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2010年1月20日 (水)

何事も使いようでうまくいくようになるかも、です

これは非常に自戒を込めてという話ですけれども、人間色々な面で余裕がなくなってくると理屈の上では理解できてもなかなか行動が追いついてこないということになりがちです。
とりわけ平素から様々なしがらみがあったりすると、本来は知性もあり理性的な判断力も持つ人であってもなかなか感情を理性に優先させることが難しくなるものですが、結局は自分が損をしているのに…と周囲からは見えてしまうこともままあるものですよね。
特に医療業界は昨今色々な意味で殺伐としているところがありますから、そのあたりの気持ちの持ちようにもう少し余裕が持てるようになれば、何かと改善出来る部分も多々あるんじゃないかと言う気がしているところです。

そうした余談はともかくとして、本日まずはこちらの記事から紹介してみましょう。

助産師外来認識深めて 産科医不足、和歌山でシンポ(2010年1月17日読売新聞)

 産科医不足時代の助産師の役割についてのシンポジウム「より豊かなマタニティライフを目指して~和歌山での助産師外来、院内助産所の可能性を考える~」が16日、和歌山市吹上5の市保健所で開かれた。医療関係者や市民ら約60人が参加、意見交換した。

 地域の産科医と医療機関の分娩(ぶんべん)施設の不足が深刻となるなか、助産師が可能な範囲で、妊婦への健診や指導の役割を果たす「助産師外来」を積極的に取り入れることで、周産期医療の充実を探ろうと、同保健所などが企画した。

 日赤和歌山医療センターと和歌山労災病院の助産師が、それぞれの院内助産所の現状を紹介。その後、和歌山市の長野真理子さん(29)が、助産師外来を活用して出産した経験を語った。長野さんは「第一子だったので、妊娠生活を全く知らず、ささいな助言でも参考になった。一対一でじっくり話をきいてもらえて安心できた」とメリットを強調。「看護師と助産師の違いがよく分からなかった」と、妊婦の立場から、率直な疑問も述べた。

 また、同医療センター産婦人科部の中村光作副部長は、助産師外来はまだ一般に知られておらず、医師が積極的に薦めない傾向もあるため、受診率が低いと指摘。「リスクの低い妊婦は、一度は助産師外来を受けてもらう、という態勢を整えてもいいのでは」と提案した。県看護協会助産師職能委員会の芝佳子委員長らは、医師の理解や実践研修の必要性などを訴えた。

 最後に質疑応答があり、会場からは「リスクの低い妊婦でも、急に容体が変化することもある。そういった危険性も考慮すべきではないか」「助産師と医師が共通の認識を持って勉強していくことが大事なのでは」といった声が上がった。

今や産科医が絶滅危惧種とも言われるほど深刻な不足に陥っていることは次第に知られるようになってきましたが、この状況に産科医のかわりに助産師を活用することを考えてみてはどうかという意見は世間的に一定の支持を得ているところのようです。
ところが一方で記事中にもありますように「医師が積極的に薦めない傾向」があるというのは、やはり同じ妊婦を相手にする商売であっても、しばしば産科医と助産師では(特に一部の「自然派」助産所などでは顕著ですが)みているものも行動原理も異なるということもネックになっているのではないかという気がしますね。
このあたりは少なくとも過去何十年という単位で全く違う教育課程を経て、異なる独自の体系の元にやってきた両業界の埋めがたい溝と言うものはあるのでしょうが、実のところ外から見ている人たちにはそうした差異がさほど理解されているようにも見えません。

一応助産師は正常分娩のみを扱うというのが法的ルールですが、正常分娩か異常分娩かというのは無事にお産が終わってはじめて判ることですから、助産所でお産を扱う限り産科医の目が届かないところで助産師が異常分娩を扱う可能性は決して零にはなりません。
そうなりますとなにかあった場合の責任の所在がどこにあるのかということが問題ですが、一昔前のお産は命がけという認識が一般的だった時代ならともかく、今の訴訟社会で他人の招いた面倒事まで引き受けられるほど今の産科医に余裕がないという言い方も出来るわけですね。
たとえば病院勤務でない開業の助産師による助産所出産のリスクに関しては過去にも取り上げてきたところですが、やはりそれなりのハイリスクであるということはデータとして出ているわけですから、この利用を拡大することに関してはあくまで妊婦側のリスクに対する理解と承諾が大前提となるのではないかという意見もあります。

その一方で産科医と緊密に連絡を取り合いながら助産師を積極的に活用していくといったことも業務分担ということから考えられるはずですが、実際に各地の産科を擁する病院では今まさにそうした医師と助産師との連携が図られているところが出てきています。
特に病院勤務の助産師というものは普段は看護師として勤務している場合も多いですから医師としても気心も知れていますし(これが何かあった時に非常に重要な要素です)、当然こうした医療資源を有効活用できれば産科医の負担を軽減出来る、あるいはその役割を補完出来るという可能性が出てきます。
この一例として数年前に産科医のお産取り扱いを停止していながら、最近流行りの院内助産所開設によってお産取り扱いを復活しようとしているこちら桑名市民病院の取り組みを紹介してみましょう。

桑名市民病院,今春にも「院内助産所」と「助産師外来」開設へ(2010年1月14日読売新聞)

 医師不足から現在、分娩(ぶんべん)を行っていない桑名市民病院(桑名市北別所)は、赤ちゃんを取り上げることができる病院にしようと、助産師が出産を扱う「院内助産所」と「助産師外来」を開設する準備を始めた。院内助産所は全国的にも開設している病院は少なく、医師のバックアップ体制も整えて、安心して子どもを産める病院を目指す。

 同病院は、診療科として産婦人科を設けているが、産婦人科医の不足で2005年3月から分娩を取りやめている。市民生活を支える役割を果たす必要があるとして、再開を目指すことにした。

 院内助産所は、助産師が病院内の施設で通常の出産ができる妊婦の介助を行う。緊急時には医師が対応し、安全に出産できる体制を整える。

 助産師外来は、医師と助産師が協力して妊婦健診や保健指導、産後の育児、授乳相談を行い、妊産婦の不安を解消し、自然な出産を支援する。

 同病院によると、全国でも院内助産所の開設例は少なく、県内では設置されていない。今年4月からの開設に向け、産婦人科医や助産師を募っている。しばらく使用していなかった分娩室などがある産婦人科病棟も改修する。

 同病院の水野雄二事務局長は「市民病院でお産ができない状態が続くのはよくない。安心して出産できる病院にしていきたい」と話している。

これを見て「結局なにかあったら医者が呼ばれるのであれば、結局産科が復活したのと同じことなのではないか?」と考えられる方もいるかと思いますが、なかなか時代に即したうまい落とし所を見つけてきたなという印象を受けているところです。
外に向かってはあくまで当院では産科はやっていません、ただし院内助産所がありますからそちらでよろしければお産は出来ますという形で、それに同意した顧客のみ扱うということであらかじめ顧客側の期待値を切り下げることに成功しているわけですよね。
そして実際の分娩においては通常分娩であれば助産師任せで産科医は見ているだけということも多いわけですから、助産所レベルではなく産科レベルに近い質を確保できる、無論同じ院内に普段顔を突き合わせている医者がいるわけですから、何かあった時には助産師も無理に引っ張らずに早期の相談、引継ぎをしてくるだろうということも期待できるわけです。
緊急時に医師が対応云々を院内に限定せず場合によっては他院に搬送するといったことも加えておくならば、産科医が了解可能な勤務条件も整えやすいでしょうから、案外これはうまくいくかも知れないシステムではないかという気がしてきます。

もちろんこうした院内助産師の活用が非常に重要なのは当の産科医も異論がないところだと思いますけれども、社会的、あるいは医学的に問題になってくるのはむしろ病院と直接のつながりのない開業の助産師の方ではないかという気がします。
ご存知のように2007年4月の医療法改正で助産所の嘱託医が産科医に限られることになった(まあ当然の話ではありますが)と同時に、新たに救急対応可能な連携医療機関を定めることも義務付けられたわけですが、その際には当然ながら産科医側から嘱託を引き受ける条件を提示され助産所側が「厳しすぎる!」と大騒ぎになったという騒動がありました。
面白いのは全国産科医にこの嘱託医契約のモデル案を示した日本産婦人科医会の文書には「嘱託医契約は個人の立場で行われるものであり、本会が強制するものではありません。従いまして、本契約の締結に当たっては、先生のQOLを十分考慮されまして対応いただければと思います。」なんて文言が盛り込まれているところだと思いますが、要するに本音の部分では引き受けたくなかったわけですよね。

それは産科医側にすれば「分娩費用は助産所に入り、訴訟の賠償金は産科医負担で」となれば嘱託に何一つメリットがないと考えるのもある意味当然かと思いますが、もちろん助産所の側にも言うべき主張があり、それなりの立場があるのは当然です。
最終的には有床助産所は全部嘱託医を見つけられたと言うことではあるのですけれども、このあたりに懲りたと言うことなのか、最近では助産師の方々もまた新たな生き残りの方策を検討しているようではあるのですね。
ところがこれを見てみますと、またうまいところに道を見つけ出してきたなという感じの内容になっているようです。

産褥期母子:フォローを 医師不足などで早期退院も--助産師ら研修会 /東京(2010年1月18日毎日新聞)

 産科医不足や分娩(ぶんべん)施設の減少などを背景に、分娩後に従来より早く退院する例が出ているとして、助産師が産後6~8週間の産褥(さんじょく)期の母子をフォローしていこうと、台東区鳥越の日本助産師会館で、「産褥早期退院母子のフォローアップスキルを磨く!」という研修会が開かれた。【田村彰子】

 今年度の厚生労働省の補助事業「次世代育成支援政策における産後育児支援体制の評価に関する研究」の研究グループが開いた。

 同省が昨年11月に公表した調査結果では、08年時点で全国で分娩を扱っている施設は2567カ所。05年から3年間で1割以上にあたる366カ所も減少した。

 日本助産師会の加藤尚美会長ら今回の研究グループによると、分娩後の入院期間は、5~7日が一般的とされてきたが、最近では2~3日目の早期退院を実施する病院も出始めたという。

 また、研究グループは、08年6月~09年2月に複数の産婦人科病院で聞き取り調査も実施。その結果、▽早期退院者と一般的な退院者の不安に差はない▽早期退院者は、専門家の訪問を受けることで諸問題を解決できる▽海外では早期退院を実施し、支援体制も整備されている--などと分析・指摘している。

 この日の研修会では、早期退院を実施している神奈川県立汐見台病院(横浜市)の助産師や、産褥早期の訪問活動を実施する助産師らが出席。「産後にも助産師の役割はたくさんある」などと体験を語った。

 研修会は、大阪でも来月開催する予定。加藤会長は「特に産褥期は、病院での一律のケアではなく、個別のケアが必要、99%が施設で分娩をする時代に助産師が対応し、産後ケアに力を入れていければ」と語った。〔都内版〕

なんだかんだと言っても分娩前のリスクというものは一定あるわけですから、やはり産科医側としてもここの部分を目の届かない助産所の助産師任せにしてしまうことには不安が残る、しかしその一方で産科医が業務量過多であっぷあっぷしているのも事実となれば、どこかで業務を割り振っていく道を探した方が全体としての安全性向上に寄与するだろうとは想像できますよね。
この点でお産が済んだ後のフォローアップを助産師が行うというのは、様々なリスクを低く抑えながら産科医の負担を減らすひとつのアイデアかとも思いますが、このあたりで身近な助産所が助力出来ることがあるというのであれば産科医と助産師、そして妊婦も含めたwin-win関係を構築する足がかりになりそうにも思えます。
ネットなどでは一部に「また楽しておいしいところだけ持っていくつもりか!」なんて感情的な意見もあるようですけれども、実際最もお金がかかるのはお産部分そのものなのですから、例えば心配だからもう少し入院をしたいといった顧客を満床なので助産所に移ってもらうといった使い方であれば、それぞれに妥当な報酬をいただいた上での棲み分けは出来そうに思うのですけれどもね。

何よりも質が厳しく問われる今の時代、医療側からは質の面で何かと言われることの多い助産所という存在ですけれども、やはり一定のリソースとしてそこに存在している以上はうまいこと使っていく方策を模索していくことで、結局産科医自身も過労による質の低下から逃れられるというメリットはあるわけです。
もちろん助産所も21世紀にふさわしいレベルへと質を高めていく必要があるのはもちろんだろうし、産科医の側も妥協と言えば言葉は悪いですが、純然たる医学的水準の向上ばかりでなく社会的要請といったものにも思いを致していくべき時代なのではないかという気がしますね。

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