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2009年11月20日 (金)

情けは人のためならずと言いますが

先日水戸地裁で婦人科手術後の死亡症例に対する損害賠償請求が認められた記事がありましたが、ご覧になった方もいらっしゃるかと思います。
こういう事例こそ無過失補償制度の対象になればよいと思うのですが、それはともかくこの件で興味深いのがあの高名なる打出喜義先生が非常に重要な証言をしていたらしいのですね。

筑波メディカル病院・術後死:7600万円支払い命令 粘り強い追及実る /茨城(2009年11月17日毎日新聞)
 

◇遺族「医師らしく罪認めて」
 「原告勝訴が難しい医療過誤訴訟で、今回は全面勝訴だ」。卵巣腫瘍(しゅよう)摘出手術後、腹腔(ふくこう)内の大量出血で死亡した坂東市の小林佳子さん(当時25歳)の遺族が筑波メディカルセンターと執刀医2人を訴えた損害賠償訴訟で、病院側に約7600万円の支払いを命じた水戸地裁土浦支部(犬飼真二裁判長)の判決について、担当弁護士は勝利の重みをかみしめるように強調した。「勝訴」を導いたのは、病院側説明や記録の問題点を突き、証拠の信ぴょう性を揺るがせた、粘り強い追及だった。【橋口正】

 小林さんは02年6月28日午後2時40分ごろ手術を終え、9時間後の午後11時半、心肺不全の状態に陥っていた。司法解剖の結果、腹腔内に2リットルもの大量出血が確認された。

 訴訟で病院側は、同11時ごろは「異状はなかった」と主張し、わずか30分の間に2リットルもの出血があったと説明していた。

 これに対し原告の千葉憲雄弁護士らは、産婦人科分野の臨床研究で実績のある金沢大学の打出喜義講師に意見聴取を行い、「大動脈破裂でもない限り、大量出血は考えられない」という証言が得た

 原告側は「看護師のノートは改ざんされた可能性がある」として、午後11時の所見記録を記した看護師の証言を要求。口頭弁論で看護師は、ノートの記載は小林さんが死亡した翌29日の昼ごろ「清書した」もので、28日夜に書いたのではないと認めた。これが病院側の証拠を打ち崩すきっかけになった。

 小林さんの父・真二さんは判決後の会見で「病院の管理は、あまりにもずさん。医師なら医師らしく自分の罪を素直に認めてほしい」と厳しい表情で語り、「命を返してもらいたい」と訴えた。

打出氏と言えば数年前にもES細胞をめぐる発言で物議を醸したりとマスコミも御用達のコメンテーターとしてもなかなか多彩な経歴を誇る先生ですけれども、大野病院事件における発言などを見てもどうやら妙に一部方面から便利使いされていらっしゃるのではないかと心配になってくるのですが、案の定さっそく大人気になっているようです。

429 名前:卵の名無しさん[sage] 投稿日:2009/11/18(水) 00:28:59 ID:IE9l34zp0
でも
>大動脈破裂でもない限り、大量出血は考えられない

こいつの臨床能力ってかなりアレだと思うんだけど・・

439 名前:卵の名無しさん[sage] 投稿日:2009/11/18(水) 12:53:06 ID:CbsjsbJg0
>>「大動脈破裂でもない限り、大量出血は考えられない」

付属器切除もしたことない産婦人科講師って...
ああ、産科専門なんだっけ。それなら卵巣動脈が
どこから出てるか何て知らないよなw

452 名前:卵の名無しさん[] 投稿日:2009/11/18(水) 21:39:41 ID:hnSf5C/f0
つまり、この出血は骨盤内の婦人科手術由来のものではありえない
という証言ですよね

打出氏の見識はともかくとしても、近頃では事故調などの流れもあって死因究明ということへの関心が高い、転じてその矛先が責任追及に向くのではという懸念は相当に広がっているようにも感じますが、先ごろ報道された産科関連の論文激減というニュースもあるいはそういう流れの中に関連付けられる話でしょうか(やや記事の内容はピントはずれな印象もありますが…)。
避けがたい民事のリスクは別としても、どうも医者は訴訟リスクというものを心配し過ぎであるという司法関係者の声が多かった時期がありましたが(今でも基本的にはそうなのでしょう)、一方で多くの医療従事者が抱えているのは具体的なリスクの大小ではなくもっと漠然とした不安感に近いものでしょうから、具体的に数字を挙げて「ほら、こんな程度なんですよ」と言われてもなかなか払拭しがたいんだと思いますね。
このあたりは交通事故のリスク(あるいは違反でお巡りさんに御厄介になるリスクの方がより近い感覚でしょうか)に対する運転態度の決定と同様に、最終的には各人の考え方や業務内容に応じて自分なりに対応していくしか仕方がないのかなとも思うところですが、そうは言っても現実的にリスクに対する当事者の恐れから社会が不利益をこうむる状況ともなれば、状況を改善すべきボールは社会の側にあるのだと思いますね。

医療の世界でも最近は裁判以前の段階での調停制度もいろいろと整備され利用の呼び掛けもされるようになりましたが、ようやく医療が社会資本であるという認識が広がりつつあるところ、それが効率よく働くように整備し維持していく環境を整えていくのは社会の仕事であるという考え方も広く認められるようになってきたのだとしたら非常に良い傾向だと思いますね。
その意味で産科医療保障制度の報告書に関する議論がなかなか興味深いものがありますので、紹介しておきましょう。

責任追及の質問には「答えられない」-産科補償制度で事務局案(2009年11月9日CBニュース)


 日本医療機能評価機構の産科医療補償制度原因分析委員会(委員長=岡井崇・日本産科婦人科学会常務理事)は11月9日、第9回会合を開いた。前回会合で再び争点となった「結果回避の可能性」の原因分析報告書への記載について、事務局は「(家族からの)医療提供者の責任追及につながる質問には答えられない」などとする案を提示したが、意見はまとまらなかった。

 事務局は、「産科医療補償制度の原因分析は、責任追及を目的とするのではなく、『なぜ起こったか』など原因を明らかにすることを目的としている」とする原因分析の基本的な考え方を改めて示した。その上で、家族からの質問には「可能な限りお答えしたい」とする一方、医療提供者の責任追及につながる質問については、基本的な考え方にのっとり、「答えられない」とした。

 これに対し弁護士の鈴木利廣委員は、「責任追及につながる可能性のある質問については一切答えないことが原則ならば、賛同できない」などと述べた。
 豊田郁子委員(新葛飾病院医療安全対策室セーフティーマネージャー)は、「親のためにもある報告書。読んで親御さんが分からない答え方であれば、お金を出してどこかで調べてもらおうという方向に考えてしまうと思う」との懸念を示した。鈴木委員も、「脳性まひ防止が可能であることについてきちんと書けば、示談交渉によって訴訟にならずに、この報告書がまさに紛争解決に役立つ」などと述べ、弁護士の宮澤潤委員も、「よほど金額的な要求の差が大きくない限りは、訴訟は落ち着いていくだろう」との見方を示した。
 これに対し岡井委員長は、責任追及につながる言葉を書き込むことは「全くゼロということはあり得ない」とし、結果回避の可能性の記載について、「『何時何分に帝王切開をしていれば、脳性まひを防げた可能性が高い』という表現はせず、その一歩手前で線引きをしたい。(報告書には)事実は事実として書く。仮定の状況をつくった書き方はしたくない」とした。

 結局意見はまとまらず、岡井委員長は同委員会での決着は難しいとして、別途話し合う場を設けたいとした。

 次回会合は12月15日に開かれる予定。

思うのですが、今回の産科補償制度では先天性のものを除いた周産期の事故によるものを対象にしている(少なくともそういう建前です)、となれば元々非常にトラブルにつながりやすい状況での症例ばかりが集まってくるはずだとは予想できるわけですよね。
そういう状況で言われているような形でのレポートを作成するということになりますと、これは火に油を注ぐことにもなりかねない、医療従事者のメリットはなどと言えば何やら利己的な話のように聞こえますがそもそもひっ迫する産科の現場におけるトラブルを少しでも減らすという当初の目的に適った話なのかと疑問に感じるところです。
てっきり北欧方式にみられるように、事故というものを挟んで不毛な対立の連鎖に陥りがちな患者家族と医療側との関係を補償金請求といういわば共同作業を通じて同じ側に立たせる効果を狙ったものかと思っていましたが、どうもこういう議論の風向きを見てみると認識を改めざるを得ないのかなという気がしています。

今更の話ではありますけれども、こういうことになるのだったらそもそも妙な制限を設けずに全症例一律補償という形にした方が認定の作業などもはるかにシンプルであるし、現場での患者家族と医療側とのやり取りもずっとスムーズにいく(すなわち、後に遺恨などを残しにくい)ようになるんじゃないかと思うんですけれどもね。
今ちょうど例の財政刷新会議絡みでこんなところで支出を増やすような話などあり得ないとは思うのですけれども、医療の危機を救済するといった話で医療従事者の支持を受けた民主党政権でもありますし、何より少子化時代にあって近年小児重視の政策が続いているわけですから、ここは政治的決断力というものを発揮していただければと期待しておきます。

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