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2009年9月 9日 (水)

政権交代で地域医療はどうなる?

一般紙などでも報道されましたが、先日こういう記事が出ていたのをご覧になったでしょうか。

病院選びの情報、入手可能は2割 医師の経歴など、厚労省調査(2009年9月7日47ニュース)

 外来患者と入院患者のほぼ2人に1人が、治療を受ける病院を選ぶ際に必要とする情報として、医師の専門性や経歴、検査・治療方法を挙げる一方で、実際に「入手できた」とする人は、外来で15%程度、入院でも20%程度にとどまっていることが7日、厚生労働省の2008年受療行動調査で分かった。

 患者が活用したいデータや情報をどの程度入手できているかを探る国の調査は初めて。欲しい情報が医療機関から十分に提供されているとはいえない実情が浮き彫りになった格好だ。

 厚労省は「ニーズと実際に得られる情報とのギャップの背景までは分析できていないが、溝を埋めるため、行政や医療機関側が改善を図る必要がある」としている。

 調査は昨年10月、約500病院の患者を対象に実施。有効回答数は外来患者約10万人、入院患者約5万3千人だった。

 病院選びの際、どのような情報が必要かとの質問(複数回答)で、10個の選択肢のうち多かったのは「医師らの専門性や経歴」(外来48・5%、入院49・6%)と「受けることのできる検査や治療方法の詳細」(外来47・7%、入院50・8%)。

 これらの情報を入手できたと答えたのは「専門性や経歴」が外来14・7%、入院16・6%にとどまり、「検査や治療方法」も外来13・7%、入院21・4%と少なかった。

個人情報保護が熱心に言われる時代にあってどんどんと妙な方向に話が進んでしまう可能性もなくはないような記事なんですが、一般論として選択の根拠となる情報を提供せよとは顧客に認められた正当な権利ではありますよね。
問題は現在の医療業界においては身近な病院から医者が消える、果ては病院そのものが消えるなどで、選択する自由そのものがなくなりつつあるのではないかということなのですが、これが病院統廃合と医療の効率化を推進してきた国策の結果であるという点はなかなか興味深いですよね。

例えばこのところ計画が進んでいる大阪府の公立病院統合問題などを見ても、行政側としては資金も人手も不足の中少しでも現場がまわるように医療資源集約化を進めているのだという立場なのでしょうが、国が求めるこうした施策は地域住民からはあまり評判が良くないようです。
そうかと思えば地域医療を支えようとする思いがこんな悲劇的結末を産んだりもするわけですから、当「ぐり研」でずっと取り上げてきた医療を提供する側と受ける側との認識の差もさることながら、医療の当事者と行政側との認識の差というものにも深い溝があるようにも感じられますね。

自衛隊病院:2医師を停職 民間で勤務 /熊本(2009年9月7日毎日新聞)

 自衛隊熊本病院(熊本市東本町、上田幸夫院長)は7日、3等陸佐の30代男性医師2人が休日に民間病院で勤務し、報酬を受け取っていたとして停職処分(4日と5日)にしたと発表した。

 病院によると、1人は08年8月~09年5月に十数回、知り合いの医師に頼まれて民間病院の当直勤務に就き、約140万円の報酬を受け取った。もう1人は学生時代の先輩医師に頼まれ、08年5~12月に二十数回、三つの民間病院で当直勤務などをして約210万円の報酬を受け取った。税務署から届いた総所得額と自衛隊病院の給与所得に差があるため確認したところ、認めたという。

 2人は医師不足に悩む地域医療の実情を聞かされて強く求められたため、内規違反と知りながら勤務していたという。自衛隊熊本病院は防衛省が設置し、医師は10人。隊員と家族を対象にしている。

このニュース自体も各メディアで報道の具合が違っていて、そういうものを読み比べてみるのもまた面白いかなと思うところです。
ちなみに自衛隊病院そのものもこのご時世で全国10カ所程度に集約化を目指すんだそうですが、2008年からようやく一般患者へも解放していくよう方針が変わってきているということで、今後は地域医療に積極的な役割を果たしていくのではと期待されているところです・
しかし折からの政権交代と連立政権樹立によって自衛隊に対する政府の風当たりも微妙に変化しそうな気配ではありますから、今後どうなっていくのか予断を許さないところではあるのですけれどもね。

それはともかくとしてその政権交代ですが、当然ながら地域医療に対する影響も小さからざるものがあります。
最近は議員さん達も好き放題しゃべっているような感じでどこまで真に受けて良いものやら判らないような話も噴出していますが、まずは前述の病院再編話とも絡めていささか長い記事ですが、こちらの方から紹介しておきましょう。
特にいわゆる医療関係者の間においても、そのよって立つところに応じてそれぞれの主張も利害得失も全く異なるのだという点に留意ください。

政権交代で、急性期病院はどうなる?(2009年9月1日ロハス・メディカル)

 厚生労働省は急性期病院を再編する計画を進めているが、政権交代後はどうなるだろうか。(新井裕充)

 民主党の政策集(7月17日現在)は、「地域医療を守る医療機関の入院については、その診療報酬を増額します」としており、入院基本料の引き上げを示唆しているが、具体的にどの入院基本料を引き上げるかは明言していない

 入院基本料は、看護職員の配置人数などで差が付けられている。最も高い点数は、患者7人に対し看護職員1人を配置する「7:1入院基本料」で、これに「10:1」「13:1」「15:1」などが続く。これらの配置基準は病院の規模を反映している。

 同政策集では、「4疾病5事業を中核的に扱う公的な病院(国立・公立病院、日赤病院、厚生年金病院、社会保険病院等)は政策的に削減しません」としており、地域で中核的な役割を果たしている病院を評価する方向性がうかがえる。
 例えば、DPC(入院医療費の包括払い制度)を導入している病院のうち一定の病床数以上の病院、地域医療支援病院などの診療報酬を大幅に引き上げることが考えられる。

 厚生労働省も、「医療機能の分化・連携」を進めるため、地域の中核病院を手厚く評価する方針。このため、2010年度の診療報酬改定で、大学病院など高度な医療を提供する病院を優遇しても民主党の政策と矛盾しない。
 問題は、「13:1」「15:1」などを算定している中小病院の入院基本料。これらの病院には慢性疾患を抱える高齢者など長期入院の患者が含まれているため、厚労省は「一般病床」の中身を明確化する方向で検討を進めている。
 将来的に、現在の「一般病床」を「高度急性期」「一般急性期」「亜急性期・回復期等」に区分するなど、急性期医療を担う病床を絞り込む案がある。その道筋を付けるため、「13:1」「15:1」の病床は急性期医療の枠組みから外して、慢性期医療に移すことが考えられる。

 こうした背景には、「一般病床」と「療養病床」の"重なり合い"がある。現在、病院のベッド(病床)は患者の状態に応じて区分されている(医療法 7条)。従来は、「精神病床」「感染症病床」「結核病床」「その他の病床」の4区分だったが、1992年の医療法改正で「その他の病床」が「一般病床」と「療養病床」になった。
 「一般病床」は主に、脳梗塞などで倒れて救急病院に搬送された場合など、病気を発症して間もない急性期の患者が入院する。これに対して、高齢者など慢性疾患を抱える患者が長期入院するのは「療養病床」。しかし、「一般病床」イコール「急性期」ではなく、慢性期の患者も含まれている。そこで、「一般病床」をさらに明確に区分する計画が進められている。

 社会保障費の抑制策に対する批判などを受け、福田政権下で設置された「社会保障国民会議」が2008年11月4日にまとめた最終報告では、25年に向けた改革シナリオが示されている。
 シナリオでは、07年現在で103万床ある「一般病床」は25年に133万床に増加するが、「B3シナリオ」に従って再編すれば、「高度急性」26万床、「一般急性」49万床となる。長期療養の病床は23万床で、急性期と長期療養の間に「亜急性期・回復期等」40万床を位置付ける。

 厚労省は今後の医療政策を進める上で、同会議の最終報告を重視しているが、新政権は同報告をどのように扱うだろうか。10年度の診療報酬改定に向け、厚労省は同報告の改革シナリオに沿って中央社会保険医療協議会(中医協)などの議論を進めることが予想されるが、今後はどうなるだろうか。

 民主党の政策集では、急性期医療と慢性期医療の谷間にある「亜急性期」の位置付けまでは言及していないため、この領域をどうするかが注目される。
 救急医療をめぐっては、診療報酬の相次ぐマイナス改定で2次救急を担う病院が減少したことが3次救急を圧迫したとの指摘もある。「13:1」「15:1」を算定している中小病院の2次救急に期待するか、あるいは老人保健施設などへの転換を進めるか、その行方はまだ見えない。

 厚労省は8月27日、中医協・慢性期入院医療の包括評価調査分科会(分科会長=池上直己・慶應義塾大医学部教授)で、「平成20年度慢性期入院医療の包括評価に関する調査」の報告書(案)を示した。質疑では、「13:1」「15:1」に入院している患者を「医療療養病棟の患者と類似している」と記載したことに議論が集中した。

 対立構造は単純で、 「13:1」「15:1」を慢性期医療の領域と考えると、「類似している」という方向に傾く。一方、急性期医療の領域と考えれば「類似とは言えない」という考えになる。日本慢性期医療協会会長の武久洋三委員は、「類似」に賛成する立場。

 これに対し、全日本病院協会副会長の猪口雄二委員は「類似」とすることに慎重論。日本医師会常任理事の三上裕司委員も同様の立場と思われる。日医は最近、有床診療所への評価を主張している。高度急性期ではない急性期、例えば高齢者が転倒骨折した場合などに対応する"準急性期"をめぐる日医の思惑がうかがえて興味深い。

 「13:1」「15:1」を「一般病床」から切り離す点では、厚労省と日本慢性期医療協会は一致するが、厚労省が「13:1」「15:1」を「療養病床」に移行させたいと考えているかは微妙。やはり、「老人保健施設に転換してください」という考えだろうか。(略)

急性期をどうするかという議論ではあるのですけれども、二次救急を語ることが三次救急の行方を左右するのと同様、実際的には慢性期をどうするのかという議論と裏表になっているわけですから、これらは個別に語られるべき話ではないはずですよね。
個人的な印象ですが、民主党と言うと従来療養型病床の削減などには割合積極的な反対論を主張してきた反面、急性期病院に対して診療報酬増額などといった話以外の、例えば厚労省のすすめる病院統廃合などに関しては今ひとつスタンスが明確でなかったという気がしていました。
各地の自治体からは政権交代がなれば地方の医療もうまくいくのではないかという期待感も多数寄せられているとも側聞しますが、ここで近くの病院残しますと言ってしまうと今度は医療現場の更なる疲弊につながりかねず、かねて医療政策を重視してきたともいう同党としても痛し痒しなのではないかと思いますね。
そんな中で幾つか民主党議員から気になる発言が飛び出しているのですが、ここで紹介しておきましょう。

地域医療再生基金の予算執行停止、「ないことはない」―民主党・鈴木寛参院議員(2009年9月4日ロハス・メディカル)

 民主党の鈴木寛政調副会長は4日、今年度の補正予算の未執行分の停止に関し、地域医療再生基金に関して「(執行停止は)分からない。ないことはない」と述べた。(熊田梨恵)

 民主党は今年度の補正予算について、新政権発足後に未執行分を停止する方針を示したと報道されている。

 医師不足対策など「地域医療再生」を目的に複数年度で予算を使える地域医療再生基金は、今年度の補正予算で盛り込まれ、約3100億円を計上している。予算を受けられる地域が限られている上、計画内容によって得られる金額に差があり、今の医療界の最大関心事の一つだ。申請の締め切りは10月16 日。民主党が基金の予算執行についてどう扱うか、医療関係者から注目が集まっている。

この地域医療再生基金というもの、自治体が地域医療再生計画を策定すれば国から補助金が出るというものですが、厚労省が例示している再生計画の指針と言うものがなかなか興味深いですよね。

厚生労働省平成21年度補正予算『地域医療再生基金の事業例』より抜粋

1 地域医療の再生に向けた総合的な対策 3,100億円

救急医療の確保、地域の医師確保など、地域医療の課題を解決するため、都道府県が2次医療圏を単位として策定する「地域医療再生計画」に基づく以下のような事業に対して、都道府県に地域医療再生基金(仮称)を設置して財政支援を行う。

・ 地域内において医療機関の機能強化、機能・役割分担を進めるための連携強化
医師事務作業補助者の集中配置など勤務医・看護師などの勤務環境改善
・ 短時間正規雇用制度といった多様な勤務形態の導入による勤務医・看護師などの確保
大学病院などと連携した医師派遣機能の強化
・ 医療機能の連携や遠隔医療の推進のための施設・設備の整備
新生児集中治療室(NICU)・救命救急センターの拡充、NICUや回復期治療室(GCU)の後方病床としての重症心身障害児施設等の整備 等

見ていただきますと判りますように、ここで念頭に置かれているのは地域の小病院の維持というよりも基幹病院の整備に目線が行っていて、そうなりますと厚労省の言うところの病院再編・統廃合につながる話なんだなという背景が見えてきます。
これに対して異を唱えるということは何かしら医療の集約化に対する反論なのか?とも取れるようでもあるのですが、どうもそう簡単な話でもなさそうなんですね。

勤務医数多い病院を配置し、医師不足解消を―民主党・梅村聡参院議員(2009年9月4日ロハス・メディカル)

 民主党の梅村聡参院議員(厚生労働委員会「介護・医療改革作業チーム」事務局長、内科医)は4日、医師不足や医師の労働環境改善のため、「定数の2倍ぐらいの医師がいる医療機関が各都道府県に1か所ぐらいあるといいと思う」と述べた。(熊田梨恵)

 交替制勤務と複数主治医制の導入など、医師の労働環境の改善にはまず予算と人材配置が必要とした上で、その方法について答えた。「研修医の枠を決めて強制的に派遣するのではなく、中心的な"マグネットホスピタル"に予算を入れ、医師が溢れるぐらいいる病院にする。そこから周辺の医師不足の地域にも派遣していけば、派遣される医師も"根無し草"にはならないので安心できる」と述べ、中小病院の医師不足解消にも役立つとした。

「交替勤務性と複数主治医制の導入を」―民主党・梅村聡参院議員(2009年9月4日ロハス・メディカル)

 民主党の梅村聡参院議員(厚生労働委員会「介護・医療改革作業チーム」事務局長、内科医)は4日、医師の労働環境について「交替勤務制と複数主治医制がよいと思う」と述べ、一般的に行われている主治医性は中長期的になくしていく方向がよいとの認識を示した。(熊田梨恵)

 医師の労働環境に関する考えについて、ロハスメディアの取材に答えた。現在の主治医制については「日本の良い点と思う。ただ、そこを起点に壊れている現状がある。1人が1人を"負う"のが問題」との見方を示した。その上で、主治医性を完全になくしてしまうのではなく、まず交替勤務制に変え、複数の医師で主治医を担う形を中長期的に導入していくのが良いとした。

この主治医制なるシステムに関してもかねて議論の割れているところで語り始めると長くなるのですが、とりあえずここで語られている内容からすれば統廃合の廃の部分はともかく、ある程度集約化されるべきという統の部分への賛意表明とは取れるような話ではありますよね。
もちろん近所の小さな病院を残すということの大前提として、いざとなれば難しい患者を常時引き受けてくれる大病院の存在というものは必須だろうとは言われていたわけですから、この発言をもって直ちに中小病院から医者を引き上げて大病院へかき集めろと主張している、とまでは言えないところです。
もっとも、現実問題それ以外にどこからどうやって医者を集めるかという話ですし、中核病院の派遣医師で地域小病院を回せば良いとはすなわち、厚労省の言うところの「田舎の小病院は診療所化して医者を集約化しろ」という話を別な表現で言っているだけと取れるところですよね。

ちなみに主治医制の件ですが、地方の小病院などになりますとほとんど日当直医だけで回しているような実質主治医制廃止の病院もあったり、数少ない常勤が全患者を相手に診療しているチーム医療体制の病院もあったりしますから、現実問題として末端医療機関ではさほど主治医制へのこだわりもないのかなという印象を持っています。
むしろ医師の専門性が高い中核病院など高次の医療機関の方が「俺の苦労して診てきた患者をあの素人当直医に無茶苦茶にされた」などと他科医師の介入を嫌う先生が多いようにも思いますが、診療科毎に数人のチームが組めればこの辺りの専門外の介入問題もある程度何とかなるんじゃないかという気がしますけれどもね(ただし、全科でそこまで医者を集められる病院がどれほどあるか、ですが)。

このあたりはかつては上司の下働きとして一番の奴隷労働をこなしてきた一方、最近では次第にQOML(医療従事者の生活の質)を重視し始めたなどと言われる若手の先生方がどう考えているのかも今後を占う上で重要かなと思うわけですが、ちょうどよい記事がありましたので最後に紹介しておきましょう。

〔新生児医療の教育現場から②〕主治医制と交替勤務制、よりよい労働環境は?(2009年9月8日ロハス・メディカル)

 「NICUの交替制勤務の実現で『協力、安定、標準化』の医療を約束し、若手医師が集まる魅力的な労働環境を提供します」、「日本の周産期死亡率世界一に導いた、『人情、根性、責任力』の主治医制を維持していきます」-。新生児医療に携わる研修医が、主治医制と担当医制の是非について、学会の教育セミナーでプレゼンテーションした。今の若手医師は、医師の労働環境をどう考えているのだろうか。(熊田梨恵)

■〔新生児医療の教育現場から①〕研修医から医療界に提言し、現場を変える

 日本未熟児新生児学会(戸苅創理事長)が、8月20日から3日間開いた研修医向けの教育セミナーではグループによるワークショップの報告会が行われた。「NICUにおける交替制勤務の賛否」のテーマを選んだグループは、主治医が患者を一対一で担当し、急変時には昼夜問わず駆けつける「主治医制」と、患者の情報をチーム内で共有し、交替制勤務の中で当日の担当医が患者を診る「担当医制」について、メリットとデメリットを聴衆である他の研修医にも理解してもらうため、寸劇でプレゼンテーションした。それぞれを"政党"としてマニフェスト評価する形で表現した。

 「私たちは根性で生まれたばかりの赤ちゃんをそばで支え続けます」。主治医制を主張する「主治医保守党」は、「人情、根性、責任力」をキーワードに今後も従来行われてきた主治医制を維持するとした。それに対する「交替実現党」は、「協力、安定、標準化」をテーマに、交替制勤務の中でチーム医療体制を敷き、標準治療や医療に対するフィードバックを行っていくとした。どちらが医療者や患者によってよりよい医療現場となるのだろうか。
 
■日本の医療は「主治医制」中心
メリット・デメリット.jpg 日本の医療は主治医制を中心に展開してきた。欧米では交替勤務を取り入れた担当医制を取り入れている国や地域もあり、医師の労働時間を週48時間(オンコール含む)と規定しているEUでは二交替制や三交替制での勤務形態がほとんどだという。"医療崩壊"が叫ばれる中、医師の労働環境が労働基準法に違反している(こちらやこちらを参照)として交替制勤務を求める声が上がるようになってきたものの、医師不足の上、医療者と患者の双方に主治医制が浸透している現場への導入は困難が予想される。医師労組の全国医師ユニオンの植山直人代表は「日本では主治医は365日24時間、責任を果たさなければならないという意識があるし、患者もそういうものだと思っている。だが、主治医も人間だからそうはいかない」として、担当医制への理解を求めている。ただ、若手医師への教育という観点から、研修医時代は患者につききりで働いたり、一例でも多く臨床を学んだりする方が良いとする声もある。

 研修医がプレゼンテーションのために議論した際に各自の病院の勤務体系が報告されたが、ほとんどが主治医制で、一部に複数主治医制を取り入れてチーム医療を展開している病院もあった

ワークショップ報告会で行われたプレゼンテーションの内容

 最初にに主治医制と担当医制のメリットがそれぞれ主張された。

①<「主治医保守党」の主張>
1、人情...一人の医師が新生児を愛情と思いやりを持って診る。緊急時にはいつでも駆けつける。
2、根性...急性期の医師が根性で新生児を支え続ける。72時間連続勤務も行う
3、責任力...新生児死亡率が世界最低となったのは、責任感を持った医師の努力による成果。担当医制では責任を持てない。

②<「交替実現党」の主張>
1、協力...「喜びは2倍に、悲しみは半分に」。若手医師に魅力ある労働環境を提供し、燃え尽きや離職を防止する。
2、安定...交替勤務により常に体調が良好な状態で働ける。人員を集約化し、余裕ある労働環境。
3、標準化...標準治療マニュアルを作成し、どこにいても同じ内容の医療が受けられる。主治医制は"独りよがり"の医療に陥りがちになるため、複数医師が関わり医療内容をフィードバックする。

 次に、それぞれの"党首"がディベートして双方のメリットとデメリットを主張した。

③<双方による意見交換>主...主治医保守党 交...交替実現党
交「早産児は年々増加していると言いますが、72時間連続勤務は可能でしょうか。先輩方は超人的な医療をして働いてこられましたが、我々は倒れてしまうのではないかと思います。倒れたらどうするんですか」
主「何を言っているんですか、失敬だ。30年間こうやって働いてきたんですよ。私は倒れませんよ
交「主治医保守党の先生は倒れないと言われますが、実際倒れるほど働いていると思います。新生児に携わる先生方がどの程度続けられるかどうかをまとめた資料があります。かなりの方が根性で続けられているのに対し、研修医世代では半数以上が現在の勤務では続けられないと言っています。今の状態で若手医師がついていけますか」
主「若い奴は根性が足りない。赤ちゃんのためには倒れるまで働き続ける。そういう熱い魂を持ったものだけが選ばれし新生児科医になればいい

主「出生1000人当たりの周産期死亡率は、日本は最高の治療成績です。主治医の血のにじむ努力の賜物です。交替勤務ではこのような成績が残せますか。死亡率が上がってしまうのではないですか」
交「確かに素晴らしい成績です。ただ、患者が増えて、新生児科医が減少しているのに、こんな素晴らしい成績を残し続けることが可能でしょうか。新生児科医が絶滅したら、成績も残せません。この実績を残すためにも、魅力ある労働環境を整え、新生児科医を増やすことが先決ではないでしょうか。このような労働環境で若手は来ると思いますか。学生へのアンケートを見ると、若者たちはゆとりある勤務時間を望んでいます
主「そんな軟弱な若手は、要らない

主「交替勤務で誰が患者に責任を持つのですか。主治医だから患者を責任を持って診れるのではないのですか」
交「複数主治医制を考えています。主治医への負担を分担し、なおかつ責任を持った医療は実現可能だと考えています」

主「その人数をどうやって集めるのですか。果たして可能なのでしょうか」
交「集約化を考えています。そしてパート、非常勤医師の活用など、今働いていない医師の活用を考えます。魅力ある環境づくりで若手医師が新生児科を希望することが予想され、人員確保は可能だと考えます」

 " 交替実現党"が得票数となる会場からの拍手を多くを得たものの、議席が過半数を満たさなかったとして、最終的に「主治医保守党」と「交替実現党」がそれぞれのメリットを生かした"連立政権"を発足させる形で決着させた(交替制勤務への拍手の方が明らかに大きかったが・・・)。

④<主治医制+交替勤務制の"連立政権">
1、人情+協力...複数主治医制により、数名のグループで患者を担当。交替勤務制導入。「喜びは2倍に、悲しみは半分に」
2、根性+継続力...急性期のみ患者を診療し続ける「急性期主治医チーム」と、交替制勤務で働く「シフトチーム」に分ける。急性期チームには研修したい若手医師、シフトチームには非常勤医や子育て中の医師など。
3、責任力+安定...チームで治療方針を決定し、マニュアル化された治療により標準医療を全国で展開する。労働環境も安定。

■実現には課題山積
 この形でプレゼンテーションは終わったが、実際には交替勤務を行うだけの医師数が足りないことや人件費などのコスト、公立病院の場合は定数の問題もある。神奈川県立こども医療センター新生児科の豊島勝昭医師も「交替勤務の方が明らかに多く人手がかかってしまう」と指摘する。

 集約化の議論も外せなくなるが、公立病院や大学病院、特定機能病院など周産期医療に関してどの医療機関がどういう形で中心的役割を担っているかは地域の実情でかなり違うため、一律に集約化すると地域医療に大きな影響を与えてしまう。文部科学省は患者の受け入れ不能問題を解消するため、今年度から国立大学病院のNICUを整備していく方向性を打ち出しているが、同時に新生児科医も必要になるため、マンパワーの分散も懸念されている。
(略) 
 プレゼンテーションのための事前準備中、研修医からは「たまには自分が家族にご飯を作りたい」「育児を手伝いたい」との声がある一方で、「患者の状態が落ち着くまでは責任を持って診たい」「若い研修医時代には連続で働いて医療の"流れ"を知りたい」という意見もあった。労働の場であるとともに、教育や研究の場でもある医療現場。どういう働き方が患者や医療者にとってよりよい医療を提供できるのか、医師不足や医師養成が課題となる中で、早急な対策が求められている。

つか主治医保守党、絶対わざとやってるだろ(笑)。
「実際には交替勤務を行うだけの医師数が足りないことや人件費などのコスト、公立病院の場合は定数の問題もある」という部分に留意いただきたいのですが、要するにハードルになっているのは全て医師を管理する側のロジックだということなんでしょうかね。
こういう現実の議論を見ると、主治医制なるものを擁護する意見というものは実は当の主治医というより病院側にとって都合が良い意見であって、医者が集まらない、大勢雇うのに金がかかるといった本音の部分を割り引いて考えなければ状況を見誤るようにも思えてきます。

ま。こうした会としては勝手に明確な結論が出てしまっても困るということなのでしょうが(苦笑)、あからさまに会場では結論が出てしまっているあたり、案外現場の人間は心が定まってきているんじゃないかという印象も受けるところですよね。
病院の管理者側、指導医そして研修医、さらには患者や地域住民と、それぞれの立場によって最適解というものは異なるかと思いますが、今の時代は昔と違って下っ端の発言力というものがずいぶんと強化されてきていますから、これは新政府が公式に態度表明をすれば各地で実際の動きが出てくるということになるかも、ですかね。

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