« 今日のぐり:「焼肉処 蛮番」 | トップページ | 海外医療事情 東アジアから »

2010年1月 4日 (月)

地域医療を崩壊させたのはだれか

改めまして、新年おめでとうございます。
今年一年が皆さまにとって実り多きものとなりますことを祈念いたしております。

さて、先日第5回日本放送文化大賞グランプリを受賞した「赤ひげよ、さらば。~地域医療“再生”と“崩壊”の現場から~」という番組が年末に全国ネットで再放送され、あちこちでちょっとした話題になっているようです。
さすがグランプリ受賞!素晴らしい作品だ!というのであればよろしいのですが、ネット上での反応は「本当にこんな人っているんだね…」と衝撃を受けたという声が多いようですね。
管理人は残念ながら直接番組を目にする機会を得ていないのですが、口性ないことで有名な某所でのコメントから幾つか引用してみましょう。

784 名前:卵の名無しさん[sage] 投稿日:2009/12/31(木) 19:22:01 ID:I2WUbg4L0
医者は24時間働いて当然、とはっきり言ったババアが本当にいたんだなあ。
生瀬棚を初めて観た。

808 名前:卵の名無しさん[] 投稿日:2010/01/03(日) 16:58:50 ID:sVEJ3qBA0
>>784

ばあさん、「医者に感謝しろって言われても、医者は患者のために夜も寝ないで働くのが当たり前じゃないですか?!!」
って言ってたねw

タイトルどおりの発言だ
「赤ひげよさらば-地域医療を崩壊させたのはだれか」


812 名前:卵の名無しさん[sage] 投稿日:2010/01/03(日) 18:04:21 ID:t2wUZqfZ0

TVカメラが入っているのにあんなせりふが出てくる、
そんなところに来る医師がいるとでも思っているのでしょうか?

僻地人の恐ろしさを改めて認識した次第です。

まあ地域の方々の本音は本音としてもこれも一方での本音でもありましょうし、心身ともに消耗して「もう限界、勘弁してくれ」と逃げ出そうとする人々に向かってこうした言葉が出てくる以上、それは医者も人間ですから色々と感じるところは多々あるのだろうとは思います。
最近のネットでは地域の民度なんて言葉を使うことが多いようですけれども、やはり誰でも働きやすい環境で働きたいのは当然ですし、ひとたび地域の民度が明らかになればこのネット全盛の時代ですから、全国津々浦々まであっという間に情報が広まって「聖地」認定ということになるわけで、常に他人から見られていることを考えて行動すべきなのは今や医者だけではないということです。
ところが医療従事者にとっても地域住民にとっても悲しむべきことに、こうした事例は別に特定地域だけで発生しているというような珍しいことでもなく、あちこちで似たような話が当たり前のように飛び出していることは認めないわけにはいきません。

昨年末には沖縄の久米島病院で医師三人の退職後に後任が未定であるという話が報道されましたけれども、残る四人の医師では到底24時間対応など無理だと言うことで地元ではかなりの危機感を募らせているようです。
かの地においてもこうした離島勤務というものが医師にとっては医療の進歩に取り残され技量も落ちるという魅力のない職場であるという認識はあるようで、中核施設からの機械的なローテートで医師を回すのみならず「地元自治体や住民も共に医師にとって魅力的な環境をつくることが不可欠」という呼びかけもなされているわけです。
ところが実際の状況はどうなのかと言えば、やはりここでも「石もて追われる」ということが長年繰り返されているようなのですね。

久米島病院医師退職 住民、医療不安解消訴え(2009年12月20日琉球新報)

 公立久米島病院の医師3人が来年3月末で退職し、後任の医師が決まっていないことに対し、久米島町内からは、救急など緊急時の町民への影響を懸念する声が上がった。今回だけでなく、産科、小児科などこれまで幾度も直面してきた同院の医師不足の問題。医療不安のない生活を送れ、医師も赴任しやすい環境づくりに向けて、町民からは、医師確保ができ、離島医師が技術向上を図れる医療システムの構築を求める声が聞こえた。
 平良朝幸町長は「緊急医療に対応できない状況になれば住民生活に大きな支障を来す。福祉だけでなく、経済的にも多大な社会的損失が発生することになる」と強い懸念を示した。
 久米島を含む離島が医師不足の危機に何度も直面する事態にも触れ、「研修などのため、医師の異動はつきもので、毎年というほど医師不足の問題が発生し、そのたびに離島住民は不安になる。離島の行政だけでは対処できる問題ではない。問題解決に向けた抜本的なシステムづくりが急務だ」と述べ、国も含めた対応策の検討を訴えた。
 町観光協会の饒平名留美さん(30)も、8歳の女の子を育てる母親の立場から医師不足に懸念を示し、「赴任時だけ喜ばれながら、退職時に肩身の狭い思いをしたまま医師が島から去る状況はやるせない」と述べた。「医師が離島でも技術向上を図ることができ、島を離れる際は島民も喜んで堂々と送り出せるシステムづくりが重要だ。そのような環境がないと、医師は離島に赴任しなくなる」と指摘した。
 町婦人会の松山悦子会長は「医師不足となれば沖縄本島まで通うことになり、町民の負担が増す。医師不足の解決に向けた特別措置の検討など、関係機関が一丸となって問題に取り組む必要がある」と話した。

自分なども日常生活を送る上で「この店がもう一時間遅くまで開いていたら」などと色々感じるものですし、地域住民が医療に対してであれ他の何に対してであれ様々な要求をぶつけるのはこれはごく当然のことだと思います。
住民はそれぞれの立場に基づいて何であれ要求をする権利があるだろうし、その声を受けて自治体にしても企業を誘致するのに工業団地を整備し道路を広げ税金面で優遇措置を取るなどといったことと同様に医療に対してもそれぞれの努力をするだろうし、それら全てを総合的にみて医者が行くも行かぬもまた企業進出と同様にメリット、デメリットを勘案しての判断の結果ですよね。
僻地と呼ばれる土地柄であっても喜んで医者が集まってくる施設もあれば、都心部であっても医者が逃げ出して行く施設もある、そもそもどの程度の医療体制を整備するべきなのかといった必要性の検証も含めて各地域、各施設で条件設定していただき、その条件相応のスタッフが集まってくるのが自由主義社会の仕組みと言うものですから、言うなれば手厚く遇するほどその見返りも大きいというわけです。

その意味では世に医療崩壊と言う現代の医療業界においても、きちんとスタッフを大切に扱う施設はこのご時世でもやる気のある人材を大勢集め、経営的にも安定するとともに地域の医療環境を改善しているわけですから、これは労働者の権利擁護、労働環境改善という点もさることながら地域住民にとっても良貨が悪貨を駆逐していっているという良い側面もあると考えることも出来るかと思います。
本来であれば医療系諸団体がこうした局面にこそ声をあげて「スタッフを使い捨てるのではなくきちんと人間として扱いなさい。そうすれば結局あなた達自身も得をすることになるのですよ」と世の道理を主張して行くのが筋ではないかと思うのですが、残念ながら労働者としての医師、特に勤務医の立場の代弁者として社会的に認められるような組織はほぼ存在しないという悲しむべき現実があるわけです。
一方で使う側にしてみれば医者など奴隷労働をさせてでも安く使い潰した方が断然良いに決まっているわけで、どうもこの世間的に注目を集める医師不足と言う現象を、そうした「安あがりに好き放題に」という使う側のロジックを公に強要させていくための錦の御旗に使われているのが気がかりですよね。

医 療 危 機 '09ふくしまの現場から 医療は公共の財産(2009年12月30日福島民友)

 医師不足でかつてない危機に直面する県内医療現場の現状をリポートした「医療危機 09ふくしまの現場から」。連載の締めくくりとして、医師の育成と定着に努める福島医大の医療人育成・支援センター長の藤田禎三さん(64)と、医師不足に悩む公立病院の立場から公立岩瀬病院長の吉田直衛さん(61)の2人に、地域医療を守るための考えを聞いた。

― 医師の県内定着が課題  ―

 福島医大に昨年4月に開設された医療人育成・支援センターは「教育は大学、研修は付属病院」と、従来は分けて考えられがちだった教育と研修を一体的にとらえ、それぞれの質を高めることが目的。特に卒後の臨床研修を充実させることで、県内に定着する医師を増やすのが狙いだ。
 「ただ医師の数が増えれば良いわけではない。(初期研修2年間の後に進む)後期研修は大学に進んだほうがメリットがあることを、学生や研修医にアピールしたい」。藤田さんは、医師の県内定着には大学の魅力を高めることが必要との考えを持つ。
 2004(平成16)年にスタートした新医師臨床研修制度の影響で、学生が大学での研修を敬遠する「医局離れ」が進んだが、同医大では、後期研修医の数は同制度開始以前の水準に回復しつつある。藤田さんは「大学の魅力を高める即効薬はない。教育と研修の質を高めていくという『王道』を進めるしかない」と話す。
 全国自治体病院協議会県支部長でもある吉田さんは「病院運営をしっかりさせるためには、医師がもう少しでも増えないと厳しい」と、公立病院共通の願いを語る。国に対し「医師の地域ごとの配置について、何らかのコントロールは必要。医師の人権も大事だが、医療が崩壊してしまっては地域の患者の人権が守られない」と提言する。吉田さんは「『地域の病院を守りたい』という意識が地元で盛り上がれば、われわれも何とか踏みとどまれる」とも語る。
 公立岩瀬がある須賀川市では「いわせ須賀川の地域医療を考える会」が組織され、コンビニ受診を控えるよう呼び掛ける活動などを展開している。「医療や教育は公共の財産。サービスは一方的なものではなく、みんなで守っていくという意識が必要」と吉田さんは指摘する。

何故大学での研修が敬遠されるようになったのか、なぜ地域の公立病院から医者が逃げ出して行くのかということを考えれば、結局国にお願いして医者を強制配置してもらったところで後になって損をするのはやる気の無い医者達を押し付けられることになる地域住民であるということは明らかです。
「この財政難の時代に医者の待遇改善など無理だ」という人もいるかも知れませんが、前述の記事などを見ても分かりますように、ただ「給料が安いから」と逃げていっている医者というのは実のところそんなに多いわけでもないし、実際問題僻地と呼ばれる地域ほど金銭的にはむしろ恵まれている方が多いものです(経済原理からして当然ですが、日本一医者の集まる東京都の給料が日本一安いのは有名ですよね)。
遠回りなようですが王道を進むことが最も確実に医者と住民の双方がwin-win関係を結ぶことが出来る方法だとすれば、実のところ自治体や病院以上に地域住民の努力こそが最も大事であることは医者が逃げ出して行く地域での逆説からも明らかなところなのですから、それならば他人任せでなく誰にでも協力出来る解決策をやっていくのが誰よりも住民自身のためなのではないかという話です。

|

« 今日のぐり:「焼肉処 蛮番」 | トップページ | 海外医療事情 東アジアから »

心と体」カテゴリの記事

コメント

「スーパー名医」が医療を壊す (祥伝社新書187)(新書)
村田 幸生 (著)

アマゾンレビューなどをご参考あれ

投稿: | 2010年1月 7日 (木) 12時51分

コメントを書く



(ウェブ上には掲載しません)




トラックバック

この記事のトラックバックURL:
http://app.cocolog-nifty.com/t/trackback/519753/47200813

この記事へのトラックバック一覧です: 地域医療を崩壊させたのはだれか:

« 今日のぐり:「焼肉処 蛮番」 | トップページ | 海外医療事情 東アジアから »