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2009年10月 8日 (木)

医療事故と医療過誤、違いがわかりますか?

なんて基本問題はともかくとして、最近またこの方面の話題が増えてきている気がします。
さすがにいきなり根拠もなく「また医療ミスか!」なんて大騒ぎするマスコミ関係者は減ってきているようにも思われるところですが(しかしゼロではないですよね…)、表題の件をきっちり意識して区別しているのかと言えば決してそうでもないようなんですね。
そんな中でこのたび産科無過失補償の最初の認定例が出ましたので、未だ速報レベルですが第一報をお知らせしておきましょう。

子に重い脳性まひ、お産事故5件を補償認定(2009年10月7日朝日新聞)

 お産で重い脳性まひになった子どもの介護費などの負担を軽減するため、今年1月に始まった産科医療補償制度で、9月末までに計5件が補償対象として認定されたことがわかった。制度を運営する「日本医療機能評価機構」は今後、原因を分析した上で、最終結果を保護者と医療機関に報告。再発防止委員会での審議後に公表する。

 お産に関連して起きる脳性まひに絞った公的な医療補償制度は世界に例がなく、当事者となる患者、家族の救済だけでなく、産科での医療紛争を減らす目的がある。

 同機構などによれば、8月下旬以後、全国の分娩(ぶんべん)施設を通して5件の申請があった。いずれも今年1月以後に生まれたゼロ歳児。

 9月下旬に初の審査委員会が開かれ、いずれの事例も出生児の体重や障害の程度などが補償対象の条件を満たすと認定された。認定を受け、保護者には子どもの看護、介護費用として、一時金600万円と年120万円(最長20年間)が支払われる。

 この制度は09年以降、原則として33週以上、体重が2千グラム以上で生まれた子のうち、身体障害者1、2級相当の障害がある子どもが対象。年間の申請数は500~800人と試算されている。(権敬淑)

「産科無過失補償制度」初の認定 出産事故、5件一括(2009年10月7日47ニュース)

 今年1月に始まった、出産事故で赤ちゃんが重度の脳性まひになった場合、医師や助産師らに過失がなくても患者側が補償金を受けられる「産科無過失補償制度」の初の認定事例として、計5件が一括で認められたことが7日、分かった。

 厚生労働省の所管で制度を運営する財団法人「日本医療機能評価機構」(東京)によると、認定されたのは、いずれも生後6カ月以上の男女の乳児。出産を扱った医療機関と乳児の家族から補償申請を受け、機構の審査委員会が9月に認めた。

 これらの事例は今後、機構の原因分析委員会が調査、検証する。乳児の家族からも分娩経過や病状について意見書の提出を求め、事故原因などについての報告書を作成する。

 制度は、医療行為に関連する無過失補償として国内で初めて創設された。原則で出生体重2千グラム以上、妊娠33週以上の新生児が身体障害者等級1~2級相当の重度脳性まひを発症した場合に補償対象となる。遺伝子異常など先天性要因による脳性まひは対象外。(略)

産科無過失補償制度に関しては今までにも何度も取り上げてきたところですが、実際に運用が始まって国民の間にも周知されていった段階で真っ先にトラブルになりそうなのが補償の対象が極めて限定的であるということなんじゃないかと思います。
上記の記事中にもありますように年間の申請数は500人~800人と見込まれているということですが、単純計算で脳性麻痺の患児が産まれるのが年間3000人前後と考えられますから、ざっとそのうちの2割ほどしか救済されないということですよね。

どういう理由で産まれてこようが非常に大変であるということには変わりのないこういう疾患において、こうまで恣意的に対象を限定してしまうからには、当然現場で「補償されると聞いていたのにうちの子は駄目だってどういうこと?!」なんてトラブルが毎年千の単位で起こることが容易に予想されるわけです。
もちろん国はそのあたりをも見越して決めた話だろうと思いますが、崩壊進む医療現場の中でも一番疲弊している産科にこういうトラブルの芽をわざわざもたらすようネタを仕込んでおく、それは制度設計としてどうよという話ですよね。

一方で医療事故と関連して最近一般紙でも取り上げられたニュースがこちらですが、これも国民の高い期待に反して?制度的な欠陥なしとはしないという話です。

【医薬品医療機器総合機構】健康被害救済制度‐医師、看護師など低い確実認知度

 医薬品医療機器総合機構は9月30日、健康被害救済制度に関する認知度調査の結果を公表した。それにより、名前を聞いたことがある程度まで含めると、同制度の認知率は、医療従事者で80・0%、一般国民で39・1%だったが、内容を含めた「確実認知」は医療従事者でも37・2%、一般国民では5・3%にとどまることが分かった。

 総合機構は、広報戦略の一環として、OTC薬の外箱表示等を通じて医薬品副作用被害救済制度や生物由来製品感染等被害救済制度の認知向上を図っている。

 今回、インターネット調査で認知状況を調べたところ、医療関係者における制度の認知率は、薬剤師が96・7%、医師85・4%、看護師61・0%、歯科医師71・4%だった。ただ、確実認知については、薬剤師が68・9%と比較的高いものの、医師35・8%、看護師11・9%、歯科医師22・6%といずれも低水準で、特に看護師の認知不足が際立った。

 また、制度の認知内容としては、副作用の被害者を迅速に救済する目的の公的制度であることや、適正に使用して発生した健康被害に救済給付を行うことについては、約8割の認知が得られたが、全ての医薬品が救済対象とならないことは約4割、請求期限があることは約2割の認知にとどまった

 さらに、健康被害制度を勧めたいか尋ねたところ、「勧めたい」48・7%、「どちらともいえない」50・4%だったが、「勧めたくない」とする回答が0・9%あり、診断書などの必要書類が複雑・面倒であることや、時間がかかることが主な理由だった。

 一方、一般国民については、名前を聞いたことがある程度まで含めると、東北地方の認知率が41・2%で、他エリアに比べて若干高いが、確実認知に地域差はみられなかった。また、制度の関心度を尋ねたところ、83%が関心があると答えており、利用したいとする回答も84・4%に上った

健康被害救済制度の趣旨につきましては医薬品医療機器総合機構のHPをご参照いただきたいと思いますが、例えば医療費給付の対象となるのが「入院治療を必要とする程度のもの」に制限されていたり、抗癌剤や免疫抑制剤など何かと重症化しやすい薬剤が対象外であったりとやや使い勝手の悪い面もありますが、せっかくの制度を使わないのはもったいないですよね。
以前にとある芸人が妻に浮気がばれた時にどうするかと問われて「相手と向かい合う立場にしない。”そうだね。どうするか一緒に考えよう”と同じ側に立つ」と答えていたことがありましたが、以前にも紹介しましたスウェーデンの事例などにも見られるように、こういう態度というものは紛争回避において非常に本質的な部分をついているような気がします。
特に過誤のない場合に事態をこじらせないためには、時に積極的に患者側に立って同じ目的を目指す同志的立場であることを示すことが非常に重要であって、そのためにも臨床家は医療分野のみならず社会的に用意された各種制度を把握しておかなければならないと思いますね。

このあたりの「対立から共立へ」という試みは実のところ医療と患者という立場のみならず、近年しばしば対立的文脈で語られる医療と司法との関係においても重要なところで、時に感情的反発からか司法に対して有効でない反論のみを繰り返し結局裁判にも負け、患者とも感情的しこりも残ったままという事例が今も多々見られるように思います。
医療の場において患者の素人考えなるものが時に全く的外れで無益などころか有害ですらあることをしばしば経験している医者であれば、司法の場において医者の素人考えが同様に有害無益であることを推定してもよさそうに思うのですが、どうも医者というのは妙に自意識が強いということなのか、裁判に限らず他の専門家をうまく使うのが苦手な人が多いのかなという気がします。
最近では医療と司法の相互理解ということも各地で試みられているようで非常に良い傾向だと思いますが、「餅は餅屋」という言葉もあるように専門家はやはり一日の長があるわけですから、医者も「検体運びから薬の受け取りまで」と何でも自分で抱え込まずに、他の専門家をうまく使って自分の仕事を減らすことを覚えていかなければならないのでしょうね。

一昔前の戦争の時代には、日本の生産現場ではまだフォーディズム的な概念も存在しておらず、確かに少量生産の職人仕事では非常に高い精度を示した反面、彼ら熟練工が戦争に取られた途端に組織的生産能力が完全に崩壊してしまいました。
崩壊が進んでいると言われる医療現場も未だに医者が何でもやっているという意味では似たような傾向があって、人手不足の時期こそ医者は医者にしか出来ない仕事に専念し、看護師は看護師にしか出来ない仕事を、技師は技師にしか出来ない仕事をと効率的な職務分担をやっていく、それが単なるグループ担当医制などではないチーム医療というものだと思います。
うまく他人を使うことで心身のゆとりが生まれてくれば専門職にあり得ないような単純なミスも減る、そして他人を信頼し任せることで組織内での人間関係も改善しお互い間違いを指摘し合う良い協調が生まれてくる、組織を円滑に動かすことで防げる医療事故というものもかなりあるでしょうし、今の時代の組織の管理者はそうした体勢を構築する義務があると思いますね。

チーム医療の推進で議論―厚労省検討会(2009年10月5日CBニュース)

 厚生労働省は10月5日、「チーム医療の推進に関する検討会」(座長=永井良三・東大大学院教授)の第2回会合を開き、国立国際医療センターの桐野高明総長、近大姫路大の南裕子学長からヒアリングを行った後、委員らが意見交換した。

 ヒアリングではまず桐野氏が、「医師のマンパワーとチーム医療」と題してチーム医療の必要性を説明。医師を増やすことで数や地域偏在の問題が解決するという考え方は「単純過ぎる」と指摘した上で、▽患者の権利を尊重するという基本は今後、縮小することはあり得ない▽増大してきた医師の業務をすべて医師だけで将来的に担おうとする考え方は非現実的―などとして、さまざまな職種とのチームワークによってのみ、高いレベルの医療が維持できると強調した。
 続いて南氏は、「チーム医療における看護師等の役割―世界的動向からの概観」と題して、キュアとケアの統合など「21世紀に向けての医療の考え方」を示したほか、専門分化が進む看護基礎教育の世界的な動向を紹介した。

 意見交換では、桐野氏がヒアリングの中で、患者や家族への説明も医師が役割分担できる業務だとの考えを示したことに対して、川嶋みどり委員(日本赤十字看護大教授)が「先生が『大丈夫ですよ』と説明してくださることが患者にとっての救い。手術する人の顔も見えず、結果を説明してくれるのが別の人というのがチーム医療だったら、これは違うのではないか」と疑問を呈した
 これに対し、永井座長は「医師がすべて完璧にやっていくとうまく動かなくなるので、システムをどうするのかという議論をしている」と述べた。また島崎謙治委員(政策研究大院教授)は、医師のほかに医行為を行う担い手について、「一定のアドバンスドナースのような資格をつくって特別な場合に認めていくのか、それとも(看護師)全体を底上げするのか。システム論として考えるなら、そういうことを議論しないといけない」と指摘した。

 このほか、山本信夫委員(日本薬剤師会副会長)は、チーム医療を考えるに当たって諸外国との比較が十分にできていないとして、WHO(世界保健機関)の基準や海外の実態について学ぶ必要性を示した。

 次回会合は13日に開催される予定。

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