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2009年12月15日 (火)

知っているのと理解しているのはまた別な問題で?

とっくの昔に出ていたものが後になってむしろ価値が増してくるということはままあるもので、多くの場合は時代を超越する価値があったのだと称賛の対象になっていたりします。
最近一部ネット界隈でちょっとした話題になったのが、よしかた産婦人科院長、東海大学産婦人科兼任講師である善方菊夫(よしかたきくお)先生の手になる医事新報の記事です。
昨年初めに掲載された少し古い記事なのですけれども、改めて今発掘されてみますとこれはなかなか素晴らしい名文ですよね。

今、産婦人科医になるチャンスです(2008年2月1日医事新報連載記事)

私は、平成元年に医者になり、迷わず大学の産婦人科医局に入局しました。
人々の幸せな場面に携わることに、大変な喜びを感じ、医療の場面においては、夫婦に子供が、愛されてこの世に誕生するという出産に関連した事しかイメージできず、産婦人科以外を専攻すること意外考えられなかったからです。

皆がどのような理由から専攻を決めていくのか興味を持った時期があり、何人かのクラブの先輩に聞いたことがあります。
精神科を専攻した先輩は、「人間が、他の動物と違うのは、その特徴的な精神の存在にあり、人間の基本である精神に携わる科を専攻した。」
呼吸器内科を専攻した先輩は、「人間は、まず第一に行うのは呼吸であり、人間の基本である呼吸に携わる科を専攻した。」ということでした。
こんな風に言い出すと不要な科は何もなく、結局進む方向は、ちょっとした偶然によるものなのではないかと思うこの頃であります。  

最近では、臨床研修制度が確立した事もあり各科を回って消去法で専攻を決めていく事も当然 のように行われているようです。
基準としては、将来その科に進んだ場合、“ 人間らしい、穏やかで豊かな生活がしていけるか”が、大きな指標となっているように感じられます。
産科や小児科は研修必修科となっていますが、数ヶ月回るとその激務とリスクに気付いてしまい、全く敬遠されてしまうというのが現状になっています。

このまま行くと産科医がますます減り、最近社会問題となっているお産の場を確保することがさらに厳しい状況になる事は明らかです。
世の中もようやくその事に気付き改善に乗り出そうという兆しも現れてきており、産科医の勤務状況の改善(当直の次の日は休みとする交代制等)、リスク・労働にあった給与体系等を改善しようする動きは、既に多くの自治体で見られ始めました。
また、現在20歳台、30歳台の産婦人科医の半分以上が女性医師であり、今は出産を契機に常勤から外れていく傾向にあることも、産科医師不足を加速している原因になっているように思います。
また、託児所をはじめとした女性医師が仕事を続けていける環境を整備することも重要です。

この雑誌を読まれているのは、学生の方も多いと思いますが、今、産婦人科医を専攻すると・・・数年の修行期間を頑張って乗り越え、専門医になってしまえば、それほど無理しなくても人間らしい生活ができる時代が数年後にやってくると考えられます。それどころか、産婦人科医は少ないこともあり、大学や学会内で上のポジションに行きやすく、日本中、産科医は引っ張りだこであり、一般病院においては豊かな収入が得られるのは確実です。

どうか、未来を信じて産婦人科を選んでください
(以下略)

未来を信じて産科医が増えつつあるということなのかどうかはともかくとして、少し前に産科学会の新入会が増加に転じているということがちょっとした話題になったのは記憶に新しいところで、最悪の時期は脱したと胸をなでおろしている先生方も多いのではないでしょうか。
いずれ数年後にやってくるとされた産婦人科医の人間らしい生活が実現に向かっているのかどうかは未だ寡聞にして存じ上げませんけれども、面白いなと思ったのは日本のこの産科を取り巻く状況というものが結構海外でも話題になっているらしいということです。
韓国や台湾あたりでは日本のテレビを結構視聴していたりする人が多いと言いますけれども、その影響なのかどうなのかこうした日本の世情についても結構興味と関心があるようですね。

【韓国ブログ】深刻な状況の産婦人科「日本で出産するのは難しい」(2009年10月27日サーチナ)

  10月14日から放映が開始された日本テレビの『ギネ 産婦人科の女たち』は、日本の産婦人科をテーマにしたドラマ。原作は自身も産婦人科医である岡井崇の『ノーフォールト』で、藤原紀香さんが主演し、過酷な状況下で奮闘する産科医の姿を描いている。

  日本の話題を伝える韓国のインターネット新聞「JPNews」ではキム・ミンジョン記者が、このドラマの話題とともに、筆者自身の日本での出産体験をもとにその難しさを語っている。ただし、この記事は、筆者自身が病院に通って感じたことや日本で子どもを生んだ妊婦を取材した内容で、すべての助産院や個人病院、産婦人科に当てはまるわけではないと断った上で記されている。

  日本では近年、産婦人科施設や産婦人科医の減少が社会問題になっており、特に地方では深刻な事態をもたらしているという。筆者はその理由について「産婦人科医師たちはそれこそ不眠不休で仕事をしている。子どもがいつ生まれるか予測できず、さらに産婦人科医師の減少によって勤務時間が次第に長くなり、38時間もの連続勤務を要求されている。勤務環境以外にも、日本で産婦人科医師になることを敬遠する理由は、ほかの科に比べて訴訟が増えていることが挙げられる」と語っている。

  また日本での出産施設として助産院や個人病院、大学病院などを紹介し、自宅で出産することも可能だと述べている。それぞれの長所と短所を記すとともに「どこを選ぶにせよ、早期の予約をせずに出産することは難しい」と語っている。

  記事には「日本は理由もなく出生率が低い訳でないようだ。病院の負担も大きいのかもしれない」「記事内容は韓国の状況と似ている。 むしろ韓国の方が深刻かもしれない」など、多数のコメントが寄せられている。(編集担当:李信恵・山口幸治)

韓国の医療制度は日本のそれを少しモディファイしたような感じでそれなりに制度としては整備されている一方で日本と同様の問題も抱えており、特に医療費、医師数といった部分では日本以上に深刻なところがあるようで、それだけに他人事ではないという危機感があるということなのでしょうか。
日本の場合は「産科医減少は出生数の減少で医療ニーズが低減していることの反映」との名?答弁を行った柳沢厚労相でありますとか、臨月でありながら「岐阜で産んでもかまわない。その覚悟で勝手にやってきました」と野良妊婦宣言をしてしまった小渕少子化担当相でありますとか、直接その方面を担当すべき為政者の認識としてどうなのよ?と思われる点が気がかりなところですが、これがこの国の伝統なのでしょうか。
産科のみならずこちらも危機が叫ばれて久しい小児科ですけれども、どうも行政担当者の認識と現場の認識とには相当なかい離があるのではないかと感じさせられるのがこちらの記事です。

小児科医は増加している? 辞めている?(2009年11月3日ロハス・メディカル)

 小児救急の改善策として厚生労働省は、「小児科医の数は増加している」とした上で、「トリアージ体制」や「小児救命救急センター」などを2010年度の診療報酬改定で評価する方針を示している。小児科医や看護師らが充足しているなど救急受け入れ体制が整っている病院を手厚く評価する意向だが、「地方はピンチな状態で小児科医が辞めている」との異論もある。(新井裕充)

 10年度改定の議論を再開した10月30日の中央社会保険医療協議会(中医協)の基本問題小委員会で厚労省は、小児医療について現状や課題などを説明した上で、次期改定に向けて5項目の「論点」を示した。

 現状に関する説明の中で厚労省は、「小児科医の数は、平成6年から平成18年までの間に13,346人から14,700人と約1,350人増加している」とした。
 その上で、軽症患者が9割以上であること、1~4歳の死亡率が高いことを説明。軽症患者への対応策として、「医師に代わって看護師などのコメディカルが患者の振り分けをする」という意味でのトリアージ体制を診療報酬で評価する方向性を示した。
 また、1~4歳の死亡率が高い状況を改善するため、PICU(小児集中治療室)など重篤な小児患者を専門的に受け入れる病床を評価する方向性を打ち出した。

 意見交換で、安達秀樹委員(京都府医師会副会長)は小児科の医師がいる病院に集中している。それが小児科医の疲弊の大きな原因の1つだ」と指摘、小児の二次救急病院が広く算定できるような点数設定を求めた。
 嘉山孝正委員(山形大学医学部長)も、「地方はピンチな状態で小児科医が辞めている」と指摘。「小児科医は女性が非常に多いが、女性が働く社会環境が整っていない」として、医師数に関する厚労省のデータが実態を反映しているかを疑問視した。さらに、「センターと付くとそこの医療費が上がるなど、そういう(診療報酬の)付け方をしてきたので、地方の小児医療などが潰れた」という辛口の発言も飛び出した。
 
 小児救急をめぐっては、医政局指導課が中心となってPICUの全国整備に力を入れている。今年3-5月にかけて、「重篤な小児患者に対する救急医療体制の検討会」で議論し、7月に報告書を取りまとめた。
 同検討会では、重症の小児を24時間体制で受け入れる「小児救命救急センター」を推進する厚労省側に対し、「実際に何人の医師がいるかを考えないと現実化しない」など、マンパワー不足を問題視する意見があった。また、小児救急の専門医の育成、救急医と小児科医の連携、救急搬送システムなど、「ハコ」の整備と別の観点からの意見が相次いで議論が錯綜した。(詳しくは、最も議論が紛糾した4月23日の議事録を参照)
 その後、委員らの指摘を受けて厚労省は「小児救命救急センター」の文字を一度は引っ込めたが、7月の報告書で復活させたという経緯がある。次期改定では、「小児救命救急センター」などを診療報酬で評価する方針とみられる。なお、安達委員と嘉山委員の発言は次ページ以下を参照。
(以下略)

この話、別に小児医療に限らず近来の医療行政を象徴しているところが多分にあると思いますけれども、何かしらを熱心にやっている病院を診療報酬上で優遇するとした結果そこに医者が集まる、当然周囲には医者がいなくなった病院が多数でき患者が一極集中する、せっかく医者を集めても勤務医が疲弊し最終的に地域医療がごっそり崩壊するという、過去に何度も繰り返されたパターンをまたやりますと宣言しているわけです。
病院再編をかねてからの目標に設定している厚労省としては未だに欧米並みを目指しての病床再編をあきらめていないようですけれども、高度にシステム化された病診連携などというものは患者がいつでもどこにでも好き勝手に受診していいという制度下では突き詰めていくほど破綻に近づくものであるという現実を、そろそろ学習していただいても良い頃なんじゃないかとも思うのですけれどもね。
その方がやりやすいからと医療の需要側の制約を一切課さないままで供給側ばかりああしろこうしろといじっていても、結局かつての「開業医にかかりつけとして頑張ってもらいたいから点数を高く設定してみました。そうしたら患者は料金の安い大病院に集中するようになりました」の笑い話が拡大再生産されるだけではないかという懸念がぬぐえません。

ネットなどを覗いていますと少子化が進んでいるからそんなに忙しくないはずだなんて声も未だに一部であるようですが、少子化が進む産科が疲弊しているのと同様に、対象人口と医療需要とはまた別問題なんだと言うことを国民も、そして医療行政の担当者も認識しなければいけません(そもそも小児科外来に行ってみれば忙しいのか暇なのかはすぐに判りそうなものですけれどもね)。
その意味では年々進む小児医療費無料化政策が一番現場の疲弊を招いている理由なんだと思いますけれども、少子化対策だと言って需要の側(すなわち有権者と言い換えてもいいと思いますが)には幾らでも甘い政策を並べるのは仕方ないにしろ、その影響がどう現れるのかという学習機会はもうさんざんあったはずなのですが、医療行政担当者には未だそういう認識はないのでしょうか。
各地で地域住民が主体となって病院を守るために不要不急の受診を控えようという運動が広まりつつありますけれども、現場情報から遮断されて甘やかされていたはずの国民の方が先に現実に目覚めつつあるようにも見える一方で、毎度毎度同じようなアンケート調査ばかり現場に回してくる人たちが何も理解していないでは、情報を理解し処理する部分に何かしら深刻な問題でもあるのかという話にもなりかねないでしょうにね。

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