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2010年1月27日 (水)

地方公立病院は本当に終わっているのか? 改革の成功例に学ぶには

昨日取り上げました静岡の榛原総合病院などは公立病院の民営化という試みですけれども、公益性の高い医療に関しても既存の民間病院に公立病院の肩代わりをしてもらうという試みが2008年に始まった「社会医療法人」というものです。
休日夜間の救急診療や僻地・離島診療など採算性の厳しい医療分野に関して、公立病院に準じた役割を担う民間病院に対して色々と優遇措置を与えますというシステムですが、民間資本による効率的経営によって不採算分野の採算性自体も改善してもらうことを期待するという、これはある意味で非常に虫のいい制度でもあるわけですね。
当然ながらそんな夢物語に付き合わされる民間病院もそうそういないということなのでしょう、制度自体はさっぱり普及していない様子なのはある意味当然なんですけれども、話をよくよく聞いてみればこれは制度設計自体があまりに虫が良すぎて、とにかく「国は絶対損をしない」ということを前提に設計しているんじゃないかとも思えてくるところです。

社会医療法人認定進まず 制度発足から2年「壁」高く(2010年1月23日産経新聞)

 都道府県の医療計画に基づいて救急、周産期など医療の重要な役割を担う「社会医療法人」の制度が始まって間もなく2年になる。民間病院に公立病院と同等の役割を受け持ってもらうため、法人にはさまざまな優遇措置が適用されるが、認定のハードルは高く、これまでに全国で約70法人が認定されたにすぎない。一方、全国の救急搬送の6割は民間病院が受け入れているが、経営的に厳しい病院が少なくなく、社会医療法人制度のあり方は、今後の医療体制に大きな影響を与える可能性がある。

 社会医療法人は平成18年の医療法改正により、公益性の高い民間医療法人を認定するため創設され、20年度に制度がスタート。これまでに約70法人が認定されている。

 都道府県が認定する。地域医療と救急医療で中心的な役割を担ってもらう狙いがあり、認定には、経営の透明化のため同族経営を排除。また、救急や災害、周産期医療に高い実績があることが要件とされる。その代わり一般の医療法人よりも法人税が軽減されるほか、今年度の税制改正で、救急医療に関する施設の固定資産税が非課税にされた。

 ただ、課題や問題点はある。認定法人と認定を目指す医療法人約200団体でつくる社会医療法人協議会は、国会議員への要望のなかで認定のハードルが高すぎると主張。例えば救急実績では、夜間・休日の受け入れが年間750件以上とされているが、地方の中小医療機関にとって、認定の要件をクリアするのはほぼ無理とみている。

 さらに、認定後に要件を欠くことになると、減免されていた税金を一括納税しなければならない規定もある。実際に認定取り消し例はないが、これがネックで認定申請に二の足を踏む法人が少なくない。

 都道府県別の認定数は大阪府が11法人で全国トップ。背景には認定のベースとなる救急医療の実績があげられる。

 19年度の府内の救急搬送のうち、77%は民間病院が受け入れた。大阪市内に限れば9割近い。このため、救急医療の要件をクリアして社会医療法人となる民間病院が相次いだ。全国的にみても救急搬送受け入れ先の57%が民間病院だった。

 一方、近年の医師不足で2次救急指定を辞退する病院が増加。特に大阪市内では、ここ5年で14%減少し、その大半が民間病院という。病院関係者によると、300床クラスの民間病院で夜間救急を提供するには1日約40万円のコストが必要で、採算が合わない場合が多い。

 社会医療法人協議会の幹事を務める加納繁照・協和会理事長は「日本の救急医療は民間病院が支えていると言っても過言ではない。社会医療法人は民間病院を中心に地域医療を再構築するモデルだ」としている。

まあ国にすれば「ひょっとしてうまく行けば儲けモノ」くらいのつもりなのかも知れませんが、何しろ基幹病院の7割が診療科の縮小、廃止をしているというこの時代にあって、途中で撤退したらペナルティーという制度ではそれは怖くて手も上げられたものではないだろうとは想像できますよね。
どうも国(あるいは、厚労省?)は本気で医療に危機感があってやっているのかどうか、今ひとつピント外れなことをやっているんじゃないかという気がしないでもない局面が多々見受けられるんですけれども、それでは公立病院にはもう勝ち上がりの道はないのかと言えば、必ずしもそうでもなさそうだと希望を抱かせるに足る成功例というものが世の中にはまだあるわけです。
この点で最近の注目として取り上げられるのが総務省絡みの「公立病院経営改善事例集」なるもので、そもそもの第一報が少し前に総務省から出ました「近々公立病院経営の参考事例集を出します」という話だったのですが、そのアナウンスを伝えるこちらの記事を引用してみましょう。

公立病院経営の参考事例集を月内にも発行―総務省(2010年1月12日CBニュース)

 自治体病院の経営改善の参考にしてもらおうと、総務省は近く、経営状況が良好な公立病院の事例集を発行する。月内にも、全国に約900か所ある公立病院に送付する見通しだ。事例集では、病床規模や経営形態などで選ばれた10病院の事例のほか、各自治体の医師確保への取り組みや病院の建築単価の状況なども紹介する。同省の担当者は、「自治体病院の置かれる状況はそれぞれ異なり、どの事例が良いというわけではないが、参考にしてもらえれば」と話している。

 総務省は昨年6月、公認会計士や税理士らから成る「公立病院経営改善事例等実務研究会」を設置。各自治体やモデルとなる公立病院を対象に、7月に同省が行った実態調査の回答について、同研究会が検討した結果をまとめた。事例集は約100ページで、▽公立病院の経営改善▽経営改善の主な取り組み▽各自治体の医師確保対策▽公立病院の施設整備の状況―の4項目に関する自治体や病院側のモデル事例や実態調査の結果を掲載する。

 経営改善事例では、経営状況が良好な33病院に調査を実施。このうち10病院について、(1)経営損益が黒字(2)近年に経営形態を変更(3)経営形態の変更に合わせ、医療機能の再編・ネットワーク化を実施―の各ケースの事例を紹介する。

 (1)では、▽岩手・国保藤沢町民病院(54床)▽香川・綾川町国保陶病院(63床)▽秋田・市立大森病院(150床)▽広島・尾道市公立みつぎ総合病院(240床)▽香川・三豊総合病院(519床)―の5病院。大森病院では、病棟の再編などで病床利用率を改善したことに加え、「夕暮れ診療」といった患者のニーズにきめ細かに対応したという。
 (2)では、地方独立行政法人に変更したのが、▽岡山県精神科医療センター(252床)▽沖縄・那覇市立病院(470床)―の2病院で、指定管理者制度を導入したのは、▽愛知・東栄町国保東栄病院(69床)▽宮城・公立黒川病院(170床)―の2病院。このうち、那覇市立病院は地方独法化後、医療スタッフの大幅な増員で診療報酬加算を取得したことが奏功。また、黒川病院では、経営形態を公設民営化し、常勤医師を5人増やしたことなどで患者数が大幅に増加したという。
 (3)では、山形県の酒田市病院機構(760床)が医療機能の重複する県立、市立病院を地方独法化で経営統合し、診療科や病床数の再編などを行った結果、診療単価増や経費の節減につながったという。

言ってみればこれは「うまく行っていると言う国のお墨付き」とも取れるような話なのですから、それは事例集に載せられるようになれば病院にとっても、そして何より地域住民にとっても歓迎すべき話なんだろうなと思います。
公立病院が管轄なだけに総務省と言うところの医療に関するスタンスは面白くて、例えば厚労省はかねて一生懸命病院統合、医療資源の集約化というものを主張していますけれども、一方で総務省の方では過疎地の公立病院など潰れそうなところを補助金等で支えてきたという経緯があって、もちろん地域住民にとっては有り難い話ではあるのでしょうけれども、正直現場からすれば船頭多くして…と考えなくもない状況です。
その総務省から「対象病院の選定、個別の病院からのヒアリング、調査の回答に対する分析や検討などを経て、今般、「公立病院経営改善事例集」が取りまとまりましたので、公表します。」とアナウンスがあったのがこの1月25日のことなんですが、これも選定された公立病院の状況を見てみるとなかなか面白くて、総務省なりのスタンスが反映されているものと考えて良いのでしょうかね?

【参考】公立病院経営改善事例集(2010年1月25日総務省)

以前にも当「ぐり研」で紹介させていただいた藤沢町民病院が真っ先に取り上げられているのは非常にアグリーなんですけれども、まず気付くことは単に医療のみならず介護をも包括する施設が当然ながら多いということで、その結果介護職員の数は一般の病院と比べると相対的に多くなっているわけですね。
ところがその一方で医業収益に占める人件費率は40%~50%などという公立病院にあるまじき率を達成している施設が多いと言うことが非常に注目されるところですけれども、その秘密は何かと言えば事務職など非専門職常勤職員の数や給与を削減し外部委託や非常勤等で置き換えていることにあって、実際の医療にあたる専門職スタッフはむしろ平均より充実させているという施設が多いのです。
そして単に事務職員を減らすだけでなく、急性期医療を行う中核病院では逆に医療補助員を導入したり、来院者の暴力、暴言からスタッフを守るための対策を取っていたりと、要するに専門職スタッフが働きやすくするための環境をきちんと整えるという、これまた公立病院にあるまじき(苦笑)システムを導入している、場合によってはそうした職員改革を行うためにも独法化を選択したという施設が見られることは要注目でしょう。

こうした話を聞くと何のことはない、公立病院改革というものは昔から言われている公立病院に特有な人事の諸問題を何とかするところから始まるのだと改めて思い知らされるような話ですけれども、公立病院の改革すべき悪癖というものはこれだけに留まりません。
例えば那覇市立病院などでは近年独法化した施設ですが、この理由として「病院当局が自ら危機意識を強く持ち、市の職員定数から離れ、看護師など医療スタッフの大幅増員による経営改善を目指す」ためと言うことを挙げていますが、これには少しばかり説明が必要かも知れませんね。
同じ沖縄からこんな記事が出ていますけれども、これなども何も知らない人が見れば「行政改革に逆行する不当な要求!?」などと思ってしまいそうな話です。

医師ら増員か 行革優先か 県立病院定数増要求に総務は二の足 現場「経営再建に必要」 条例案の提出不透明 /沖縄(2010年1月22日沖縄タイムス)

 県立病院事業の職員定数条例を県議会2月定例会で改正しようと、県病院事業局と総務部で調整が進められている。同局は医師、看護師らの増員を求めるが、国が公務員数の削減を自治体に課す行革の流れの中、職員増が県財政に与える影響を計りかねている総務部の立場の違いもあり、議案提出ができるか不透明だ。2009年度から3年間の県立病院の経営再建計画が成果を上げている一方、各病院では看護師や医師不足が収益減を招いていることから、病院現場も「経営再建には定数増が不可欠」と訴えている。(社会部・又吉嘉例)

 同局によると、看護師は現在の欠員を埋めた上で、南部医療センター・こども医療センターが今年4月、中部病院が11年度から、(患者7人に対し看護師1人を配置する)「7対1」看護体制に移行できるだけの増員を求めたという。移行日程を考えた場合、改正には2月議会が「タイムリミット」となる。

 現行条例の成立は1988年。小川和美病院事業統括監は「医療者は『人件費』である一方、『収益源』でもある。より良い医療を提供するために体が大きくなろうとしているのに、20年前の洋服を着ているようなものだ」と指摘する。

 仲里全輝副知事は「経営改善に定数が足かせとなるのであれば、外さなければならない」と理解を示す一方、「看護師や医師の適正な人数、平均給与の推移などの課題を病院事業局と総務部で共有し、経営上問題が出ないよう調整する必要がある」と慎重な姿勢を示す。

 県立病院は2009年度決算の純損益について、再建計画の目標値に比べ赤字幅を約8・5億円縮小するなどの成果を上げる見込みだ。

 「現場は努力している。条例改正はどのくらい具体的なのか」。13日、県庁であった県立病院経営改革会議。同センターの大久保和明院長は局側に質問をぶつけた。

 同センターの場合、09年度、診療加算の適切な取得で診療単価が増加。診療、看護、事務など各部門の職員が連携し、経費を縮減した。08年4~11月期は純損益で13億5000万円の赤字だったが、09年同期は約5億6000万円の赤字にとどめた。

 ただ、看護師不足で1病棟(45床)を休止した影響から、入院収益は7~8億円減少。大久保院長は「看護師を多数配置する特殊病棟の確保のため、閉じざるをえなかった」と惜しむ。

 「現在も不足分は1年採用の臨任で補っているが、裏を返せばそれだけ必要な業務があるということ。正職員採用なら看護師が定着し、経営改善につながる」。周辺の民間病院が「7対1」を採用し、過重労働の緩和や患者サービス向上、加算の取得を進める中で「民間と同じ土俵で相撲を取らせてほしい」と訴えている。

何も考えずに読んでいると「医者も看護婦も今どきどこでも求人難なのに、定数だけ増やしてもどうせ来ないんじゃないの?」と思ってしまうかも知れませんが、この公立病院の医師定数というものは実は病院で働いている医師数とは全く別な次元で決まっている話なのですね。
おおむね医療法の医師配置基準を元に定数というものを設定している公立病院が多いようですけれども、これは大昔の牧歌的な医療を行っていた時代や、今で言う田舎の療養型主体の病院でようやく間に合うような手薄い人数で、急性期を本格的にやっているような基幹病院では全く足りるものではありません。
しかし実際に病院に行くとはるかに大勢の医者がいる、そのからくりはどうなっているのかと言えば、定数外の医師を非常勤の日雇い身分で実質常勤労働をさせているわけですから、病院側とすれば週三日、半日づつしか働かせていない建前でその何倍もタダ働きをさせられるという、これ以上ない美味しい話になっている話になっているというわけです。
今どきどこでも医者など引く手あまたという時代に、こんな環境で奉仕活動をいつまでも続けたいと言う人間がいるとしたら、それこそマゾ奴隷と言われても仕方がないと思いますね。

実際に独法化後に那覇市立病院では医師、看護師の非正規職員の正規職員化を進めていて、結果として非正規職員も含めた医師、看護師総数は以前より大幅に増加しているということなんですけれども、それでも職員の若返り化や中高年での昇給抑制といった独自のシステムで人件費率は50%前後を維持しているというのですから、なんだ公立病院でもやる気になれば出来るじゃないかということです。
そして見ていただいて判りますのは、こうした総務省公認の改革の成功例というのは厚労省や財務省あたりを中心に最近にぎやかになってきた「医療費抑制政策」だの「医療崩壊」だのと言った大きな話とはまた別な次元の、言ってみれば昔からある公立病院の悪習をごく当たり前に民間並みに改善してみましたというレベルの話であって、実際やってみればこれだけ効果があったということなんですよね。
遠い世界まで旅をして戻ってきてみれば、案外青い鳥というものは身近なところにいたんだという話がありますけれども、何となくそんなことを連想させるような話ではないでしょうか。

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