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2009年9月10日 (木)

表向きの議論の背後に、何やら別の問題も見え隠れして

海堂尊氏と言うと大ヒット作「チーム・バチスタの栄光」など作家として売れっ子である一方、外科医出身の現役病理学者として以前から死亡時画像診断「Ai (オートプシー・イメージング)」に熱心であると言う話です。
件の話題作は拝見しておりませんので作家としての力量はどういうものなのかは知らないのですが、その世間的にそれなりに有名な人物が妙なところで?裁判沙汰になったという話題がこちらです。

東大教授が海堂尊氏らを提訴 ブログで名誉棄損と(2009年9月9日47ニュース)

 医療現場の内幕を描いた「チーム・バチスタの栄光」などで知られる人気作家で医師、海堂尊氏のインターネット上の文章が名誉棄損に当たるとして、日本病理学会副理事長の深山正久東大教授が、海堂氏に損害賠償と謝罪広告を求める訴訟を東京地裁に起こしていたことが9日、分かった。

 解剖前の遺体をCT撮影して死因特定に役立てる「死亡時画像診断」(Ai)の有効性が争点の一つ。海堂氏は推進する立場で、作品の主要なテーマとしている。今後、同氏は出廷する予定。

 深山教授は文章をホームページに掲載した出版社2社も訴えており、請求額は計1430万円。

 訴状などによると、深山教授は死亡時画像診断と解剖結果を比較する研究計画書を厚生労働省に提出。昨年度に交付金を受けて遺体を調査した結果「死亡時画像は解剖前の情報として有用だが、解剖に代わるものではない」と結論づけた。

 これに対し、海堂氏は「他人の業績を横取りする行為」と自身のブログに書き込み「Ai研究はダメにされてしまいます」「厚労省のAiつぶし」と批判した。

 深山教授は「海堂氏から取材を一切受けておらず、内容は虚偽。(ブログは)閲覧数が非常に多く、多大な迷惑を被った」として名誉を傷つけられたと主張している。

ちなみに海堂氏の弁明はこちらですが、氏としてもAiがライフワークという認識がある以上他人に「役立たず」と結論づけられて面白くないということもあるのでしょうが、何かしら学術とかいう以前のレベルで感情のもつれが入り交じっていそうなと言いますか、正直双方とも大人げない話だなという印象です。
ただそうした点を別にして見てみますとこの訴訟、ブログとかネット上の言論に対して言わば既製権力側が真っ向から対決姿勢を示したとも解釈できるような一般性のある話ですから、今までネットを敵視してきた一部マスコミの皆さんがおもしろおかしく取り上げてくるようだと案外大きなネタになるかも、でしょうかね。

そちら方面については続報を待つとして、本日のお題はこの記事の元ネタとも言うべき死因究明とも大きく関わってくる話を幾つか取り上げてみましょう。
まずは先日第一例目の申請が出たと話題が出ていました産科無過失保証制度関連で、こちらのニュースを紹介しておきます。

お産事故、患者交え検証 無過失補償制度で(2009年9月8日47ニュース)

 産科の医療事故で赤ちゃんが脳性まひで生まれた場合に、医師側の過失の有無にかかわらず補償金を支払う無過失補償制度で、原因究明作業は、医療機関だけでなく患者本人や家族からも分娩前後の経過などについて書面で意見を求めることが、8日までに決まった。

 この制度は厚労省所管の財団法人日本医療機能評価機構(東京)が運営し、今年1月にスタートした。原因究明で患者の意見を聴くかどうかが焦点だった。

 同機構は慎重に検討し、最終的に「病院側の主張に偏らない公正な対応が、医療への信頼回復や紛争回避につながる」と判断した。

 同制度は、事故が起き、身体障害が1~2級相当と診断されるなどの条件を満たすことを前提に患者側に総額3千万円を支払う。さらに、再発防止や当事者間の紛争防止などを目的に、医師や弁護士らで作る原因分析委員会が調査・検証を行い、結果を医療機関と患者側に報告する。

 今回、医療機関の診療録などから作成した「事例の概要」を患者側に送付、(1)分娩の経過(2)新生児の状況-などに関して、追加したい項目や記憶と異なる個所がないか書面で意見を求めることなどが決定した。意見書提出から半年以内に報告書を作成する。

この産科の補償制度に限らず、医療事故調の方でも家族や患者側関係者を入れるかどうかということは激しい議論になったところですが、反対論の主眼は「真相究明が目的の場を、医者糾弾の場にしてはならない」ということだったように思います。
特に産科補償制度の場合、医療者側と家族側とは同じ補償という目的を目指す同志的関係を通じて訴訟リスクを軽減するという副次的効果も期待されていたわけですから、正直あまり揉めるようなことはやめて欲しいと感じる人もいるかもですね。
ただし家族側とすれば当然望ましくない結果を抱えて何かしら思うところはあるでしょうから、真相究明と言うならモヤモヤとした部分に全て回答を出してきて欲しいという率直な期待はあるところでしょうし、少なくともレポートにはそのあたりの求めるところをきちんと反映しなければ納得はしてもらえないだろうとは予想されるところです。

さて、そのレポートですが、再発防止という制度の一つの目的の上では当然ながら、広く一般に公開するということが決まってきたようですが、個人的にはレポートのみならず途中経過の部分も閲覧できればと思いますね。
例えば先の患者サイドからの聞き取りというものも、実際に運用をしてみなければどんな言葉が挙がってくるのか判らないところがありますが、そのあたりの生々しい肉声部分こそ現場の顧客対応改善というものを考える上で非常に参考になると思うのですけれどもね。

原因分析報告書、概要版をHPで公表―産科補償制度(2009年9月7日CBニュース)

 日本医療機能評価機構の産科医療補償制度原因分析委員会は9月4日、第7回会合を開き、原因分析報告書の公表について、同機構のホームページ上に個人情報を除いた内容で要約した概要版を掲載することを決めた。また、個人情報を除いた全文については、同機構に対し一定の手続きをした人が閲覧できることとした。

医学的視点による公平な審査を-産科補償審査委が初会合

 原因分析報告書は、「事例の概要」「臨床経過に関する医学的評価」「今後の産科医療向上のために検討すべき事項」などについてまとめられ、児の家族や分娩機関にフィードバックすることで、脳性まひの発症の原因についてそれぞれの理解を深め、紛争の防止、早期解決を図ることを目的としている。
 一方、産科医療の発展や制度への国民の理解には、透明性が重要なことから、その公表のあり方が課題となっていた。

 4日の会合では、事務局側が報告書の公表方法について、「個人情報を含まない内容で要約した概要版を運営組織のホームページ上で全件公表する」「マスキングした報告書の全文は、一定の手続きをした者のみが閲覧できるようにする」との案を提示した。

 これに対し、委員からは「患者や分娩機関の了解を取らずに、全文を見せてもいいのか」「公表によって、悪用される恐れがあるのではないか」などの意見が出た。
 こうした意見に対し、鈴木利廣委員(弁護士)は、「透明性の観点からも、再発防止の研究に資するという観点からも、個人識別情報に配慮した上での全文公開は原則」とした上で、「悪用防止のために開示請求主義にするというのは一つの方法と思うが、それが原則公開を損なうような運用にしないことが重要」と強調。「社会から分娩担当医の利益に配慮して開示していないのではないかと疑われるようなことがあってはいけない」と述べた。

 これらの意見を受け、同委員会は事務局の提案を了承。手続き方法などについては今後、引き続き検討することとした。

医療機関側は元より患者側にも公開されたくない人はいるでしょうが、制度の趣旨から言っても同制度を利用いただくならレポートの公開にも協力いただくのが筋だとは思われますから、このあたりは最初の審査請求を出す時点できちんとインフォームドコンセントを取っておくよう、あらかじめ担当医の教育を行っていくべきなんでしょうけれどもね。
そもそも匿名であろうが何であろうが年間数百人以下のレベルを対象に考えている制度ですから、報道情報をつなぎ合わせていくだけでもやる気のある人間ならかなり対象を特定できてしまいそうな気がしますが、そのあたりは今後マスコミ側にも一定の配慮が求められるところではないでしょうか。
いずれにしてもこうした事故調というものが患者側にとって補償金なり真相なりを得るだけのものではなく、今後の医学向上と再発防止のためにもそれなりに出していただくものもあるのだということを理解しておいてもらわないと、思わぬトラブルを招きかねないという危惧はあるでしょう。

さて、連日のように民主党筋から興味深い発言が出てきている状況ですが、事故調関係でもこんな話が出てきていることは紹介しておかなければならないでしょう。
しかしロハス・メディカルさん、最近ちょっと頑張りすぎと言いますか、おもしろいネタを拾って来すぎなんじゃないですか(苦笑)。

事故調「厚労省とは別のスキームで」-民主党・足立信也参院議員(2009年9月3日ロハス・メディカル)

 民主党の足立信也政調副会長は3日、厚労省が検討を進めている死因究明制度の法案大綱案について、「厚労省が考えているだけのこと。無視とはいかないが、別のスキームで考えるようになると思う」と述べた。(熊田梨恵)

 今後の民主党の医療政策に関するロハスメディアの取材に答えた。死因究明制度については、民主党が提案している医師法や医療法、薬事法の改正につながる「患者支援法案(通称)」を成立させ、「変死体の死因の究明の適正な実施に関する法案」と「法医科学研究所設置法案」も立法化して組み合わせることで制度設計は可能とした。

おいおい、事故調民主党案が華麗にスルーされてきた仇をここで討とうってか(笑)。
そう言えば以前に「診療行為に関連した死亡に係る死因究明等の在り方に関する検討会」座長であった前田雅英の中医協委員再任を民主党らが反対して不同意にした事件がありましたが、あの時にこの足立議員は在り方検討会での前田氏の運営について、こんなコメントを出していましたね。

「インターネット調査では、民主党案の方に多く支持を頂いており、厚労省案と評価が分かれているので、民主党案も同時に議論すべきという意見があるが、『地方説明会』と称して厚労省案に決まったかのように国内に周知したことも、座長の判断としてどうかと思う。議事録を見ると、座長として、決まった結論に導きたいという運営をしているように見えたことも問題」

このあたりで既に対決姿勢を示していたということなのかも知れませんが、このところ民主党議員から医療行政に関連した批判的コメントが相次いでいることにも注目されるところで、特にこの仙谷氏の発言はなかなか良い感じですかね(笑)。

中医協「なくすか、改革改組か」―民主党・仙谷由人衆院議員(2009年9月5日ロハス・メディカル)

 民主党の仙谷由人衆院議員(医療再建議員懇談会会長)は中央社会保険医療協議会(中医協)について、「なくすか、もう一度改革改組するか」と述べた。(熊田梨恵)

 民主党の今後の医療政策についてロハスメディアの取材に答えた。「いずれにしても医療機関側が開業医中心にみたいな、これは改革しないといけない」と、診療側委員の日医の体質を批判。「診療報酬が、所詮課長補佐が鉛筆をなめて1点たすとか0.5点削るとかそんなのだったら、それを前提にしながらどこかでそれをたたいて、そこで直しても同じじゃないかという気がする。あんな舞台だけ大きくて、何なんだお前たちはと思う」と述べ、中医協を抜本的に見直す必要があるとした。

「公益委員は医療を分かっているのか」―民主党・仙谷由人衆院議員が中医協を批判(2009年9月5日ロハス・メディカル)

 民主党の仙谷由人衆院議員(医療再建議員懇談会会長)は中央社会保険医療協議会(中医協)について、「公益委員というのは一体全体、医療や医療経営というのを分かっているのか」と述べ、抜本的に見直す必要があるとした。(熊田梨恵)

 今後の"中医協改革"に関するロハスメディアの取材に対し、次のように答えた。「公益委員というのは一体全体、医療や医療経営というのを分かっているのかと。診療報酬の付け方として、ことここまで来させて、国民から怨嗟の声が上がって、民間病院の首が全部絞まって公的病院は赤字だらけ。国って何なのかと、中医協という存在はそういうことは考えなくてよかったのかと。公益委員の役割は何だったのかと。保険組合とか開業医、財務省との三者の綱の引き合いの中で祭り上げられてまとめ役をやっているような気になっていたけど、"まとまった"結果としてもそのことが医療現場をどういう状況にさせたのかという反省なしに、金があるかないかの話するだけなら、そういう中医協ならいらないのではないかと僕は思っている」

「くだらない御用学者集めてやるのをやめろ」―民主党・仙谷由人衆院議員(2009年9月5日ロハス・メディカル)

 民主党の仙谷由人衆院議員(医療再建議員懇談会会長)は、厚生労働省の審議会や検討会の在り方を変える必要があるとして、「決め方についても追々だが、くだらない御用学者集めてやるのをやめろと」と述べ、民間の委員をさらに登用して活用すべきとした。(熊田梨恵)(略)

いやあ、見ている分には非常に面白くていいんですが、これが選挙に大勝した勢いに乗っての一時のことであるのか、それとも本気で医療政策決定システム全部を巻き込んでの改革をやろうとしているのか、そしてその実現性はといったあたりも気になるところではないでしょうか。
その意味で民主党と自民党双方のコメントも比べてみると興味深いものに見えてくるんですが、果たして抵抗勢力打破ということが成るのかどうか、今後の続報を注意深く見守っていきたいと思いますね。

「官僚に対案を拒む気力は残っていない」―民主党・鈴木寛参院議員(2009年9月9日ロハス・メディカル)

 民主党の鈴木寛政調副会長は8日、「無謬(むびゅう)性が(医療政策を)だめにしてきた」と指摘した上で、「医療者は地域で大切だと思うことをきちんと声を上げてほしい。対案を示せば、それを拒めるエネルギーは役人には残っていない」と述べた。(熊田梨恵)

 新型インフルエンザ対策についてロハスメディアの取材に答え、医療者側から適切な接種場所などについて自治体や国に提案してほしいと要望。「役人も昔は意見を言うと何か言ってきたが、今はそこまでの気力が残っている役人はいない」と述べた。(略)

「与党でも意見通るとは限らない」 自民党・世耕弘成参院議員(2009年9月9日ロハス・メディカル)

 自民党の世耕弘成参院議員(参院議院運営委員会筆頭理事)は9日、今後の民主党の医療政策に関して「(超党派の医療再生議連幹事長だった)すずかんさん(鈴木寛参院議員)たちが、どういう役職に就くか。自民党の中で我々の意見が厚労族にブロックされたように、民主党の中でも彼らの意見が通るとは限らない。まずはお手並みを拝見したい」と述べた。(川口恭)(略)

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