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2009年9月 8日 (火)

新型インフルエンザに限らずそろそろワクチンが気になる時期です

例年この時期になりますとそろそろインフルエンザワクチンに対する関心が高まってくるところですが、今年は未だどうなるか先行き不透明なところがあるようです。
政権交代もあって詳細の確定はもう少し後になりそうな気配ですが、取りあえず新型対応のワクチンが出てくるのが10月に入ってから、加えて季節性インフルエンザは後回しということですから、いずれにしても例年より遅い接種スタートになりそうですね。
先日は早ければ9月下旬から発症のピークを云々という話がありましたが、そうなりますとこれは明らかに間に合いそうにないわけですが、それ以前の問題として色々とありそうな気配でもあります。

新型インフルワクチン接種、医療機関を限定(2009年9月7日読売新聞)

 厚生労働省は6日、新型インフルエンザワクチンの接種を、国と委託契約を結んだ医療機関に限って行う方針を固めた。

 対象の医療機関は市町村や地域の医師会が選ぶ。供給量に限りがある国産ワクチンを、最優先接種者から順に、適切に接種していく必要があるため、当面は医療機関を限定する必要があると判断した。

 最優先の接種対象者は、医療従事者、糖尿病やぜんそくなどの持病のある人や妊婦、1歳~就学前の小児、1歳未満の乳児の両親を合わせた1900万人。

 ワクチン輸入も計画されているが、供給は12月下旬以降の見通し。国産は早ければ10月下旬から出荷されるが、年内の生産量は最大1700万人分しかない。

 持病がある人のかかりつけが対象外となった場合、主治医から「優先接種対象者証明書」を発行してもらい、国と委託契約した医療機関で接種を受ける。方針案は8日の都道府県担当課長会議に提示される。

新型ワクチン接種は医療従事者が最優先―厚労省が素案(2009年9月4日CBニュース)

 厚生労働省は9月4日、新型インフルエンザワクチン接種の優先順位の素案を明らかにした。救急隊も含めたインフル患者の診療を行う医療従事者、妊婦及び基礎疾患(持病)を持つ人(この中でも1歳以上未就学の小児を優先)、1歳―就学前の小児、1歳未満の小児の親の順に優先的に接種。優先接種対象者の約 1900万人と、重症化のリスクがある小中高生と基礎疾患を持たない高齢者(65歳以上)の約3500万人を合わせた約5400万人に対し、年度内に接種するとしている。同省では6日から13日正午までパブリックコメントを募集し、専門家らの意見も踏まえた上で、月内に方針を決める。

  4日に開かれた記者会見で、同省健康局の正林督章・新型インフルエンザ対策推進室長は、国産のワクチンの確保について、来年3月までに約1800万人分(1mlバイアルの場合。14歳以上1回0.5mlバイアル)の出荷が可能だとの見解を示した。同省では当初、年度内に2200万-3000万人分を確保できるとしていたが、ワクチンの増殖性などを勘案して下方修正した。ただ、効率的に接種できるように、今後、1mlバイアルと10mlバイアルの製造割合を決めるとしており、生産量が変動する可能性もある。現時点では10月下旬以降に順次出荷される見通しで、優先対象者から接種する。

 一方、輸入ワクチンについて、厚労省側は海外メーカー2社と「現在、交渉している」としており、早ければ12月下旬以降に使用できる見通しだ。その場合、重症化の可能性のある小中高生と基礎疾患を持たない高齢者への接種を想定している。

 副作用が起こった際の製造メーカーや医師の免責について、正林室長は「別途検討する」と述べた。

いやしかし、接種医療機関を限定するといっても、どういう施設を選定するかで、またぞろ一騒動ありそうな悪寒なんですけどね。
副作用の懸念もあって「医療従事者は人柱か!」との声も多いようですが、数千万人レベルで接種ということになれば何らかの副作用発生はいずれにしても避けられないわけですから、何かあっても対応できない施設では困るという声もあるでしょうし、かといって高次医療機関でやるとなれば多忙でそれどころではないと言われかねません。
このあたりは以前からプレパンデミックワクチンなどの議論においても政府の方で何とかしてくれとの声が出ていたところですが、民主党ではさっそくこんなことを言いだしているようですね。

新型インフルエンザ:ワクチン補償額拡充 副作用対策、民主が法整備へ - 毎日jp(2009年9月3日毎日新聞)

 民主党は2日、秋に向けて患者の急増が懸念される新型インフルエンザ対策で、ワクチンの副作用被害の補償を拡充する法整備を行う方針を固めた。民主党は新型インフルエンザ対策を「政権発足後、最初に取り組むべき危機管理課題」として重要視している。政権発足直後に関連法整備に取り組み、政権担当能力をアピールする。

 新型インフルエンザは急速に感染が拡大し、ワクチン不足が危惧(きぐ)されている。一方で、海外のワクチンを国内で使用する場合に臨床試験(治験)を省略することが検討されており、副作用被害の危険性も指摘されている。

 現行制度では、インフルエンザワクチンを接種した際の副作用で患者が死亡した場合、遺族年金は上限で10年間に約2400万円、障害が出た場合の障害年金は年約270万円などとなっている。民主党は関連法整備で補償額の上限を大幅に引き上げる方針だ。

 希望で接種を受ける任意のインフルエンザワクチンなどの場合、国の法律に基づいて接種するBCG(結核予防ワクチン)やポリオ(急性灰白髄炎)などに比べ補償額は半分程度と低額に抑えられている。これを大幅に引き上げる必要がある、との指摘が出ていた。民主党は10月以降に召集する臨時国会で、補償額を引き上げる予防接種法改正案を提出するか、特別法を整備する方針。【山田夢留】

記事中にもあります通り、特に輸入ワクチンとなりますと製法等の違いもあって副作用が出やすいのではないかという懸念が拭い切れていないようで、大規模に用いるなら現場の免責というものを検討せざるを得ないところだと思いますから、是非とも早急な対応をしていただきたいところでしょう。
このあたりは以前から薬剤副作用に対する補償制度というものを拡充せよという声はあったわけですし、今回の新型インフルエンザに限らず引き続き議論を深め改善を図っていただければと思いますね。

さて、新型インフルエンザ関連で幾つか面白い記事が出ているので一緒に紹介しておきたいと思いますが、まずはこちらアメリカからのレポートです。

18歳未満の死亡、67%が重い持病 新型インフルで米CDC分析(2009年9月4日日経ネット)

 【ワシントン=弟子丸幸子】米疾病対策センター(CDC)は、新型インフルエンザで死亡した子供に関する分析結果を公表した。18歳未満の死亡者 36人について事例を調べたところ、何らかの重い持病を抱える子供は全体の67%だった。CDCのフリーデン所長は記者会見で「基礎疾患のない子供でも重症化するケースが出ている」と述べ、医師に注意を呼びかけた。

 記者会見でフリーデン所長は「(新型インフルエンザに)感染した場合には免疫システムが弱くなる」と指摘。「いったん回復に向かってから、再び高熱が出る場合には医師は抗生物質の使用を考えるべきかもしれない」と述べた。

やはり若年者においても基礎疾患の有無というものが予後に大きな影響があるという話でしょうが、注目すべきは「いったん回復に向かってから、再び高熱が出る場合には医師は抗生物質の使用を考えるべきかもしれない」という言葉で、これは細菌の二次感染が予後に影響していると考えるべきなんでしょうかね。
新型インフルエンザは上気道のみならず下気道も障害するという話がありますが、障害範囲が広ければそれだけ二次感染も重篤化するのは道理でしょうから、これは納得できる話ではあるかなと思います。
一方で重傷例に対する治療ではこんな話も出ているようなんですが、販売戦略で劣勢を強いられる製薬会社の巻き返しとも見るべきなのか、いずれにしても国内でやるには保険の縛りが問題になりそうな話ではありますけれどもね。

吸入薬リレンザを静脈注射、インフル重症患者が劇的に回復(2009年09月04日AFP)

新型インフルエンザA型(H1N1)に感染して入院していた英国のがん患者の女性(22)が、吸入用抗ウイルス薬リレンザ(Relenza)を静脈注射するという異例の方法で生命の危機から救われたとの報告が、4日の英医学専門誌「ランセット(Lancet)」に掲載された。

 女性はリンパ組織に悪性腫瘍(しゅよう)ができるホジキン病を患い、化学療法を受けていた。そのため免疫系が衰弱し、H1N1ウイルスに対する防御が弱まっていた。

 女性は7月、息切れと両肺に水がたまるという症状で英ロンドン(London)のロンドン大学ユニバーシティ・カレッジ病院(University College Hospital)に入院。インフルエンザ治療薬タミフル(Tamiflu)も広域スペクトル抗生物質も全く効き目がなく、入院3日目には人工呼吸器が必要になった。

 医師団はリレンザを認可された吸入方式で投与したがやはり効き目がなく、その後の2週間で次第に病状は悪化した。

 生死の境目をさまよう女性に対し、医師団はリレンザ製造元の製薬大手グラクソ・スミスクライン(GlaxoSmithKline)の特別協力を得て、リレンザを静脈注射するという賭けに出た。すると女性の病状は劇的に改善し、48時間以内には人工呼吸器を外し、集中治療室から一般病棟に移れるほどに回復したという。

リレンザに限らず吸入薬は患者の使用法によって効果が安定しないところが使う側としては難しいのですが、いずれ新型も強毒化すれば注射薬の需要というものも出てくるでしょうから、いっそこれを機会に静注用製剤を販売してみるというのも検討する価値はあるでしょうね。
しかし投与経路でこれだけ劇的な効果の差が出るということが事実であるとすれば体内薬剤分布と言うことも考えるべきでしょうから、重症化する新型は全身感染を起こしているという例証になる症例なのでしょうか?
そうなりますと同じく全身投与するタミフルが著効なかったということから、リレンザとタミフルの差は単に投与経路による薬物濃度の差なのか、それとも耐性化も含めた薬効の違いということもあるのかと検証する必要も出てきそうな話ですよね。

ところで先日も少しばかり取り上げました「抗ウイルス薬投与直後に患者が亡くなっている?」という話題ですが、タミフルの副作用については例の飛び降り騒動などで以前から言われているという歴史的経緯もあってか、結構ネット上でも一部では騒がれ始めているようです。
ここで誤解していただきたくないのは突然死というものが何も抗ウイルス薬がなければ起こらないという訳でもなく、以前から一定確率で発生しているということは承知しておかなければならないということだと思います。
こちら2年半ほど前の記事にも多くの症例報告をまとめていただいていますけれども、突然死の症例などまさしく札幌の8例目の死亡症例にそっくりな経過なども見られる点は要注目だと思いますね。

タミフル脳炎ではないインフルエンザ関連突然死(2007年3月29日NATROMの日記)より抜粋

浜六郎氏によれば、「インフルエンザは薬を使わなければ必ず自然に治まり何も怖くないふつうのかぜ(強調は引用者による)」*1であるそうだ。この主張は近似的には正しい。たいていの場合は、インフルエンザは自然に治癒する。しかし、何事にも例外は存在する。「突然死」ではなくもう少しゆっくりとした経過をたどる例もあるが、ここでは、突然死"sudden death"とインフルエンザ"influenza"でPubmedを検索してみた。「タミフルによる新型脳症」が主張されているが、タミフル以前にも突然死はあっただろうという考えからである。法医学の論文が多かったのが意外であった。原因不明の突然死→解剖→インフルエンザ感染が関与していたことが判明、というパターンである。当然、死亡してからインフルエンザの診断がついているわけだから、タミフルは関与していない。論文をいくつか紹介するが、網羅的に調べたわけではないし、内容も読み込んでいるわけではない。なにより、論文の選択・内容紹介の段階でバイアスがかかっていることを予め注意しておく。詳細に検討したい方は、ご自分で論文を入手していただきたい。論文のタイトルの和訳を「」に、出版年および国名をつけた。判る範囲内で患者背景および治療歴を記載した。()内に私見を書いた。

「インフルエンザAウイルス関連急性脳炎の成人剖検例」 Ishigami A et.al, An adult autopsy case of acute encephalopathy associated with influenza A virus., Leg Med (Tokyo). 2004 Oct;6(4):252-5.

2004 年日本(徳島大学)。35歳男性。無銭飲食で警察に捕まった。ここ数日満足な食事を取っておらず、倦怠感と微熱があった。治療は受けていない。翌早朝死亡しているところを発見された。インフルエンザ抗原が肺及び脳に認められた。(私見:"he did not receive medical treatment"(医学的治療は受けていない)と明確に書いてあった。ただし栄養状態が悪かった。薬なし・成人でも脳症・突然死がありうるという例。)

2009年9月7日追記。浜六郎氏は、「くすりで脳症にならないために タミフル脳症を中心に」という本で、「全く何も薬剤を使わず "インフルエンザ脳症"で死亡したという報告はありません」と書いているらしい。上記するように、何の薬剤を使わずインフルエンザ脳症で死亡した報告はある。浜六郎氏は、嘘つき、または、勉強不足である。

「致死的な心筋炎を合併したインフルエンザAウイルス感染症」 Nolte KB et.al. , Influenza A virus infection complicated by fatal myocarditis., Am J Forensic Med Pathol. 2000 Dec;21(4):375-9.

2000年U.S.A.。11歳健康女児。1週間の発熱の後、自宅で突然死。要約に治療歴の記載はないものの、インフルエンザの診断は死亡後につけられた模様。Sudden death is a rare complication of influenza and may be caused by myocarditis.(突然死はインフルエンザの稀な合併症であり、心筋炎によるものかもしれない)との記載あり。(私見:少なくともタミフルは飲んでいない。ウイルス感染に伴う心筋炎はよく知られている。)

「"早期乳児てんかん性脳症"を伴った幼児の突然死」 Quan L et.al., Sudden death of an infant with 'an early epileptic encephalopathy'.Forensic Sci Int. 2001 Dec 15;124(1):62-7.

2001年日本(大阪医科大)。1歳10ケ月の男児。生後3ケ月目にけいれん発作があり「早期乳児てんかん性脳症」と診断されていた。前日の夜に発熱し、当日午後に病院に受診するも到着時には死亡。死因はインフルエンザA感染に続発した細菌性気管支炎。(私見:発熱後受診はされていないが、手持ちの解熱薬を使用された可能性はある。ただし、手持ちのタミフルがあるとは考えにくい。もし発熱した時点でタミフルを処方されていたら、タミフルのせいで死亡したとされたであろう)
(略)

「ウイルス性髄膜炎、著明な脳浮腫、神経原性肺水腫および肺出血を伴う幼児の突然死。2症例の報告」 Krous H et.al., Sudden Death in Toddlers with Viral Meningitis, Massive Cerebral Edema, and Neurogenic Pulmonary Edema and Hemorrhage: Report of Two Cases.

2007年、国名記載なし(Krous Hはアデレード大学[オーストラリア]で論文あり)。2例のうち一例がインフルエンザウイルスA型感染。2例目はアデノウイルス。要約に治療歴、患者背景は記載なし。These cases emphasize the possibility that mild intracranial viral infections may be a rare cause of sudden death via lethal cardiopulmonary complications. (軽度の頭蓋内ウイルス感染が致死的な心肺合併症による突然死のまれな原因となる可能性をこれらの症例は強調する)。(私見:「タミフル以前の脳症は亡くなるまで半日~1日かかる。タミフル以降は突然死する新型脳症が見られる」という主張があるが、ウイルス感染によって突然死することはありえる)。
(略)

「インフルエンザウイルスに感染した17歳男性の予測されない突然死」 Nishida N et.al., Sudden unexpected death of a 17-year-old male infected with the influenza virus., Leg Med (Tokyo). 2005 Jan;7(1):51-7.

2005年日本(秋田大学)。17歳男性。2日前に38.3度の発熱、倦怠感、筋肉痛、胃腸症状があり、pylazolon*2の注射と制吐薬を含む内服薬の処方を受けた。著者らの考えでは「死因はライ症候群より心臓突然死である」とのこと。インフルエンザの診断は死亡後につけられた模様。(私見:インフルエンザに対しNSAIDの使用はライ症候群のリスクを高める。若年者にインフルエンザが否定できないときにNSAIDを使うのは禁忌。ただし経過からは死因はライ症候群ではない。)
(略)
これらの突然死をタミフルが抑制するという証拠はない。だからタミフルを飲まなければならないということにはならない。また、これらの重篤な合併症はきわめて稀であり、必要以上にインフルエンザを恐れる必要はない。最低限、「インフルエンザは必ず自然治癒するとは言えない。稀に合併症を起こしたり、死亡したりすることもある」ということだけを理解しておけばよい。患者側の注意点は病人をよく観察しておくぐらいであろう。医療者側の注意点は「必ず治る」など断定的な説明をしてはいけないということである。後に何か起こったときに訴訟になるからである。薬を使わずにインフルエンザによって不幸な転帰をとったならば、浜六郎を訴えてみるのもよいかもしれない。少しは無責任な発言が減るであろう。

こうしてみますと従来ライ症候群など脳症関連の話題が強調されてきた印象のあるインフルエンザの重症例ですが、突然死ということにも関連して心筋炎にも注意を払わざるを得ないようですね。
こちらの症例報告などは心筋炎を発症した従来型インフルエンザの重症化例ですが、経過を拝見しますといかにも沖縄の死亡例とよく似たところがあるような気がしませんでしょうか?

【参考】インフルエンザ様症状で発病し呼吸困難・心不全で入院した高齢者の1例

心筋炎に関しては既にガイドラインなども出ているようですけれども、日々インフルエンザの末端臨床に従事している先生方もこの辺りでもう一度おさらいしておく必要がありそうですよね。

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