« 新型インフルエンザ、いよいよワクチン接種開始…のはずですが | トップページ | マスコミ業界って結構すごい »

2009年10月16日 (金)

ついに動き始めたアメリカの医療制度改革、しかし既に暗雲が…

本日まずは少し以前のものですが、こちら二つの記事を紹介しておきましょう。

米国で「12分に1人」が医療保険ないため死亡=調査(2009年9月18日朝日新聞)

 [ワシントン 17日 ロイター] 米国では年間で約4万5000人が、医療保険がないために満足な治療が受けられないことが主な理由で死亡していることが分かった。これは12分に1人の割合。米ハーバード大医学部の研究チームが17日、調査結果を発表した。

 調査を率いた1人であるハーバード大のデビッド・ヒメルスタイン准教授は、ロイターのインタビューで「飲酒運転や殺人による死者よりも多くの人が、無作為によって毎日死んでいく」と述べた。

 研究チームによると、64歳以下の成人グループでは、医療保険を持っていない人の死亡リスクが持っている人に比べて40%高いという。

 オバマ大統領は医療保険制度改革を政権の最重要課題と位置付けているが、民主党内の一部議員を含む反対派の動きや、関係業界からの反発もあって難航している。

 今回のハーバード大医学部による調査は、連邦政府からの助成金を受けて実施されたもので、詳細は「アメリカン・ジャーナル・オブ・パブリックヘルス」の電子版に掲載されている。

★1位は日本 最下位は米 先進16カ国の医療制度評価(2009年9月29日東京新聞)

【ニューヨーク=阿部伸哉】カナダの非営利調査機関「コンファレンス・ボード・オブ・カナダ」は二十八日、先進国の医療制度ランキングを発表し、日本は十六カ国中で一位に、米国は最下位となった。

 医療保険制度改革の議論が進む米国で何かと引き合いに出されるカナダも十位と振るわなかった。

 調査は二〇〇六年のデータに基づき、平均寿命やがん死亡率、乳幼児死亡率など十一項目で評価。「A」ランクは日本、スイス、イタリア、ノルウェーの四カ国。カナダは「B」、米国は英国、デンマークとともに最低の「D」だった。医療保険制度の財政状況は勘案されなかった。

 国民皆保険制度がない米国では、隣国カナダの皆保険制度が批判、称賛の両面でたびたび比較対象になる。調査でカナダは米国より上位だったものの、急を要さない治療では長期間待たされる実態や、生活習慣病患者の多さなどが課題として指摘された。

アメリカの医療・保険制度についてはあちこちで既に言われていますけれども、確かにマスコミなどが好んで取り上げているように一部領域において世界最先端を走っているのも事実ですが、その一方で世界一高いと言われる医療費をどう負担するのかということが常に問われている社会でもあります。
公的保険の加入対象となる高齢者や低所得者を除いた大多数の国民は勤務先で保険に入っているわけですが、一つには失職してこの企業の保険から外れた場合に日本の国保に相当するようなリーズナブルな支払いで加入できる保険の受け皿がない(個人で保険に入っている人というのは極めて限られます)、結果としてこの人たちは何かあれば医療費支払いで破産してしまうわけです。
アメリカの無保険者層は国民の1割強くらいはいると言いますが、この不景気で明日をも知れない人々が増えてくれば当然こうした医療弱者も増えてくる道理で、民主党政権としてもこれは放置すべきでない問題であるとかねて主張してきたところですよね。

もう一つ、例えばGMなどは長年の労使交渉を通じて賃上げが出来ないなら保険の条件を良くしてくれと言った塩梅で退職者まで手厚い医療補償を受けられるようになっていましたが、この医療費支出が企業収益を悪化させ価格競争力を失わせる大きな要因であったことが知られています。
先頃GMが国有化するという話になりましたが、一つにはこの「過剰に手厚い」医療保険の負担をリセットするのが目的であったと言われるくらいで、これはトヨタなどの日系企業を始め海外メーカーに対する彼ら米国企業の大きなディスアドバンテージであるわけですよね。
このようにアメリカの場合企業負担を中心に成り立っているシステムが主流であるせいか、医療を支払う側が現在の医療費負担にそれなりの不満を積もらせているのは当然なのですが、興味深いことに医療を受ける側の国民の方では現行の制度にかなり満足しているようなのですね。

先のニュースにも見られるように客観的指標から見ればアメリカの医療制度はそれほど優れているとも評価されてはいないし、何より突出して医療費総額が高いという現実がある上に皆保険制度に慣れた日本人の目から見れば受診制限もずいぶんときつくて不自由だなと感じるところですが、国民の医療に対する満足度ではアメリカは日本の倍という調査結果があります。
「全国どこでも同じ医療が受けられないなんてトンでもない!」という日本に対して「医療資源の乏しい田舎に住んで死ぬのも自己責任」というような意識が徹底している国ですから、そのあたりは国民性の違いもあるのかも知れませんが、そうは言っても民主党としても政権公約の柱にもかかげた以上はこの医療制度というものを変えるべく努力しないわけにはいかないところでしょう。
先日来報道されていますように、今回とうとう医療保険改革が動き始めたというところなのですが、まずはこちらの記事を紹介しておきましょう。

<米国>医療保険改革法案 米上院財政委が可決(2009年10月14日毎日新聞)

 【ワシントン小松健一】米上院財政委員会は13日、協同組合など非営利組織の保険市場参入と、低所得層向けの公的医療扶助制度「メディケイド」の拡充を柱とした医療保険制度改革法案を賛成14、反対9の賛成多数で可決した。焦点だった政府運営の公的保険は、共和党や世論の反発を考慮して導入を見合わせた結果、共和党議員1人が賛成に回った。

 上下両院では既に4委員会が公的保険導入を前提にした別々の法案を可決しているが、共和党議員の賛成を得たのは財政委法案が初めて。

 オバマ大統領は可決後、声明を発表し「医療保険改革への取り組みにあって画期的な一里塚だ」と強調。その上で法案に賛成した共和党のスノー議員に謝意を述べた。

 上院の民主党指導部は「超党派合意」をかろうじて実現した財政委法案を軸に、他の委員会の法案との調整を図り、本会議での可決を目指す。下院も上院の動向を踏まえて法案の一本化作業を進めるが、民主党内では公的保険を見送ることへの不満もあり、上下両院の本会議採決まで難航も予想される。

 可決された上院財政委法案について、議会予算局は今後10年間に8290億ドルの支出が必要と見込み、当初見積もりよりもさらに抑制された。

今回は無保険者の救済を中心とした比較的小規模な改革ということもあってか、10年間でたかだか8000億ドル!思ったより安いじゃないか!と大喜びしているらしいところ恐縮ですが、率直にいって試算の実現性は怪しいと思いますね。
各国とも高齢化進展に伴って天井知らずに医療費が急増している中で、高齢化が他国以上に急速に進行していながら例外的に医療費支出抑制に成功しているのが日本で、他国から見れば「東洋のマジックでも使っているのか?!」と不思議な光景でしょうが、何のことはない国民皆保険制度下で強烈な公定価格抑制を実行しているというだけの話です。
普通であればこんな制度は現場から反発されて成立しないものなのですが、日本の皆保険制度が奇跡とも言われるのは、何よりその導入のタイミングが非常に絶妙であったということもあったのですね。

逆に言えばそうまで強烈な抑制策を行わなければ今の時代に先進国の医療費は増えて当たり前で、その増える先が主にどこかと言えば低所得者や高齢者、有病者といった民間保険で切り捨てられてきた部分であるわけです。
当時の日本と言えば田舎にいけば「医者にかかるのは人生の最後に臨終の宣告を頼むときだけ」なんて話もまだまだ通用しているような時代で、それだけ医療費総額が安かったからこそこういう制度を導入できたわけで、今のアメリカのように巨大に膨れあがった医療費を公的負担拡充でまかないましょうなどととてつもない無謀な行為だと思いますけれどもね。

そしてもう一つ、アメリカの医療制度改革で難しいところが保険業界の扱い方なのですが、日本人には分かりにくい彼の地の事情が垣間見えるこんな記事を紹介しておきましょう。

人の命より資本主義を優先するのか?米国健康保険改革の座礁(2009年10月14日ダイヤモンド・オンライン)

 私がシリコンバレーに渡ったのは13年前である。当時の健康保険料は月額2万円(1ドル=100円)程度であった。それが10年ほど前から徐々に上がりだし、この5年間の上げ足は驚くほど早い。2年前に月額23万円と通告された。年額に直すと276万円にもなる。もはや筆者の支払い能力を超えてしまった。

 筆者は個人で加入しているので、企業の従業員として加入するのに比べて3倍ぐらい高めになる。それに60歳を超えると上昇カーブは急にきつくなった。65歳になると公的保険であるメディケア(高齢者用公的健康保険)が適用になるので、負担はぐんと軽くなるが、それまでは民間保険しか選択肢はない。保険会社を変えても似たり寄ったりの保険料である。周りの日本人の中には保険料の高さに耐えかねて帰国する人が増えてきた。

 そこで、筆者はアメリカの健康保険を諦めて、日本の健康保険に加入することにした。筆者は元勤務していた銀行の健康保険組合に相談に行った。70歳まで加入できる退職者用の健康保険があるという。入行以来28年間に渡って、これといった病気にも罹らずに保険料をせっせと納めてきたから、こうした便宜を図ってくれるのだろう。

 保険料を尋ねた。20数万円だという。それは月額かと尋ねたら、年額だという。何という差だ。迷わず住民票を日本に移して加入することにした。アメリカに年間の半分以上住んでいる筆者としては不安が残った。もし事故にあったらどうなる、もし救急患者で入院したらどうなる。考えればきりがない。不安がいっぱいである。でも健康保険に276万円は払えない。腹をくくるしかなかった。

 アメリカでは保険に加入していない人が4600万人もいる。6人に1人が保険に加入していない。企業に就職している間は、企業の健康保険に加入できる。個人で加入するより料率は低いし会社補助もある。だが、企業からレイオフされると状況は一変する。1年半はやや高い料率で元勤務先企業の健康保険を続けられるが、それ以降は個人で保険に加入しなければならなくなる。給料もない中で健康であることを神に祈りながら無保険者になる。

 誰もが保険に加入できる訳ではない。病歴のある人は断られるし、病気療養中の人も加入できない。保険会社は民間企業であるから、保険の支払いが起きそうにない健康な人を選んで加入させる。いちばん保険を必要とする人が加入できない。保険の精神から見ればまさに本末転倒である。

 すでに民間保険に加入している人でも実際に病気になると、保険会社が負担してくれないケースも数多くあると言う。いろいろな難癖をつけて支払いを渋るからだ。日本のように治療と保険会社負担額に関する統一ルールが一部しかないので、大きな支出を伴う医療行為を行う場合に、医師は事前に保険会社の承認を得る必要がある。医師の毎日は保険会社との交渉に費やされている。(略)

「患者が受ける医療の内容は保険屋が決める」とまで言われているアメリカの医療事情の一端がお分かりいただけるかと思いますが、特に最近急に保険料が上がってきたという下りに留意ください。
保険会社も営利企業であるとはいえやはりこれは高すぎるのではないか、いや高いことまでは受け入れるとしても道義的に問題があるのではないかとは多くの日本人の感じるところではないかと思いますが、皮肉なことに保険制度改革自体がこうした事情を招いている側面もあるようなのですね。
当のアメリカで保険を扱っている某ブローカー氏が、そのあたりの事情に関連してこうしたコメントをしていますので紹介しておきましょう。

ついに米国で医療保険制度改革法案が議会を通過したのではあるが、それがまた
見ただけで「こりゃ失敗するな」と言う内容なんだよ。
医療保険は健康に問題がある人が求めるものだと言う極めて不可解な認識をして
いる人達が多いのはまた、非常に文化的ではないのだけれども、医療費の際限無
き高騰や医療訴訟費用の高額化、ネットワークディスカウントの存在など極めて
根本的なところにはほぼ言及しない形の制度改革で何が生じるかと言うと、医療
保険会社の冬支度
だよ。 簡単に言うなら儲かるうちに儲けろってことで、現在
医療費を含む医療関連費用インフレは9%で推移しているが、保険料は平均7%
上昇で推移してるわけだ。 (これがクリントン政権時の94年から、酷い時に
は18%平均で現在に至るまで推移していたんだから) これがまた18%平均
の保険料上昇に繋がりかねないワケだ。

誰しも自分が高い金を払っている一方で(主観的にであっても)不当に儲けている人間がいるとなれば面白くないというのも事実でしょうが、今回の制度改革で 誰が一番損をすると見られているかと言えば、やはり今まで不当に儲けてきた(と考えられてきた)保険業界であるわけですから、彼らが大きな抵抗勢力と見な されてきたのも当然と言えば当然ではあるわけです。
「儲かるのは保険屋ばかり」などと揶揄されるような状況の中で、政権としては保険業界より国民優先というのはある意味当然の話だと思いますが、問題は相手も無抵抗主義の信奉者ではないだろうということですよね。
今のところ今回の制度改革で一番泥をかぶるのが保険業界だろうというのは共通認識となっているようですが、果たしてこのまま泣く泣くの受け入れで終わるのかどうかは分からないように思いますけれどもね。

情報BOX:米上院財政委が可決した医療保険改革案による勝者と敗者(2009年10月14日ロイター)

 [13日 ロイター] 米上院財政委員会は13日、2兆5000億ドルに上る国内医療保険システムの改革に向けた法案を可決した。
 上院財政委員会の医療保険改革法案に基づく改革によって見込まれる、医療関連セクターの勝者と敗者は以下の通り。

 <勝者>
 ★製薬会社
 *製薬会社による政府の医療保険プログラムへの払い戻し額は、業界が上院財政委員会のボーカス委員長およびホワイトハウスとすでに合意した800億ドルで変わらず。高齢者・障害者向け公的医療保険(メディケア)の下で、今後10年間で1060億ドルの払い戻しを求められる可能性をうまく回避した。

 ★病院
 *病院経営会社は、被保険者の増加で見込まれる恩恵と引き換えに、メディケアおよび低所得者向け公的医療保険(メディケイド)のプログラムで政府から受け取る額を今後10年で1550億ドル減額することで、ボーカス委員長およびホワイトハウスと合意していた。最終法案でも追加減額は盛り込まれなかった。アナリストは、今後の法案審議でもこの合意内容はさほど変更されないとみている。
 *ユニバーサル・ヘルス・サービシズ<UHS.N>やテネット・ヘルスケア<THC.N>などの米病院経営会社は、政府から独立したメディケア委員会が決定する払い戻し率などの適用も免除される。

 ★医療検査会社
 *医療検査会社は、ボーカス委員長の当初案に含まれていた業界全体で年間7億5000万ドルの手数料の支払い義務が最終案から外されたことを歓迎。この手数料の支払いは、クエスト・ダイアグノスティクス<DGX.N>、ラボラトリー・コーポレーション・オブ・アメリカ・ホールディングス<LH.N>など医療検査会社の負担となる可能性があった。

 ★医療用画像関連メーカー
 *医療用画像関連メーカーが提供するMRI(磁気共鳴画像装置)など高度医療用撮影装置に対する支払いを今後10年間で総額30億ドル削減する案が法案に盛り込まれた。削減額は、下院で可決済みの医療保険改革法案に盛り込まれた43億ドルよりも縮小された。関連メーカーには、米ゼネラル・エレクトリック(GE)<GE.N>、独シーメンス<SIEGn.DE>、オランダのフィリップス・エレクトロニクス<PHG.AS>などがある。

 <敗者>
 ★医療保険会社
 *医療保険会社が抵抗していた、公的保険の創設を法案の修正条項に盛り込む案は否決されたため、医療保険会社は部分的には勝利したとも言える。ただ、業界全体で年間60億ドルを超える手数料の支払いを義務付ける案は依然盛り込まれている。米医療保険会社には、エトナ<AET.N>、ユナイテッドヘルス・グループ<UNH.N>、シグナ、ヒューマナ<HUM.N>などがある。

 ★医療機器メーカー
 *ボストン・サイエンティフィック<BSX.N>、メドトロニック<MDT.N>、ストライカー<SYK.N>などの医療機器メーカーに対しても、今後10年間、業界全体で年間40億ドルの手数料を課す案は依然盛り込まれている。ただ、一部のアナリストは、今後の審議で手数料が減額される可能性があると指摘している。業界は、手数料の撤廃あるいは減額の要求を続ける見込み。

 ★薬剤給付管理会社 
 *CVSケアマーク<CVS.N>、エクスプレス・スクリプツ<ESRX.O>、メドコ・ヘルス・ソリューションズ<MHS.N>などの米薬剤給付管理会社には、製薬会社から受け取った払戻金に関する情報を厚生省に提供することを義務付ける条項が盛り込まれた。

個人的にこの件は成功するにしろ失敗するにしろ非常に興味深いことになりそうだなと思って注目してみているのですが、どうもこのまますんなりと行きそうにはない、あるいは結果として更なる大きな問題が噴出してきそうな気配を濃厚に感じているのは自分だけでしょうか?
断然世界一の医療超大国アメリカで医療制度が大コケするということになれば、果たしてそれは一国の内政問題だけにとどまるのかとか、あるいは世界の医療そのものに停滞を及ぼすこともあるのではないかとか、何にしろ単に法案成立の可否などというレベルにとどまらず、中長期的な続報が待たれる話ではあると思います。

|

« 新型インフルエンザ、いよいよワクチン接種開始…のはずですが | トップページ | マスコミ業界って結構すごい »

心と体」カテゴリの記事

コメント

コメントを書く



(ウェブ上には掲載しません)




トラックバック

この記事のトラックバックURL:
http://app.cocolog-nifty.com/t/trackback/519753/46498643

この記事へのトラックバック一覧です: ついに動き始めたアメリカの医療制度改革、しかし既に暗雲が…:

« 新型インフルエンザ、いよいよワクチン接種開始…のはずですが | トップページ | マスコミ業界って結構すごい »