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2009年10月19日 (月)

過労は決して誇るべきことではありません

最近こういうニュースが出ておりましたのをご覧になりましたでしょうか。

徹夜勤務医大院生事故死で2000万支払命令(2009年10月16日日刊スポーツ)

 鳥取大医学部の大学院生で医師だった男性(当時33)が付属病院で徹夜勤務をした直後に交通事故死したのは、睡眠不足や過労を生じさせた大学側の責任だとして、両親が鳥取大に損害賠償を求めた訴訟の判決で鳥取地裁(朝日貴浩裁判長)は16日、約2000万円の支払いを命じた。

 研修などの名目で無給のまま医療業務に従事している院生の医師について、「雇用」する側の大学の責任を認める司法判断。医大院生の過酷な勤務実態は国会などでも問題化しており、各地の大学で進む雇用契約締結の動きにも影響しそうだ。

 訴状などによると、男性は同病院の外科で「演習」として恒常的な長時間勤務を強いられ、2003年3月、鳥取大病院でほぼ24時間徹夜で勤務した後、そのまま派遣先の病院へ乗用車で出勤中にトラックと衝突、死亡した。

 大学病院などで院生や研修医などの若手医師は劣悪な条件で長時間勤務を強いられることが多いとされ、文部科学省は昨年、医療業務に従事する院生と雇用契約を結ぶよう、各大学に通知した。

 研修医については05年の最高裁判決が、労働基準法上の「労働者」に当たるとの初判断を示したが、原告側代理人によると、院生の労働者性を認めた判例はないという。(共同)

こういう実態が次第に公にされるようになってきたなという感じのニュースですが、奴隷医者にも人権を認めようという社会的流れがこのまま定着するかどうかですよね。
ちなみに記事中にもありますように、昨年の平成20年6月には文部科学省高等教育局長名で「附属病院を置く各国公私立大学長」宛に「医師及び医療関係職と事務職員等との間等での役割分担の推進及び診療に従事する大学院生等の処遇改善について」という通知が出されています。
表題の前半にありますようにこの通知、「看護師が注射をしても全然構わないんだよ。さっさと業務の割り振りを改善してね」というまさしく大学病院的問題(笑)に関して「迅速かつ適切な対応をお願い申し上げ」るという趣旨のものとして良く取り上げられるものですが、この中にさりげなく表題後半部分に関連するこんな文言が含まれています。

「また、大学院生等が診療業務の一環として従事している場合については、労働災害保険の適用が可能となる雇用契約を締結するなど適切な対応が必要であります。
 各大学附属病院におかれましては、これらの趣旨を十分に踏まえ、迅速かつ適切な対応をお願い申し上げます。」

もちろん実際に迅速かつ適切な対応を取っている施設ばかりでもないのが現実というものでしょうが、良くしたもので今の時代そうした施設ではさっさと人材が流出して崩壊の危機にさらされていますから、結果として不幸な状況で奴隷奉公を強いられる大学院生等は以前よりは多少なりとも減少してきているのかなとも思えるところです。
しかし彼らが生活の質を確保しているとすればその分のしわ寄せがどこかに行くのがこの種の施設の救われないところで、結局今度はヒラの医員あたりが貧乏くじをたらい回しされているだけ、なんてことがままあるわけですね。
根本的には大学病院においては医者が最も安上がりに、しかも組合等から突き上げられる心配もなく無制限に働かせられるからこそ、経営改善を考えるほど医者を酷使した方がますますお徳と言う考えになって当然だと思っているのですが、こうした記事を読む限りではどうも文科省の認識ではいささか異なるようですね。

大学病院医師の勤務環境改善へ 文科省、支援態勢を充実(2009年10月14日47ニュース)

 文部科学省は14日、診療以外の業務に忙殺されているの医師の環境を改善するため、医療関係職員を増員する方針を決めた。15日が再提出期限の来年度予算の概算要求に関連費を計上する。

 鈴木寛文部科学副大臣が、14日の政策会議後の記者会見で明らかにした。

 勤務医の労働環境をめぐっては、医師不足から長時間労働を強いられる上、説明書類の作成や患者のアフターケアなど診療以外の負担が大きいとされ、過労死や医療ミスにつながりかねないとの懸念が出ていた。

 文科省は改善策としてソーシャルワーカーや医療事務職など関連職員を増やし、医師の業務軽減を支援する。医師が地域や診療科により偏在している状況の改善についても鈴木副大臣は「前向きに取り組む」と語り、医学部の定員増や教員、設備の拡充とともに検討する考えを明らかにした。

個人的には専門職の非専門的業務を非専門職に移譲していくという大方針には賛成なのですが、こと大学病院という医療業界の中でもとりわけ特異性の高い施設においてはどうなのでしょうね?
今でさえそこにいるだけで働いていない職種の人たちばかりさらに増やして彼らの団交による影響力を増大させていくことが果たして問題解決につながるのか不肖管理人にはよく分かりませんが、幸いにして?近ごろでは労基署などの方から問題解決の糸口が見つかりそうな気配があるようなのですね。
旧態依然とした労使関係の目立つ医療業界の中でもとりわけ後進性を誇ってきた?大学病院も、昨今では独法化などで「昔とは変わった!看護師が採血も点滴もしてくれるようになった!」などと泣いて喜んでいる先生がいらっしゃるようですが、そういうのは普通世間では当たり前にやっていることで感激するところと違うと思うのですがね…

しかし未だに「そんなことを言ったら現場がまわらない」などと頓珍漢なコメントを出してくる管理職氏なども未だに生き残っているようですが、今の時代法律違反をしようが何をしようが我が道を行くなどという心得違いが許されるものではないという当たり前のことをご理解いただけない方は、常時知識のアップデートを要求される医療職としての適性すらも問われる気がします。
面白いなと思うのは、今まで医者は叩くものと固く心に誓っていらっしゃったご様子の一部マスコミも、ようやく過労の極にあるのは看護師らコメディカルばかりではないという当たり前の事実を報道することにしたようで、特に最近のユニオン関連の記事をみますと、医師の労組誕生というのはそれだけで画期的な出来事だったのだなと改めて思い知らされるところですね。

【参考】職場のホンネ 医師に残業代出ない(2009年9月22日朝日新聞)

【参考】勤務医110番に相談相次ぐ(2009年9月27日朝日新聞)

しかしようやく盛り上がってきた医者の労働環境改善の機運に反するかのように、一方では例によって例の如く、どこの世にも抵抗勢力と言うものはいるものです。
各人なりに好き放題のことを言ってまわる言論の自由は国民に等しく補償された権利とはいえ、その国民の権利を擁護すべき立場にあるものが国民の権利を侵害すべきなどと主張するということであれば、これはなかなか穏やかではない話ですよね。
こちら丸尾拓養弁護士は労働事件(使用者側)が専門ということですから、いわば雇う側の代弁者という立場に立つことは当然と言えば当然でしょうが、こういう露骨な言説は弁護士職にあるものとしてどうなのよと疑問に感じるところなしとしない話ではないでしょうか。

法的視点から考える 人事の現場の問題点第73回「若年労働者の労働時間を抑止すべきなのか」(2009年9月24日日経ネット)

 30歳代から40歳代前半にかけての一部の労働者に恒常的な長時間労働が見られます。一方、若年労働者は時間外労働に関する労使協定である「36 協定」(労働基準法第36条)や労働組合によって、長時間労働から保護されることがあります。しかし、20歳代や30歳代の前半の時期に「時が経つのも忘れて仕事に没頭する」経験をできないことで若年労働者が逸するものもあるでしょう。

■キャリア形成の過程においては「一皮むける」瞬間がある

 法律を遵守(じゅんしゅ)するという視点からは、36協定の枠内で時間外労働の延長を行い、休日労働を行わせることが、実労働時間に関する使用者の義務となります。これを超える労働は違法とされ、禁止されるべきであるとされます。

 しかし、相当の勤続年数を経た従業員に対して「いつ一人前となったと思いますか」「いつこの会社でやっていけると思いましたか」と質問すると、「何日も徹夜してシステムを立ち上げたとき」「1人きりの海外出張が無事なんとか終わったとき」「難しいと思われた商談をまとめあげたとき」といった回答が返ってくることでしょう。そこでは、時間外労働に関する法的制約などは忘れられています

 若年労働者の育成にあたっては、「一皮むける」ことが重要であるとされています。小さな成功経験または小さな失敗経験が、その後の企業内でのキャリア形成において、自己の存在基盤となります。大小はあるものの「修羅場」をくぐったという経験が自信につながり、精神的安定をもたらします。

 これまでの右肩上がりの経済成長の下では、企業は意識せずにも労働者にこの機会を付与し、労働者もこれを享受しました。経験を積んで、それなりに「一皮むけて」、中間管理職に、さらに上位管理職になっていきました。サービス残業や「管理監督者」問題には、このような一面もあります

■恒常的長時間労働にはリスクがある

 労働者全体としての平均労働時間は減少しても、一部の正社員の恒常的長時間労働が顕著となり、特に30歳代や40歳代前半の「中間」管理職の健康被害が憂慮される事態となっています。一方で、労働組合は労働組合員の健康確保を目的として36協定の遵守を強く求めます。労働時間の延長の具体的基準は月45時間以内が原則であり、例外的に年間6回の月80時間程度の延長が許されるにとどまります。

 30歳代の男性労働者では、週60時間以上の労働時間の人が20%を超えるとされます。この傾向は40歳代前半にも広がりつつあるのでしょう。しかし、労災補償の年代別認定状況を見ると、この年代は過労死リスクの高い層です。脳・心臓疾患に関する労災補償の統計では、認定者の中で40歳以上が約8割となっています。これは、高血圧などの基礎疾患があるからです。20歳代や30歳代の過労死リスクは実は高くありません

 もちろん、この労災補償に関する統計においても、うつ病や適応障害などの精神障害等については、20歳代や30歳代が合計で6割前後を占める状況が続いています。認定基準の現実を踏まえれば、この年代の恒常的な長時間労働に伴う精神障害等の発症リスクは小さくないといえるでしょう。しかし、そうであるからといって、この年代に仕事をさせないことは、「一皮むける」チャンスを逸することにもつながります。そのような経験を経ない従業員に企業の将来を託すことには不安も覚えます。

■注意深く配慮して仕事をさせることが求められる

 中間管理職への仕事の集中は、一面では、若年労働者が成功したり失敗したりする機会を奪っているのかもしれません。思えば、これまでのキャリア形成につながる成功や失敗は、上司が上手に企図しバックアップした結果にすぎなかったとも言えます。本人が自分の力で「一皮むけた」と思っているのも、客観的には上司や周囲の支援の賜物なのでしょう。

 それでも、これらを自ずと経験できた中高年齢者と異なり、現在の若年労働者はストレス脆弱性も著しいという世代としての特徴を持ちます。大したことないと思われる修羅場であっても、若年労働者にとっては負荷も過重である可能性もあります。かつてと同じような経験をさせることが適当とも思われません。

 一方で、ストレス耐性を真につけるためには、「甘やかす」のではなく、「仕事をさせる」ことも方法の1つでしょう。このため、管理職は若年労働者に対し、十分に注意かつ配慮して、仕事をさせることが求められます。意外にも、これまでは無意識のうちにも、このような適切な人事権(管理職権限を含む)の行使はなされていました。しかし、近年は、成果主義人事のせいか、このような意識がやや薄れているのかもしれません。

 もちろん、恒常的な長時間労働は、強く抑止すべきです。また、休日のない連続勤務には注意する必要があります。そのような配慮をしつつ、特に正社員については、一時的な長時間労働によって「一皮むける」チャンスを作っていくことになるのでしょう。おそらく、適切な配慮をすれば、36協定に関する上限基準の範囲内で足りると思われます。形式的な法理解や法令遵守にとどまるのではなく、ややリスクを冒しても、労使双方が人材育成の機会を活かし、むしろ作り出していくことが求められているのでしょう。

まあ何日も徹夜して仕事をし何とか生き残ったときに何かしら越えた状態になるのは理解できるところですが、その越えた状態で仕事をされてしまうことを顧客(医療における患者ですね)がどう感じるのかという視点が根本的に欠けた「使用者側のロジック」であって、何より働く内容や質ではなく労働時間で経験値を云々することに今どきどれほどの意味があるのでしょう。
死ぬ気で頑張って徹夜で働き通したことが大きな経験になるというのであれば、死ぬ気で頑張って同じ仕事を定時で仕上げた事の方がはるかに大きな経験とスキルアップにつながると考えるのが普通ではないでしょうかね?

とくに医療に関して言えば、久しく前から医師の過労やストレスは医療過誤の原因となる、すなわち医療の質を低下させ患者にも職場にも迷惑をかけるというエヴィデンスが出ているのであって、今さら根拠のない戯れ言を弄する余地は医療現場には全く存在しませんし、今どきそんなことを言う人間がいればそれはEBM的には(笑)医療の質を低下させようとしていると見なされても仕方がないのです。
日常的に他人の命がかかった選択を強いられている医療現場において、単に長く院内にとどまって疲れ果てることがキャリアアップにつながるなどと言うレベルの認識しか持たない人間は、現代の医療においてはもはや排除されるべき存在となってきていると言うことですね。

実のところこうした不幸な心得違いをしているのは使用者側のみならず使われる側の医者も同様で、深夜の病棟詰め所あたりで研修医が一人何やら考え込んでいる光景を垣間見たことがある人は入院患者さんにも多いのではないかと思いますが、知識も経験も技能も限定的な彼らがいくら夜通し考え込んだところで出てくる結果などたかが知れているわけです。
医者という人種は学生時代から勉学における成功体験が積み重なっていて「頑張れば報われる」という認識を持っている人間が多い、また医学部は伝統的に体育会系比率も高いですから「しんどくなるまで努力していればいずれ結果はついてくる」的なものの考え方が案外まん延しているところがあります。
しかし失敗しても自分自身やせいぜい同僚に迷惑がかかるだけの学生の部活動と違って、病院では何かしら失敗をすれば患者さんの健康被害に直結するわけですから、とりわけ未熟者にとってこそ無駄な過労で要らざる失敗を呼び込まない、休める時間を捻出し少しでも頭の冴えを取り戻すというマネージメント能力が夜更かしの才能以上に要求される能力であるはずなのですよね。

「オレってこんなに疲れてる!こんな頑張ってるオレってサイコー!」なんてマスターベーションがやりたいだけなら、他人に迷惑のかかる診療の場で自己実現を追求するのではなく一人で夜通しマラソンでもやっているべきであって、給料をもらって仕事としてやっていることなら自分の能力を最大限発揮する方法論を突き詰めるのも業務のうちということですね。
特に医療の世界に入ってきたばかりの臨床研修医あたりで寝る間もないほど過酷な業務に従事しているような向きにこそ、同じ仕事をこなしている同期のあいつより少しでも早く寝るためにはどうしたらいいか、なんてノウハウを学ことが一番実のある研修になるんじゃないかという気がしますけれどもね。
そのために使えるものや社会的条件が昨今ようやく色々と揃い始めてきたわけですから、当事者たる現場の人間こそ真っ先に意識を変えていかなければならないというわけですよ。

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