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2009年8月 5日 (水)

周産期救急医療、色々と興味深い事実も判明してきて…?

不肖管理人は存じ上げなかったのですが、別所哲也氏なる人物が「できちゃった婚」ならぬ「生まれちゃった婚」をしたというのが最近ちょっとしたニュースになっているようです。
しかし御本人の言葉をよくよく聞いてみると、ずいぶんと大変な状況ではなかったのかなと推測されるような話のようで、まず今日はこちら記事から引用してみましょう。

「あと30分遅ければ命が…」別所哲也、結婚&長女誕生報告会見の主な一問一答 (2009年08月03日eltha)

 俳優の別所哲也が 3日、都内で結婚会見を開き、20年来の付き合いを実らせて日系アメリカ人女性とのアラフォー婚と第1子誕生を報告。現在、集中治療室で一生懸命に生きる長女の誕生を喜ぶ一方、早産の緊急事態で受け入れ先の病院がなかなか確保できず「あと30分遅かったら命がなかった」という危機に直面したことを明かし、医療体制向上を願った。下記は主な一問一答。
(略)
――子供ができたと知ったのは?
それはずいぶん前。彼女が40代前半だったので大事にしようと思って、安定期の確認を取ってからご報告しようと思ってた。自分の思いを込めて育てていけるもう1つの命が彼女と共にあるというのは感極まった感じ。

――予定より早く生まれてしまったが大丈夫ですか?
7月16日の夕方に腹痛が始まりました。低体重の新生児。1100グラムぐらい。行きつけの病院にNICU(新生児集中治療室)が無くて、都内の2ヶ所の病院で受け入れを拒否された。でも、幸いにも行きつけの病院が献身的にしていただいて、都内の病院に受け入れてもらえました。「あと30分遅かったら命がなかった」と言われた。すぐ帝王切開して産まれて、自立呼吸して、今もそこで一生懸命頑張ってる。医師、看護師の皆さんがヘトヘトになるまで頑張ってると実感しましたし、もっとそういう施設が(増えて)、安心して子供が産まれるようになればと思った。

――赤ちゃんはもう抱いた?
まだ抱けなくて。保育器の中に入ってるので、手を入れて触って声掛けてる。ホントに真っ赤なんですね、赤ちゃんって。血の通った命を見つめて、これから自分も頑張らないとなと思った。凄く美人だと思う、もうすでに。
(略)

高齢妊娠で早産とずいぶんと大変な経験をされたことだと言葉の端々から感じられるところですが、実はこうした妊娠に関わるトラブルは思っているよりもずっと多いらしいのですね。
例えば流産と言えば概ね妊娠六回に一回くらいの頻度で起こるといった話を聞かれたことがあるかと思いますが、流産の確率が15%とすれば二回の妊娠で約3割、三回の妊娠で約半数近くの女性が流産を経験するということになります。
さらに50人に一人くらいは流産二回以上の経験があってもおかしくないということになりますが、こうなりますと何か問題でもあるのか?と心配になってくるところで、実際に流産を繰り返すなど妊娠に関わる悩みを抱えている方と言うのはずいぶんと多いという話なんですよね。

妊娠女性の41%が流産経験 「不育症」は8万人 (2009年8月2日47ニュース)

 妊娠したことがある女性の41%は流産の経験があり、流産や死産を繰り返して出産に至らない「不育症」の患者は年間約8万人いるとの研究結果を、厚生労働省研究班が2日までにまとめた。

 名古屋市立大の杉浦真弓教授(産婦人科)と鈴木貞夫講師(公衆衛生学)らが、一般の女性を対象にしたアンケートを基に計算した。産婦人科を受診した人などに偏らず、不育症の発生に関して行われた調査は初。

 杉浦教授は「流産は一般に思われているより頻繁に起きている。不育症の患者のうち多くは出産できる可能性があるので、積極的に検査や治療を受けてほしい」と話している。

 教授らは、2007年2月からの1年間に、愛知県岡崎市で健康診断を受けた35~79歳の女性のうち503人から回答を得た。妊娠経験がある458人中、流産したことがあったのは190人(41・5%)。2回以上で「不育症」とみられるのは28人(6・1%)、3回以上の「習慣流産」は7人(1・5%)いた。

 国内の年間出生数は約110万人で、一般的な流産率は15%とされ、研究班は年間妊娠数を約129万人と推定、不育症患者は約7万9千人と算出した。

 杉浦教授によると、流産の大半は、自然現象として一定の割合で起きる胎児の染色体異常が原因。通常、流産時に胎児の検査までしないため「原因不明」とされることが多いが、次回以降の妊娠で出産できる可能性がある。抗リン脂質抗体症候群という、胎盤に血栓をつくる自己抗体の異常が原因なら、薬でコントロールできるという。

 杉浦教授は「流産を繰り返すと精神的にも疲れ、あきらめてしまう人も多いが、原因が分かれば次の妊娠に臨む気持ちが持てる」と指摘。ただ、一部の検査や薬は保険の対象外で自己負担になるといった問題がある。

特に最近では高年齢出産ということも当たり前に増えてきている状況ですが、当然ながら妊娠・出産に関してこれらは大きなリスク要因となるわけですから、産科医療の進歩に反して妊婦側の条件は年々悪くなってきているということも言えるでしょう。
こういうことになりますと冒頭の別所氏の例を見るまでもなく妊婦さん絡みの救急搬送って結構多いのでは?と気になるところですが、実際のところ救急の現場では搬送に難渋すること少なからざるという状況にあるという話がこちらの記事です。

現場滞在30分以上の搬送、周産期ケースで多く(2009年7月31日ロハス・メディカル)

 消防庁が昨年度に実施した救急搬送に関する全国調査によると、救急隊から医療機関に4回以上受け入れ照会を行っていたケースについて、周産期の搬送は重症や小児の場合と比べて、現場に30分以上滞在しているケースが多い傾向があった。(熊田梨恵)

 (略)昨年度に消防庁が実施した救急受け入れの実態調査で、照会回数が4回以上だったケースと、現場滞在時が30分以上だったケースについて、それぞれの割合を都道府県別に出して相関を示した。搬送ケースを▽重症以上(計53万132件)▽産科・周産期(4万542件)▽小児(35万9557件)-に分けた。

 グラフ内に点で示されているのが各都道府県。4回以上照会を行っている場合、周産期の搬送では現場に30分以上滞在しているケースが、小児や重症の場合に比べて多いことが分かる。

単純に考えても妊婦の救急と言えば母体と子供という二人分を相手することになるわけですから、その分通常の医療よりもマンパワーも必要とするだろうということは誰しも予想できるところですよね。
問題はそうしたマンパワーの集約に24時間応えられる施設というものが必ずしも多くない、むしろ年々減っているという現状にあるところで、ひと頃妊婦たらい回しなどとマスコミが大騒ぎした状況も蓋を開けてみれば「顧客側の求める水準が高くなるほど、対応できる施設は減っていく」という、医療業界に限らない当たり前の現象の裏返しにしかすぎないわけです。
冒頭の別所氏の話は美談かも知れませんが、同時に自らの幸運というものも噛みしめるべきこれは一例であったかも知れないということですね。

さて、今春に消防法が改正されまして、各都道府県には患者の容体や地域の医療機関の数に応じて搬送先の候補をあらかじめ決めておき、公表することなどが義務づけられたことは既に御存知のところかと思います。
この改正消防法施行が10月からということなんですが、これに向けて都道府県に示す国のガイドラインというものの策定作業が始まってきているのですね。

搬送・受け入れルールの医療機関リスト、重症度や特殊性などで整理を―消防庁・厚労省(2009年7月30日ロハス・メディカル)

 今年4月に改正した消防法で都道府県に救急搬送と受け入れのルール作りが義務付けられたことを受け、総務省消防庁と厚生労働省は7月30日、都道府県がルール策定時に参考にするためのガイドラインづくりの作業に入った。ルールの中で作る搬送先医療機関の一覧について、患者の重症度などによる緊急性や、妊産婦や小児といった特殊性などの項目に分けてリストアップすることが提案された。(熊田梨恵)

 両省は「傷病者の搬送及び受け入れの実施基準等に関する検討会作業部会」(部会長=有賀徹・昭和大病院副院長)の初会合を開催した。都道府県にガイドラインを通知するため、改正消防法が施行する10月末までには議論をまとめる。

 会合中に事務局は、都道府県が搬送・受け入れルールを策定する時に作る、搬送先医療機関リストのイメージ図を提示。患者の状況に応じて選べるようにリストアップする医療機関の一覧は、次の項目で整理することを提案した。

▽緊急性...緊急的な医療の提供等が、特に生命や予後に影響を及ぼすもの(重篤、致死的な疾患、重症度・緊急度が高い症状・主訴など)
▽特殊性...小児や妊産婦など、特殊性を考慮して整理すべき項目(小児科、産婦人科など診療科別)
▽地域性...搬送に時間がかかる傷病など、地域で必要な項目(開放骨折など搬送に時間のかかる傷病、精神疾患や急性アルコール中毒など傷病者に背景がある場合)

 会合の中で横田順一朗委員(市立堺病院副院長)は、自ら作成した救急隊が使用する「消化器疾患救急トリアージシート&救急活動票(案)」を資料として提出。救急隊が現場で患者の状況を評価するトリアージのルールが示されており、通常使っている救急活動記録票と合わせた形で使えるものだ。横田委員は「あまり細かい事を言うと地域のリソースが偏在している中でかえって混乱を招く」と述べた上で、疾患別などによる患者の状況評価を国のガイドラインで示し、評価によって決められる搬送先はそれぞれの地域で決めるのがよいとした。このシートを活用して、救急隊が疑った傷病と医療機関での診断についてのマッチングを行い、地域の医療提供体制の向上につなげることも求めた。
 また、玉作秀二氏(金岡利明委員・金沢市消防局警課救急救助担当課長の代理)は、「医療機関がリストを作っていただくことはありがたい。ただ、受け入れ側がしっかり受けていただけるかどうか」と懸念を示した。

搬送・受け入れ実施基準のガイドライン作りが本格化(2009年8月3日CBニュース)

 総務省消防庁と厚生労働省はこのほど、「傷病者の搬送及び受入れの実施基準等に関する検討会作業部会」の初会合を開き、傷病者の搬送・受け入れの実施基準を各都道府県が策定するためのガイドライン作りを本格的に開始した。

 今年5月に公布された改正消防法では、救急搬送の際に搬送先医療機関が速やかに決まらない場合があることや、救急隊が現場に到着してから傷病者を病院に収容するまでの時間が延びていることを踏まえ、都道府県に傷病者の搬送・受け入れの実施基準を策定する協議会の設置を義務付けている。
(略)
 初会合では、傷病者の状況に応じた適切な医療が行われる医療機関のリストの策定について、事務局側が「緊急性」「特殊性」「地域性」の3つの観点から傷病者の状況を整理することを提案した。「緊急性」では、緊急的な医療の提供などが特に生命や予後に影響を及ぼすものとして、脳疾患や心疾患など「致死的な疾患」、意識障害や呼吸困難など「重症度・緊急度が高い症状・主訴」、心肺機能停止など「重篤」についてまとめる。また、「特殊性」については小児科や産婦人科など診療科別に、「地域性」では地域の中で特に搬送に時間がかかっている傷病などについてまとめる。

 ガイドラインについては、改正消防法が施行される10月末までに策定する予定だ。

とにかくこの件に関しては、関係諸方面の思惑が入り乱れてなかなか面白いことになっているのかなと言う気配がコメントの端々からも伺えるところで、さらに実際にはこれに現場当事者の思惑というものも関係してきますから、これは一筋縄ではいかない話にはなりそうですけれどもね。
ま、中央側でのアイデアはともかくとして、結局のところ末端レベルでどう実施していくのかということが問題だとすると、あまり精緻を極める実現性の乏しい理想論に傾いてもらっても困るというのが都道府県側の本音であるかも知れませんけれどもね。

その意味では逆に現場からのフィードバックの解析ということが非常に重要な示唆を与えるのではないかと思うのですが、周産期医療関連で言いますと少し前に東京都で「重症妊婦は全て受け入れ」をうたう「スーパー総合周産期母子医療センター」なるものが導入されたという話題は既に御存知のところかと思います。
「看板をつけかえただけで実態は変わらない」とか「全て受け入れるのは重症妊婦だけということが徹底されていない」とか当初色々と言われていたようですが、このスーパー総合運用を通じて得られたデータというものがなかなか面白い話になっているようなので紹介しておきましょう。

まずは蓋を開けてみると意外な結果に…という、ある意味では非常に興味深い話がこちらです。

スーパー総合周産期センター、実質は1件-システムの本質は「意識向上」?(2009年8月1日ロハス・メディカル)

 救命処置が必要な妊婦を24時間体制で必ず受け入れる「スーパー総合周産期センター」のシステムが東京都で開始してからの約4か月で、スーパー総合の受け入れに該当する重症の妊婦の搬送ケースは9件あった。このうち8件は近隣のセンターが受け入れることができており、他のセンターでの受け入れが不可能なために" 最後の砦"としてスーパー総合が受け入れたのは1件のみ。関係者からは、スーパー総合があることによる安心感などが他の医療機関に影響し、他のセンターの受け入れがうまくいっているとの声が上がっている。(熊田梨恵)
 資料は都が7月29日に開いた周産期医療協議会(座長=岡井崇・昭和大教授)で公表した。

 スーパー総合周産期センターのシステムでは、119番通報を受けた救急隊が患者の状況を確認し、脳や心臓に疾患があるなどスーパー総合での受け入れに該当する重篤な状態だと判断した場合、「スーパー」事案として各消防本部に連絡する。日赤医療センター(渋谷区)、昭和大病院(品川区)、日大医学部附属板橋病院(板橋区)の3つのスーパー総合が輪番で受け入れ態勢を敷いているが、近隣の総合や地域の周産期母子医療センターでの受け入れが可能になれば、そこに優先して運ばれる。つまり、妊婦がスーパー総合での受け入れに該当する重症ケースで、スーパー総合システムが稼働して消防本部や医療機関が動いたとしても、すべてスーパー総合に運ばれるわけではない。

 システムが稼働した3月25日から7月28日までの間、スーパー総合での受け入れに該当する重症ケースは9件発生。システムは稼働したが、8件は近隣のセンターで受け入れられていた。どこも受け入れることができず、"最後の砦"としてスーパー総合が受け入れたのは、5月に起こった硬膜下出血が疑われた30代の妊婦の転院搬送だった。
 都によると、これ以外にも患者が自ら病院に来たケースなどでも、スーパー総合の受け入れに該当する重症ケースは8件あったという。
 会合中、委員は資料を元にシステムについて意見交換した。

■「意識の高まりで受け入れられている」
 意見交換で伊藤博人委員(東京消防庁救急部救急医務課長)は、「この制度ができるまでは受けていただく病院がなかなか決まらなかった。このシステムが動き出し、(救急隊が)病院に連絡すると、最終的な(受け入れ)場所が確保されているということで安心され、受けられる、ということだと思う。時間的に早く収容されるイメージがある」と感想を述べた。
 都福祉保健局の飯田真美医療政策部事業推進担当課長は、「(救急隊は)まずは直近の周産期センターにかけていただいているのが現状。そこがだめだったら『スーパーで』ということ。大体1回か2回のトライで決まっている」と述べた。

 吉井栄一郎委員(都福祉保健局医療政策部長)は、8件が近隣の病院で受け入れられていたことについて、「直近(の場所)で入ったものもシステムとして機能したと考えてもらいたい」と述べた。
 丹正勝久委員(日本大医学部教授)は「スーパーのシステムを作ったことで、スーパーに入っていないセンターの意識も少し高まったのでは。このネットワークの機構がうまく動いたというよりは、意識が高まったことでスーパーの患者の受け入れもうまくいったと考えて、これらは別個に考えて話していかないといけないのでは」と、システムを検証する際に注意すべきとした。
 岡井座長はこれに対し、「『意識』もある意味システム下にあるもので、それに乗ってくれたというのもある。そういう整理がないと普通の母体搬送と同じになってしまう。忙しくても『スーパーがあるなら頑張ろう』とやってくれているところもある。今までだったらあった、(救急隊からの受け入れ照会時に)『もうちょっと当たってみてだめだったらもう一回電話下さい』というのは減っている」と述べた。

■オーバートリアージは「許容範囲」
 岡井座長は、中等症のケースが3件あったことを指摘し、「3例がオーバートリアージになる。9分の3なので許容範囲。これぐらいはしょうがないだろう」と述べた。「問題はアンダートリアージ。常位胎盤早期剥離も重症以上のものと規定しているので、1次医療機関が『それほど重症じゃない』と思ってスーパーのシステムに乗せないで、普通の母体搬送でと考えていたら意外と重症だったと。受け取った側が『これは重症だからスーパーでよかったじゃないか』という報告がいくつかされているということ」と、システムは稼働しなかったが重症だったケースがあったことを指摘。スーパー総合に搬送される前の段階で妊婦を診ている医療機関との連携の必要性を強調した。

■「新生児のスーパーシステムを」
 宇賀直樹委員(東邦大医学部教授)は、スーパー総合が妊婦の救命を目的としていることについて「新生児からするとうらやましい。『スーパー胎児救命』とか、一部でもいいから見習って『こういう患者ならどこか受けるよ』というのがあれば残念な症例が少なくなる」と述べた。
 岡井座長はこれに対し、「新生児のシステムがあった方がいいなら作った方がいいかもしれない」と、前向きな見方を示した。9件の中で胎児が死亡していたケースがあったことを指摘し、「今後検討していきましょう」と述べた。

 このほか、楠田聡委員(東京女子医科大教授)はスーパー総合での受け入れに該当するケースが、患者が自ら来院したケースも含めて17件あったことについて、「ほぼ予想に近い数字。ただ、スーパーの宣伝や広報がうまくいっていない」と述べ、システムを今以上に周知していく必要性を指摘した。

色々と読み解くことは出来る話ではあると思うのですが、まずスーパー総合の受け入れ件数が案外少なかったという話に関しては、もともと東京都下では全国でも周産期医療機関が整備されている地域であって、逆に「妊婦たらい回し」という状況は極めて例外的であったからこそ新聞沙汰になったのだという考えは出来るかと思いますね。
ただしその内容を見てみると興味深いのが「スーパー総合が出来てから受け入れがスムーズに進むようになった」という話ですが、これは現場の人間にしてみれば「いざとなれば引受先がある」という意識があるとないとでは全く心理的にも物理的にも状況は変わってくるだろうとは想像できるところです。

逆に言えば、周産期に限らず救急医療を整備する上で重要なのは身近な地域の病院にいつでも医者がいるというようなことではなく、どんな時でもいざとなったら重症患者を引き受けてくれる高次救急医療センターが機能しているかどうかであるという推測もなり立ってくるわけですよね。
この辺りはかねて医療機関集約化に向けて論を進めてきた方々にとってはなかなか使いでのあるデータが取れたんじゃないかとも思える話なんですが、同時に高次救急医療センターには常時受け入れの余力がある程度に受診制限をかける必要があるだろう点にも留意しなければならないでしょうね。

一方で、スーパー総合になってもやはり助産所からの搬送というのはあるんだなという話題がこちらなんですが、これも見てみるとなかなか興味深い話ではありますよね。

「まず助産所の嘱託医との連携を」-スーパー総合、助産所からの搬送ケース(2009年8月2日ロハス・メディカル)

 助産所での分娩を希望する妊婦がいる一方で、医師がいない助産所での分娩は一定のリスクを抱えることにもなる。都のスーパー総合周産期センターでの受け入れが必要になったケースでも、助産所からの搬送があった。(熊田梨恵)

 助産所では医師がいなくても、正常分娩であれば助産師がお産を取り扱うことができる。助産師単独では医療行為を行えないため、助産所には嘱託産科医と嘱託医療機関との連携が義務付けられている。ただ、助産所と医療機関の在り方は助産所によって差があるとの声がある。綿密な連携の下、医療が必要になった妊婦が適切に医療機関を受診できているケースもあれば、連携がうまくいっておらず、大量出血や胎児仮死など重症な状態になってから周産期母子医療センターに搬送されるようなケースもあると言われる。

 日本産科婦人科医会の報告書によると、2005年にあった助産所からの搬送301件(うち54件は新生児搬送)の中で、救命処置が必要だったなどの重傷ケースが29.9%あった。妊婦が死亡したり後遺症が残ったりする状態になったのは9.7%。新生児搬送で救命処置が必要だったのは26.0%あり、死亡や後遺症が残る状態などになったのは26.4%だった。嘱託医を介さない搬送が約8割を占めた。

 関東圏の周産期母子医療センターの産婦人科医は自身が経験したケースを語る。「助産所で破水して全開した後ほとんど一日放置されていて、胎児仮死になって運ばれてきたケースがあった。羊水もどろどろの状態で、緊急帝王切開したが赤ちゃんは脳性麻痺になった。なぜそうなる前に連絡しなかったのか。こういうケースは表に出ないので、最後に受けたセンターが患者や家族からも悪者にされてしまう。助産所のリスクについて妊婦に知らせていくべきだと思うし、妊婦も『自然のお産』というような"助産所信仰"に惑わされないで責任を持って自分の出産を考えてほしい。助産所もきちんとしているところはあるのだから、もっと情報開示して透明化されてほしい」と話す。

 国立成育医療センター周産期診療部の久保隆彦産科医長は「多量出血で助産所からセンターに搬送されるというようなことはよくあることで、どんな状況でもリスクはある。日本の妊産婦は250人に1人は死亡に至る可能性がある。これは国際的に見ても低い割合で、日本のお産はとても安全。だが、それを高いと捉えるか低いと捉えるかは本人次第」と話す。

 都が7月29日に開いた周産期医療協議会(座長=岡井崇・昭和大教授)では、「スーパー総合周産期センター」での受け入れに該当する搬送が、システム開始以来9件あったことが報告され、その中で多量出血による助産所からの搬送ケースがあった。これについての委員のやりとりをご紹介する。

[山村節子委員(日本助産師会東京都支部支部長)]
8の症例に関してですけども、搬送までの時間帯が55分程度で一番長いんですね。しかも直近に入っているにもかかわらず長くかかっているということ。すみません、私も把握していなかったんですけども、よく会員から言われるのは、総合周産期に電話すると、よく『嘱託医、または嘱託医療機関からの方もう一回電話を下さい』と言われるという、大変無駄なことをやらされていて時間がかなりかかっているということがあるのですが、この事例に関してはどうだったのかということです」

[杉本充弘委員(日本赤十字社医療センター産科部長)]
この事例はシステムというより助産所がガイドラインを遵守していなかったということで問題にさせていただきたいと思っていたケース。むしろ嘱託医と全く連絡も取っていなかった。連絡を取らずに独断で子宮収縮剤の点滴をされたりしていて、搬送されているんですね。事例そのものが低位胎盤ということでリスクのあるケース。かつ、嘱託医と連絡を取らないで、いろんな処置をして、出血のコントロールができないということで連絡を受けている。ガイドラインを遵守しているということであれば、連絡を受けてから嘱託医というもっとその以前に嘱託医との連携が当然あってしかるべきだった。この症例は全くなかったということで、あとで助産師会方で、むしろ内部で検討して頂きたいなというふうに思っています。

[岡井座長]
それはそれでいいんだけど、それとこの55分かかったということと関係あるの?

[杉本委員]
その前に、低位胎盤の診断を受けている連携病院が間に入っている。そこが受けていただけないということで総合の方に連絡をして、そこで出血が止まらないということで、色々細かいことは聞かないで『スーパー』で来て下さいということで。出血量としては1200CCを超えるところまではカウントできていたというようなケースだったということ。

[岡井座長]
中等症だったんだよね。

[杉本委員]
そう、中等症。そういうことで55分の中に連携医療機関との連絡というようなことが入っている。

[岡井座長]
間に入っている、うん。

[杉本委員]
そういうことの時間と考えていただきたい。

[岡井座長]
最初の連絡の時点では「スーパー」という話にはならなかったと。

[杉本委員]
そう、出血ですから探しているうちにだんだん出血が多くなって重症化していったと。そういうケースです。

[岡井座長]
途中で変わっていくということがありますからね。それほど重症と思わなかったのに、目の前でどんどん悪くなっていくというケースがありますからね。

いやしかし、助産師会の山村節子委員もクレームを入れたつもりが、うっかりこれは地雷を踏んじゃいましたかね(苦笑)。
これも全くの余談かつ脱線ですけれども、山村委員ら助産師さんらも産科医不足のこの時代に色々頑張っていらっしゃるようで結構なんですが、最近例の産科無過失補償制度絡みで助産師業界も色々と大変らしいですね。
補償制度では詳細な事例の検討をするということで当然出産に関わる記録もきちんと残さなければならないわけですが、「とてもそんなことまでやっていられない」とこれを機に廃業をするという開業助産師さんも結構多いようで、どこの業界でも上から押し付けられる書類仕事は年々増える一方で大変なのは共通だなと思われる話でしょうか。

それはともかく、助産所の抱える問題点につきましては、以前にも「今どき新生児破傷風?産褥熱??」だとか「助産所からの搬送ってハイリスク?」などといった興味深い話題を幾つか紹介させていただいたところではありますが、本症例などはその典型例の一つにも取り上げてもいいくらいな話に思えますよね。
ただむしろ問題になるのはリスクがあること自体ではなく、利用する上で当然受け入れるべきリスクを利用者自身が受け入れられていないという点にあるように思いますね。

例えば車にしても小さな軽自動車よりは大きな高級車の方が何となくぶつかった時にも安全なんだろうなと言う感覚はドライバーなら誰でも持っているだろうと思いますが、車一台買うともなれば必要なコストと求めるベネフィットということを勘案しながら、各人がそれぞれの責任で何を買うかという選択を行っているわけです。
ひと頃話題になった中国産食材などでも同様で、相応に危険性は高いのかも知れませんが安くて品物も豊富にあるのも事実ですから、それと承知し納得の上で利用するのであればこれは個人の選択の自由というものですよね。

同様にお産にしても助産所で産もうが産科医の元で産もうがこれも自分の判断で好きにして良いはずでしょうし、その選択の結果のリスクについても自分の判断の結果として各人が引き受けるべき性質のものであるとも言えるでしょう。
ところが何故か自己選択とそれに伴うリスクの甘受という過程がすっぽり抜け落ちてしまって、いつの間にか「最後に受けたセンターが患者や家族からも悪者にされて」しまうという現実があるのならば、考えてみればこれもずいぶんと妙な話だなという気もするところではあります。

国民皆保険制度というものは色々と世界に誇るべき良い点も沢山あるでしょうが、その一方で良くも悪くも皆保険制度に慣れてしまった挙げ句に、医療提供者も医療利用者もどこか感覚がいびつになってしまったのかも知れないですかね。
「医療の常識は世間の非常識」なんてことをいつ頃からか言われてきたものでしたが、考えてみれば「保険で切られるから治療を打ち切る?!医者が金のことなど考えるな!」なんて指導医に叱られたなんて話もずいぶんと非常識なのは確かですけれども、そんな医療を受ける側が「ルール違反なんて許せない!保険診療で認められる範囲でやれ!」なんて抗議したという話も聞かないわけですよね。
そこにある常識の欠如というものは果たして医療を提供する側に限った問題であったのか、あるいは医療を受ける側にも何かしらの他ではあり得ない非常識というものがなかったのか、こうした産科救急の話題の中にもなかなか示唆に富む話が沢山隠されているようにも思えます。

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コメント

こんばんは

別所さんはお子さんが少し心配ですが、好きな俳優さんなので幸せになって欲しいです

投稿: ぱる | 2009年8月11日 (火) 23時25分

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