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2009年12月11日 (金)

診療報酬改定議論に見る微妙な温度差、その心は

先ごろには厚労省と長妻大臣がそろって財務省-仕分け人筋の意向に反して診療報酬引き上げを主張した一件を紹介しましたけれども、民主党内でも医療費引き上げを要求する議員連が発足したように、医療費引き上げは政権としての公約であり、民主党政権を支持した民意であるという考え方がようやく表だって語られるようになってきたようですよね。
ところが先日一般紙などでも報道されましたけれども、来る診療報酬改定をめぐる議論の中で中医協がなかなか面白いことになっているようで、そうそう単純な図式を描ける問題というわけでもなさそうなのです。

診療報酬上げる?下げる?10年ぶり結論出ず(2009年12月9日読売新聞)

 厚生労働相の諮問機関「中央社会保険医療協議会」(中医協)は9日の総会で、2010年度の診療報酬改定に関する意見書のとりまとめを見送った

 報酬引き上げと引き下げに意見が分かれ、結論が出なかったためで、厚労相への意見書提出見送りは00年度の改定以来となる。

 総会では、医師や歯科医ら「診療側」の委員が、医療崩壊を食い止める必要があるとして引き上げの明記を主張した。一方、健康保険組合など「支払い側」の委員は、患者の負担増につながると反対した。大学教授ら公益委員が両論併記の案を提示したが、診療側が譲らず、意見書の取りまとめを見送った。

 診療報酬を巡っては、長妻厚労相が引き上げを表明しているのに対し、財務省は3%引き下げを主張している。政府は月内に改定率を決める方針だが、中医協でも結論が出なかっただけに、調整は難航しそうだ。

【中医協】来年度報酬改定の厚労相への意見書提出を見送り(2009年12月9日CBニュース)

 中央社会保険医療協議会(中医協、会長=遠藤久夫・学習院大経済学部教授)の総会が12月9日に開かれ、来年度診療報酬改定に対する意見書をめぐり議論した。診療側が、4日の総会で公益委員が提出した意見書案に対する修正案を提示し、意見交換が行われたが、診療側、支払側の意見集約はできず、中医協としての厚生労働相への意見書の提出を見送ることになった。意見書の提出見送りは、2004年の中医協改革以降では初めて。

 中医協では11月25日、診療側、支払側双方から総会に、来年度診療報酬改定に対する基本的な考え方を示した意見書が提出されて意見交換が行われたが、双方の意見に隔たりが大きく、公益委員預かりとなった。12月4日の総会でも、双方の意見書と11月25日の議論をまとめる形で作られた「意見書案」を基に話し合われたが、意見集約には至らず、結論は先送りされていた。

 12月9日の総会で、診療側は「意見書案」に対する意見として、「診療報酬引き上げによる各保険者の財政悪化に対しては、政策的財政支援が必要」「特定機能病院、自治体病院等の医療に要する費用については、医療費以外の公費で賄われている部分を明確化し、医療費で賄われるようにすべき」などとする修正案を提示。

 これに対し、支払側の白川修二委員(健康保険組合連合会常務理事)は、「政策的財政支援」について「中医協は診療報酬の配分を審議するところなので、中医協、少なくとも診療報酬とは関係ない話ではないか」と指摘。また、特定機能病院などの医療に要する費用については、「診療報酬を引き上げるか引き上げないかという意見書と、特定機能病院、自治体病院という特定分野の医療費や国の助成金がどう関係付けられるのか理解できない」と述べた。
 診療側の西澤寛俊委員(全日本病院協会会長)は、勤務医らの負担軽減などを実行するためには医療費アップが必要との認識を改めて示し、そのための財源についての「(支払側に対する)『こういうことで何とかできませんか』というわたしたちからの提案というかお願い」と説明した。

 結局、議論は合意に至らず、総会を中断して、意見交換を踏まえた最終の意見書案を公益委員らが作成。診療側、支払側に対し個別に説明を行った。
 総会再開後、遠藤会長は双方と個別に相談して意見のすり合わせを行ったが、意見集約はできなかったと説明。診療側、支払側の了解を得た上で、「中医協として診療報酬改定についての意見を具申することは行わないことに決めさせていただいた」と述べ、意見書の提出自体を見送ることを明らかにした。

先日の中医協では事業仕分けに対して批判的なコメントを出すよう主張する診療側に対し、支払い側と患者側代表がそろって慎重論を唱えるという局面があり、山形大医学部長の嘉山孝正氏が「(静観すべきと)そういう意見を言った方は責任を取ってほしい」などと発言して大荒れになったという一件がありましたが、読売の記事などを見ますと医者対患者の代弁者同士の対立という構図に見えます。
このあたりの経緯は診療側としてはかなり感情的にも来るものがあったようで、決裂後に独自に会見を開いたりと熱く語っていらっしゃるようですけれども、一見すると既得権益を守る特権階級を国民目線で粉砕したとも見えるこの話、国民にとっての本当の味方とは一体誰なのかと考えるとなかなか興味深い話ではある気もしますね。

「中医協の意見書」が密室で決裂、問われる国民代表(2009年12月10日ロハス・メディカル)

 診療報酬の引き上げを求める声は、国民を代表する立場の公益委員には届かなかった。約2時間の密室協議の末、公益委員は「中医協として診療報酬改定についての意見を(厚生労働大臣に)具申することは行わない」との決定を下したが、診療側からは「1号(支払)側の意見を公益委員が採り入れた」など不満の声が上がっている。(新井裕充)

 中央社会保険医療協議会(中医協)は12月9日、来年度の診療報酬改定について厚労大臣に提出する意見書について議論した。
 2号(診療)側は「医療費全体の底上げ」を意見書の結論に加筆することを要望したが、1号(支払)側が断固として拒否。このため、審議を約2時間中断して別室で公益委員と両側がそれぞれ協議したが決裂、今回は中医協としての意見を提出しないことに決定した。

 会議終了後、診療側委員は緊急会見を開き、「医療崩壊がさらに進行することを危惧する」などの声明文を発表。嘉山孝正委員(山形大学医学部長)は「1号(支払)側の意見を公益委員は採り入れた」とした上で、次のように述べた。
 「問題は、公益委員が2つの意見をまとめて、あるいは調停して、結論として何を出すか。ところが、公益委員が出してきた意見では我々の意見がすべて退けられて、『結局、(医療費を)上げないよ』という従来の政策の中身を採り上げたということ。公益委員は国民の目線であるべきだから、我々としては『非常に遺憾である』と考えている」

 鈴木邦彦委員(茨城県医師会理事)も「我々としては(意見書の)文章の結論部分に『診療報酬全体を引き上げる』ということを入れてほしいと要望したが、『それは認められない。結論の所に診療報酬上の引き上げは入れられない』ということだった。『結論部分に入れていただきたい』というのが我々の譲れない要望なので、それで『不成立』ということにされた」と不満を表した。

 邉見公雄委員(全国公私病院連盟副会長)は「やはり全体の医療費の底上げがなければ、また同じことが続くんじゃないか」と状況悪化を懸念。西澤寛俊委員(全日本病院協会会長)は、「(意見書は)非常に影響が大きい。もし、ここで診療報酬全体での引き上げを書き込んでいただければ、内閣府で決める改定率にかなり良い影響を与えることができたんじゃないか」と悔やんだ。

 公益委員が示した意見書案では、「我が国の医療は厳しい状況に置かれている」、「更なる取組を進めていくことが必要であること、という基本認識については意見の一致を見た」と指摘している。とすれば、現状を改善すべく医療費全体の底上げを求める意見書をまとめることもできたのではないか。
 厚労省の担当者は会議終了後のブリーフィング会見で、「公益側が全部潰したということではない」と述べているが、密室協議のため事実関係は闇の中。国民の目が届かないところで決まる構造は今までと何ら変わりがない。
(略)

この件でとりわけ興味深いと思うのが同記事末尾に掲載されている、こうした双方の結論を受けての厚労省側官僚のコメントなんですけれども、先に大臣と厚労省がそろって診療報酬引き上げを財務省側に要求したという一件と対比させながら読んでいただけるとなかなか面白いかなと思います。

■ 「公益側が全部潰したということではない」 ─ 厚労省
< 診療側の会見後に行われた厚労省のブリーフィング >

─ 先ほど診療側が会見を開き、意見書の結論部分に「診療報酬全体の引き上げ」を加筆するよう求めたが、「公益側がのまなかった」という説明だった。

[保険局医療課・尾崎守正課長補佐]
 それは事実と違うと思います。のむかどうかというのは、「1号(支払)側がのむかどうか」ということだと思いますので、結局、「1号側と2号(診療)側で意見が折り合わなかった」ということではないかと認識しています
 つまり、「公益側がのんだから紙が決まる」というわけではないので、「1号と2号との間で意見が折り合わなかった」ということではないかと思います。

─ 事実関係を確認するため、公益委員が各側に示した「裁定案」をオープンにしてはどうか。

 それはオープンにできないですね、「各側呼び込み」ですから。当初は、「各側呼び込み」の予定はなかったんですよ。両側が求めて急にそういう話になったものを事務局(保険局医療課)から発表するのは難しい。

─ 支払側も診療側も、「オープンにやったほうが良かった」と話しているが。

 だったら、「なぜ呼び込みをしたんだ?」という話だと思うんです。シナリオ上、「呼び込み」というのはなかったんです。

─ 1号(支払)側は、公益側が示した調停案にある程度は納得したのか。

 「調停案」というか、「修文案」ですね。ある程度納得されて、その後、2号(診療)側がいろいろご意見があるということで話し合って修正案が出されました。
 それをもう一度、1号(支払)側に見せなければいけませんので、1号側にお見せして、結局、「それがのめない」ということでしたので、あのような結果になったということです。

─ 不成立の原因は、「1号(支払)側がのめない」ということだったのか。

 要するに、2号(診療)側としても「この案で行けないなら意見書をまとめないこともやむなし」ということだった。提示したものを1号(支払)側はのめないということだったので、「1号、2号、納得の上でまとめない」ということになった。

─ 意見書の結論部分に「診療報酬全体の引き上げ」を入れるよう求める2号(診療)側の修文案は、1号(支払)側に示されたのか。

 示しました。2号(診療)側と公益側と2回やり取りがあったのですが、診療側が2回目に求めた案について、「2号(診療)側がこういうふうに(修正)してほしいということです」ということを1号(支払)側に言っています。それで、(支払側の)白川さんたちは、それ(結論部分に診療報酬全体の引き上げを加筆すること)を「のめません」と。公益側が全部潰したということではないと思っています。

 たぶん、(公益委員の)遠藤さんの立場からすると、詳しくは分かりませんが、要するに2号(診療)側から出された案がですね、公益委員の立場として見ると、「これはとても1号(支払)側はのめないだろう」ということをおっしゃったんだと思うんです。
 遠藤さんたちが(診療側の案を)「のめない」と言ったのではなくて、これまでの議論を聴く限り、「これはたぶん1号はのまないと思いますよ」と。それで結果としてのまなかったので、あの結論になった。

実際のところ調停役が片側に日和ったというわけではなく単に支払い側が引き上げ論明記を拒否したというのが真相なんでしょうが、毎度ながらこの妙に他人事目線な熱のなさというのは何なのかという感じですよね。
厚労省と言えば、医師出身の足立政務官が先ごろ「財務省との戦いは始まっている。我々だけ頑張っていてもダメ」と診療報酬をめぐる議論に医療側からの応援を熱く呼び掛けていますけれども、どうもこうして見ますと明らかな省内温度差を感じるのは自分だけではないと思うのですけれどもね。
もちろん言いたい放題言っておしまい、気に入らなければ席を立てばいいというある意味お気楽な立場の委員だの政治家だのと比べると、実際にそれを政策という形でまとめていかなければならない官僚というものはどうしても地に足のついた現実主義者であらざるを得ないというのは判るのですけれども、少なくとも政治家も厚労省も診療報酬引き上げで一致団結して財務省と戦う、なんて構図ではなさそうですよね。

常々思うのですが、省庁と言えば権益獲得絡みもあって予算を少しでも多くということに結構注力するものだと世間では思われている中、どうも厚労省から出てくるお役人さん達は医療絡みの話になると妙に淡泊なコメントに終始している印象なんですよね(あるいは報道されないだけで他の省庁もそういうものなのかも知れませんが)。
すでに久しく医療費抑制政策が続いていますから、このあたりはそういうものなんだと諦観しているということなのかも知れませんが、中医協も嘉山先生らが入って最近妙に熱くなっている、政治家の側も(大臣こそ多少デプり気味ですけれども)足立氏や議員連やら結構本気度を増しているという中で、ここでこんなに盛り下げてしまっていいのかとも感じてしまいます(苦笑)。
もっとも厚労省と言えばかねて地域の病院再編、医師集約化が持論だったところですから、実のところうっかり診療報酬引き上げで地域の病院が息を吹き返してしまうのも痛し痒しだという気持ちも根底にあるのかも知れませんが…

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