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2009年11月26日 (木)

24時間働けますか?

先日こういう記事が掲載されていましたけれども、ご覧になりましたでしょうか。

過労状態で長時間運転命令、運送会社社長逮捕(2009年11月23日読売新聞)

 2人死亡の追突事故を起こしたトラック運転手に過密で無理な運行をさせたとして、福島県警本宮署は23日、茨城県石岡市上曽、運送会社社長萩原昇容疑者(60)を道交法違反(過労運転下命)の疑いで逮捕した。

 事故までの4日間、運転手は連日十数時間~20時間超の運転を命じられ、睡眠は3~5時間だったという。

 発表によると、萩原容疑者は10月下旬、トラック運転手御崎春彦被告(44)(自動車運転過失致死罪で起訴)が過労状態と知りながら、長時間の運転を命じた疑い。

 御崎被告は10月22日深夜、福島県本宮市の国道で信号待ちしていた車に追突。「居眠りしていた」と供述したため、同署が勤務状況を調べていた。

この「過労運転下命」というのは運送業界では結構これで裁判沙汰になっているトピックスのようですけれども、道路交通法では過労運転というものに関して次のように定められていますが、このあたりに関しては2002年の法改正で従来より厳罰化されたというあたりに、社会的関心が現れているということなのでしょうか。

(過労運転等の禁止)
第66条 何人も、前条第1項に規定する場合のほか、過労、病気、薬物の影響その他の理由により、正常な運転ができないおそれがある状態で車両等を運転してはならない。

(自動車の使用者の義務等)
第75条 自動車の使用者は、その者の業務に関し、自動車の運転者に対し、次の各号のいずれかに掲げる行為をすることを命じ、又は自動車の運転者がこれらの行為をすることを容認してはならない。
4.第66条の規定に違反して自動車を運転すること。

医師法には残念ながら同種の規定はないようで、例えば医師法19条に規定される例の応召義務との絡みで「極度の過労状態での診療は拒否出来るのか?」という問題がありますけれども、残念ながら今のところあまり判例の蓄積もないようで、実際に応用するには至っていない状況です。
あるいは平成18年に改正された医療法に追加されました第3章「医療の安全の確保」には下記のような条文がありますけれども、以後に続く条文を見てもこれは患者側の安全に直接関わる部分に関しての規定であって、未だ「医療従事者の過労防止が患者安全に寄与する」という視点はないようですね。

第6条の9 国並びに都道府県、保健所を設置する市及び特別区は、医療の安全に関する情報の提供、研修の実施、意識の啓発その他の医療の安全の確保に関し必要な措置を講ずるよう努めなければならない。

第6条の10 病院、診療所又は助産所の管理者は、厚生労働省令で定めるところにより、医療の安全を確保するための指針の策定、従業者に対する研修の実施その他の当該病院、診療所又は助産所における医療の安全を確保するための措置を講じなければならない。

となりますと、医師の過労に関してこれを防止するための法的裏付けは労基法頼りということになりそうですけれども、これがまた非常に寂しい状況にあるというのがこちらの記事からもお分かりいただけるかと思います。

時間外労働の協定、締結7割=医師含まないケースも-主要病院調査・労組など(2009年11月22日時事ドットコム)

 地域の拠点病院のうち、時間外労働に関する労働基準法の「36協定」を直近1年半以内に結んだ所は7割にとどまることが22日、医師の労組「全国医師ユニオン」などの調査で分かった。協定があっても医師以外の職種を対象とする病院も多かった。
 同ユニオンは「公的医療機関の多くに労基法違反があることが判明した。勤務医の労働問題に関する行政の無作為が過重労働を促進し、医療崩壊を引き起こした」と抗議、法律に基づく労働条件の改善を求めた。
 調査は、全国約8000の病院の中から大学病院、国公立病院、赤十字病院など地域の拠点となる1549病院を選び、労働基準監督署に直近1年半に結ばれた36協定を開示請求した。
 開示されたのは約7割にあたる1091病院。残りは「該当文書なし」などだった。
 協定に医師が含まれると確認できたのは6割弱。看護師などを対象とし、医師が除外されているものも少なくなかったという。

168か所の公的病院が「過労死ライン」の36協定を締結-全国医師ユニオン調査(2009年11月22日ロハス・メディカル)

 大学附属病院や国公立病院など地域の拠点となる国内1549か所の病院のうち168か所が、「過労死ライン」とされる月80時間以上の残業を認める36協定を結んでいたことが22日、全国医師ユニオン(植山直人代表)の調査で分かった。協定を締結する職種に医師が含まれていないものもあることなどから、ユニオンは「全国の公的な医療機関の多くに労働基準法違反がある」との声明を発表。政府与党や厚生労働省に対し、勤務医の労働環境改善や、労基法を順守する医療機関を評価するような診療報酬の創設を求めた。(熊田梨恵)

ユニオンの調査結果は下表の通り。

 調査は国内の病院の36協定の内容を調べるため、大学附属病院や国公立、労災、赤十字、済生会、JA厚生連、国保や一部の民間病院など、地域医療の拠点を担う50床以上の病院を対象に、2008年末から行われた。各病院を管轄する労基署に対し、直近一年半の間に締結された36協定について開示請求し、7 割を占める1091病院の情報を得た。

 36協定の内容で、一日の最大残業時間で長かったものには、「20時間」(大阪)、「16時間」(秋田、佐賀)、「15.5時間」(東京、神奈川、静岡)などがあった。一か月の最大残業時間では、「200時間」(愛知)、「125時間」(山梨)、「120時間」(山形、千葉、東京、滋賀)など。1年間の最大残業時間では「1470時間」(愛知)「1200時間」(東京)「1080時間」(長野)などだった。

 「過労死ライン」とされる月80時間以上の残業を認める協定を結んでいた病院は41都道府県に168か所あった。最も多かったのは東京で25か所、次に兵庫14か所、愛知12か所だった。

 協定が開示されなかった458病院についてユニオン側は、直近1年半で協定が締結されなかったとの見方を示しており、「36協定はその趣旨から毎年締結することが基本。1年半の間に36協定を締結していない病院が30%もみられることは大きな問題」とした。また、協定の内容について申し立てがない限り、自動的に更新することを認める記載が「月120時間の時間外労働を認めている協定に多くみられる」として問題視している。

 また、医師が職種として含まれていない協定があったことを「極めて重大な違法行為」と批判した。さらに、328病院の協定は職種欄が黒塗りされており、「個人情報の公開と全く関係なく、情報公開の趣旨に反する」とした。

 このほか、月の残業を「45時間以下」とする病院が594病院あったことについて、「日本では医師の交代制勤務がほとんどみられず、多くの病院の当直業務が32時間連続労働を前提としている現状を考えれば、45時間以内という協定内容は全く守られていない」との見解を示している。

 ユニオンは同日開いた記者会見で、「医療機関における全国的な労働基準法違反及び勤務医への賃金不払いに抗議する」と題する声明を発表。医師不足の中で地域医療を守るには、勤務医が一定の長時間労働を担うことになるのは事実としながらも、「そのことを理由に漫然と長時間労働を認めることは許されない」とした。受診行動に関して住民の理解を求めるなど勤務医の労働環境を改善するための取り組みや、医療事故につながる可能性のある連続の長時間労働を防止する対策が必要とした。

 また、「一定の当直料を支払うことで、労基法に定められた時間外割り増しや深夜割り増し賃金を払わないことにより、莫大な不払い賃金が発生している」ことの可能性も指摘。ただ、診療報酬で手当てされたとしても病院経営の赤字補てんや修繕費用などに回される可能性が高いとして、36協定締結など労基法を遵守する病院を評価するような診療報酬の創設を求めた。

 今回の調査は公立病院など一部の病院に限った調査だったことから、植山代表は「所管している厚労省だったすぐできること」と述べ、国内すべての病院の締結状況などを調査するよう求めたいとした。

 今回の調査に協力した全国医師連盟の黒川衛代表は会見で、「当直して夜間外来をして、そのまま(夜勤明けに)処置すると危ない。睡眠不足で患者さんを手術することは危ない綱渡りで、患者のためにも労働安全は跳ね返ってくることなので、この実態でいいのかと知っていただきたい」と、国民の理解を求めた。

「医師だけは労使協定から除外」であるとか「結んだ協定が既に過労死レベル」であるとか、いかにも「あるあるあるある」と全国から声なき声が聞こえてきそうな話ですけれども、全医連の黒川代表も言うように何より「医者の過労は患者にとって危ないこと」という認識を、当事者である患者すなわち国民がもっと危機感と共に共有しなければならないはずなんですけれどもね。
このあたりは長年「医者は責任感もあって辛抱強いからついつい頑張ってしまう」などと妙な具合の自己正当化をしてきた業界内部にも責任の一端が無しとは考えませんけれども、エビデンスに基づいた診療だ、ガイドラインによる医療の平準化だと医療の質の担保に躍起になるくらいなら、まず過労こそが現実的に最も医療の質を下げている行為だと大騒ぎしなければおかしいと思います。
最近ではことに厳しい現場から医者が逃げていく、その結果医療が崩壊するなどと一般社会でも話題になってきていますけれども、過労死レベルの労働環境を常時強いられても責任感と辛抱強さで何とかしてしまえるような特殊な人たちにしか務まらない職場というのは、所詮安定的に持続することなどできないという一つの証明でしょう。

医師(勤務医)が病院から守られていない、そして医師を守るつもりがない病院から医師が逃げ出しているということは既に多くの人々の看破するところとなってきていますけれども、まずそのあたりの状況改善の第一歩として当事者である医師自身がもっと問題意識を持たなければならないところだと思いますね。
最近は全医連傘下の医師ユニオンなどという組織も出来て声をあげ始めていますけれども、先日から書いていますように金銭的報酬という面で大きな上積みが期待できるような環境に現在の医療行政はない、何より国民がそんなことを望んでおらず全く支持が見込めない、となればもっと労働環境改善に訴えの主軸を移していってもいいと思います(表立って反論もしづらいですし)。
「もっと金出せゴラ!」と言えば「じゃあ金は出すから今まで以上に働いてね」という話になりますけれども、実際問題3000万出されようが「もうこれ以上無理。勘弁して」という限界はあるわけですし、何よりそういう限界を極められるほど心身の耐性が高い医者ばかりではないという現実を見据え対策しなければ、いつまで経っても最前線を支えるスタッフは増えないと思いますね。

仕分け作業との絡みで医療行政はますます医療現場にとって厳しいものになりかねない勢いのようですが、そういう逆境であるからこそ現場の医師達の意識改革が一気に進むチャンスとなるかも知れないと、ここは無理矢理に前向きに捉えておきましょうか(苦笑)。

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