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2009年12月 9日 (水)

民主党政権、禁断の領域に踏み込む?!

先日ロハス・メディカルさんにこういう記事が上がっていたのをご覧になりましたでしょうか。

「正体不明」の3800億円―柔道整復師の年間保険請求額、医療費議連での議論(2009年12月8日ロハス・メディカル)

 「整形外科医が行う運動器などのリハは年間5600億円。一方で柔道整復師による捻挫などへの施術には3800億円が使われている。これをどう見るか」「柔道整復師への保険給付費が日本の医療統計のどこに入っているのか、何度厚労省に聞いても分からない。正体不明の数字だ」「接骨院も整形外科も、患者にとっては両方に『先生』がいる」―。腫物に触るように扱われ、医療界の"ブラックボックス"とされる柔道整復師の保険請求問題が、にわかにできたばかりの民主党の医療議連で話題に上がった。(熊田梨恵)

 先月末に発足した民主党の国会議員から成る「適切な医療費を考える議員連盟(桜井充会長・参院議員)」は3日に会合を開き、日本臨床整形外科学会などからヒアリングを行った。「事業仕分け」で年間収入が「4200万円」と示された整形外科医の「現状」に対する反論が主な内容だったが、国会議員との意見交換では思わぬ方向に話題が逸れた。医療界では誰もが腫れ物に触るように扱う、整形外科医と柔道整復師の間にある問題だ。
 
 接骨院などにいる柔道整復師が行う、急性期の打撲や捻挫、応急手当としての骨折や脱臼への施術は保険請求が認められているが、通常の診療報酬請求手続きとは違い、療養費の「受領委任払制度」での手続きになる。この制度が問題で、桜井会長が議論中に指摘したように中身のチェックができないとして「不正の温床」になっているとの批判が多い。この受領委任払い制度での保険請求額は2006年度には約3200円と推計され、保険請求の範囲を拡大解釈した不正請求問題が報道でも取り沙汰された。このような制度が必要になったのは、制度が始まった1936年当時は整形外科医が不足しており柔道整復師による施術が必要だったなど、さまざまな歴史的背景があると言われている。
 
 また、この制度では、患者は医療機関と同じように自己負担額を支払うだけになるため、通常の保険請求との仕組みの違いが分からず、整形外科「医療」ではなく柔道整復の「施術」を受けているという区別がつかないとして医療界から批判が上がっている。さらに、柔道整復師による慢性疾患への施術は生命に危険が及ぶとして、日本整形外科学会は02年に、業務範囲の順守や受領委任払制度の廃止を求める要望書を当時の厚生大臣に提出していた。
  
 このほか、業界団体の利権問題もささやかれる。厚生労働省は03年に柔道整復師らが「ほねつぎ」「接骨」などを広告できるよう制度改正の準備を行っていたが、「『慢性期疾患は柔道整復師の保険適用ではないことを明示することを義務付けるべき』等の慎重な御意見」(厚労省ホームページより)があったことなどから、見送られていた。

 柔道整復師に関するこれらの問題はあまりに複雑で利権も絡むため、医療界の"ブラックボックス"と言われている。
(略)

接骨院だとか柔道整復師というもの、あちこちで看板は見かけますけれども、記事中にあります「受領委任払制度」ひとつとってみてもあちらこちらでの議論を眺めるだけでも、なかなか面白い話だなと思うわけですけれども、それはともかく。
この柔道整復師も元をたどれば非常に古い技術体系なんだということですけれども、戦前の頃はまだまだ整形外科医なんてものが少なかった頃もあって軽度の外傷は医者にかかるまでもなかろうと接骨院で扱っていた、その名残で外傷性の捻挫・打撲や医師の同意がある場合の骨折・脱臼の施術といった急性期の処置に関して今でも保険診療が認められているのですね。
当然ながら慢性期の肩こり、腰痛といったものに関わる施術に関しても扱っているわけですが、これらはあくまで保険診療ではなく整体やカイロなどと同様の自費診療となるはずなのですが、実際には「保険が使える安いマッサージ」的な認識をされてきたという事情が先のロハス・メディカルさんの記事中の下記の発言からもうかがわれます。

[藤野圭司・日本臨床整形外科学会理事長]
今日は柔道整復師の方たちのデータは出しませんでしたが、かなり詳しくは出てまして、全体で見ますと、整形外科のリハビリテーション、運動器リハだけでなくて脳血管など全部合わせて大体今(年間)5600億円ぐらいと言われています。それに対して柔道整復師は基本的に打撲、捻挫だけですね。そして応急手当としての骨折や脱臼、それで使われているお金が(年間)3800億円です。これは柔道整復師の方が高すぎるというのか、医師のリハビリテーションが安過ぎるのかどうだろうかと思いますが、私たちはこれでは低過ぎるのではないかと思っていますが、いずれにしろそれぐらいの差しかないです。これにはいろいろ問題があります。
 
[桜井会長]
これはね、レセプトのチェックができないんですよ。
 
[国会議員]
具体的に地元でですね、たまたま両隣りが整形外科と接骨院で、整形外科より接骨院が滅茶苦茶流行っている(会場笑い)。地元の住民の方は両方「先生」だと。ご理解が、区別が十分についていないんです。
 
[安達秀樹・京都府医師会副会長]

私は整形の立場ではございませんで、私は内科医ですが、内科医が見て、整形外科と柔整の問題というのはいろいろあります。オーバーホールで年間3800億円が整形のリハと比べて非常に近い数字だということの中には、今藤野先生は遠慮して言われなかったと思うから、僕が言いますけど。基本的に3割(自己負担を)払われて、6割7割を保険組合に請求されるというシステムを使う、療養費の「受領委任払制度」の対象の疾患は急性期の捻挫と打ち身なんです。その拡大解釈が際限なく今行われて、同じように保険を使われている形になっていることが問題で。これは長い論争がありまして。簡単に言いますと、脊椎が少し曲がっている。その結果、「右の背筋が捻挫で痛いです」と。治療しましたと。3か月するとその病名が「左の捻挫」に代わるんです。右を庇ってる結果、左が痛くなって「急性期で捻挫です」と。3か月するとまた「右」に戻る。左を庇ってたら右が痛くなる(会場がざわつき、大きな笑いが起こる)。これで延々と続いていく。つまり、アメニティー部分としてのマッサージやなんかのところにまで非常に広く拡大解釈がされて、それが使われていることがありまして。それをお受けになる皆さんにとってもこれは保険がきく話だ思ってらっしゃるということが、今起こっている現実だということ。

三カ月おきに新しいところに受傷したことにして慢性期の治療を保険診療で行う、こういう接骨院の「部位転がし」というものはかねて不正請求として指導、監査を強化すべきであると言われていたところですけれども、そもそもこの請求がずいぶんとザルであったことは医療機関で保険請求に関わった経験のある方であれば一目でお分かりになろうかと思います。

柔道整復師の施術に関して指導・監査の強化等を要請(健保連大阪連合会HP)より抜粋

(3) 療養費支給申請書の記載方法および様式等について

  ①申請書への患者自身による署名、押印を徹底化する。

  (理由)申請書の受取代理人の欄については、「患者の自筆により被保険者の住所、氏名、委任年月日の記入を受けること。患者が記入することができない場合には、柔道整復師が自筆により代理記入し患者から押印を受けること」となっている。しかし現状では、月の初めに署名を受けるといった白紙委任の問題や、柔道整復師による不正な署名・押印などの問題が起きており、原則どおり運用されるよう指導願いたい。

  ②申請書は月単位での作成に限定する。

  (理由)申請書の作成について、受領委任の取扱規程では「申請書を月単位で作成すること又は一の申請書において各月の施術内容が分かるように作成すること」とされているが、医療機関におけるレセプトと同様に月単位での作成に限定する。

  ③申請書に施術実施日欄を設ける。

  (理由)現行の申請書の様式では、施術実日数の記載欄はあるものの、施術日の記載欄がなく、いつどんな施術を受けたのか把握できない。あんま・マッサージ、はり・きゅうの申請書の様式には施術日の記載欄が設けられており、同様に施術日数の内訳もしくは施術日の記載欄を設ける。

わざわざこういうことを指導する必要があるということは、今まではそれもやってなかったのか?と思わされるような話ですけれども、もちろん全ての接骨院が不正請求をやっているなどというつもりもありませんが、問題はこうしたあいまいな行為に基づく保険請求が認められている柔道整復師という資格所持者が年々急増していることです。
平成20年現在の柔道整復師の資格所有者は4万人余りと、これも整形外科医の数と比べれば随分と多いんだなと思うところですけれども、元々年1000人ほどだった養成者数が2000年ごろから急増して現在年8000人、そして国家試験合格率も8割前後と言いますから、これは今後もものすごい勢いで増加していくのだろうなとは誰にでも理解できる話ですよね。
そしてそのうちの一部でも前述のような形で不正な保険請求をやっていくということにでもなれば、これはすでに無視できないレベルの話になってくることも想像に難くないところです(柔道整復師は医療で言うところの入院に相当するような重症例はほとんど扱っておらず、ほぼ開業医の外来診療に相当する部分だけを担当しているという点にも留意ください)。

このあたりのグレーゾーンに関してはかねて色々と言われながらもなんとなくアンタッチャブルな領域となっていましたけれども、民主党政権はとうとうここに手をつけることを決意したということなのか、先の仕分け人の評価によってもこんな話が出ています。

行政刷新会議「事業仕分け」:「柔道整復師の療養費に対する国庫負担」への評価結果(2009年11月13日厚生労働省)より抜粋

<柔道整復師の療養費に対する国庫負担>

●柔道整復師の養成数を管理できる法制度にする必要がある。

●柔道整復師の療養費の保険給付は、2部位80%、3部位50%くらいでよい

●柔道整復師の治療については、不正治療の疑念はぬぐえない。適正な保険給付に向けた改善を実施する必要がある。

●3 部位請求に4部位同様、状況理由を報告させ、給付率を33%に引き下げるべき。同時に養成定員を減らすべき。

●柔道整復師の総数を抑制する手段を講じるべき。

<WGの評価結果>

見直しを行う

このあたり、柔道整復師出身で最近まで厚労省に勤務していたという経歴を持ち、HPトップにも「柔道整復師・鍼灸師を応援しています」と大書きされている上田たかゆき氏のHPでのコメントが参考になりますので、あわせてご一読いただけるとよろしいかと思いますね。

【参考】昨日11日の行政刷新会議WGの結果について(2009年11月12日ブログ記事)

もちろん不正請求は論外としても、医療費削減政策といっても痛しかゆしで、おそらく柔道整復師にかかっている慢性期のお年寄りがそろって整形外科に移ってくるとなると多大な医療費支出増になる、そうであるからこそ今回も廃止ではなく見直しで決着という形を目指しているのだろうと思います。
先には漢方薬や市販薬類似品が保険適応外になる?なんて話が急に飛び出してきて大騒ぎになりましたけれども、思うに現在の医療というものはEBMだ何だと非常にうるさくなっていて、科学的な裏付けのないものに対しては財政的にも厳しい対応となってくるのはやむなしなのかという気もするのですけれどもね。
例えば薬というものは対象薬(薬効のない偽薬や在来品)と比べて同等以上に効果があるといったことをデータで証明しなければ認可されないシステムになっていますけれども、漢方薬に関してはこうした検証がされていないまま「昔ながらの薬だから」ということで保険適応になっている、そうであるからこそ薬の本などを見ても一般薬とは副作用情報など全く記述の内容も異なっていることがわかりますよね。

整形外科領域にしても海外で有効なデータが出ているのに保険収載されていないから使えないということは多々あるでしょうが、何しろ今の医療機関の財政からすると幾ら患者の為になりそうだと言ってもコストを取れないやり方など使えない、その一方で柔道整復師は効くのか効かないのかもろくに検証されていないことをダラダラと続けてほぼフリーでお金を受け取っていると思えば、確かに面白くはないんでしょうね。
もともと医者(特に整形外科医)と柔道整復師というのは仲が悪いので有名だなんてことを言われますけれども、部外者的立場で考えるならやはり同じ程度に公のお金を使っているということであれば、その支出に対する厳しさも同じ程度に要求されてしかるべきではないかという気はしますけれどもね。
もちろん柔道整復師のやっていることが効かない、無駄であると言っているわけでは全くありませんが、それがどの程度の有効性を持っているのか、それに対してどの程度のお金を出すことが妥当なのかという検証は、当然保険診療の他分野と横並びできちんと評価されていくべきではないかということです。

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コメント

健保組合の職員です。「柔道整復師への保険給付費が日本の医療統計のどこに入っているのか」という問題ですが、健保組合などが月報として厚労省に報告をしている項目には、平成17年度までは保険給付の法定給付費の療養費だけでしたが、平成18年度から療養費の内訳(再掲)として「柔道整復、はり・きゅう、あんま・マッサージ」別に報告することになりました。したがって、少なくても2006年度から統計を取ることができるはずではないかと思っています。当健保組合では、柔整療養費の適正化に取り組んでいるため、国全体とか組合管掌・協会けんぽ別に柔整療養費の動向を知りたいところですが、総務省の統計とか厚労省の白書とか探しても見当たりません。数字だけ集めて発表しないのは怠慢です。

投稿: 浪速のプ二ちゃん | 2010年8月30日 (月) 14時35分

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