« 知っているのと理解しているのはまた別な問題で? | トップページ | 二兎を追う者は一兎をも得ずと言いますが »

2009年12月16日 (水)

新型ワクチン副作用検証、いささか危うい議論のように見えますが

新型インフルエンザの予防接種後の死亡症例というものが結構沢山になってきているようですね。
今のところはっきり副作用と認められたケースはなかったということですけれども、なんとなく釈然としない感じはするところです。

新型インフルエンザ:ワクチン副作用、初の10代死亡例報告(2009年12月10日読売新聞)

 厚生労働省は9日、新型インフルエンザワクチン接種後の副作用報告で、初めて10代の死亡例があったことを明らかにした。死亡報告は8日までに64件あり、未成年は初めて。死亡したのは山口県内の男性で、免疫機能が自身の組織などを攻撃する自己免疫性疾患などの持病があった。11月27日にワクチン接種を受けた際に腹痛とだるさを訴え、4日後に勤務先から体調不良で帰宅した後、嘔吐(おうと)して死亡しているのが見つかった。死因は調査中

新型インフル:接種後に死亡70件…副作用ケースはなし(2009年12月14日読売新聞)

 厚生労働省は13日開いた新型インフルエンザワクチンの副作用に関する専門家検討会で、接種後に死亡した事例が10日までに70件報告されたことを明らかにした。ただし副作用により死亡したケースはなかったとして、検討会はワクチン使用の継続を決めたが、一部については接種が基礎疾患の悪化を招いた可能性が指摘された。

 厚労省によると、報告があった副作用は約930万回分の出荷に対して1538件で、このうち死亡70件を含む入院相当以上の重篤例は199件。医療機関が「因果関係あり」と判断したのは、このうち81(死亡は0)件だった。また、専門家の精査の結果、神経まひを起こすギランバレー症候群が4件、呼吸困難や血圧低下などを起こすアナフィラキシーショックが30件含まれていた。

 検討会は、副作用や死亡の報告頻度に大きな変化がないことなどから「新たな対応は必要ない」との意見で一致。一方で死亡例の中には、かぜの症状があったのに接種したり、接種後に間質性肺炎などが悪化したケースがあり、基礎疾患のある人への接種リスクについて情報提供や疫学調査の実施を求める声が出た。【清水健二】

末端のワクチン接種を担当している先生方の話を聞いてみますと、ひと頃は予約が入らない、いつ入荷するかはっきりしないと言われていた新型ワクチンもそろそろ騒動がひと段落したようで、むしろ予約を入れていた患者のキャンセルが問題になってきているとも言います。
すでに1000万人レベルで国内罹患者が出ているとも言われる現状ですから、久しく予約待ちをしている間に罹患してしまったなんてことがあっても全くおかしくないのですけれども、中には複数医療機関に片っ端から予約を入れて最初に入荷した施設で接種、他はキャンセルするというようなことをしている事例もあるやに聞きますね。
ちょうど先ごろ政府が優先接種対象者以外にも希望する全国民にワクチン接種を、なんて話を出してきましたけれども、あれも契約上キャンセルできない輸入ワクチンの始末に困ってやっていること、なんて声もあるくらいで、現場では新型ワクチン接種に対する熱意はピークを過ぎた気配も感じられますね。

もちろん時期的に見てもそろそろ季節性の患者が増えてくる時期で新型新型とそればかりでは足元をすくわれかねませんが、一方でデータの集積もようやく進んで新型ワクチンに対する検証が行われているというところ、先ごろにも報道されましたようにこのワクチン副作用問題というのも接種熱に水を差す一因となっているところもあるのでしょう。
国らが言うようにおおむね効果や副作用は従来型のワクチンと同程度ということであるにせよ、一方で新型インフルエンザ自体もその病原性は季節性と同程度だから心配はいらないと大きな声でアナウンスしてきたという背景があるわけですから、そうなりますと「何もかも今までも同じなら、新型だ新型だと大騒ぎして皆に打って回ることもないんじゃないの?」なんて言われかねないという話ですよね。
何にしろリスクと利益を正しく定量的に評価していかなければ「大騒ぎして大金を投じてやった国家的事業が、後に残ったのは国の借金と現場の徒労感混じりの虚しさばかり」なんて話にもなりかねませんが、ちょうど厚労省でこの新型ワクチンの副作用に関しての検討会が開かれたところなのですが、見ていますとこれがなかなか面白い話になっているらしいのですね。

あれ、疫学調査は? 新型インフルワクチン 副反応検討会(2009年12月13日ロハス・メディカル)

 新型インフルエンザワクチンの安全性について検討する厚生労働省の検討会が13日、開かれた。前回に引き続いて、委員の何名かから疫学的データ解析の必要性を指摘する声が出たが、事務局は何も言及せず、座長も「これまで通りの対応で」と取りまとめてしまった。(川口恭)

 この検討会は、『第6回薬事・食品衛生審議会医薬品等安全対策部会安全対策調査会及び第3回新型インフルエンザ予防接種後副反応検討会の第3回合同開催』という、やたら長い名前のもの。

 ちなみに、データの取り方について稲松孝思・東京都健康長寿医療センター感染症科部長は「在宅酸素療法を行っている人で、ワクチンを打った群と打たない群との死亡率を少し大きな数で比較すれば、背景事情はかなり揃うので、割とキレイな成績が出るのでないか」と述べ、桃井真里子・自治医大小児科教授は「たとえば接種後2週間までの死亡例を全数報告するようにして、分布が均一ならばワクチンと死亡との間に関係はないということが言えるし、1日後、2日後といったような特定の時期の死亡が多いようならばワクチンが何らかのトリガーになっていることが示唆される」と述べた。

 同席して聴いていた足立信也政務官がどのように指示を出すのか注目される。

この実際の議論の内容というものを別記事でロハス・メディカルさんが取り上げているのですが、「事務方に注文をつける意見は無視されて、結局厚生労働省の方針を追認しただけだった」というように、これがなかなか面白い話なんですよね。
記者氏にも期待された足立政務官は冒頭で発言した後は「政治家が同席すると、メディアの人からは何か政治の力で導いているかのように受け取られるかも」と最後まで無言を通したそうですが、いくつか面白そうなところを拾い上げてみようかと思います。
まずは議論開始の冒頭部分、いきなり記者氏の突っ込みがさく裂します。

 松本和則・独協医大特任教授(座長)
「相変わらず高齢者の特に肺疾患の人の死亡が多いようだが」

 久保恵嗣・信州大副学長(参考人)
「前回(注:前々回のことか?)とほぼ同じ傾向かな、と思う。前回も重症で酸素を吸っているような人に往診してまで打つ必要ないんじゃないかと申し上げた記憶がある(前回傍聴していた私には記憶がないので、抜き打ちでやられてしまった前々回か?)。適用をもう少し慎重に決めてもらいたいなと思う。ただ、棒グラフをみると基礎疾患のある人はもう終わりかけているのだろうか」

 松本
現時点では明らかにワクチンとの因果関係のある死亡というのはないということでよろしいか」

 議論を始めて2言目に、いきなりそれはないだろう。

 久保
「そう判断する。ただ基礎疾患のある方というのは少しのことで増悪するので、ワクチンを打ってどの程度関係するかは判断が難しいが、少なくとも直接的影響はないと考える」

「議論を始めて2言目に、いきなりそれはないだろう」って、記者氏の突っ込みはもっともですけれども(苦笑)、そこはそれいつものように厚労省の役人からまずは冒頭資料の棒読みを聞かされるよりは実際的でマシだったということですかね。
ここで注目すべきは「(基礎疾患のある人に対して)適用をもう少し慎重に決めてもらいたい」という発言と、ワクチン接種と死亡との間に「少なくとも直接的影響はない」という久保氏の二つの発言なのですが、真っ先に提示されたこの言葉が後々色々と解釈できるものとなってきます。
このあたりの久保氏発言を受けての松本座長の発言がこちらなんですが、それに対する稲松氏の言葉が面白いです。

 松本
「打つか打たないかの段階で判断が必要ということか」

 稲松孝思・東京都健康長寿医療センター感染症科部長(副反応検討会委員)
「在宅酸素を導入できなければとっくに亡くなっていたような患者さんは、何とか頑張っているけれどインフルエンザにかかってしまったら真っ先に亡くなってしまうような人。たまたまワクチン接種後に亡くなる人もいるが、ワクチン接種をしなければトータルにはもっと被害が大きいと考えられる。そのことを第三者に納得してもらえるようなデータの積み重ねが必要だろう」

 松本
「どのような検討やデータの取り方をすればよいか」

 稲松
「在宅酸素療法を行っている人で、ワクチンを打った群と打たない群との死亡率を少し大きな数で比較すれば、背景事情はかなり揃うので、割とキレイな成績が出るのでないか」

いやワクチンの有効性云々の検証もさることながら、副作用問題で議論する大前提としてそういうデータがこの場で提示された上で議論がなされていてしかるべきではなかったかとも思うのですが、いきなりデータがないのに結論ですからねえ…
うがった見方をするならば「適用を慎重に」という久保発言は、どうも手ごたえとして重症者に対してはワクチン接種の塩梅がよろしくない、だからこそ「危ない症例には打つな」ということにしませんかという話のようにも聞こえてきますけれども、このあたりはそれこそ実際のデータを見てからでなければ何とも結論を出し難いところだと思います。
続いて出てくるのが若年者で接種後に死亡した症例の話ではありますが、これもなかなか興味深い症例ではあるというのに「無関係」という結論だけが先走りしている印象がぬぐえないところですよね。

 松本
「(略)ここに来て20代以下にも死亡例が出てきたが」

 庵原敏昭・国立病院機構三重病院院長(参考人=治験実施担当医師)
「まだ情報が足りないので何とも言えない。4歳のお子さんの例(ワクチン接種後にくも膜下出血で死亡。PCR検査の結果、新型インフルエンザ感染を確認)では少なくともインフルエンザのPCRが取れているということだが、ウイルスが生きていたのか、インフルエンザの臨床症状があったのかも分からないので、この症例には何も言えない。もう一つは腸管出血が死因であろうし、接種日5日も経っているので因果関係はないと考える方がよかろう」

 松本
「18歳の方も死因がハッキリしない」

 岡田賢司・国立病院機構福岡病院小児科医長(参考人)
「時間経過を考えるとワクチンとの因果関係はないだろう。インフルエンザの方は何とも言えないのかな、と」

 是松聖悟・大分大学地域医療・小児科教授
「感染でないとするとおかしな経過を辿っているのでワクチンとの関係を否定できないが、感染していたとすれば説明できる。いずれにしても成人の症例と同じように、本当にワクチンを打つべきものだったのかと考えるのがある。小児に関しても適用を考えていただきたい」

 桃井真里子・自治医大小児科教授
直接の関係がなくても、風邪でもワクチンでもトリガーにはなる。小児の先天性代謝異常などの例では、ワクチン接種から数日後に全身状態が悪化し、基礎疾患である代謝異常も悪化するという例を普通に経験する。ワクチンがトリガーになることは誰も否定できないし、症例58(腸管出血のあった患者)についてもトリガーになったことを否定できない

 ご老人のことは分からないけれど、ご老人でも風邪をひいてもワクチンでもトリガーにはなり得るというようなお話だと思う。間接的なトリガーになり得るんだということを、国民に知っていただいて、それぞれの方で打つかどうかの判断をすべきと思う。その情報が行ってないと、受けるべきか受けないべきかの判断もできない。何らか分かりやすい情報提供をしていただきたい」
(略)
 久保
ワクチンを打ってから数時間という、明らかに悪化させているように見える例が死亡はないけれど重篤例の方に何件かある。喘息を悪化させている可能性はある。死亡例の方は何ともいえないけれど関係していると考えた方がよい

ワクチン接種がトリガーとなって基礎疾患が悪化する、その結果死亡に至る場合もあるということを、一般国民の目から見れば「ワクチン接種と関連しての死亡」ということになるのではないかと思うのですが、このあたりの説明を早急かつ適宜にやっていかないと、「副作用情報を隠ぺい!」なんてまた後々大騒ぎにもなりかねないと思うのですけれどもね。
久保氏あたりは何か言いたげな気配が行間からも濃厚に漂ってくるのですけれども、結局は「悪化して亡くなったのか、報告書を読む中ではハッキリしない」とお茶を濁して見せるあたり、やはり事ここに至って「新型ワクチンで死亡!予防接種禍再び!」なんて書き立てられることを恐れているということなのか、どうなのか。
そして現行の方針を変える必要はない、接種が悪化のトリガーになりそうな人は現場で判断すればよいと言いながら、自らその判断する根拠、材料がないことを認めているというのですから、これは現場に丸投げだと批判されてもおかしくないところで、松本座長の「では改めて対応を変更する必要はないということでよろしいか」という言葉だけが虚しく響きます。

ワクチン接種も色々と考え方があって、「この人は罹患すると困る人だから」という個人防御の考え方と、「患者が増えると社会的に対応できないから」という集団防御の考え方とでどちらを優先するかはワクチンごとにおおむね決まっていて、従来のインフルエンザワクチンでは学校接種による集団防御から希望者への任意接種による個人防御へと、近年軸足を移してきていたものでした。
それが今回の新型においては基礎疾患保有者への個人防御と流行を遅らせ対応する時間を稼ぐための集団防御とが混在していたもので議論が見えにくくなったところがありましたが、やはり原則的に個人防御に関しては国が対象を決めるものではなく、各人がリスクと利益を判断し任意で決めるべきものではなかったかという気がします。
そうなりますと、医療従事者などへの集団防御的対応の流れでそのまま個人防御へと突入してしまった、なんとなく国が決めたことだから打つかと自己決定性を不明確にしてしまったというのは、結果としては責任の所在を不明確にしていささか話を混乱させたのかなという気がしてきます。

リスクと利益を勘案して決める、その判断材料として当然予想であっても何かしらのデータが必要なはずなのですが、それをこれから調べてみますということでは、さすがに国民側としても「打たされている」という感覚はぬぐえないところでしょうね。
となれば、今後何かあったときには自己責任論よりも「国が責任を取れ!」という話が台頭してくるだろうとは容易に想像できるところでしょうが、よもや先日成立した特措法による副作用補償だけで事足りると考えていらっしゃるというのであれば、それはいささか考えが甘いのではないかと思うのですけれどもね。
データ不足で判らないなら判らないなりに判らないということをしっかり公表し判断材料を提供しておかなければならないはずが、いささか国民に対するインフォームド・コンセントの努力が不足していた結果、要らぬ火種を残した形になったように思えるのは自分だけでしょうか。

|

« 知っているのと理解しているのはまた別な問題で? | トップページ | 二兎を追う者は一兎をも得ずと言いますが »

心と体」カテゴリの記事

コメント

ロハスメディカル様の
ロット差ありやなしや 新型インフルワクチンの危険性 
http://lohasmedical.jp/news/2009/12/13184552.php
http://lohasmedical.jp/news/pdf/1213kentoukaihukuhannou.pdf
コメント欄に
その検討会用資料はゴマカシです
として投稿者:浅見真規様
http://masanori-asami.hp.infoseek.co.jp/JP/influenza/kaketsuken_vaccine.htm
が疑問を投げかけておられます。

厚生労働省の副反応情報捏造疑惑は問題と思うのですが対象が初期の医療関係者なのでどうでも
いいと思っておられる方が大半なのでしょうか

投稿: 京都の小児科医 | 2009年12月19日 (土) 06時32分

インフルエンザワクチンの場合もともとそれほど副作用が強いというわけでもないので、多少の副作用の差よりは効果の差の方が気になるという臨床家の先生も多いのではないかと想像します。

投稿: 管理人nobu | 2009年12月19日 (土) 11時41分

コメントを書く



(ウェブ上には掲載しません)




トラックバック

この記事のトラックバックURL:
http://app.cocolog-nifty.com/t/trackback/519753/47034760

この記事へのトラックバック一覧です: 新型ワクチン副作用検証、いささか危うい議論のように見えますが:

« 知っているのと理解しているのはまた別な問題で? | トップページ | 二兎を追う者は一兎をも得ずと言いますが »