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2009年8月12日 (水)

誰のためにもならないなら避けた方が得

最近はモンスターだのクレーマーだのと色々な方面で賑やかなようですが、当然ながら医療業界においても例外とはしません。
一説には「患者様などと呼び始めたころから医療現場のモンスターが増えた」などという話もあるようですが、いずれにしても医療従事者のみならず大多数の善良な一般患者にとっても迷惑な話ですよね。
最近ではようやく職員一人一人の場当たり的対応ではなく、組織として系統だった対策を取ろうという動きが医療機関にも広まっているようで、各地で講習会なども開かれるようになりました。

問題患者への対処法探る 医療従事者らが岡山で検討会 /岡山(2009年7月26日山陽新聞)

 医師らに暴言を吐いたり暴力で危害を加える問題患者(モンスターペイシェント)への対策を研究する「問題患者等対応検討会」(MPA)が24日夜、岡山市北区鹿田町の岡山大病院で開かれ、実例に基づくロールプレイ(役割劇)を通して的確な対処法のあり方を探った。

 県警組織犯罪対策1課員と弁護士が問題患者役となり、同病院など4医療機関の職員が対応。県内外の医療従事者約350人が見学した。

 外来診察の待ち時間が長い、医療ミスで障害が残った―などと言いがかりを付け、高額の慰謝料を要求する問題患者役に対し、職員らは毅然(きぜん)とした態度をとったり、相手のペースに合わせないなどの対応で臨んだ。

 県警担当者や弁護士は、相手を挑発し過ぎない▽凶器となるボールペンを置かない▽室内では出入り口側に座る―などの注意点を紹介。MPAの森定理会長(川崎医科大付属病院)は「善良な患者を守るためにも、多くの医療機関に周知徹底を図りたい」と話した。

ことが医療業界に限った話でもないということであれば、その対策においても先進する他業界の知恵を拝借するのが賢いやり方ですよね。
実際にこうした問題は特定業界だけではなく、暴力団対策などと同様に国民全てに関わることとしてきちんと対応していかなければならないことだと思いますが、そのためにもまずは正しい知識を世間的にも周知徹底していかなければならないところでしょう。
その一方でクレーマーという存在自体も人によって定義が様々なところがあって議論がややこしくなっている部分もありますが、実際問題としてその背景が複雑化しているのも事実のようです。

「モンスタークレーマー」会社、学校、病院、個人…標的にされたらどうする?(2009年8月6日プレジデント)

■常軌を逸した誹謗中傷は「偽計業務妨害罪」になる

 わが国で企業や公的機関へのゆきすぎたクレーム行動が一般に広く問題視されるようになったのは約15年ほど前からのこと。
 そもそも正当なクレームは、企業経営を改善し活性化するための貴重な情報源となる。ところが、この時期から客観的にはとても正当とはいえない悪質なクレームが増え始めた。さらに「東芝クレーマー事件」によってインターネットの影響力が広く知れ渡り、同事件が起きた1999年ごろからは、インターネットを最大限活用して苦情の中身を社会に広めようとするクレーマーが出現。こうした事態への対処に企業側は頭を抱えているのが実情である。

 かつても製品の不具合、サービス不良などを理由に企業へ因縁をつけるタイプの悪質クレーマーは存在した。いわば暴力的背景を持ったクレーマーだ。
 一方、近年問題なのは、製品の不具合など苦情の入り口は同じでも、そこから非難の方向を変えて、企業の社会的姿勢などを声高に追及するタイプのクレーマーである。苦情の前提と要求の内容には著しい差があったり、苦情の相談がなかったりするからモンスタークレーマーといってもいい。背景に「我こそは正義」という思い込みがあるため、大変対応しにくい相手である。
 というのは、暴力的背景を持ったクレーマーの場合、直接的には金銭を要求していなくても、要求の内容はわかりやすい。これに対して、“新種”であるモンスタークレーマーは、正義を述べ立てることによる自己陶酔や憂さ晴らしといった、別の動機によって行動している。そのため、例えばモンスタークレーマーに金銭の提供を申し出たりすると、逆に相手の態度を硬化させ、問題を長引かせることにつながりかねない。「対応しにくい」というのは、このことだ。

 モンスタークレーマーの標的は企業だけではない。“被害”はいまや自治体や国の機関、学校、病院、さらには芸能人や政治家といった個人にまで広がっている。また、“クレーム慣れ”しているはずの企業でも、消費者相談室などの専門部署ではなく現場の個人が標的になることがある。誰もがクレーマー被害に遭う危険があるのだ。
 2007年からは、実社会での知識・経験が豊富で、学生運動にも関わった団塊世代が続々と退職している。彼らのごく一部が、ゆがんだ正義感をふりかざすモンスタークレーマーと化して、現役サラリーマンを苦しめているという現実も見逃せない。
 電話やネットを通じた「情報による攻撃」は、暴力をともなう物理的な攻撃よりも効果的に人を打ちのめすものである。たとえ専門的な訓練を受けたクレーム担当者であっても、モンスタークレーマーからの執拗な攻撃を受ければ「心が壊れてしまう」といわれている。通常業務を抱えた一般社員ならなおさらだ。

 常軌を逸したクレーム電話が続いたり、ネット上の誹謗中傷がやまなかったりしたときは、偽計業務妨害罪(刑法233条)にあたるケースもあるので刑事告訴といった対応も可能である。ただ、弁護士に相談しても、弁護士は告訴や損害賠償といった法的解決を想定しがちだが、それは対策のごく一部。私が推奨したいのは定期的に「対モンスタークレーマー訓練」を行うことだ。
 クレーマー役の社員が営業や総務、支店などの窓口にシナリオどおりのクレーム電話をかける。それだけでも役に立つ。防災訓練と同じで、一見芝居に見えても、事前にやるべきことや進むべき道筋がわかっていると、モンスタークレーマーの不意の襲来にも冷静に対処できる。備えあれば憂いなしであり、まずは心の備えが重要だ。
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升田 純 弁護士
ますだ・じゅん○1950年、島根県生まれ。74年京都大学法学部卒。77年裁判官に任官、97年弁護士登録、2004年より中央大学法科大学院教授。『モンスタークレーマー対策の実務と法』(共著)、『実務民事訴訟法』など著書多数。

記事中にもありますが「団塊世代の一部がゆがんだ正義感をふりかざしクレーマーに」云々の部分、実体験として心当たりのある方々も多いのではないでしょうか(苦笑)。
まあこのあたりも極めて線引きが難しいところであって、一般に通用しない価値観を大上段に振りかざすという点では一部マスコミなどが盛んに擁護する社会的少数派とどう違うのか?という考え方もあるわけですから、結局は行動で区別するしかなさそうです。
「こりゃおかしいぞ」と思って抗議なりクレームなりをするところまでは誰にでもあり得ることで、そこから先をどうするのかというあたりでクレーマーか否かを判断していくしかないわけですが、それこそご意見箱などで普段から「健全なクレーム」を積極的に引き出していくことがむしろ鑑別と予防に有用なのかも知れませんね。

一方で記事中にも触れられている通り、古典的な「ゆすり・たかり」的意図といった(自覚的な)悪意でもってクレーマー化している人間というのは実はそれほど多いものではなく、むしろ本人達は自分の正義を疑っていないという点にこれらの対処の難しさがあります。
金品や便宜を要求するということはそこに利を求めているわけで、逆に言えば割に合わないと感じれば手を引くという損得勘定が働いているということですが、正義派クレーマーにはそうした打算がありませんから相手から拒絶され続けてしまうと「これで終わり」という引っ込みの付け所が本人にも見いだせなくなる場合があるわけですね。
時々新聞沙汰になる「トラブルがこじれて病院内で刃傷沙汰に及び」云々の傷害事件などもそうした背景を秘めている場合が結構あるんじゃないかと思うのですが、少しでもクレーマーを減らすためにはトラブルとなる以前の段階で事態の進行を防ぐということになろうかと思います。

特に医療という現場は唯一合法的に他人を傷つけて良いとされる場所でトラブルのネタは幾らでも転がっているわけですから、何がどうあってもトラブルに持ち込むという筋金入りの方々はともかくとして、意思疎通可能な方々とは可能な限りモンスター化以前の段階で解決していかななければ、トラブルの種など尽きるはずがありません。
その意味で医療事故などは対処次第で後々どうにでも転がる一大転機ともなりかねないだけに、ADRや無過失補償制度など使える手段は何でも積極的に活用することで早期から強力に正しい問題解決を行っていくべきですよね。
これは何も医療従事者の保身といった話ばかりではなく、医療側と患者側が対立してみたところでほとんどの場合どちらの利益にもならないばかりではなく、昨今ではそうした対立の構図につけ込もうとするケシカラン輩すら出没しているからということもあるのです。

組長に賠償金返還を命令 岡山、「横取り」主張の女性勝訴(2009年7月31日47ニュース)

 医療事故の賠償金を暴力団組長に不当な理由で横取りされたとして、岡山市の女性(19)が、返還を求めた訴訟で、岡山地裁は31日、組長に請求全額の約4800万円を支払うよう命じた。

 女性は0歳の時の医療事故で脳に障害を負い、現在も寝たきり状態。法定代理人の両親が提訴していた。

 次田和明裁判官は判決理由で「本来原告が受け取るはずの賠償金なのに、法律上の原因がないことを知り尽くしていながら受け取った」と指摘した。

 判決などによると、組長は女性の親類の知人で、医療事故をめぐる病院との示談交渉のため弁護士を紹介。1998年、病院側が過失を認め、5700万円が支払われたが、うち5000万円を組長が一時的に預かった。

 母親はその後組長に返還を要求したが、以前に生活費を用立てたことなどを理由に、197万円しか返されなかった。

 女性の母親は「娘の苦痛に対するお金を横取りするなんて、仁義のかけらもない」と訴えていた。

先日は病院が食いものにされる時代だという話をしたところですが、患者側も同様に食いものにされかねない時代だという認識を持っていなければならない時代だということです。
病院の待合室で弁護士が待っていて、暗い顔で診察室から出てきた患者に近寄ってきては「何かお悩みのことがありましたら相談にのりましょうか」とささやきかける…なんて笑い話?がありましたが、笑い事ではなく他人に乗っかって一儲けしようと待ちかまえている人間が手段を選ぶはずもないのは当然ですよね。

そこで重要になってくるのが医療側と患者側の間に存在する様々な溝をいかに解消していくかですが、クレーマー云々以前の段階でしばしば指摘されるのが両者の間の情報格差の問題で、ささいな誤解が巡り巡って大きなトラブルになっていく根本原因の一つではないかとも言われるところです。
以前にも救急崩壊に関する独創的見解を少しばかり紹介させていただいた九大医療システム学講座の信友浩一先生ですが、さすがこの方面でも造詣が深いご様子でこんな試みをなされているようですね。

患者と医師をつなぐ「医療決断サポーター」―九大大学院が養成(2009年8月4日CBニュース)

九大大学院医療システム学教室では、患者と医師の橋渡し役を担う「医療決断サポーター」の養成に力を入れている。看護師らが医療メディエーションや、医療訴訟と患者の権利などについて学び、受講時間が6割以上に達し、最終レポートを提出した受講者には修了書が発行される。

医療決断サポーターの対象は、看護師や社会福祉士など国家資格を持つ人。同教室では2004年12月に「第1回医療決断サポーター養成講座」を開催。これまでに約300人のサポーターが輩出している。8月末から始まる5回目の養成講座は定員40人で、10月までに8日間開く。

第三者として患者のインフォームド・コンセントの場に立ち会い、治療方針の「決断」を支援する。業務内容はメディカルソーシャルワーカー、いわゆる「医療コンシェルジュ」などと重なる部分もあるが、「紛争解決」までは想定していない。同教室では、「治療決定の段階で、患者と医師の間できちんと話し合いができていれば、紛争にまで至らないのではないか」と期待している。

ちなみに募集要項によるとこの医療決断サポーターとはこんなものなのだそうです。

医療決断サポーター(支援員)とは?

インターネットの普及などにより、わたしたちは医療情報に関しても多くの情報を持つようになってきました。また、医療界においては、医師からの一方的な説明への患者の同意ではなく、相互が参加する意思決定である、“真の”インフォームドコンセントを得るべきだと言われ始めています。このように医療を取り巻く状況が変化している昨今、良好な医師-患者関係の構築が求められています。

「医療決断サポーター(支援員)」とは、インフォームドコンセントの場に第三者として立ち会い、医師の説明を適切な形でサポートし、患者の疾患や治療に関する理解を助け、不安を取り除き、治療方針決定への参加を促します。これにより、より良好な医師-患者関係を促進し、病院は患者が安心・納得できる医療を提供することが可能となります。

思い切り細かいことを省いて言えば、医療現場における解説係とでも言うべきものになるのでしょうか。
信友先生の講座HPではこの医療決断サポーターというシステムに関して色々と記述があり読んでいて面白いなとも思うのですが、先生ら自身が考える問題点として以下のようなものが挙げられています。

3・医療決断サポーターの課題

①最も課題となるのは、先に述べたように医療決断サポーターが、患者の代理で医療を誘導してはならないということです。倫理的な問題でありますが、ここをどうクリアしていくかは、現状では個人の自覚に任せるしかありません。

②次に現実的な課題として資格や待遇の問題です。継続的なシステムの確立のために、医療費の中にコーディネーションにかかる費用をいかに捻出するか、現在の保険点数制度では課題が残ります。誰が経費を負担するのか、医療機関か患者か、あるいは保険者か。負担する者に肩入れするのは仕方が無いので、中立性をどう保つかが問題となります。

③法律的な課題もあります。医療決断サポーターの法的立場や、個人情報に対する守秘義務をいかに担保するか。記録の方法やその保管についても、今後の検討が必要となります。ただし、医師と患者の二者だけでは、問題があることも従来指摘されており、何らかの形で骨髄移植の際の弁護士立会いのように、第三者が介在することが望まれています。医療現場に全て弁護士が介入するのも現実的ではなく、例えそうであるとしても、むしろお互いの不信感をあおることにもなりかねません。紛争予防というネガティブな面からではなく、あくまでも良好な相互理解のための医療決断サポーターと考えます。

信友先生はこのように三つの課題を挙げていますが、それ以前の問題としてそもそも医療における説明という行為自体の持つ意味をどう考えているのかという点が多くの臨床家の疑問を抱くところではないでしょうか。
同じ疾患を説明させても医師によって何に力点を置くかは異なり、内科と外科では全く見解が違っているといったことは日常臨床の場で当たり前に遭遇することですが、要するにそれだけ「患者の人生に関わる意思決定は説明者の舌先三寸(失礼)にかかっている」という現実があるわけですね。

よく医療被害者団体なる方々がリピーター医師なるものを問題視していますが、どこの職場であれ大抵は実際に手を動かす人間よりも舌先を動かす人間の方がずっと多いわけですから、現実的な問題として受けた説明内容の不備による患者選択権の侵害といった問題の方がはるかに大きい(そして、気付かれにくい)とも予想されるところです。
好成績を挙げている治療が実は極めて苦痛が大きく「先生もう勘弁してくれ」と患者が泣いて頼んでいるといった事例はしばしばあることですが、そうした教科書に載っていない現場の実情を知らないサポーターに患者がどう説明するのか、半端な知識に基づいた説明の結果普通ならあり得ないような選択がなされるのではないか。
何気ない一言によって全てをぶち壊しにされた経験を持つベテラン臨床医ともなればそうした不安は幾らでも出てくるところではないかと思いますし、そんな怖さを知っているからこそ「実際の治療は下っ端に任せても患者説明だけは自分でやる」という大先生が未だに多いわけですよね(あれはあれで患者側からすると不評のようですが…)。

信友先生の意図はともかくとして、医療決断サポーターは患者から信頼されるのは無論のこと、何よりもまず医者をはじめとする医療従事者から信頼される存在とならなければならないでしょうね。
そのために必要なのは信友先生のような素晴らしい学者先生としてのキャリアを持つ方々ではなく、やはり真っ当な臨床家としてのキャリアを持つ経験豊かな教育陣がしっかりとした教育を行う必要があるのではないかという気がします。
そうなりますと、そんなベテラン指導医クラスにそれだけの労力をかけさせるくらいであれば大増員されるとも噂される研修医に真っ当な教育をする方がはるかに大事なんじゃないかといった話になってきがちなものですから、未だにこの種のサポートシステムで誰にも満足されるようなものが出来上がったためしがないわけです(苦笑)。

人材を育てるのもまた人材だとすると、結局人材不足というのはそれを解消するのも一苦労というわけで、医学部定員を大幅に増やせば医師不足が解消するなんて単純な話でもないでしょうから、人材貧乏は一攫千金など夢見ずに気長にやるしかないということなんでしょうか。
しかしなんと言いますか、最終的にはここでも「みんな貧乏が悪いんや!」という結論になるんでしょうかね?(苦笑)

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