犯罪であると規定する法律が存在しなければならない(当然国会での審議が必要です)、そしてそれに従って裁判所が判断をして、有罪と決まって初めて処分が行われるという非常に長ったらしい話になりますから、昨今では新種の犯罪登場に法律の方が追いつかないなんてことがしばしば言われるところですよね。
ところが行政処分というものは迅速に行われてナンボですから法律の裏付けなど必要としないわけで、wikipediaから抜き出してみますとこんなことが書いてあります。

行政行為(ぎょうせいこうい

    * 行政行為(ぎょうせいこうい)とは、日本の行政法学で用いられる概念であり、行政庁の処分(行政事件訴訟法3条2項)とほぼ同義で用いられる行政処分とも呼ばれる。
(略)
行政行為(ぎょうせいこうい)とは、行政が国民に対して働きかける行為のうちでも、合意に基づくことなく一方的に、具体的な場合において、国民の権利義務に直接的・観念的影響を与える行為である。行政行為の概念は行政主体による他の行為形式、すなわち行政指導、行政契約、行政立法、行政計画、および事実行為と対比することによって説明されることが多い。その際の定義は様々だが、上記したような「一方的(合意に基づかない)」「個別具体的」「直接的」「観念的(法的なものであって実力による強制ではないという意味)」という4つの要素を含む。まれに行政行為のことを行政処分という場合もあるが、通常「処分」とは行政事件訴訟法などの争訟法上で用いられる概念である。しかし両者はほぼ重なる概念でもある。
(略)
行政の行為の中には、公益を実現するため相手方の反対を無視してでも実施でき、その正当性がとりあえず確保されなければならないものがある。公共の安全を確保するため私人の自由な経済活動に一定の制約を課す、いわゆる規制行政はその典型例である。この種の行政の行為を正当化しつつ、法律による規律を加えようとして構想されたのが、行政行為という概念である。
(略)
行政行為における公定力とは、行政行為の効力のうちの法論理的効力である。行政行為が不当行為であっても重大かつ明白な瑕疵がなければ、権限ある国家機関(行政庁または裁判所)がこれを取り消さない限り、一応有効なものとして公定される効力のことをいう。法論理的な効力であるので実定法上にはない効力である。しかし本来、契約は違法であれば無効であるのが大原則であり(民法90条)、契約の効力に疑いを持つ当事者は、これを有効とする裁判があるまでは、その契約に従うことを強制されないはずである。

そこで、公定力を認める意味は、行政法秩序を安定させるためである。仮に一人一人の国民が行政行為の有効性を勝手に判断して行動すると、行政行為に従う者もいれば従わない者もいるということになる。これでは行政の実効性と信頼性が損なわれる。そのため行政行為の有効性は行政庁または裁判所という専門機関にその判断を委ねることとした。そしてその結果、行政行為には公定力といわれる効力を認めることになったのである。

これを言い換えれば、公定力を取消訴訟の排他的管轄(とりけしそしょうのはいたてきかんかつ)によって根拠づけ、あるいは取消訴訟の排他的管轄と同視するということである。すなわち、行政行為の法的効果を失わせるには取消という制度を用いなければならないという政策を採用したために公定力と呼ばれる効果が生じるのであって、行政行為だから公定力があるわけでないと考えられているのである。行政行為の取消は取消訴訟制度や不服申し立てを利用する争訟取消と、行政庁自らが行政行為を取消す職権取消がある(後述)。
(略)
行政行為が違法であるなど、行政行為に瑕疵があれば行政事件訴訟法による取消訴訟や行政不服審査法などの不服申立てによってそれを取消すことができる。しかしこれらの訴訟を提起したり申し立ては一定の期間内に行わなくてはならない。この期間を出訴期間というが、これを経過した後に行政行為の取消しを争訟によって争えなくなる効力を不可争力という。形式的確定力ともいう。
(略)

つまり処分の内容が明らかに違法であるとかいったものでない限り、いつどんな処分を下すかもいつまで続けるかもお上のお考え次第と言う、見ようによってはずいぶんと便利なシステムだなと思わされるものなんですね。
こうしてみますとこれが一部の人間の恣意的に運用されるということにでもなれば大変だろうなとは誰しも思うところでしょうが、実際に過去にはたびたび「勇み足」が発生してその後問題になっていることはしばしば報道などでも取り上げられるところです。
公益を守るためにとにかく迅速果断でなければならない局面があるのは当然に理解出来るところで、その結果後で間違いでしたと言うことになるリスクは仕方がないことも判りますが、当然それだけの権力を振るうわけですから何らかの厳格な指針と言うものがなければ処分される方もたまったものじゃありませんよね。

厚労省においては平成14年の医道審議会医道分科会において医師の行政処分に関する基本的方針が決まっているようですが、その骨子の部分を抜き出してみるとこんな感じになります。

医師及び歯科医師に対する行政処分の考え方について(2002年12月13日厚生労働省医政局医事課通達)より抜粋

(はじめに)
 医療は、生命の尊重と個人の尊厳の保持を旨とし、医師、歯科医師その他の医療の担い手と医療を受ける者との信頼関係に基づいて行われるものであり、医師、歯科医師その他の医療の担い手は、医療を受ける者に対し良質かつ適切な医療を行うよう努めるべき責務がある。
 また、医師、歯科医師は、医療及び保健指導を掌ることによって、公衆衛生の向上及び増進に寄与し、もって国民の健康な生活を確保することを任務としている。

 医師法第7条第2項及び歯科医師法第7条第2項に規定する行政処分については、医師、歯科医師が相対的欠格事由に該当する場合又は医師、歯科医師としての品位を損するような行為があった場合に、医道の観点からその適性等を問い、厚生労働大臣はその免許を取り消し、又は期間を定めて業務の停止を命ずるものである。

 医師、歯科医師免許の取消又は業務の停止の決定については、基本的には、その事案の重大性、医師、歯科医師として求められる倫理上の観点や国民に与える影響等に応じて個別に判断されるべきものであり、かつ、公正に行われなければならない。
 また、より公正な規範を確立する要請に基づき、一定の考え方を基本としつつ処分内容を審議することが重要である。

 このため、今後、当分科会が行政処分に関する意見を決定するにあたっては、次の「行政処分の考え方」を参考としつつ、医師、歯科医師として求められる品位や適格性、事案の重大性、国民に与える影響等を勘案して審議していくこととする。

 この「行政処分の考え方」については、行政処分における処分内容が社会情勢・通念等により変化しうるべきものであると考えるため、必要に応じて、当分科会の議論を経ながら見直しを図っていくものとする。

 なお、行政処分は、医師、歯科医師の職業倫理、医の倫理、医道の昂揚の一翼を担うものでもあり、国民の健康な生活の確保を図っていくためにも厳正なる対処が必要と考えている。

 国民の医療に対する信頼確保に資するため、刑事事件とならなかった医療過誤についても、医療を提供する体制や行為時点における医療の水準などに照らして、明白な注意義務違反が認められる場合などについては、処分の対象として取り扱うものとし、具体的な運用方法やその改善方策について、今後早急に検討を加えることとする。

(基本的考え方)

     医師、歯科医師の行政処分は、公正、公平に行われなければならないことから、処分対象となるに至った行為の事実、経緯、過ちの軽重等を正確に判断する必要がある。そのため、処分内容の決定にあたっては、司法における刑事処分の量刑や刑の執行が猶予されたか否かといった判決内容を参考にすることを基本とし、その上で、医師、歯科医師に求められる倫理に反する行為と判断される場合は、これを考慮して厳しく判断することとする。

     医師、歯科医師に求められる職業倫理に反する行為については、基本的には、以下のように考える。

    (1)     まず、医療提供上中心的な立場を担うべきことを期待される医師、歯科医師が、その業務を行うに当たって当然に負うべき義務を果たしていないことに起因する行為については、国民の医療に対する信用を失墜するものであり、厳正な対処が求められる。その義務には、応招義務や診療録に真実を記載する義務など、医師、歯科医師の職業倫理として遵守することが当然に求められている義務を含む

    (2)     次に、医師や歯科医師が、医療を提供する機会を利用したり、医師、歯科医師としての身分を利用して行った行為についても、同様の考え方から処分の対象となる。

    (3)     また、医師、歯科医師は、患者の生命・身体を直接預かる資格であることから、業務以外の場面においても、他人の生命・身体を軽んずる行為をした場合には、厳正な処分の対象となる。

    (4)     さらに、我が国において医業、歯科医業が非営利の事業と位置付けられていることにかんがみ、医業、歯科医業を行うに当たり自己の利潤を不正に追求する行為をなした場合については、厳正な処分の対象となるものである。また、医師、歯科医師の免許は、非営利原則に基づいて提供されるべき医療を担い得る者として与えられるものであることから、経済的利益を求めて不正行為が行われたときには、業務との直接の関係を有しない場合であっても、当然に処分の対象となるものである。
(略)

一応補足しておきますと、マスコミなどからさんざんカルテ書き換えを云々されていたのは執刀医の方で、佐藤先生の方はその点については問われていません。
さて、ここで注目すべきは処分の対象となるものが「医師が相対的欠格事由に該当する場合又は医師としての品位を損するような行為があった場合」という、極めて抽象的な定義をされていることではないかと思います。
どのような行為が医師としての相対的欠格事由に該当したり、品位を損するのかがはっきりしないわけですから、その気になれば「患者様とトラブルがあって医療訴訟にまでもつれ込んだ!医師として相対的欠格事由に該当する!」なんてことを言われても文句は言えないということになりかねません。

ついで注目すべきなのが「国民の医療に対する信頼確保に資するため、刑事事件とならなかった医療過誤についても、医療を提供する体制や行為時点における医療の水準などに照らして、明白な注意義務違反が認められる場合などについては、処分の対象として取り扱う」という文言です。
佐藤先生の行為にこうした明白な注意義務違反があったとは法廷でも立証できなかったところでしょうが、認める主体が誰かによってこの辺りの基準が大きくブレてくることは、たびたび問題視される一部のいわゆるトンデモ鑑定医の例などを見ても明らかですよね。
ちなみに今回の場合有罪とはならなかったにせよ刑事事件として扱われたわけですから、この辺りの処分のハードルは一段引き下げられて名分が立ちやすくなっていると見るべきなのでしょうか。

いずれにしても今のところ「そういう動きもある」という程度の話にしか過ぎないのでしょうが、厚労省の医療に対する振る舞い方と言うものを考える上でも今後の経過を注目していくべき話ではあると思います。
ちなみに医政局医事課長杉野剛氏と言えば前職が文部科学省私学行政課長だそうですから医療行政の新参ということになるのでしょうが、それだけに教育といったところには一家言なしではいられないようですね。
現職についてそう長いわけでもないのに、昨年始めには例の研修医計画配置計画絡みで「研修医はお金をもらって働いている医者なのだから医師偏在問題に貢献すべきだ」なんて素晴らしく厚労省的なコメントを出されているくらいですから、元よりお国の方針に従わない医者=ダメ医者という認識で行動されていらっしゃる可能性なきにしもあらずといったところなのでしょうか(苦笑)。
いやあ、何にしろ不謹慎ながら、これは案外大きな火種になるかも知れないなんて、少しばかり楽しみになってくるような話ではあるのですが。

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