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2010年1月15日 (金)

岩槻脳神経外科病院続報と絡めて

先日もお伝えしました岩槻脳神経外科病院の閉鎖問題ですが、皆さんの関心も高いようでたくさんのコメントをいただいております(情報を送っていただいた皆さん、本当にありがとうございます)。
当面20日までは診療を続けるということに決まったようですが、お寄せいただいた情報などを拝見しておりますと結局のところ倒産ということになりそうで、新年早々今年もまた一つ病院が消えたということになるのでしょうか。
現在も職員の方々は無給奉仕を続けられているようで、地区の医師会などと相談しながら入院患者の転院先を探しているということですが、地元紙報道などからも状況を見るとなかなか大変な騒ぎになっているようですね。

説明なく転院手続き 給与未払い、職員困惑 岩槻の病院閉鎖問題 /埼玉(2010年1月13日web埼玉)

 さいたま市岩槻区の岩槻脳神経外科病院が今月4日に突然、一時閉鎖の方針を打ち出した問題は、病院側が20日まで外来窓口を継続することでひとまず収束した。患者が放り出されるという最悪の事態は回避されたものの、病院を長年利用してきた地域住民には動揺が広がる。背景に経営難があるとみられるが、21日以降はどうなるのか。病院側から市民にはっきりした説明はなく、入院患者の転院と外来患者のほかの病院への紹介手続きが進められている。

 仕事始めの4日、同病院は混乱から始まった。外来の診療窓口が開いた直後、医師や看護師らに病院を運営する医療法人社団「双樹会」の理事長から「一時閉鎖する」と記された文書が配られた。

 話を知って駆け付けたさいたま市保健所が「患者への説明なしの休診は避けてほしい」と理事長に要望する一方、院内では製薬会社の社員が卸していた薬を回収する光景も。外来終了後、理事長と職員の話し合いは深夜まで及んだ。

 給与は昨年11月から未払いになっており、職員に病院側はこれまで「資金融資先との契約が遅れている」などと繰り返し説明していた。しかし、事情を知らされていなかった患者には青天のへきれきになり、報道で知った大勢の患者が詰め掛ける事態になった。

 7年前から狭心症などの治療で通院している自営業男性(61)は7日の朝一番に来院。「前日は2時間待たされたので、あらためて来た」とCT画像や血液検査の結果などを受け取ったが、「できれば1年分のカルテのコピーが欲しかった。自分で一から説明するのは大変だ」と困惑した。

 5年前に脳梗塞(こうそく)で入院し、今も松葉づえが手離せない無職男性(72)は「脳神経外科というのは少なく、ここはいい先生が多いのに」と残念がった。

 一昨年に経営破綻(はたん)した春日部市の順生会病院(当時)では、業務停止表明後、1週間かけて患者の転院手続きをした後、自己破産を申請している。

 「報道を見て閉鎖を知らされた。混乱を起こさないためにも患者に伝える準備をするべきだった。企業の総務を長年してきたが、こんな無責任なやり方はない」。8日に岩槻脳神経外科病院に来た伊奈町の男性(65)は批判した。

 同病院は今、初診患者や新たな検査の申し込みは断り、入院患者の転院や外来患者には、ほかの病院を紹介している。20日までの勤務分の給与が支払われる保証はないが、ある職員は「病院存続へいちるの望みを持っている。多くのスタッフも病院に愛着がある。そうでないと、ここまで頑張れるものでない」と打ち明けた。

 一人で子ども2人を育てている看護師女性(34)は「貯蓄も底を尽き、週3千円で生活している。患者への使命感だけで続けているが、もう限界。示されたのが倒産でなく“一時休診”だったので、雇用保険の関係で辞めるに辞められない人が多い。今後どうするのか、早くはっきりさせてほしい」と嘆いている。

埼玉「岩槻脳神経外科病院」運営の「双樹会」が弁護士一任(2010年1月14日不景気.com)

さいたま市岩槻区の医療法人社団「双樹会」は、自己破産申請を視野に事後処理を弁護士に一任したことが明らかになりました。

1997年に設立の同法人は、岩槻区にて「岩槻脳神経外科病院」(病床数80床)と「双樹クリニック」を運営。脳外科専門病院として、他県からの患者も診療に訪れるなど相応の知名度を有していました。

しかし、2000年の病院新設における借入金が資金繰りを逼迫。2009年には給与未払いが表面化、今年に入ると突然の休診発表など対応も慌ただしくなったことで、事業継続を断念し弁護士一任の決断に至ったようです。

帝国データバンクによると、負債総額は約30億円。なお、両院とも1月20日までは診療の継続を明らかにしています。

病院側では経営は黒字であるといっていた(いる?)ようですが、そうであればこうまで給与や薬代の支払いも滞り唐突な閉鎖をする理由もないということになるわけで、現実的に負債総額30億という数字が表に出た以上は、職員の皆さん方もきちんと権利は主張していかなければ大変な事になりかねませんね(病院だけに給与がわりの現物支給ってのもなさそうですし)。
一方で今や病院の半数が赤字とも言われる時代で倒産件数も過去最多を絶賛更新中、そして民主党政権となって期待された診療報酬面でも実質的に大した変化はなかったということになれば、今後もこうした事例は幾らでも出てきておかしくないという話です。
病院と言うと不景気にも強くかつては銀行側も結構気安く融資をしてくれるなんて時代もあったようですけれども、これからは経営者も病院の潰し方というものをもう少し予習してもらう必要があるということになるのでしょうか。

今回に関しては関係者一同場慣れ?していないということもあってかなりゴタゴタが続きそうな気配ですが、患者側の視点に立ってみると長年通った身近な病院が突然なくなるという自体は、今後も増えこそすれ減ることはないだろうということは覚悟しておかなければならないですよね。
病院側の相変わらずの経営難、人材不足もさることながら、そもそも医療行政の元締めである厚労省が地方の中小病院は潰して医療リソースを集約するということを長年の悲願に掲げているわけですから、言ってみれば現状は「勝手に潰れてくれる分にはウェルカム」だとも言えるかも知れません。
もちろん医療の効率ということを考えると資源を集中した方がお得であるという声は一定の説得力を持つわけですが、問題は集約化した先がきちんと機能しているという大前提がなければ単に地域医療の荒廃だけで終わってしまうわけですから、果たして厚労省の計算通りに医療リソース集約化が進むのかどうかが最も気がかりですよね。
この方面で実感とも合う話ですけれども、少しばかり気になるニュースが先日出ていましたので、こちらに紹介しておきましょう。

がん拠点病院の半数「手術待ち延びた」 (2010年1月12日中日新聞)

 日本人に多いとされる胃と肺、乳がんについて、診断確定から手術までの「手術待ち期間」に変化がないかを、中部地方のがん拠点病院に本紙がアンケートしたところ、ほぼ半数が3つのがんのいずれかで、最近5年間に「延びたと感じている」ことが分かった。現在の手術待ち期間は最長で「3カ月」との回答もあった。病院側は拠点病院への患者集中や外科医、麻酔科医不足を主な理由に挙げている。

 アンケートでは2009年の手術待ち期間は05年と比べてどう感じるかを「延びた」「変わらない」「短縮された」の3択などで聞いた。

 3つのがんで1つでも「延びた」と答えたのは、回答のあった63病院のうち32、51%に上った。がん別にみると、肺がんでは35%、乳がんは34%、胃がんは31%が「延びた」と答え、いずれも3割を超えた。

 がんの進行度にもよるが、医学界では一般的に1カ月未満が望ましいとされる手術待ち期間は、肺がんでは1カ月以上の回答が4割を占めた。岐阜県のある病院は「2~3カ月」と答えたほか、「2カ月」「1・5~2カ月」「1・5カ月」とした病院が、それぞれ1病院ずつあった。

 1カ月以上の回答は、乳がんでは45%、胃がんでは37%を占め、どちらも最長は2カ月だった。

 ほとんどの病院は「がんの進行度によって優先順を調整しており、患者が危険になった例はない」と答えたが、中には「手術時にがんの進行を感じた」(静岡県の病院)や「腫瘍(しゅよう)が増大した」(愛知県の病院)との回答もあった。

 延びた理由は、32病院のうち72%が患者の大病院志向や、中小病院の手術数減少による患者増を挙げた。外科医不足の影響は53%が指摘。麻酔科医不足などによる手術室稼働時間の減少も5割が挙げ、手術室が空いている他院に出張して執刀したり、午後5時以降に手術を組んでいる所もあった。

 愛知県がんセンターの二村雄次総長は「基本的には告知から手術まで1カ月以内が理想で、2カ月も待たされたら患者は地獄だろう。しかし、がん拠点病院には患者が集中し、激務で勤務医がどんどん辞めていっているのが共通の悩みだ」と話している。

 【調査の方法】 昨年11月20日~12月末、中部9県(愛知、岐阜、三重、長野、福井、滋賀、静岡、石川、富山)にある全67のがん診療連携拠点病院に調査。書面を基に面会や電話で聞き取りした。手術待ち期間は、担当医らの現場感覚で答えてもらった。

非常に主観的な調査で学術的なデータとしては多少アレではありますけれども、おそらく多くの拠点病院勤務医が感じている実感ともよく合う話なんじゃないかと思います。
これはかねて懸念するところですけれども、厚労省の病院集約化計画の一番のネックが何かと言えば医者を単なる数字の上でしか考えておらず、それぞれの医者の個性を無視して話を組み立てているところにあるんじゃないかと言う気がするんですよね。
ナショナルセンターと地方の基幹病院、田舎町の二次急レベルの総合病院と、同じ診療科名を掲げていてもそれぞれにやっている内容は異なるし、同じ個人の開業医と言っても大病院のサテライトで専門外来をしている先生と、地域密着でプライマリケアをしている先生とでは全く仕事が違うわけで、そこで働いている医者も同じ専門を名乗っていても全く違うキャラクターを持っているわけです。

昔なら多少合わない仕事でも医局派遣でいずれ動くことを前提に無理をしてやっていたものが、今は無理をしたところで何のメリットもないという時代になった、そもそも無理をしても長く務まるほど甘い業界ではなくなっているわけですから、そうなると医者が自分の体力ややりたい仕事の方向性と相談しながら腰の落ち着け先を探していくのが当たり前になってきます。
同じ料理人と言っても静かな厨房で他人に邪魔されず思い通りの料理を作りたいという人間もあれば、カウンター越しに客の顔を眺めながら腕を振るうのが好きだと言う人間もいるのと同じで、これを同じ料理だからと互いの職場を入れ替えてみたり、合併して業種転換したから明日から二人でハンバーガーを作ってくれと言われても、よほど他に行き場がない人間ででもなければ残ってはくれないだろうと誰でも思うじゃないですか。
それぞれの病院の状況に応じてそれに適合している人材が集まってやっと廻っている仕事場を、病院を統合するから今度はこっちの病院に合わせた仕事をしてくれと言われてどれくらいの人間がついていくかと言えば、「それならもう辞めさせてもらいます」と去っていく人間が多いのも道理で、そうなると果たして厚労省の思うように人材の集約化が進むかどうかは大いに疑問の余地なしとしません。
最悪の場合近くの病院は潰れた、紹介された基幹病院では幾ら待っても診察の順番が回ってこないなんて状況にもなりかねませんけれども、そうなった場合に得をするのは統合新病院建設で一儲けできる人たちだけだった、なんてことにもなりかねませんよね。

そこで世間の人が抱くだろう素朴な疑問は「そんなにあちらからもこちらからも逃げ出して、それじゃ医者はどこで働くつもりなんだ」と言うことなんじゃないかと思いますけれども、考えても見てください、あまりの激務に医者が逃げ出すほどに幾らでも仕事自体はあるのですから、ほどほどに無理をしない範囲でワークシェアリングをしていても十分皆が勤労意欲を満足して働ける理屈ですよね。
マスコミ曰く医者への報酬(笑)であるところの診療報酬のうち実際の医者の取り分は一割程度だと言いますから、病院にとって医者への報酬を多少増やしたところで知れていますが、医者が一人増えればその分確実に総収入は増えて行くわけですから、実のところ医者を酷使するより厚遇して無理のない範囲で働かせた方が病院にとっても経営改善にお得だという計算が成り立つわけです。
加えて中堅以上の先生方は同級生を見回してみると思いのほかドロップアウトしていたり、臨床医以外の稼業をやっている人が多くなっているんじゃないかと思いますけれども、別に医師免許を持っているから現場で医者働きをしなければいけないというルールはないわけで、結構医者もつぶしが効くものだなと実感しつつある方々が最近増えてるんじゃないかと思います。
そういう時代に勤務先を潰せば残った病院に集まらざるをえないだろうなんて甘い予測を立てて行動しているのだとしたら、厚労省もとんだ赤っ恥をかくことになる可能性が高いんじゃないかと思うんですが、もちろんその望まざる結果を引き受けるのは厚労省ではなく国民であるというのも、これまたいつものお約束ではありますよね。

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コメント

病院新設における借入金が重荷になったということは、初期投資が過大だったということですかね?医療機器が高過ぎるんでしょうか?ボッタクリ?

投稿: ponpon | 2010年1月15日 (金) 21時56分

内外価格差は言われますから高いのも確かでしょうが、過大投資とも一概に言い切れない気もしますけれどもね。
たとえば高価なMRIを入れることが過大投資かと言えば、脳外科を名乗る以上t-PAなど使うにはやはり今どきMRIもおかないわけにはいかないでしょう。
産科の30分ルールなどもそうですが、コストやリソースを考えない医療というものを追求してきた結果業界が自縛(自爆?)状態に陥っているようにも感じられます。

投稿: | 2010年1月16日 (土) 09時33分

岩槻脳神経外科病院:入院患者、全員退院 外来診療31日まで /埼玉
http://megalodon.jp/2010-0120-1300-22/mainichi.jp/area/saitama/news/20100120ddlk11040290000c.html

 さいたま市岩槻区の岩槻脳神経外科病院が経営悪化で一時休診を打ち出した問題で、病院を経営する医療法人社団双樹会は
19日、4日時点で37人いた入院患者全員が、医師会や周辺病院の協力で16日までに転院か退院したことを明らかにした。
 未定だった21日以降の外来診療は、脳外科医が31日までの午前9時~午後5時に継続する。検査やリハビリは行わない。
双樹会が同区内で経営する双樹クリニックは20日で診療を終え、21日以降のかかりつけ患者への対応は岩槻脳神経外科病院で行う。
2月1日以降は未定としている。【稲田佳代】

投稿: | 2010年1月21日 (木) 09時01分

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