周産期医療の現状 ここでも妙に斜め上な話題が?
以前から提唱されていた救急搬送に関する東京ルールですが、先日華々しくその開始式が行われたことを御存知の方もいらっしゃるかと思います。
妊婦など救急患者の医療機関の受け入れ拒否解消のため「救急医療の東京ルール」開始式(2009年8月28日FNN)
妊婦など救急患者に対する医療機関の受け入れ拒否を解消するため、東京都が新たに作った「救急医療の東京ルール」の開始式が行われた。
「救急医療の東京ルール」は、2008年に都内などで妊婦の救急受け入れ拒否問題が相次いだことを受けて、都が救急患者の搬送体制を見直したもの。
このルールでは、救急患者が5つ以上の病院から受け入れを断られた場合に、各地域に設置された地域医療救急センターが、地域の医療機関と連携して搬送先の選定を行い、それでも見つからない場合には、東京消防庁に24時間常駐するコーディネーターが、都内全域から受け入れ先を決定することになる。
この東京ルールは、8月31日から開始される。
しかしオープニングセレモニーですか…写真も見てみましたが、この設備とスタッフを整えるだけでも金かかってそうですよね。
さすが東京都だけに余裕を見せつけたというところなんでしょうが、全国各地では余裕どころではないぎりぎりの戦いが日々続いているようですね。
周産期医療はすでに奪い合いと言いますか押し付け合いと言いますか、いずれにしてもますます大変なことになっている気配です。
争点を歩く(3)医療 産科医不足 広がる疲弊 命の砦(とりで)に疲弊が広がる。(2009年08月25日朝日新聞)
府北部の公立病院。産科の男性医師はこの日も、急な出産や緊急外来に備えて病院内で一夜を過ごした。当直回数は月10回前後。当直後もそのまま昼間の診療や手術を受け持ち、連続36時間の勤務はざらだという。
「子どもの誕生に立ち会える魅力はあるが、体力的にはきつい」
同病院の産科医は男性も含め常勤3人、非常勤1人。約10人の助産師とともに、月約40~50件のお産を受け入れる。人繰りがつかなければ3、4日連続で病院に泊まり込むことも。それでも「うちは助産師さんが多いから、まだいいほうだと思う」と語る。
産科医をめぐる状況はどこも厳しい。
公立南丹病院(南丹市)では、今月から常勤医が1人減って2人になった。かつて月40回程度あった出産数を30回まで減らし、府立医大から当直医の派遣を受けているが、それでも当直回数は40代の医師で月10~12回、60代の医師で月5回に達する。「体力的にはもう限界」(西田勇人事務局長)という。
亀岡、南丹、京丹波の3市町による南丹医療圏で、お産を受け入れるのは同病院を含め2カ所。小児科を併設し、未熟児や逆子出産などに対応できるのは同病院だけだ。母子を守る「地域の砦」だが、西田事務局長は「来春までに常勤医1人が確保できなければ、出産の受け入れをさらに減らすことも考える」と話す。
医師不足の原因にまず挙げられるのは、04年から義務づけられた臨床研修制度だ。学生が自由に研修先の病院を選べるため、「かつては医学生が大学で博士号を取得後に郡部の病院へ派遣されたが、最近は専門医の認定をめざそうと、経験を多く積める都市部の病院を選ぶ人が増えている」(ベテラン産科医)という。
産科をめざす医師が減った原因としては「訴訟リスク」を指摘する声もある。
死産や障害がある子どもが生まれた場合、最近は医者を訴える父母らが急増。04年に福島県で帝王切開の手術中に妊婦が死亡したケースでは、執刀医が業務上過失致死などの疑いで逮捕された。08年9月に執刀医の無罪が確定したものの、学生がリスクの高い産科や外科を避ける傾向がより強まったという。
出産や手術時に胎児や患者が死亡した際、医師に過失がなくても補償金を出す「無過失補償制度」の拡充も検討されているが、結論は出ていない。
(略)
京都第一赤十字病院(東山区)の山田俊夫・産婦人科部長は「大学側の受け入れ態勢を拡充するのも大変だ。医学生を増やしたとしても、一人前の医師になるのは8年以上かかる」と語る。年間800件の出産を受け入れる同病院は、府がつくった周産期医療情報システムの基幹病院だ。システムは、府内で妊婦や新生児の緊急搬送が必要になった際、インターネット上に登録された各病院の空き病床数や対応できる症例などを調べ、搬送先を決めることができる。
産科医不足を病院間の連携で補う仕組みだが、システムの画面上には、受け入れ不可を示す「×」印が並ぶ。山田さんは言う。
「この状況は容易に打開できるものじゃない」
NICU集約調整難航 長崎大学病院と市民病院、病床不足など課題(2009年9月2日長崎新聞)
長崎大学病院に長崎市立市民病院の新生児集中治療室(NICU)を集約する構想の調整が難航している。8月31日に長崎市内で両病院の医師や開業医らが協議し、集約しても不足する病床への対応や、産科医の集約といった課題が明らかになった。
長崎市内のNICUは大学病院と市民病院だけにあり、両病院は限られた新生児専門医を有効活用するため、NICUを集約する方向で大筋了承していた。
協議では、大学病院が2012年度までにNICU6床、継続保育室(GCU)18床の計24床を整備する計画を説明。これに対し地元医師会が、現状も両病院合わせてNICUなどが24床しかなく、開業医からの搬送を断るケースがあるとして、大学の計画では病床が不足する可能性を指摘した。
大学病院は13年度以降にNICUとGCUを計30床以上に拡張するまでの措置として、13年度の市民病院建て替え時に一般小児科医で対応できる9床程度を設置するよう要望。市民病院は「それでは集約化の意味がない。(9床は)混合病棟に組み込まれ、周囲に医療スタッフがいない時間ができて危険」と拒否する意向を示した。
市民病院建て替え時にNICUとGCU計24床を整備するよう求める意見もあったが、病院側は医師確保の困難さや採算性の悪さを理由に「難しい」とした。
また大学病院産婦人科は、NICU集約に伴い母体搬送が集中するため産科医の集約も必要になり、「市民病院などに派遣している医師を大学に戻さなければならない」と説明した。
しかしまあ、地域の医療リソースが決定的に不足しているわけですから、最終的にはどこで妥協し手を打つかという議論にならざるを得ないと思うんですけどね。
ここで無理をして医者をかき集めて理想的な?システムを作り上げてみたところで、医者を引き抜かれた別な地域に同じ問題と共に恨みを輸出するだけに過ぎないわけで、一度こういう状況になるとなかなか皆が満足する解決策も見つからないでしょう。
周産期医療の現状というものは医療崩壊問題の縮図のような部分も多々ありますが、それだけに先行する問題解決のモデルケースとして注目されているところです。
得に前述の記事中にもありましたように無過失補償制度導入は最近の大きな話題であった訳ですが、先頃ついに初の申請が出たというのですね。
まだまだ結果が出てくるのは先の話でしょうが、こうした事例でどういうレポートが出てくるかは医療事故調の議論においても非常に参考になるところだと思いますね。
産科補償制度で初の補償申請(2009年9月1日CBニュース)
今年1月からスタートした産科医療補償制度で初の補償申請が日本医療機能評価機構に寄せられたことが分かった。
現在、同機構内の産科医や小児科医による書類審査が行われており、9月下旬に開かれる予定の審査委員会で、補償するかどうか正式に決定する。補償対象と認められれば、看護・介護を行う基盤整備に必要な一時金として600万円、看護・介護費用などとして2400万円が、脳性まひ児が成人するまで分割給付される。
産科医療補償制度は、分娩に伴い重度の脳性まひを発症した新生児やその家族に補償するとともに、原因分析や情報提供を行うことが目的。
補償の申請については、脳性まひ児の家族などが、児の満1-5歳の誕生日の間に、分娩機関に対し補償の申請を依頼し、分娩機関が日本医療機能評価機構に認定審査の申請を行う。また、極めて重度の脳性まひで、その診断が可能な場合には、児の生後6か月以降から申請ができる。
補償対象か否かの判断については、まず小児科医、産科医などが書類審査を実施。その結果を受けて審査委員会が審査し、それに基づいて同機構として補償対象の認定を行う。
補償対象と認められた後は、同制度のもう一つの柱である原因分析が行われる。原因分析では、「事例の概要」「臨床経過に関する医学的評価」「今後の産科医療向上のために検討すべき事項」などについて報告書をまとめ、これを児の家族や分娩機関にフィードバックする。制度として医療への評価や原因分析を初めて行った報告書は、早ければ年末にもまとまる予定だ。
とにもかくにもこうして社会的にも周産期医療に関する危機感が共有され、何かしらの対策すら動き始めている現段階ではあるのですが、ここに来て思わぬ伏兵が現れてきているようです。
某所で出ておりましたこんなカキコから紹介しておきましょう。
355 名前:卵の名無しさん[] 投稿日:2009/09/03(木) 10:19:40 ID:X2Gl3hVp0
10月からいきなり始まることになった分娩費の医療機関への
直接支払制度の要旨が最近届いたが読んでみてびっくり!!
妊婦さんは多額の現金を用意しなくても出産できるという少子化対策
らしく急に決まったのだが、医療機関から分娩費を請求できるのは
翌月にまとめて保険者に請求して支払は更に翌月末だって!
今まで、現金収入があったのが、平均2.5か月遅れで振り込まれる
なんてこんなこと勝手に決めて許されるのか?
月50件の出産で出産一時金42万円だから1か月2100万の収入が2.5か月遅れる
わけだから5000万以上もの運転資金を早急に用意しなければ経営が
頓挫してしまうよ。
こんな重大なことを数か月で相談もなく決めるなんて。
産院の収入のほとんどは分娩収入なんだから、それがいきなり2.5か月
遅れになりますよって。。。なにそれ!?
うちももうお産は撤退するしかないかも。
実はこの問題、ずっと前から指摘されていまして、例えば日本産婦人科医会ではこんなことを書いて出していたりするのですね。
「出産育児一時金等の医療機関等への直接支払制度」について(2009年7月22日日本産婦人科医会)より抜粋
この制度が発足する10 月から、分娩取扱医療機関において、現金収入が減少し、資金繰りが苦しくなる施設が出る可能性があります。
(略)
そこで、この問題に対して、政府系金融機関である独立行政法人福祉医療機構では、「制度変更に伴い入金が遅れる出産育児一時金等相当額」を最優遇金利1.6%(1 年間据置き)7 月10 日現在)で融資できるよう準備しています。(限度額:診療所4,000 万円)
いや判ってるならもっと末端まで広報しとけよと(苦笑)。
と言いますかね、このところ産科医療制度の保険金上乗せもあってまた出産費用が高くなる、どうも産科医はぼってるんじゃないかと世間的には非常に不評な状況にあるわけですよ。
「産科医療のこれから」さんのところでも取り上げてくださっていますように、産婦人科医会会報でも「一分娩・入院に必要な費用」なんてものを試算して出しているのを見れば、まともなお産をさせようと思えば現状の値上げした出産一時金でも赤字覚悟のバーゲンプライスになりかねない状況なんですけどね。
そんなこんなで金銭絡みのトラブルにナーバスになっているだろう産科の現場に対して「しばらく金は入らなくなるだろうが、なあに心配するな。低利の金貸しを紹介してやる」とはずいぶん配慮のない話ではないでしょうか?
このところ産科に対して優しくなってきていたはずの行政にしていったいこれはどうしたことなのかと誰でも思うわけですが、どうもこの問題そうそう配慮不足といっただけの単純なものでもないらしいのですね。
産科開業医に資金繰りの危機 福祉医療機構に上納の構図(2009年9月1日ロハス・メディカル)
10月から出産育児一時金が健康保険組合から医療機関へ直接支払われるようになる。医療機関の未収金に配慮した政策だったが、窓口払いから保険支払いへと変わることにより、分娩の2~3ヵ月後まで医療機関の収入がほとんどなくなる。このため、開業医の多くから資金ショートするとの悲鳴が上がっている。その間の資金繰りを支援すると称して、厚生労働省の外郭団体が有利子での融資を準備しているが、一度借りると引退まで借金を背負い続けることになる例が多いとみられる。(川口恭)
これまでは本人から退院時に徴収していた。支払いなしに産み逃げされて医療機関の困る事例が相次いだため、分娩費に充てる想定で支払われている出産育児一時金を10月から医療機関が直接受け取れるようにした。しかし、この支払い処理が通常の保険支払いと同じに行われるため、入金は2~3ヵ月後になる。月に25分娩扱う診療所であれば、月1050万円×3の3000万円程度の資金ショートが生じる計算になる。開業費用の借金を返しながら診療を続けている開業医は、手元資金にそれほど余裕はないのが普通なので重大な問題だ。
この資金繰りを支援するための融資制度も厚生労働省の外郭団体である独立行政法人・福祉医療機構で同時に創設された。しかし、有利子(1.6%)で要保証人ということから、開業医たちの不満が爆発寸前になっている。少し考えていただくと分かるが、開業医側には何の瑕疵もないのに借金の必要な状態に追い込まれたうえで、分娩取り扱いを続ける限り 1.6%の年貢を機構に納め続けねばならない構図になっている。
「地方のお産が壊滅し、天下り団体だけ太る」 資金繰り不安問題(2009年9月1日ロハス・メディカル)
出産育児一時金の支払方法が10月から変更されるのに伴い産科診療所に資金繰り不安が出ている問題で、とある産科開業医の声を聞いた。「制度変更の趣旨と違う。我々は踏んだり蹴ったりで、天下り団体が太るだけ。このままではパニックになる」という。(川口恭)
「趣旨と違う」というのは、制度変更は「医療機関の未集金対策」との説明だったために全分娩の5%程度を占める支払い困難事例のみ適用されるのかと考えていたところ、蓋を開けてみたら全分娩が対象だったこと。これによって資金ショートの発生することが確定したという。スタートが10月であるために最初の支払いは12月20日過ぎになり、ちょうど従業員へのボーナス支払いの時期にあたることから医療機関では通常期以上に資金需要がある。借り入れ額も大きくならざるを得ない。
「踏んだり蹴ったり」というのは、既に4月から妊婦検診の無料化(券方式)が行われたため、ここでも2ヵ月程度の資金ショートが生じて、手持ち資金は既にその穴埋めにつぎ込んでしまっていることを指す。「厚生労働省は小規模の産科診療所を全部つぶすつもりなんだろう。うまいことやられた」と、陰謀史観めいた言葉すら漏れる。お産専業でやっている地方の診療所が最も打撃を受けそうな情勢だ。
「天下り団体が太るだけ」というのは、医療福祉機構の融資制度が担保と保証人を取って、なおかつ1.6%の利子を取るため。しかも、分娩取り扱いをやめて引退するまで資金ショートは順繰りに続いていくため、ずっと利息を取り続けられる形になる。
この開業医は「民主党に変わったのだから、この仕組みも何とかしてほしい」と話している。
いやあ、どこからどう見ても「なんじゃそりゃあ?!」な話ではありますよね(苦笑)。
実際に「なんで普通に診療してるのに借金漬けにされないといけないんだ!やってられるか!」とばかり、これを気にお産をやめようと検討中の零細開業産科医の先生方も多いとも側聞します。
産科医というものは近年非常に人気がなくなっていて、新規参入が減ってきている関係もあってとりわけ高齢化が進んできていると言いますから、これは老先生方に決断をうながす一つの大きなきっかけになるかも知れないですね。
ところで、この金貸しをやるという医療福祉機構というのがまたちょっと調べてみるだけでも出るわ出るわ、あんな話やこんな話がいくらでも出てきそうな勢いなんですね。
まあこうした団体であればこれくらいのことをやりかねないだろうと納得はするにしても、これだけのことをやっているというのであればもう少し話題になってもよさそうなんですが、あるいはこれは政権交代を見越しての駆け込みで最後の一稼ぎでも目論んでいるといったことなのでしょうか。
しかし失礼ながらいくら御意見無用の天下り団体とはいえ、この泣きっ面に蜂状態の産科業界などからさらに金をむしろうとは、もう少し対象を選べよと言いたくなるところなんですが、福祉医療機構の経営理念なるものを見てみますとこれがまた泣かせます。
福祉医療機構 民間活動応援宣言
私たちは、国の政策効果が最大になるよう、地域の福祉と医療の向上を目指して、
お客さまの目線に立ってお客さま満足を追求することにより、福祉と医療の民間活動を応援します。
「国の政策効果が最大になるよう」ってなんだ、いつもの国策推進じゃありませんかって話で、いやそうですか単なる悪徳天下り役人の金儲けかとうっかり誤解しそうになってましたけれども、国策なら仕方ないですよね。
どこをとっても疑問符のつく一連の騒動に何か一本芯が通ったようで、何か激しく納得してしまうものを感じたのは自分だけでしょうか(苦笑)。
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