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2009年8月13日 (木)

それは確かに言うのはタダ、ですが…

総選挙も近づいてきましたが、今や国民にとって最大の関心事は医療や年金といった社会保障政策であるという話もあります。
各党ともそれぞれの立場から色々と工夫を凝らしているのは判るのですが、何しろこうまで込み入った問題だけに「これをやっておけば万事解決」というバラ色のアイデアなどと言うものはないわけですよね。
最終的に医療というものをどのように位置付けていくのかといったビジョンも確かめながら、それぞれの政策を見据えていくべきかという気がしますが、そうした目で見るとますます各党とも帯に短したすきに長しの感が拭えないところがありますかね。

マニフェスト点検「医療」…勤務医疲弊、解決策は(2009年8月9日読売新聞)

 医師不足や救急など国民の命に直接かかわる医療問題について、自民、民主両党とも、医師の増員や診療報酬の引き上げなど積極的な施策を公約に掲げている。

 実現性はどうか。医療の崩壊は食い止められるのか。
(略)
 救急をはじめとした医療危機の根幹にあるのが医師不足問題だ。人口1000人当たり医師数は、経済協力開発機構(OECD)加盟国平均の3・1人に対し、日本は2・1人と少ない。自民、民主両党とも医師数増加を公約に掲げる

 ただし、医学部に入った学生が一人前の医師になるには研修も含め最低8年かかる。指導教官を増やしたり、校舎を増築したりするなどの整備も不可欠で、実現までの課題は多い。

 そもそも日本の医師は10年前より約15%増えている。だが激務の外科、産科医は10%前後も減少。岩手の例のように、地域によっては内科医も足りないなど「偏在」の問題も大きい。

 済生会栗橋病院(埼玉県栗橋町)の本田宏副院長は「医師不足が深刻な地方での対策が両党とも明確でない。地域で必要な医師数を算出し、それに応じた医師を育てる仕組みを作る必要がある」と注文をつける。

 また両党とも、救急や産科などに医療費を手厚く配分することなどで、地域医療を整備するとしている。

 政府はこれまで、医療費を含む社会保障費の伸びを毎年2200億円削減する抑制策をとってきた。診療報酬も本体と薬価部分を合わせた全体で02年度からマイナス改定が続いている。

 これについて民主党は「地域医療の崩壊に拍車をかけた」と批判。GDP(国内総生産)比で8・2%の我が国の医療費を、OECD平均(8・9%)まで引き上げるとする。

 一方、政府も今年6月の「経済財政改革の基本方針2009(骨太の方針09)」で、来年度の社会保障費の抑制方針を撤回。自民党は公約で診療報酬を来年度プラス改定するとした。

 増える医療費を、だれがどう負担するのか。具体化に向けた課題も多い。(医療情報部 坂上博、高梨ゆき子、山崎光祥)

またここでも本田大先生の御登場ですか(苦笑)。
そういえば「医師強制配置論」をぶち上げた読売さんとは主義主張的にも相通じるところがありますかね?
大先生にしても済生会辺りで吼えていないで、自ら医師不足著しい僻地診療に率先して従事するくらいのことをやってみればご発言に説得力も増しそうな気がしますけれどもねえ…

ま、それはともかくとして、このように医療政策というものがネタになると言うことになりますと各方面でも当然注目するようになってきます。
マスコミなども「医療ネタは売れる」とばかり取り上げる機会が増えたのはその一例ですが、以前からお伝えしてきた通り読売新聞松下政経塾などを初めとして各方面からの医療政策提言なるものも盛んになってきているようなのですね。
今日もまた幾つかのネタ…もとい、政策提言を紹介しておきますが、共通するキーワードは「発送の転換」ということになるのでしょうか?
しかしその実態はと言えば、結局真っ先に転換するべきは誰かということにもなりかねないわけですが…

発想の転換で医療の「バリュー」面に着目を-財務総合政策研究所(2009年8月10日CBニュース)

 財務総合政策研究所の「持続可能な医療サービスと制度基盤に関する研究会」(座長=貝塚啓明・東大金融教育研究センター長)はこのほど、昨年12月から今年3月までの議論の成果を報告書にまとめた。このうち「病院経営が抱える諸問題」と題して一章を執筆した亀田隆明・医療法人鉄蕉会亀田総合病院理事長は、医師や看護師の絶対的不足など医療の供給体制の問題や医療費抑制政策による不採算経営などを指摘。問題解決のためには、医療を「コスト」の面からとらえるだけでなく、「バリュー」としての側面にも目を向けるといった発想の転換が必要だと強調している。

同研究会は「国民にとっても、関係者にとっても安心のできる医療サービス供給体制」と「適切な費用負担の下での持続可能な医療保険制度」について検討することが目的。昨年12月から今年3月までに4回の会合が開かれ、現状分析や諸外国との比較を基に議論した。
 同研究会のメンバーは、貝塚座長をはじめ、大森正博・お茶の水女子大大学院人間文化創成科学研究科准教授、上昌広・東大医科学研究所特任准教授ら計9人。

 報告書は第7章まであり、▽高齢化と医療需要の変化(第1章)▽医療関係者の論文(第2-4章)▽医療制度分析(第5-7章)-の3部構成。同研究会のメンバーが検討結果を踏まえ、分担執筆している。

 このうち、上氏は「医療現場の諸問題」の章の中で、病院の医師不足の原因は長時間勤務や非正規雇用の拡大などにあると指摘。また、看護師や薬剤師などのコメディカルも不足しているが、医療費削減による事務職員などの雇用の減少から、事務作業を医師や看護師で担わざるを得ないとして、こうした現状を問題視している。さらに、医療費削減により生じた問題に対して「診療報酬ではなく補助金や基金の設立で対応する手段では、医療現場は荒廃する」とした。

 大森氏は「日本の医療制度の問題点と医療制度改革の方向性について」と題して執筆。「日本の医療制度は社会経済の変化に十分に対応できていない」と指摘した上で、限られた資源の中で増加する医療費に対応するための「プライマリ・ケア医療制度や専門医制度の導入」や、「公的医療保険制度の積立方式への移行を検討する必要性」などについて論じている。
(略)

報告書につきましては同研究所HPからダウンロード出来るのですが、まあ、その…「発想の転換」も「バリュー」もよろしいんですが、言っている内容は昔懐かしい雰囲気の漂う重箱の隅突きに終始しているのが何とも素敵で、しょせん過去ログまとめなおしに過ぎないにしてももう少し言葉を飾れよ!と言いたくなるところではあります。
同研究所HPから「持続可能な医療サービスと制度基盤に関する研究会」のメンバーを見てみますとこんな感じなのですが、確かにこのいつものメンバーで今さら画期的なアイデアを出せと言う方が期待薄ではありますし、そもそも一般的な現場の感覚から遠すぎますかね。

・座長
      貝塚 啓明       東京大学金融教育研究センター長

・メンバー
      大森 正博       お茶の水女子大学大学院人間文化創成科学研究科准教授
        折茂 賢一郎   社団法人地域医療振興協会 西吾妻福祉病院管理者
        上 昌広       東京大学医科学研究所特任准教授
        亀田 隆明       医療法人鉄蕉会 亀田総合病院理事長
        富田 俊基       中央大学法学部教授
        府川 哲夫       国立社会保障・人口問題研究所社会保障基礎理論研究部長
        松田 学       財務総合政策研究所客員研究員
      横山 禎徳       株式会社イグレック代表取締役

要するに言っていることは金がないからもっと工夫して何とか乗り切ろうよ!という話なんですが、まさにその背景にあるのは財政負担の軽減という視点しかないのだろうなと考えてみれば、なるほど財務総合政策研究所というのは財務省傘下の研究所ですから当然の話ではあるわけです。
「日本の医療制度は社会経済の変化に十分に対応できていない」と仰いますが、一番変化に対応できていないのは論者の頭の中身なんじゃないかという気もしないでもないんですが、これも最初に結論ありきではやむなしということなのでしょうか。
いやはや、こうまで古色蒼然な話題ばかり並べられると正直あまりツッコミを入れる気力も涌いてこないところです。

あまりに気乗りしない話ですのでもう一つ紹介してみますが、こちらの方がもう少し突っ込み甲斐がありそうに思えますね。

医療は成長分野、「崩壊」一辺倒からの転換を(2009年8月10日CBニュース)

【第73回】小野崎耕平さん(特定非営利法人日本医療政策機構 副事務局長)

 日本医療政策機構の小野崎耕平さんは、安定財源をどう確保するかの議論を欠いたまま、単に医療費の増額を求める声が高まっていることに、かねてから違和感を抱いている。国民の関心が医療に向かっている今こそ財源確保の道筋を付け、「医療=崩壊=暗い話」という見方から、「医療=成長の源=夢のある話」へと方向転換すべきというのが、小野崎さんの考え方だ。同機構の世論調査では、医師など医療従事者に対する国民の信頼度が高いことが分かっており、小野崎さんは「医療の成長ビジョンを発信すれば、政治家も国民も耳を傾ける」と期待している。(兼松昭夫)
(略)
■ヘルスケア分野は数少ない成長分野
 これまで日本が幸運だったのは、医療技術や公衆衛生の進歩と経済成長のカーブが、見事に一致していたことです。ところが、こうした幸運な時代は1980 年代には終わりを告げます。この時期に入ると経済成長は陰りを見せ、国の成長が鈍化したのです。日本の医療界にとっても、これは大きなターニングポイントになりました。

―国の成長が止まった最大の原因は、急激な高齢化でしょうか。
 経済成長が止まった要因はさまざまで、ここで論じ尽くすことはできませんが、医療・社会保障という視点で見れば、公的な社会保障への依存度が高まったのに、それを裏打ちしてきた経済成長が止まってしまった、そして国の収入が減ってしまったことが何よりも大きいでしょう。(略)
 医療費など社会保障費の伸びの抑制をめぐる現在の議論の背景には、こうした状況があります。官僚が悪意から社会保障の伸びを抑制しているという論調もありますが、それは違うでしょう。こうした歴史的な背景があり、やむにやまれずそういう世論になった側面があることも、医療界は認識すべきです。

―小野崎さんは、医療や介護などのヘルスケアは、数少ない成長分野だと主張されています。
 これらが低成長時代の日本における数少ない成長分野であることは明らかです。例えば雇用面でも顕著です。建設業では、雇用がこの10年間で660万人から540万人へと、約2割減少しました。それに対して医療・介護分野では、440万人から610万人へと約3割も増えました。雇用をけん引してきたサービス業の雇用増加分の、実に7割近くはヘルスケアによるものです。
(略)
 ヘルスケア分野でも、医療や介護の「崩壊」など暗いトピックばかりが目に付きますが、明るい兆しもたくさんあります。もちろん、医師不足などの問題を解消するための対策は直ちに講じるべきですが、その一方で、客観的に見ると、ヘルスケアは数少ない成長分野、夢が語れる分野だということも認識する必要があるでしょう。

―医療界には、他分野から医療財源を持ってくるべきだという主張があります。
 心情としては理解できますが、事はそう単純ではありません。(略)
 「医療は大切だ」と言われれば、誰も反論できません。しかし医療と同じように、大切な政策分野もたくさんあります。例えば経済政策は、ヘルスケアにとっても非常に大切です。一つは、経済成長による財源確保という視点。そしてもう一つは、雇用・経済情勢が健康に与える影響の視点です。景気や所得が健康に大きな影響を与えることが、社会疫学の研究からも分かっています。ミクロ的にも、景気が悪くなると経済力の弱い層を中心に、受診抑制が増えることが示唆されています。言い換えると、国民の暮らしや安全を守る上では、医療をはじめとするいろいろな政策オプションがある。これらの社会政策全体を幅広くとらえた上で財源について考えないと、バランスを欠いた議論に陥る恐れがあります。それは、医療への世論からの支持を結果的に弱めてしまいます。

■医療界は今こそ前向きな議論を
 最近気になるのは、国による成長戦略や財源論を欠いたまま、「とにかく医療への配分を増やせ」と主張する声が多いことです。衆院選に向けた各党のマニフェストを見ても、こうした印象を強く受けます。政治は世論に敏感にならざるを得ない宿命がある以上、ある程度仕方ないでしょう。先程も話しましたが、公的な社会保障への依存度がこれだけ高まると、安定財源をどう確保するかの議論が不可欠になります。だけど、こうしたことは政治家の立場からは非常に言いにくいわけです。
 実際、わたしたち(日本医療政策機構)の世論調査では、「政党・国会議員」や「厚生労働省」「マスメディア」「医師会」など、今の医療政策決定に大きな影響力を持つ人たちへの国民の信頼度が、非常に低いことが分かりました。こうなると、この人たちが何を言っても国民は支持しないわけです。以前、舛添要一厚生労働相が、「ここまで行政に信用がない現状では、何もできない」という主旨の発言をされていましたが、その通りなのです。
 これに対して「薬剤師」「看護師」「医師」に対する信頼度はいずれも9割を超え、上位3位を占めました。これは驚くべきことで、とても希望が持てる結果です。何だかんだ言って、現場で活躍する医療のプロたちは、国民の信頼を得ているのです。そうなると、これらの医療従事者が果たせる役割はとても大きくなります。「医療成長」のビジョンを発信し、安定財源確保の必要性を訴えれば、国民も耳を傾けるはずです。
 一方で危惧するのは、「崩壊、崩壊」と言い立てたり、「医療がいちばん。他はどうでもいい」といった内向きな議論に終始したりしていると、せっかく獲得した世論からの支持を失ってしまう恐れがあることです。世論もマスメディアも本当に怖い。あっという間に離れます。わたしは、おそらくここ1、2年が勝負ではないかと考えています。医療界は、医療への関心が高い今こそ、財源確保のめどを付け、より信頼を高めるための改革を進め、そして何より、明るい夢を語る前向きな議論に方向転換すべきです。

医療・介護領域=成長産業という視点は個人的に同意するところなのですが、その財源の担保として経済成長を求めるという発想は今の時代にどうなんでしょうかね?
俗に医療費30兆円と言いますが、そのうち国庫からの負担は10兆円程度にすぎない一方で公共事業費は40兆円、これはアメリカ、イギリス、フランス、ドイツ、イタリア、カナダの6カ国全部の公共事業費を足しての約30兆円をも上回る金額と言います。
あるいはこういう試算があることを御存知でしょうか。

公共事業1兆円による経済波及効果(2兆8091億円)、雇用効果(20万6710人)

社会保障1兆円による経済波及効果(5兆4328億円)、雇用効果(58万3126人)

前述の記事中でも今や医療・介護領域は建設業をも上回る雇用の場となっていることが示されていますが、国庫負担の費用対効果という観点から見た場合でも社会保障は公共事業に比べて少ない出費で大きな経済効果と雇用効果が見込めるという、非常にお徳でエコロ(?)な産業であるとも言えるわけですね。
要するに医療・介護領域に対して金を出すことは多少無理をしても十分後から元が取れる、少なくとも先行き不透明な他の産業に金を出すよりはるかに安全確実な出資先であり非常に手堅い買い物であるのに、当の医療・介護業界は「ここ1、2年が勝負」くらい今まさに崩壊の瀬戸際になるわけです。
この状況で財源をどうするかの議論が必要などと悠長に主張されているのは大地震で死傷者続出の状況下で「しかし救援活動の財源にも議論が」などと言っているようなもので、今を逃せば買い逃すというのであれば女房を質に入れても買いというくらいの見切りがあってもいいと思いますけれどもね。

ちなみにこの小野崎耕平氏と言えば法学部卒業後渡米して公衆衛生で学位を取り、製薬会社に勤務した後で国政選挙に打って出たというなかなか面白い経歴をお持ちのようですね。
氏の所属する日本医療政策機構と言えば先日も紹介させていただきましたが、そのバックグラウンドを見てみればなるほど…と思えるような提言ばかり繰り返されているのは、ある意味判りやすいのは確かなんですがねえ(苦笑)。
いずれにしても医療を成長産業として見込むためにはその大前提として、国による強力な総量規制が行われなければという条件が必要になると思いますが、結局のところ医療費は財源の範囲内でという議論に終始している同氏こそ最も医療を国の将来を支えていく成長産業と見なしていないということなのかも知れません。

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コメント

>大先生にしても済生会辺りで吼えていないで、自ら医師不足著しい僻地診療に率先して従事する

ご存知ないかも知れませんが,済生会栗橋病院がある地域は関東では医師人口が非常に少ない「すっごい僻地」です。栗橋病院の周囲は田んぼしかありません(わたしもかつて勤務していましたが・・・)。よくこんなところに病院をつくったなという感じですが,周囲に総合病院がないことから非常に忙しい病院です。

投稿: ドロッポ透析医 | 2009年8月13日 (木) 10時27分

件の土地が僻地かどうかはまた別として、「僻地で診療する」と「僻地診療をする」では全く別の問題ですからね。
万一本田先生が僻地診療を行っていると称されているのであれば、さすがに全国の僻地診療をされている先生方も一言なしではいられないところでしょう。

http://www.bing.com/maps/Default.aspx?FORM=MSNH&mkt=ja-JP&enc=0#JndoZXJlMT0lZTUlOWYlYmMlZTclOGUlODklZTclOWMlOGMlZTUlOGMlOTclZTglOTElOWIlZTklYTMlYmUlZTklODMlYTElZTYlYTAlOTclZTYlYTklOGIlZTclOTQlYmElZTUlYjAlOGYlZTUlOGYlYjMlZTglYTElOWIlZTklOTYlODA3MTQtNiZzcz15cC4lZTclOTclODUlZTklOTklYTIlN2Vzc3QuMSU3ZXBnLjEmYmI9NDEuNDc1NjYwMjAwMjc4MiU3ZTE0OC41NzkxMDE1NjI1JTdlMjcuMjU0NjI5NTc3ODAwMSU3ZTExOS4zMTE1MjM0Mzc1

http://www.saikuri.org/summary.html

投稿: 管理人nobu | 2009年8月13日 (木) 18時51分

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