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2009年8月18日 (火)

医療の世界には不正が沢山?

最近医療業界絡みで不正の話題が数多く報道されているのですが、そのほとんどが不正労働行為絡みの労基法違反に対する指導といった内容でした。
ところがこのところ少しばかり毛色の違う不正も幾つか報じられていまして、これは政策の焦点として医療費増額を云々されているこのタイミングで何かしら意味でもある現象なのかと見ているところです。
それぞれに面白い話ではあるのですが、特に大きな話題となったのがこちら東京医大茨城医療センターの一件でしょうか。

東京医大茨城センター、不正請求問題で立ち入り(2009年8月13日読売新聞)

 東京医科大(東京都新宿区)が運営する「茨城医療センター」(茨城県阿見町)が診療報酬を不正請求したとされる問題で、厚生労働省関東信越厚生局が立ち入り調査を始めたことが、13日分かった。

 同センターは昨年4月以降の診療報酬の請求で「不適切な算定があった」と、7月21日に発表し、計約1億2000万円の返還を検討している。

 関東信越厚生局によると、同センターは「不適切な算定」の発表直前、同局の茨城事務所(水戸市)に「基準適応の辞退届」を提出。これを受け、厚生局が今月に入り、立ち入り調査を開始した。

 不正請求が確認されれば、市区町村や患者などに診療報酬を返還するよう指示する。悪質性が高いとされれば、保険医療機関の指定や、保険医登録の取り消し処分の可能性もある

 同局医療指導課は、「調査をしているのは事実だが、調査中であり、公表できることはない」と話した。

診療報酬請求:東京医大前センター長が不正指示の疑い(2009年8月13日毎日新聞)

 東京医科大学茨城医療センター(茨城県阿見町)で、今年5月までの約1年間に診療報酬計1億1870万円の過大請求があり、前センター長の松岡健・同大理事が不正を指示していた疑いが強いことが、大学の内部調査で判明した。厚生労働省は立ち入り調査を行い、事実関係を調べている。

 センターによると、昨年4月以降に届け出た3種類の加算制度で不正な算定があった。勤務医の負担を軽減するため、一定の医療事務補助員を置けば報酬が加算される制度では、松岡理事の指示で専従の事務補助員として7人を登録し、配置基準を満たしたように見せかけ、約1350万円を受給したという。実際は事務員の名義を借りただけで実態はなかった。松岡理事は7月24日付で「世間をお騒がせした」としてセンター長を辞職している。

 センターは先月21日、「算定が不適切だった」として計1億1870万円の不正受給があったことを公表したが、松岡理事は毎日新聞の取材に「担当の理解不足が原因」と自身の関与を否定していた。小林正貴・センター長職務代理補佐は「おかしいとは感じていた。再発防止に努めたい」としている。センターは保険者に不正分の返還手続きをとる。【八田浩輔、橋口正】

診療報酬2万人分不正に請求 東京医大茨城医療センター(2009年8月13日朝日新聞)

 東京医科大学付属の総合病院、茨城医療センター(茨城県阿見町)が、センター長の松岡健・同大学理事の指示で診療報酬の不正請求を繰り返していた疑いがあることが、同大学の内部調査でわかった。総額1億1870万円の診療報酬を不正に請求していたといい、厚生労働省関東信越厚生局が立ち入り調査を始めた。

 松岡理事は7月24日付でセンター長を辞任した。医療費は患者が1割から3割を負担し、残りは国民健康保険や社会保険などから医療機関に診療報酬が支払われる。不正請求があったのは昨年4月~今年5月とされ、同大学側は、この間に入院した患者や高度医療を受けた通院患者ら延べ2万人以上が、不正請求に連動して高い医療費を負担させられたとみて、患者らへの返還手続きと、関係者の責任追及を進めるという。

 大学側によると、不正請求は、病院の患者数を減らして勤務医の負担を軽減するなどの目的で昨年4月の診療報酬改定で導入された、三つの制度を悪用して行われた。

 例えば、一定期間に退院した患者のうち、治癒した人と別の医療機関に紹介した人の合計が40%を超えると、病院は通常より高い診療報酬を請求できる。同センターは実際は5.6%と適用外だったのに、43.4%と基準を上回っているように装い、昨年4月1日から今年3月31日まで9111万3千円の報酬を不正に受領していた。

 ほかの二つの制度でも虚偽の数字や架空の職員名を使うなどして、本来は適用されない加算制度を申請していたという。

 今年2月、千葉・茨城の私立医科大学付属病院長会議のアンケートで、新たな加算制度を採用している病院が少ないのに同センターの加算請求が際だっていることが表面化。松岡理事は3月、一部の利用だけ辞退し、ほかは不正請求を続けるよう指示していた。5月、内部告発が大学本部にあり発覚した。

 同センターは7月21日に診療報酬請求が不適切だったと公表したが、松岡理事は朝日新聞の取材に「計算間違いや担当職員の勘違い」と説明し、不正ではないと否定。その後は大学を通じた取材に回答していない。内部調査の進展を受け、同センターは「松岡氏が申請した数字の根拠がどこにも見あたらなかった。全容解明と再発防止に全力を尽くす」とコメントした。(沢伸也、吉野慶祐)

最近は医師数から看護師数から何でも診療報酬に差がつく時代ですから、どこの病院でも何とか上の基準に合わせようと人集めに四苦八苦しているようですが、求職者数多の事務補助員の水増しというのはあまり聞いたことがない話ですかねえ。
紹介率などの件でも全く根拠無く数字を操作していたということなんですが、逆に最近こうした大学病院系では電子化率が高いでしょうに、そういう恣意的な数字を出すのもかえって大変なんじゃないかという気がするところですが。
一応は理事の個人的犯罪ということで話をつけようとしているように見えますが、普通理事あたりがこういう細々した数字合わせの作業を直接やるとも思えませんから、発覚の契機となった内部告発云々という話もそのあたりの関係者から出ているということなんでしょうね。

しかし発覚の経緯の一つとして「新たな加算制度を採用している病院が少ないのに同センターの加算請求が際だっていることが表面化」というのは良かったですね。
「病院の患者数を減らして勤務医の負担を軽減するなどの目的で昨年4月の診療報酬改定で導入された、三つの制度を悪用」といいつつ、その実態は現場では全く利用困難な国のなんちゃって改善策であることがこれ以上ない形で明らかになってしまったわけですから、これは笑うべきところなんでしょうか?
いずれにしても「申請した数字の根拠がどこにも見あたらなかった」というほどのあからさまな捏造ということであれば同情の余地なき悪質な故意犯というしかありませんから、さっさと保険医療機関指定の取り消し処分なりと下さないことには法のよって立つべきところが問われるというものでしょう。

もう一つ、社会的影響という点ではずっと大きそうなこちらの話題なども紹介してみましょう。

差額ベッド料誤徴収 返却総額780万、県立中央病院(2009年07月22日日本海新聞)

 鳥取市江津の県立中央病院(武田倬院長)で、手術後に整形外科病棟の個室を利用した入院患者に対し、本来必要のない差額ベッド料を請求するミスがあり、差額代の返還を順次始めていることが21日分かった。判明したのは、同院が電子カルテを導入した2006年2月から08年12月までの入院患者565人で、返却総額は約780万円に上る。

 昨年11月定例県議会で県議からの指摘を受け、県病院局などが調査していた。ほかの病棟や県立厚生病院(倉吉市)ではミスはなかった。

 厚生労働省の通知では、救急患者や術後患者など医師が診療上、個室管理が必要と認める場合については、差額ベッド料は請求できない。

 整形外科病棟では、個室料の取り扱い基準が徹底されておらず、長年、誤った認識のまま個室料(1日4200円)を請求し患者の同意書も取っていた。多い人では入院6日分25200円が不正に請求された。06年以前のミスについては、カルテが残っておらず調査不能という。

 ミス発覚を受け、同院では今年2月、個室管理について医師が指示するチェックシステムを導入。「再発防止につなげたい」と反省している。

さすが県立病院だけに、医師のチェックシステムで再発防止につなげたいって、ここでも医者に丸投げで責任回避という素晴らしいシステムが早速導入されましたか(苦笑)。
差額ベッド料問題も古くて新しい話題ですが、これなど何も知らない人が見れば「当たり前」だと思えても、実は意外に影響が大きなニュースというところですよね。

この件については何故昔からこうまで揉めるかといえば、通常の保険診療においては極めて例外的に混合診療(的なもの)が認められている部分であるからですよね。
要するに病院側としては経営厳しい折の儲けのことはもちろん、こういう料金は色々と患者をコントロールするのにも使える部分もあるわけですが、どうも現場の当事者も患者側もしっかりシステムを理解していないで適当にやってきた部分が多くてトラブルの元になっているようです。

厚労省の見解によれば差額ベッドの料金とはごく大雑把にいって「患者が自ら差額料金部屋への入室を希望したときのみ徴収可能」ということになっていますが、このことについてこちらのサイトなどにも色々と書いてあるものを一部引用してみましょう。

厚生省から出された通達にはこう書かれています。

「特別の療養環境の提供は、患者への十分な情報提供を行い、患者の自由な選択と同意(注:ココが重要です)に基づいて行なわれる必要があり、患者の意に反して特別療養環境室に入院させられることのないようにしなければならないこと」

そして、患者に特別療養環境室に係る特別の料金を求めてはならない場合についてもキッチリ規定されています。

1)同意書による同意の確認を行なっていない場合
(当該同意書が、室料の記載がない、患者側の署名がない等内容が不十分である場合を含む)
(略)

2)患者本人の「治療上の必要」により特別療養環境室へ入院させる場合

例:
救急患者、手術後患者等であって、症状が重篤なため安静を必要とするもの、又は常時監視を要し、適時適切な看護及び介助を必要とする者。
免疫力が低下し、感染症に罹患するおそれのある患者。
集中治療の実施、著しい身体的・精神的苦痛を緩和する必要のある終末期の患者

解説:
そのまんまですが…治療上の必要があって個室等に入る場合は差額ベッドはいらないんですよ。

3)病棟管理の必要性等から特別療養環境室に入院させた場合であって、実質的に患者の選択によらない場合

例:
MRSA等に感染している患者であって、主治医等が他の入院患者の院内感染を防止するため、実質的に患者の選択によらず入院させたと認められる者
(略)
「ベッドが空いていないので個室でもいいですか?」などと言われて、差額ベッド料金を払わされるケースが結構多いわけですが、これも本来は払う必要がありません。
長くなってしまいましたが、要するにほとんどの場合は差額ベッド料金なんて払う必要がないんです。

おっしゃる通り条文を厳密に解釈するとほとんどの場合払う必要がないというのも確かなんですが、一方で患者が押し寄せる病院(急性期基幹病院やいわゆるブランド病院など)ほど常時ほぼ満床というのが今の医療現場の状況でもあるわけですよね。
当然別料金が必要な部屋ほど空きが出やすいわけですが、差額ベッド代は払う必要はないから払いませんと主張するのも患者の自由ですし、高いお金を出しても病気を治したいというほど熱心な患者さんを優先して入院させるのも病院の自由ということです。
今後は担当医が「医学的な都合か、患者側の都合か」を判定して決めていくということになるのでしょうが、一昔前のように「本来なら差額ベッド代をもらうべきところだけど、可愛そうだからおまけしてあげようか」なんて心得違いをして病院に損害を与えるような医者はこれからの時代、経営的要請からもますます減っていきそうな気配ではありますよね。

差額ベッドに限らず例えば民間の医療保険請求などもしばしば未払いなどでトラブるところですが、医者という人種はどうもこのあたりの金銭絡みの系統だったトレーニングを受ける機会に欠けてきたという歴史的経緯があって、他人の金銭的損失にも無関心なきらいがあるようです。
むしろ「金銭で医療に差をつけるのは悪いことだ」といった主張を民間病院においてさえ堂々と行う先生方も結構いらっしゃるようで、それはそれで志としては立派だと思いますが、本来つけるべき差をつけないことで被った損害を誰がかぶっているのかと言えば、当の先生ではないことが問題ですよね。
金勘定が得意な医者と言えば何かしら悪いことのように思われるかも知れませんが、公定価格の保険診療がほとんどという日本の医療において国がこれ以上医療費は出さないと言っているわけですから、同じお金を使って少しの患者しか救えない人と、より多くの患者が救える医者と、どちらが社会に貢献出来るのかということも考えなければなりません。

正しい金銭感覚を身につけ活用できるということは医療に限らず何ら恥ずべきこととは思えませんし、今からの時代に医療に関わろうという若手の先生方には最低限要求されるスキルでもあると思いますね。

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コメント

はじめまして。いつも拝見しています。

差額ベッド代について気になっていることは、
>「ベッドが空いていないので個室でもいいですか?」などと言われて、差額ベッド料金を払わされるケースが結構多いわけですが、これも本来は払う必要がありません。

緊急性があまり高くない入院の場合で「個室だと○○日に入院できて□□日に手術できるけれど、そうでなければベッドが空いていないので△△日までまたないといけない。」
という場合はどうなのでしょう・・・

投稿: MT | 2009年8月20日 (木) 07時38分

そうした場合にはいわゆる特急料金などと同様にお考えいただければよろしいかと思います。

投稿: 管理人nobu | 2009年8月20日 (木) 10時35分

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