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2009年11月 5日 (木)

最大の紛争解決法はそもそも紛争に至らせないこと

以前にも紹介しました名古屋大病院での事件ですが、三ヶ月たってようやく一定の解決に至ったようです。
もちろんここから先にまだ長い道のりが待っているのではないかと思いますが、亡くなった患児にとっては到底望ましい状況ではなかっただけに、まずは喜ばしいことではないでしょうか。

死後3カ月半やっと解剖、別の病院で 名大男児遺体安置(2009年11月4日朝日新聞)

 名古屋大病院(名古屋市昭和区)で7月に亡くなった中国籍の1歳男児が院内に安置され続けていた問題で、医療ミスを疑う遺族が望んだ第三者による病理解剖が3日、行われた。当初、安置が長引いた要因は遺族側にあるとしていた病院が「第三者による解剖が実は可能だった」と確認不足を認めて謝罪するなど、異例の展開をたどった問題は、男児の死亡から3カ月半を経て一区切りを迎えた。

 遺体は同日昼過ぎ、霊安室から運び出され、藤田保健衛生大(愛知県豊明市)に向かった。解剖は遺族側弁護士立ち会いの下、約2時間行われたが、遺族によると、遺体の傷みが進んでおり、担当医の説明では死因に結びつくような話は特になかったという。病理的な分析は今後1カ月ほどかかる見込みだ。

 遺族は「事前の説明でも、解剖はほぼ意味がないと言われたが、わずかな望みにかけるしかなかった」と話した。遺族は5日にも遺体を引き取り、火葬する予定だ。

 今回の解剖は、付属病院を持つ愛知県内の4大学が当番制で県内の医療機関から解剖を受け付ける「剖検運営システム」を利用した。名大の説明では、この制度の利用を模索したが、名大の確認不足で当初は断念したという。

 窓口になる愛知県医師会によると、この制度は元々、自前で病理解剖ができない病院や開業医の利用を念頭に置き、死因を学術的に調べるケースがほとんどだった。

 このため、遺族が医療ミスを疑う今回のケースは「剖検システム」よりも、厚生労働省が愛知県でも実施している「医療関連死調査分析モデル事業」の方がなじむという声が医療関係者の間には少なくない。「診療行為に絡んだ死亡例を扱う事業の趣旨にもマッチし、速やかに解剖できたのではないか」と指摘する声もある。だが、名大はモデル事業の利用を見送った。その理由を「愛知ではモデル事業を異状死に限定して運用しているが、今回は医療過誤には当たらないと院内の検討会で結論づけており、対象外だと判断した」と説明する。

 名大病院は今後、弁護士を長とする第三者委員会を立ち上げ、遺体安置の長期化につながった管理態勢の問題や、医療ミスの有無について検証すると表明している。(兼田徳幸)

前回の折にも書きましたように色々と行き違いもあって無用に長引いた話という印象ですが、名大側も解剖に回す意思があったということであれば、今の時代こうしたシステムは次第に整備されつつあるわけですから、もう少し積極的に手だてを探してみても良かったようには感じるところです。
いずれにしても根本的には病院側と患者・遺族側との意思疎通の問題が最初の出発点ということになるかと思いますが、今回の件でも遺族が名大ではなく他施設での解剖を主張したことが長引いた原因となったことでも判るように、当事者間だけで問題解決を図ろうとしてもどうしても限界があります。
最近では弁護士などが中心になって医療版ADR(裁判外紛争解決手続き)の設立が各地で進んでいますけれども、紛争に至るもう少し前の段階で両者の対話を促す医療メディエーションという事業も次第に盛んになってきています。

医療メディエーション(2009年10月13日47ニュース)

「メディエーション」には、法律上の手続きである「調停」の意味もあるが、医療界では医師や病院など医療側と、患者側とが向き合う場をつくり、両者の対話を仲介、促進する手法のことを指す。メディエーションで中心的役割を果たすのがメディエーターで、病院では通常、研修などで専門的技法や能力を身につけたスタッフが、偏りのない第三者として医療側と患者側の対話の仲立ちをする。院内で進められるメディエーションでトラブルが解決しない場合、裁判や調停のほか、第三者機関が解決を促す裁判外紛争解決手続き(ADR)も各地で取り組みが進んでいる。

メディエーター普及を 医師ら支部設立シンポ /愛媛(2009年10月13日愛媛新聞)

 医療訴訟などの増加で、病院と患者のトラブルを両者の話し合いによって解決に導く「医療メディエーター」(医療対話仲介者)が注目される中、日本医療メディエーター協会四国支部がこのほど発足、記念シンポジウムが12日、松山市三番町4丁目の県医師会館であった。患者側や医療現場からの講演があり、その意義や役割について考えた。
 医療メディエーターは、中立的立場で医療者側と患者側の「橋渡し役」として当事者に対話を促すことで紛争解決を目指す。
同協会が専門トレーニングを受けた医療関係者を認定している。医療の安心の観点から、民主党は政策集に、一定規模以上の医療機関へのメディエーター配置を盛り込んでいる

導入後に紛争減少も 開業医も研修受講(2009年10月13日47ニュース)

 医療メディエーター養成の研修プログラム認証などを行っている日本医療メディエーター協会によると、2004年度に試行的に始まった研修の受講者は年々増え、09年度は1500人を超えると予想されている。
 愛媛県医師会は会員の医療機関の50床に1人の割合でメディエーター配置を目指しており、08年に約80人、今年も7月までに計90人の医師や看護師、事務職員らが研修を受けた。
 会員の病院や診療所で起きたトラブルで、医師会の紛争処理委員会が扱った件数は、01年以降、毎年15件以上が続いていたが、08年には7件に減少。「紛争防止策として初期対応の重要性が認知され、メディエーション普及とも関係していると考えている」(事務局)という。
 規模の大きい施設の職員が中心だった研修の受講は、開業医にも広がっている。「ハシイ産婦人科」(京都市西京区)の橋井康二院長ら、メディエーションに関心を持つ産婦人科、小児科医らは9月中旬、都内でグループを立ち上げ、各施設の看護師らとともに研修を受けた。
 橋井さんは3年前まで勤務していた京都市内の総合病院で、緊急手術の説明をめぐり患者側から苦情を受けた。この際、メディエーターの仲介で理解を得られたことから、コミュニケーションの重要さに関心を持った。
 小規模の施設では、第三者として活動するメディエーターを置くのは難しいといい、橋井さんは「われわれ自らがメディエーションの考え方を身につけ、一対一で対応していくことに主眼を置いている」と説明する。
 メディエーションの姿勢は親子関係や教育にも応用が可能ではないかといい、産婦人科医や小児科医が機会をとらえて伝えていくことで、育児放棄、虐待といった問題にも貢献したいという。
 医療メディエーターの認定は、弁護士以外の者が紛争処理を含む法律業務に携わることを禁止した弁護士法との兼ね合いで、医療機関の職員に限定されている。
 だが、メディエーションの考え方は医療者と患者のコミュニケーションのさまざまな場面に適用でき、両者のよい関係をつくるのに役立つとして、同協会は各地の市民団体などと協力し研修などを行っている。

記事中では「小規模の施設では、第三者として活動するメディエーターを置くのは難しい」云々と書かれていますけれども、もちろんきちんとした「紛争解決のプロフェッショナル」を用意することは職場管理者の果たすべき責任である一方、こうした対処能力というのはある程度最低限のスキルを全職員が持っていることが望ましいのは言うまでもありません。
考えてみれば一昔前には「お医者様」などと呼ばれた時代から今は「患者様」と短期間で180度の価値観の転換が起こっている、そんな中で現在の医療現場は昔風の「(誤用的な)由らしむ可し、知らしむ可からず」をよしとする教育を受けた世代も、今風の「インフォームドコンセント至上主義」を是とする教育を受けた世代も混在しているという、なかなか面白い状況にあるわけですよね。
どちらの態度が正解というよりこれら両極端の中間にあって、しかも相手のキャラクター等を見ながらのケースバイケースでスタッフと顧客との適切な距離感をその都度保っていくというのが医療に限らず接客業の基本なんだと思いますけれども、最近ようやく教育の方面でもこうした生の顧客対応が取り入れられるようになってきたのは良いことだと思います。

模擬患者ボランティアが医学研修を支援(2009年09月25日福島放送)

患者と良好なコミュニケーションがとれる医師を育てようと、福島市の福島医大医療人育成・支援センターは模擬患者の養成に取り組んでいる。
臨床現場でどのように患者と接すればいいかを、医学生や研修医らが実践的に学ぶのを支援する市民ボランティアだ。
11月に養成講習を修了して以降、教育現場などで活躍してもらう。

講習に参加しているのは、県内などの主婦を中心に農家、サラリーマンなど40歳代から60歳代の約20人。
今年3月から月1、2回、「がんの告知」や「頭痛」など教員らが作成したシナリオをもとに、患者になりきって学生らの問診に的確に答えられるよう練習を重ねている
石川和信医学教育副部門長は「医療の満足度アップにつなげたい。今後、学生の臨床実習や研修医教育における模擬患者の活用状況をみながら人数を増やしていきたい」と話している。

一昔前には医療従事者は性善説に立つあまりにトラブルに対して無防備すぎた時代もありましたが、最近ではいわゆるモンスターペイシェントであるとか、クレーマーであるとかいった問題もあって、医療従事者側がいささかトラブルに対して過敏になってきているところがあるように思います。
要するに少しでもトラブるかな?という予感がしたところで強固な障壁を築き上げてしまうというわけで、これではクレーマー以前の段階にある患者さんにしても「こいつ、俺に含むところでもあるのか?」と良い気持ちにならないのは当然ですから、そのつもりはなかったとしても余計に態度を硬化させてしまうのは当然ですよね。
このあたりの対応の要領はある程度は場慣れと言いますか、どれだけの修羅場をくぐってきたかという経験次第というところがあって、ある程度色々な状況を経験して自分に余裕があれば多少相手が突っかかってきても自然に受け流せる、結果として顧客との関係がうまくいくというのは接客業の皆さんであれば当たり前に体感しているところだと思います。
医者など受験勉強や奴隷医生活などでストレス耐性が高そうに思えますが、案外他人の悪意というものには弱いなんてかわいいところがあったりするもので、ちょっと厳しめに突っ込みを入れると途端にオタオタしてしまう人間が結構多いのは正直いざというときこの人は頼りになるのかね…と不安を感じさせる要素にもなることは自覚しておいた方がよいでしょうね。

ここからは全くの余談かつ個人的見解ですが、飲食業などでも厨房担当者に敢えてホール係をやらせるといったことがあるようですけれども、医者という職種も良くも悪くも色眼鏡で見られ何をしていても医者の立場から離れられないところがありますから、いっそ医者稼業はおろか医療からも完全に離れたところで修練を積んだ方がいいのかなという気もしています。
学生時代なども実入りの言い家庭教師のバイトばかりしていた奴よりも、安くても小売り業や飲食店で不特定多数相手に鍛えられてきた人間の方がこと接遇スキルに関しては明らかに上だと感じさせられるなんてことが多々ありますが、医者としてのトレーニングしか積んでこなかった人間はどこまで上達しても結局医者としての会話しか出来ないもののようです。
総合大学などでも医学部はしばしば地理的に隔離されていたりして部活などでも他学部と交流が乏しかったりしますが、世の中どんな地位、職業の人間でもおよそ病院に来ない人間はいないというくらいに顧客のレンジが広い仕事なんですから、白い巨塔(笑)に籠もっていないで色々な価値観に積極的に関わってみるのもいいんじゃないかなと思うんですけれどもね。

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