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2009年12月14日 (月)

出産一時金制度を悪用する産科医?!

面白いと言ったらいささか不謹慎ですけれども、先日こんな記事が出ていまして「へえ」と少しばかり感心したものでした。

【産科医解体新書】(65)悪用された出産一時金(2009年12月8日産経新聞)

 先月、群馬県伊勢崎市で出産一時金詐欺未遂容疑で、27歳の女性が逮捕されるという事件がありました。世の中にはいろいろなことを考える人がいるものです。

 出産一時金制度では、赤ちゃん1人に対して約40万円、妊娠12週を経過後に中絶手術をした場合も同じぐらいの金額を受け取ることができます。女性は前に赤ちゃんを産んだことがあり、そのときの出産証明書の記載内容を修正液で消してコピーし、「妊娠継続不可」と加筆して中絶証明書を偽造したそうです。

 確かに40万円は大金ですが、この女性は「双子を中絶した」として、倍の金額を要求したそうです。どうせうそをつくなら8つ子にして300万円ぐらい請求してもよかったのに、そこは常識が働いたのでしょうか。もしも人間がウサギやネズミのような多産の動物だったら、出産一時金制度は破綻(はたん)していたでしょう。

 しかし、悪いことはできません。1人だけの請求なら書類はそのままスルーした可能性があったのに、双子にしたために、市の担当者が書類にあった産婦人科に確認の電話をかけ、うそが発覚したのです。

 出産一時金を何に使ってもかまいませんが、実際にはほぼ同額の分娩(ぶんべん)費用が持ち出しになりますから、その費用を相殺しているにすぎません。育児には何かとお金がかかりますから、そのための補助的意味合いもあるでしょう。

 出産一時金で「いっちょ、もうけてやろう」と考える人がいると聞けば、一瞬わが耳を疑います。詐欺をしておいしいものを食べさせてくれる親よりも、貧乏でも正直に生きることが大事だと育ててくれる親の方が、子供の将来のためには絶対いいはずです。

 この事件が報道された後、僕の勤務先のクリニックには、一度も赤ちゃんを産んだことのない女性から出産一時金の件で何件か問い合わせがありました。そんな問い合わせは今まで一度もなかったのですが、まさかこの事件をまねて詐欺をしようとしているのではない…ですよね。(産科医・ブロガー 田村正明)

しかし出産一時金というと少子化対策ということで出来上がった制度であったように記憶していたのですが、妊娠中絶に対しても出すということになりますと制度の意義としてどうなんでしょうね?
いずれにしても何であれ制度というものが出来上がるとそれを悪用するアイデアというものは尽きないのだなと思うところですけれども、実はこの出産一時金に関して当の産科医自身が制度の悪用を非難される立場となっていることを御存知でしょうか。
先日出ました地方紙の小さな記事ですけれども、ここには厚労省担当者の産科医を叱責する厳しい言葉が載せられているのですね。

妊婦補助病院が「吸収」 県内5施設増額相次ぐ 「便乗」と批判の声 出産一時金で負担↓+分娩介助料↑≒0  /山梨(2009年12月11日山梨日日新聞)

 山梨県内で出産を扱う7病院のうち、5病院が妊産婦に請求する分娩(ぶんべん)介助料を4万~5万円引き上げたり、増額を検討していることが分かった。出産育児一時金が4万円アップされているため、妊産婦の負担はほとんど変わらないが、国が少子化対策として打ち出した補助を病院側が“吸収”した格好。病院側は「介助料のアップで増収を図り、経営改善や医師の処遇改善を目指す」としているが、妊産婦からは「一時金の増額にかこつけた便乗値上げ」との批判も出ている

 出産育児一時金は、出産にかかる経済的負担の軽減を図るため、公的医療保険から妊産婦に支給されている。10月に4万円増額されて42万円になった。
 一方、分娩を取り扱っている県内7病院(診療所、助産院を除く)のうち、山梨大付属(中央市)、山梨赤十字(富士河口湖町)、甲府共立(甲府市)の3病院が10月から分娩介助料を値上げ。山梨大付属は5万円増の23万円、山梨赤十字は4万円増の21万5千円とし、甲府共立も4万円引き上げた。
 このほか、市立甲府は4月に4万円増額しているが、来年4月にはさらに4万円引き上げて14万円とする。国立病院機構甲府は「他病院の状況を見ながら4月の引き上げを検討する」としている。引き上げを実施、検討している5病院の分娩件数(2008年度)は約3千件に上っており、多くの妊産婦が出産育児一時金アップの恩恵を受けられない可能性がある。これに対し、富士吉田市立は08年4月に7万5千円引き上げて12万5千円としており、「現時点で改定の予定はない」。県立中央は現在7万円だが、引き上げに関しては「未定」としている。

 相次ぐ引き上げの背景には、経営再建や医師の処遇改善を図りたい病院側の事情がある。山梨大付属は産科医、助産師の待遇改善に向け、引き上げ分を4月から支給を始めた分娩手当の原資に充てる方針。市立甲府は08年度決算で9年連続の単年度赤字を計上しており、「再度の介助料引き上げで経営健全化を図りたい」としている。山梨赤十字や甲府共立は「一時金の増額に合わせれば妊産婦の負担増は避けられ、理解も得られやすい」と説明している。

 相次ぐ介助料引き上げの動きに対し、厚生労働省の担当者は「出産育児一時金の増額は医療機関に対する援助ではなく、緊急少子化対策の一環として妊産婦を援助するのが目的」と苦言。甲府市内に通う山梨市の妊婦(32)は「出産育児一時金の増額を喜んでいたので、病院の対応が心配。景気が悪い中で、経済支援は妊婦の精神的な安定にもつながっているので値上げはやめてほしい」としている。

以前にある産科の先生が試算したところでは、きちんと現代の医療水準に則ってお産に関わる費用を積み上げていくと少なくとも40数万円という程度にはなると言いますが、これに対して議会の同意が得られなければ分娩料金も引き上げられない公立病院ではちょっとあり得ないような価格設定が未だに続いているところが多いようです(記事を見ても価格がまちまちですよね)。
つまり基本的に公立病院の価格設定ではまともなお産管理はできないはずなんですが、持ち出し価格で赤字を幾らでも垂れ流していい(そして、実際大赤字を垂れ流している)公立病院に相場を引きずられて周辺のお産を扱う民間施設が大迷惑という、とんだ民業圧迫があちこちで聞かれるところで、こうした不当な分娩料金抑制が産科崩壊の原因の一つとなっていたことは想像に難くありません。
2009年1月に例の保険料負担で3万円引き上げの38万円になった折にも「この財政の厳しい折に」という声が結構ありましたけれども、国の財政が厳しいということであれば産科の財政も同じく厳しいわけで、少なくとも自由診療であるはずのお産費用で原価割れの価格設定継続を強要されるのもおかしな話であるという気がするところですけれどもね。

しかし厚労省担当者の発言自体は実のところ従来の政府見解丸写しに過ぎないのですけれども、前後に勝手に言葉を補って巧妙に読者を誘導する手腕は、地方紙といえどさすがマスコミだけに侮れないといったところでしょうか?(苦笑)。
いずれにしても出産費用を補助するというのであれば適正なコスト分をちゃんと補助するべきという話ではないかとも思う一方、妊婦の負担増による影響と産科崩壊による影響と、今の時代にあってどちらがより大きな社会的影響を与える問題なのかという評価も必要ではないかと思います。
産科医の減少以上に分娩取扱施設数は激減の一途を辿っていますけれども、実際問題あちこちで「産みたいけれども産む場所がない」だの「産もうとしたら一杯だと断られた」だのといった話は幾らでも聞こえてくることは一般の方々にも最近ようやく知られるようになった話です。

やはり医療も経済原理を離れて続くものではない以上、社会的に適正な評価を行っていかないことには人材も集まってこないし、幾ら続けようという熱意があっても赤字では続けられないものであって、実際もはやお産取扱は病院にとって貴重な収入源からお荷物へと転落してしまっているという現実があるわけです。
最近では少しでも産科医の負担を軽減しようとチームを組んでの分業制の徹底なども議論されていますけれども、後になってこういう話が出てくるからこそその経費負担ということについても早急に話し合っていかなければならないように思いますね。

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コメント

東京都や神奈川県川崎市立病院等もそうですよ。周りの病院も値上げしたので、内の病院も値上げする事にしました。今後の病院改善や維持とか言いながら、入院内容はほぼセルフサービス。食事は質素で具材は少量等と酷いモノでした。

投稿: 上野 | 2013年10月 7日 (月) 14時45分

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