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2009年12月17日 (木)

二兎を追う者は一兎をも得ずと言いますが

先日ロハス・メディカルさんで出されたこちらの記事ですが、やはり周産期というのはなかなか色々な意味でハイリスクなのだなと考えさせられるような話ではないでしょうか。

産婦人科医会への事故報告、08年は350件-分娩時の母体や胎児異常など(2009年12月9日ロハス・メディカル)

 2008年に日本産婦人科医会(寺尾俊彦会長)に寄せられた、医療紛争になる可能性があると医療機関が判断した妊産婦死亡など産科関連の医療事故は350件あったことが同会のまとめで分かった。このうち同会が報告書の提出を求めたのは178件で、分娩時の母体や胎児の異常に関するケースが過半数を占めていた。(熊田梨恵)

 同会では再発予防を目的に、毎年こうしたケースを収集する「偶発事例報告事業」を行っている。国内で産婦人科を標榜する5666施設のうち、4181施設が事業に参加している。

 参加施設が扱う年間分娩件数は毎年増えており、08年は75万339件。報告事例数も事業が始まった04年の171件から増加していたが、07年の398件を最高に、08年は350件と減少に転じた。報告書提出のケースも同様に推移し、04年の116件から07年には227件にまで増えていたが、08年には178件と減少している。同会は「医療安全に対する取り組みがされるようになって、その成果が出たのではないかと推察している」と話す。

 報告書の提出が求められた178件のうち、最も多かったのは「分娩に伴う母体異常」で49件(27.5%)、次に「分娩に伴う新生児異常」で46件(25.8%)、ほかには「産婦人科手術事例」23件(12.9%)、「妊娠中の管理事例」15件(8.4%)、「人工妊娠中絶事例」、「外来診療事例」ともに10件(5.6%)など。

 妊産婦死亡(妊娠中、妊娠終了後満42日未満の死亡の合計)は22件だった。死亡原因として最も多かったのは、羊水の中の粘液が母体の血中に入って肺の毛細血管を詰まらせる「羊水塞栓症」で11件と過半数を占めた。他には弛緩出血などの「出血」4件、「脳梗塞」や「脳出血」の脳血管疾患がそれぞれ1件、「腹腔内出血」2件、「肺塞栓」1件、「子宮破裂」1件、「子宮外妊娠」1件だった。

 また、周産期死亡(妊娠満22週以降の死産、生後1週間未満の早期新生児死亡の合計)は42件あり、最も多かったのは「常位胎盤早期剥離」による分娩中の死産が9件だった。このほかに分娩中に死産したケースでは、「胎児機能不全」や「羊水塞栓」、「臍帯脱出」などが要因としてあった。新生児死亡したケースの要因には「カンガルーケア」や「前置胎盤」、「新生児仮死」などがあった。

 産婦人科手術に関する事故は23件あり、卵巣がん手術時などの「尿管損傷」4件、開腹手術時などの「小腸損傷」が4件などだった。患者が死亡したのは1件で、子宮内膜症の手術時に「イレウス、DIC(播種性血管内凝固症候群)」が起こっていた。

この報告件数が減ったことはよいことであると産科医会では言っているようですけれども、医療訴訟が年間1000件、そのうち産科絡みの訴訟がおよそ150件くらいは発生しているようですから、同会が参加施設の全数把握していると仮定すれば「ヤバイと感じた症例はほぼ全例訴訟になっている」という話になりかねません。
さすがに実際問題としてそういうことはないだろうと考えますと、やはり同会への報告書提出自体が減っているだけであるということであれば、「医療安全に対する取り組みがされるようになって、その成果が出たのではないか」云々のコメントはさすがに少しばかり楽観的ではないかと思うところですけれどもね。

いったんはある程度定着していたはずの報告書提出が減ってきた理由は何故かと考えた場合に、やはり訴訟リスクというものを考えないではいられませんけれども、こうした事故報告書というものは懲罰と切り離さなければその真正性を担保できないというのは航空事故調などでも常識となっています。
ところが先日も書きましたように、処罰なき検証というものが国民感情によって受け入れられるものであるのか否かということが昨今議論の中心になっているところではありますけれども、そんな中で産科医療保障制度を巡る議論においては何とも玉虫色の結論に落ち着きつつあるようですね。
もちろん国民感情というものは無視できるものではありませんけれども、国民の求める目的がなんであるかということを考えた場合に、その達成を図る上でむしろ退歩する結果となるのであれば、これはかえって国民感情を害するという可能性もあるだろうということです。

回避可能性「記載しない」方針を最終決定―産科医療補償制度(2009年12月15日CBニュース)

 日本医療機能評価機構の産科医療補償制度原因分析委員会(委員長=岡井崇・日本産科婦人科学会常務理事)は12月15日、第10回会合を開いた。これまでの議論で争点となっていた「(脳性まひの)回避可能性」の原因分析報告書への記載については、原則として記載しないことを決定した。ただ、家族からの質問に対する回答として、報告書とは別に「回答書」を作成し、回避可能性について触れざるを得ない事例については記載することになった

 「回避可能性の記載」や「家族からの質問に対する回答」については、これまで同委員会で議論されてきたものの意見がまとまらず、別途話し合う「打合せ会」が2日に開かれた。話し合いは非公開で行われ、医療者側委員4人と有識者委員3人などが参加した。 
 事務局によると、2日の話し合いでは岡井委員長が、報告書に回避可能性を記載しないことや、回避可能性について触れざるを得ない事例を含め、家族からの質問については報告書とは別に回答書を作成することなどを提案。これに対し有識者委員は、医学界がやる気を出さないと原因分析は進まないとして、賛同はできないが、最終的には医療側委員の考え方で進めるしかないとの結論に至った。
 ただ、岡井委員長の考え方が医学界の総意かどうかについて、公開の場で医療側委員の意見を求めるべきとの提案があったことから、15日の同委員会で方針を決定することになった。

 この日の同委員会では、事前に送付された岡井委員長の提案に対する医療側委員11人の回答が示された。
 それによると、脳性まひの回避可能性を記載しないことには全員が賛成。また、報告書の本体とは別に、家族の質問への回答書を作成することにも全員が賛成した。一方、家族から回避可能性に関する質問が寄せられ、それに触れざるを得ない事例の場合でも回答書を作成することに対しては、1人が反対、10人が賛成だった。

 この日の「回避可能性」の議論では、事前の「打合せ会」で、有識者委員は傍聴のみで一切発言しないことになっていたが、意見を求められた隈本邦彦委員(江戸川大メディアコミュニケーション学部教授)が、「委員長の意見、賛同する意見の中にも、回避可能性を指摘することが訴訟の種になるという表現があるが、わたしはそう思っていない」と表明。「多くの国民は、医者の分析を権威あるものとして見ている。しかし、国民が何かを信頼する時に権威だけでは信頼しない。権威と中立性、公正性というものを感じた時に信頼する。最終的には信頼性の問題。その信頼性に間違ったメッセージを送るのではないかと非常に危惧している」と訴えた。
 これに対し岡井委員長は、「国民の皆さんが信頼してくれるかどうかは、実際に出たものを見て、それから判断してほしい」と強調。その上で、「大事なことは、脳性まひを減らしていくために医療界全体が進んでいくこと。きちんとした分析ができて、それで学会や医界が防止に取り組む姿勢を強めていく」と述べ、医療提供者側の協力を得る必要性を訴えた
 これを受け隈本委員は、「正しいことを正確に発言していれば世間は必ず受け入れると思ってはいけない。信頼されるための姿勢を見せなくてはいけない」と強調した。

 次回会合は来年1月に開かれ、原因分析報告書作成マニュアルを決定するほか、同委員会の部会と合同で、実際の事例について原因分析を始める予定。

記事のタイトルが思い切りミスリードだと思いますが、結局のところ表向きの結論はどうであろうと、問われれば回避可能性に触れざるを得ないのであれば触れるというのですから、それは誰でもお得なセットを選びますという話ですよね。
そして、自分の証言が自分の首を絞めることになるというのであればそれなりに身構えたことしか喋らなくなるのも、これまた誰でもそうだという話であって、そうなれば結果として「正しいことを正確に」なんてことはあり得なくなるだろうとは想像できるところです。
自らの身を守るためにガチガチに固められた証言がはたして国民の信頼を得るものになるのかどうか、他方面での例から類推するにいささか危ういところではないかと思いますけれども、そうしたシステムでなければ国民からは受け入れられないというのであれば真実性というものはどうしても犠牲にならざるを得ないのでしょう。

この「正しいことを正確に発言していれば世間は必ず受け入れると思ってはいけない」というのはなかなか至言であって、実際問題処罰感情の満足と真実性の追求とは両立しませんよ、本当のことを知りたいとお考えなら証言に対する免責をした方が良いですよと幾ら説明したところで、それが必ずしも世に受け入れられないのが現状だと、医療側もまず認めなければならない。
そうであるなら理念ばかりを先行させるよりももう少し実際的に考えていかないと、結局誰にとってもろくでもない制度が出来上がってしまうという可能性があるわけですけれども、国民目線で見るところの医療界の信頼性ということに関していささか解釈の余地に幅のありそうな話が少し前に出ていたところです。

後遺症出た医療事故、公表2割(2009年10月1日産経新聞)

全国医学部長病院長会議は30日、全国の大学病院で行われている院内医療事故対策に関する調査結果を公表した。その結果、後遺症が出る医療事故があった場合でも、公表しているのは全体の21・3%にとどまっていることが分かった。
同会議の「大学病院の医療事故対策に関する委員会」の嘉山孝正委員長(山形大医学部長)は「患者や家族が公表を拒否するなどのケースがあるため」と説明している。
調査は今年4月22日?5月18日に実施。国公立、私立の80大学病院すべてから回答を得た。調査結果によると、後遺症が出る医療事故を公表しているのは17大学にとどまった。「事例によって公表」しているのは78・8%。公表の方法は「自校のホームページに載せる」が最も多く62・5%だった。...

一読して「これぞ医療界の閉鎖的体質!ケシカラン!」と言いたくなる人々もいるのかも知れませんけれども、例えば世間一般で顧客に損害を及ぼした商行為に関して全てを公開しているのかと考えると、むしろたまたま報道にでも取り上げられない限り全く公開などしていない方が一般的ですよね。
買ったものに不具合があった、料理屋で食あたりした、頼んだものと違うものが届いたなど、少なくとも管理人は過去に損害を被った事例において世間一般に情報公開されたという例を経験したことがないですが、皆さんはそのようなご経験がありますか?
世間の一般的慣行としてはそうなっている世の中において、こと医療業界だけに特別の努力を求められる、全例公開しないとはケシカランとばかりにこうして新聞ネタになる、そうした現状をふと冷静になって考えてみると、ずいぶんと他業界とは扱いが違うんだなと思っている医療関係者も今では増えてきているということです。

それが現代日本における医療というものの置かれた立場であると考えればその通りなのかも知れませんけれども、何かにつけそうした特別扱いをしてくる世間というものに対する医療業界内部の感情というものを考えた場合に、これは医療者、被医療者双方にとってずいぶんと不幸な状況ではあるのかなという気がするわけです。
先ほどの産科医会の報告数が減っているという話であるとか、昨今何かと話題になった副作用、合併症絡みの医学論文が激減しているという話であるとか、いずれもこうした相互不信に根ざした結果であると考えると、最終的にそれで損をするのは誰なのかという話ですよね。

おりしも厚労省の足立政務官が、過去の議論のたたき台になってきた医療事故調の厚労省案は推奨しないと従来方針の大転換とも受け取れる発言をしていますけれども、最終的にどんな制度が出来上がるにせよこうした相互不信に根ざしたものであるとすれば、れは少なくとも真実の追求などとは程遠い結果を生むだろうことは間違いありません。
足立政務官ら民主党系の先生方は今まで厚労省から華麗にスルーされてきた「真相究明と処罰は別」とする自党案を元に議論の方向性を変えていくつもりなのかも知れませんが、失礼ながらこうした状況においては旧来の医師処罰ルートを盛り込んだ厚労省案よりもむしろ国民からの受けは悪くなるということにもなりかねませんから、そこを敢えて押し通すだけの覚悟があるのかどうかですよね。
どんな制度であれ医療従事者は最終的に我が身を守るという方向性で動けばよいわけですからある意味話は簡単ですけれども、「本当のことが知りたいだけなんです!」という人々が本当のことを知る道が閉ざされた場合にどうするだろうかと考えた時、果たしてこれは結局誰のために作った制度なのかと皆が疑問に感じざるを得ないような話にならなければよいのですが…

医療事故調、「厚労省案」は「推奨していない」―足立政務官(2009年12月15日CBニュース)

 足立信也厚生労働政務官は12月11日、医療事故の死因究明などのための第三者機関の創設へ向けた厚労省の「医療安全調査委員会設置法案(仮称)大綱案」について、「事実上、厚労省案として推奨していない」との考えを示した。東京都内で開かれたシンポジウム「今後の医療政策」で語った。

 医療事故調査などを行う第三者機関の設置をめぐっては、厚労省が「診療行為に関連した死亡に係る死因究明等の在り方に関する検討会」を2007年に開催し、08年4月に「第三次試案」、6月に「医療安全調査委員会設置法案(仮称)大綱案」を公表。一方、同年6月に民主党が医師法の改正などを盛り込んだ、厚労省案の対案となる通称「医療の納得・安全法案」(当時は「患者支援法案」)を発表している

 この日、大綱案を「厚労省案」と称していいのかと質問された足立政務官は、「事実上、厚労省案として推奨している事実はないと考えていいと思う」と回答した。
 また、同省が05年度から今年度まで実施している「診療行為に関連した死亡の調査分析モデル事業」が来年度も実施されることになったと報告。今後は、「Ai(死亡時画像病理診断)の活用なども含め、死因が分からない『非自然死体』に対する死因究明の方向性で拡大していくべきではないか」と述べた。同省の担当部局には、これまでの検討を踏まえ、「本来先にやるべきこと」について検討を加えるよう指示しているとした。

 さらに足立政務官は、国家公安委員会委員長・拉致問題担当相の中井洽氏が、死因究明に関する法案を11年の通常国会で提出する方針だと示したとする一部報道を紹介した上で、「死因究明をするという意思の下につくられた法律があってこそ、医療関連死や医療上の業務上過失致死をどうとらえるのかの議論がさらに深まる」と述べた。
 梅村聡参院議員も「拙速な議論は避けたい」とした上で、大綱案が法案として出されることはないが、民主党案も死因究明の問題や刑法とのかね合いなどについて詰めが必要との見方を示した。また、法案にかかわらず、最終的には医療界がどれだけ自浄作用を発揮するかが重要と強調。「現場が行う取り組みをアシストしていく仕組みをつくらなければならない」と述べた。今後のスケジュールについては、「どんなに急いでも6月以降の議論になる」とした上で、「死因究明などに関しては、11年度の通常国会あたりということで考えていきたい」と述べた。

■医療者・患者間の対話の重要性を改めて強調
 足立政務官はまた、医療崩壊の原因として、▽医療従事者の削減で達成しようとした医療費抑制策▽医療を提供する側と受ける側の情報格差―の2点を指摘。医療に対する不信や不安を解決することが最優先と強調し、医療者と患者をつなぐ対話仲介者の役割が重要との見方を改めて示した。
 また、NPO法人の医事紛争研究会が「医療ADR(裁判外紛争解決手続き)機関」として全国で初めて法相の認証を取得したことに言及し、「この流れは、対話による双方の理解によって解決できる問題がいっぱいあるということの、ある意味での『勝訴』だと思う」と述べた。
 足立政務官が作成にかかわった民主党案では、対話による解決を重視し、病院での医療対話仲介者(メディエーター)設置を掲げている。

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