« 周産期医療の現状は医療崩壊の縮図か? | トップページ | 今日のぐり「お好み焼き月ちゃん」 »

2009年8月29日 (土)

流行のみならず情報も絶讚拡大中の新型インフルエンザ

総選挙前にもかかわらず表題の通りあちこちから情報が入ってきますが、何やら一部では再びパニックじみたことになってきている気配すらあるようです。
神奈川では他人の車を破損させた容疑者が新型に感染していると判った途端に釈放、なんていう笑い話のような話まで出ているようですが、沖縄などでは既に医療機関が破綻しかねない状況となっていて笑い話どころではないというところでしょうか。
今後総選挙が終わればますますインフルエンザにもマスコミの目が向きそうな状況にあって、これは全国的に流行が広がってくるとどうなるんだと懸念されるところですが、本格的大流行の前に慣らしをしているのだと前向きに捉えておくべきなのでしょうか。

新型インフルで救急外来急増 過剰反応に病院疲弊 /沖縄(2009年8月27日琉球新報)

 家族など身近な人に新型インフルエンザ感染者が出た場合に、事業所側が職員に対して罹患(りかん)していないという診断書の提出を求めたり、本人が感染し、完治した場合に「完治証明書」の提出を求めるなど「過剰反応」ともいえる事態が起きており、病院を訪れる人が急増している。患者の増加に伴い、救急病院を中心に医療機関はぎりぎりの対応に追われており「本来来るべきでない人に対応している余裕はない」(医療従事者)のが現状だ。また感染していない人が病院に行くことで感染の危険性が高まる側面もあり、県福祉保健部は「かかっていないという診断書自体出せないし、完治証明も必要ない。医療現場を疲弊させることはやめてほしい」と強く呼び掛けている。
 本島南部の病院では子どもが感染した親が夜間に来院し「(本人が)かかっていないという証明書」の提出を会社から求められたとして、咳(せき)などの呼吸器症状、発熱もないにもかかわらず「検査をしてほしい」と求める例があったという。同病院の看護師は「病院での待ち時間に感染する危険性の方が高い。症状のない人が病院に来るとかえって感染を拡大させる。どの病院も医師、看護師不足だ。救急のパンク状態が続けば医療の側が倒れてしまう。適切な受診を心掛けることが県民のできる最大の協力」と指摘する。
 県の宮里達也保健衛生統括監は「家族が感染し会社などに出勤するときにはマスクをして出ればいい。本人が感染した場合も熱が平熱に下がって2日たてば感染の心配はないので出勤可能だ」と説明する。
 重症例が出ていることから、軽症でも発熱するとすぐに救急に駆け込む例も少なくないという。宮里統括監は「息苦しそうにしている、水分が取れない、顔色が悪い、挙動がおかしいなどの症状があればすぐに救急にかかる必要がある。しかし発熱だけなら、インフルエンザではない可能性もあり、病院に行くことはかえって危険。水分を十分とって一晩休み、昼間にかかりつけ医を受診すること。それが本人のためにも社会のためにもなる」と適切な受診をあらためて呼び掛けた。

参考までに神戸市が新型の臨床経過についてレポートを出しているのですが、これで見ますと38度以上の発熱を来すのは最初の2日間くらいなもので、他の症状も概ね従来の季節型インフルエンザに比べて短期間で済んでいるのかなという印象があります。
こうしたデータを見ると一部で噂されている「新型は切れがいい」という話も首肯できるところなんですが、その一方でもともとこういう自然経過を辿る疾患なのだとすれば、果たして抗ウイルス薬が効いているのかどうかも判断しにくいところではありますよね。
さて、厚労省はこうした状況に対して医療機関の受け入れ拡大を求めているということなんですが、どうも沖縄での状況を見るとここでもゼロリスク症候群が蔓延していると言いますか、むしろ不要不急の受診抑制の呼びかけの方がずっと優先順位が高いのではないかという気がしてなりません。

新型インフル、夜間診療延長など要請へ 厚労省、医療機関に(2009年8月27日日経ネット)

 新型インフルエンザ対策で、厚生労働省は27日、感染した患者が急増した場合に対応するため、全国の医療機関に夜間診療時間の延長などの検討を緊急要請することを決めた。入院患者が増えた場合には、病室の定員を超過してでも患者を受け入れる体制の検討も求める。全国の人工呼吸器の台数や稼働状況などを調査して、大規模な流行に備える。

 週内にも都道府県や関係団体などに通知する方針。同省は感染率や重症化率などを盛り込んだ「流行シナリオ」も作成し、医療機関などに提供して対策に役立てる方針。感染した患者には同省のホームページで掲載している「自宅で療養する際の手引き」を周知、家族内の感染対策などを徹底して、感染拡大を防止することを求める。
(略)

いやしかし、「病室の定員を超過してでも患者を受け入れ」と言われても、これはどう解釈したものかと対応に迷う施設も多いのではないでしょうか。
一応この新型騒ぎで厚労省から定員超過に関する通達が出ていまして、新型絡みで定員超過しても災害等に準じて入院基本料の減額対象とはしないという一方で、廊下や処置室など病室以外に収容した場合には入院基本料は算定できないということになっているようです。
いずれにしても死に体の舛添大臣に同心してこんな危ない橋を渡ろうなんて医療機関も今どきそうはなかろうとは思いますが、うかつなことをやってしまって後で大幅赤字なんてことにならないようにご注意いただきたいところですね。

しかしまあ、さっそく某所ではこんな落書きが氾濫しているようですけれども(苦笑)、沖縄を見ても判るように外来患者殺到でひーひー言っている状況で、さらに定員を超えるような入院患者を引き受けたりするとどういう楽しいことになるかという想像力は働かなかったんでしょうかね。

13 名前: 名無しさん@十周年 [sage] 投稿日: 2009/08/27(木) 12:54:58 ID:HxUtyKVv0
8月27日、厚生労働大臣であった舛添要一は、自らが立てさせた会見所に医師たちを集め、
泣きながら次のように訓示した。

「諸君、担当医は、院長命に背き患者の診察を放棄した。
受け入れ態勢がないから医療は出来んと言って患者の診察を勝手に断りよった。
これが病院か。病院は受け入れ態勢がなくても受け入れをしなければならないのだ。
検査キットがない、やれタミフルがない、リレンザがないなどは診察を放棄する理由にならぬ。

(中略)

担当医には応召義務があるということを忘れちゃいかん。病院は公立である。市長が守って下さる…」

以下、訓示は一時間以上も続いたため、当直明け通常勤務後の残業の連続で、
抵抗力の落ちている医師がウイルスに罹り、
病気で抵抗力の落ちた入院患者および外来患者に伝染する事態となった。

一応フォローしておきますと、医療機関への支援に及び腰だった厚労省も先頃になってようやくこんな話を出してきたようで、一応は良い傾向であるとは評価しておきます。

新型インフル 全医療機関に整備費 厚労省方針 増床など半額補助(2009年8月26日東京新聞)

 新型インフルエンザの全国的な流行を受け、厚生労働省は二十五日、診察に必要な施設整備費の補助対象を、国内にある約六百の感染症指定医療機関から、一般の病院や診療所などすべての医療機関に拡大することを柱とする対策の強化案をまとめた。
(略)
 厚労省によると、施設費の補助対象拡大は、新型インフルエンザ対策の運用指針が六月、全医療機関で発熱患者の診療を行うよう改定されたことに沿った内容。

 医療機関から申請を受け、国が原則として必要経費の半分を負担する仕組み。補助を受けた医療機関は、重症化の恐れのある患者らを入院させるための病床を増やしたり、一般患者が院内感染しないよう間仕切りを設けるなどの改修工事を行ったりすることが義務付けられる。
(略)

しかし記事を見る限りではあくまで設備投資に関してのいつものような紐付き補助金だけで、人件費や感染防御のランニングコストの部分に関しては相変わらず 身銭を切れと言っているように聞こえるのですが、そのせいかさっそく日病協も突っ込みを入れようとしている様子ですね(しかしどうせなら大臣が替わってからにすれば 良いような気も…?)
このあたりはどの程度厚労省の笛に踊らされるかは各医療機関が主体的に判断し対応すればよいということなんでしょうが、今の医療機関に何であれ金のかかるこ とをボランティアでやれと言われて、おいそれとやれるほどの体力(もちろん気力も、ですが)が残っているかどうかですよね。

さて、このところ幾つか興味深いニュースが続いているのですが、まずは抗ウイルス薬関連の話題から始めてみましょう。
WHOなどではすでに健康で元気のいい軽症患者は抗ウイルス薬もなしで基本放置、その代わり重症化しそうな人は要慎重対応といった感じで患者対応を思い切って二極化してきている感があります。
患者数が激増すればリソース不足になってくるのは当然ですから戦力の集中は当然なのですが、そうなりますとハイリスク症例をきちんと見分ける目と言うものも現場の臨床家には要求されてくるでしょうね。
その中で妊婦はハイリスクであるということは確定した感がありますが、これとも関連して産科学会がこういうことを言ってきているのにも注目しておかなければなりません。

新型インフル、妊婦感染なら「ただちにタミフル投与」(2009年8月27日CBニュース)

 日本産科婦人科学会(吉村泰典理事長)は8月25日、妊婦の新型インフルエンザ感染が確認された場合、ただちにタミフルによる治療を開始することなどを勧める改訂版「妊婦もしくは褥婦に対しての新型インフルエンザ(H1N1)感染に対する対応Q&A」をホームページ上で公表した。

 Q&Aは、5月に同学会が作成し、一般向けと医療関係者向けに分けてホームページに掲載。6月と8月上旬に内容の一部を改訂した。

 今回の改訂で第4版となる医療関係者向けのQ&Aでは、妊婦がインフルエンザ様症状(38度以上の発熱と急性呼吸器症状)を訴えた場合の対応について、世界保健機関(WHO)が「感染が疑われる場合には医師は確認検査結果を待たずに、ただちにタミフルを投与すべきとしている」と指摘。その上で、「発症後48時間以内のタミフル服用開始は重症化防止に最も有効」と妊婦に伝えるよう指示している。
 また、妊婦に感染が確認された場合は、ただちにタミフルによる治療を開始し、妊婦が患者と濃厚接触した場合は、予防的投与をすることを求めた。

 今回の改訂では、新たに「分娩前後に発症した場合の対応」にも言及。新生児も感染している可能性があるため、厳重に経過観察し、感染が疑われる場合には検査を行い、できるだけ早期に治療を開始するとしている。

 また感染した母親による授乳については、母乳を介した感染の可能性は現在のところ知られておらず、「母乳は安全と考えられる」とする一方で、直接授乳をするための条件として、▽タミフルあるいはリレンザを2日間以上服用▽熱が下がって平熱▽咳や鼻水がほとんどない-が必要とした。
 この3条件を満たしていない場合には、「母児は可能な限り別室とし、搾乳した母乳を健康な第三者が児に与える」としている。

今の時代特に妊産婦関連はうかつなことをすると大変なことになりかねないという時代ですから、こうして学会が公にこうしなさいとガイドラインを打ち出してくるのは非常に良いことだと思うのですが、問題は肝心のタミフルの添付文書にある文言との整合性ですよね。

1. 妊婦又は妊娠している可能性のある婦人に投与する場には、治療上の有益性が危険性を上回ると判断される場合にのみ投与すること。[妊娠中の投与に関する安全性は確立していない。動物実験(ラット)で胎盤通過性が報告されている。]

2. 授乳婦に投与する場合には授乳を避けさせること。[動物実験(ラット)で乳汁中に移行することが報告されている。]

妊婦に関しては命がかかっているものですからともかくとして、体調が悪いときには母乳を一時やめなさいくらいは指導しても社会的に許されるのではとも思うのですが、逆にこうまでして母乳を片時も休まず続けなければならないという根拠は何かしらあるのでしょうか。
何よりもし妊産婦がタミフルを使用し、その後子供さんに何らかの問題があった場合に、タミフルのせいなのかどうかすらも誰にも判らないわけなので、これは後になって地雷だったということになるかもと危惧が拭えないところですね。
好意的に解釈するならば、学会が一番ヤバそうなやり方を公認しておいてくれるというのであれば、大多数の先生方はその範囲内にとどまっているだろうという予想は立つわけですから、これはセーフティーネットとして敢えてこういうものを出してきたという解釈も出来るということなんでしょうか(産科学会の内情は知りませんけれども)。

続いて、先日も少しばかり取り上げました厚労省結核感染症課の福島靖正課長による「肺炎球菌ワクチンについては、国内で承認されているものは非常に副作用が強い」なる発言と関連して、さっそくクレームがついたという記事をご紹介しておきましょう。
と言いますか、実際にそういう危険なワクチンと言うのであれば、高齢者への使用を認めてきた厚労省の責任が問われかねないところなのですが、そうした認識はなかったということなんでしょうか?

厚労省課長発言を山形保険医協会が質す(2009年8月27日ロハス・メディカル)

 20日のインフルエンザワクチンに関する意見交換会で厚生労働省の福島靖正・結核感染症課長が「肺炎球菌ワクチンの副作用が非常に強い」と発言したと一部メディアで報じられたことに対して、山形県保険医協会が26日付で舛添要一厚生労働大臣宛に「発言の真意を質す」との要望書を送付した。(川口恭)

 この発言に関しては26日の大臣との意見交換会でも岩田健太郎・神戸大教授が「明白な誤り」と述べている。

 要望書で山形県保険医協会は
1、発言の根拠となった症例と人数、年度を示す
2、発言が報道と異なるのであればニュースの発信元に訂正を求め、民主党と国民に説明する
の2点を求めている。

福島氏の経歴を参照してみますと、熊本大学医学部を卒業後も臨床のキャリアというものはないようで、一貫して公衆衛生、医療行政といったものに携わってきた「プロ医系技官」とも呼ぶべき御方のようです。
こうした経歴をお持ちの方ですから一体何を根拠にこういう発言をしたのかと考えるよりは、一体何を目的にと考えた方がより状況を理解しやすいと思われますが、当然ながらそこには一体誰の意図を代弁してという疑問もセットでついてくるわけですよね。
この件に関しては更なる続報を待ちたいところですが、まさか「うっかり勘違いしていました」とも言わないでしょうからどういう答弁が出てくるのか、あるいはこの時期敢えて大臣宛にと言うことで最初から答えを期待しないパフォーマンスなのかという深読みも含めて、色々と楽しみではある話です。

さて再び話はかわって、先日にも取り上げましたようにこの27日に「誰にワクチンを打つのか」ということが厚労省主催の有識者による検討会で議論されまして、結局こういう結論になってきたようです。

持病ある人、妊婦ら最優先=輸入品は安全確認-新型インフルワクチンで医学会代表ら(2009年8月27日時事ドットコム)

 新型インフルエンザのワクチンをめぐり、厚生労働省は27日、日本透析医学会、日本産科婦人科学会など14医学会の代表者らによる意見交換会を開いた。参加者は、重症化するリスクが高い持病のある人と妊婦、医師、看護師を最優先にワクチンを接種するとの意見で大筋で一致。ほかに接種が必要な層として、乳幼児、高齢者、小中高生などが挙げられた
 厚労省はこれらの意見を踏まえ、来月中に接種の優先順位を決める見通し。
 こうした層は計約5300万人とされ、同省は全員を接種対象とするとの方針を表明。国内メーカーのワクチン生産量は年内で最大1700万人分のため、不足分は輸入を検討している。
 ただし、海外メーカーのワクチンは効き目を強めるため、国内では未承認の添加物を加えているものが多いことから、会合では「安全確認のための試験が必要」との声が相次いだ。また、政府専門家諮問委員会の尾身茂自治医大教授は、最優先とされる妊婦らに国産ワクチンを使うことを提言した。
 持病のない高齢者や小中高生がワクチンを接種する場合、輸入品となる可能性があり、尾身教授は「厳しい議論になる」と話した。

このあたり、ワクチンの有効性や安全性、そして輸入ワクチンの治験をどうするのかといった話が渦巻いているのですが、本日はさっぱりと割愛させていただきます。

さて、結局のところ確実に入手可能なワクチンとして国内生産分の千数百万人分を誰に使うのかという話しなんですが、基礎疾患のある人や妊婦、医療関係者を最優先にというある意味で常識的な線でまとめてきたようです。
問題はそれ以外に誰をというところなんですが、前回書きましたように重症化するとヤバい人々でありながらあるいはひょっとするとアメリカにならって切り捨てなのか?とも懸念された高齢者層に対しても、一応候補者としてリストアップはしてあるようですね。
しかし常識的に考えて全世界的な流行が起こっている現状で、日本に対して数千万人分のワクチンを緊急に輸出できるような海外のストックがあるようにも思えませんから、結局は「ワクチンが余ってくるようなら考えましょう(でもたぶん余らないけれど)」という何とも玉虫色の結論になったのかなという印象が拭えないところです。

ワクチンに関連してはもう一つ、輸入ワクチンの安全性保証とも関連する文脈において、舛添大臣がこんな発言をしていることにも注目しなければなりません。

ワクチン副作用なら「国が補償」 新型インフルで厚労相(2009年8月26日朝日新聞)

 新型の豚インフルエンザのワクチン接種で副作用による被害が生じた場合について、舛添厚生労働相は26日、国による補償制度を検討していることを明らかにした。多くの人に接種してもらえるよう促すための取り組みだ。

 厚労省は5300万人の接種を見込んでいる。ワクチン接種を巡る専門家との意見交換会で舛添氏は、「目の前の危機に対応する必要がある。特別立法も念頭に置いて作業したい」と述べた。

 ワクチンには公費負担で受けられる「定期接種」や「臨時接種」と、全額自己負担の「任意接種」がある。厚労省は、新型インフルワクチンは任意接種とする意向。任意接種で副作用が起きた場合は医薬品医療機器総合機構を通じて給付金が支払われるが、国が補償する接種の場合、死亡一時金などの金額が数倍になる場合がある。季節性インフルエンザのワクチンでは、副作用の頻度は、100万人に2人程度という報告がある。
(略)
 出席した日本産科婦人科学会の水上尚典・北大教授も、妊婦を優先対象とすべきだとしたうえで「補償制度を構築してほしい」と話した。

さすがに口は達者ながら、就任以来今ひとつ業績の実をあげるという点で影の薄かった舛添大臣としては、これはもし実現すればそれなりに評価に値する話だと思いますね。
問題は8月30日以降の新政権で前大臣のこの発言が顧みられる可能性がほとんどなかろうということなんですが、一応は官僚側の方でもこういうフォローアップするかのような発言が出ているようですから、選挙前のリップサービスに終わることなく政策の継続性ということを期待したいところです。
しかしこの村重政策官の話、よくよく読んでみますと「あれれ…?」な話でもあるようで(苦笑)、面白いのでかなりテーマから脱線気味かつ少しばかり長いのですが引用させていただきます。

新型インフル エビデンスないからこそオープンに議論を(2009年8月27日ロハス・メディカル)

新型インフル エビデンスないからこそオープンに議論を

村重直子・厚生労働省大臣政策室政策官インタビュー
(聞き手・川口恭)

――新型インフルエンザワクチンに関して、26日に舛添要一厚生労働大臣が予防接種法と感染症法の改正を口にしました

 日本の制度が不備なまま放置されていたのが、今回のワクチン輸入交渉の過程で明らかになってきました。そこを通常の手続きを踏んで直しては間に合わないところを大臣が決断してくださったと思います。このような政治決断は、官僚にはできません。

――不備と言いますと。

 最も大きなものは、ワクチンを製造するメーカーにとって日本で販売するのは、他の国で販売するのに比べてリスクが大きすぎるということです。そこが今回の輸入に関しても最大の課題でした。副作用が起きた際、故意でなければメーカーの責任は問う必要がなく、公的に補償するという国が多い中で、日本の場合はメーカーが裁判で訴えられて青天井の賠償を請求される可能性があります。

――メーカーの責任を問わない方が世界的には普通なんですか。

 専門的には無過失補償と言うのですが、誰に責任があるのかを問題にするのではなく、被害が出たら公的に救済される仕組みがあって、その救済を受けたらそれ以上の賠償を請求する権利は失われるのとセットになっているのが欧米では多いようです。その背景には、ワクチンが個人的な利害だけではなく、社会全体の利益のために接種するものという認識が一般に浸透しているので、被害が出たとしても、関係者に不当に責任を負わせることはできないし、それは社会全体のために犠牲になった人は社会全体で支えるのが当然という考え方があります。

 たとえば米国の場合、88年からそういう運用になっています。ワクチンの無過失補償には2種類あって、片方は普段の医療における被害を救済するものです。補償金の原資はワクチン1本あたり75セント上乗せされています。補償金を受け取ると裁判はできません。もう片方は、「公衆衛生上の危機」という定義なんですが、バイオテロなんかを想定したものです。炭そ菌とか新型インフルエンザとかが対象になっています。それに関しては、裁判に訴える道は最初からなくて、無過失補償一本です。まだ財源はないんですが、補償はするので1年以内に申請しなさいということは決まっています。実際に事が起きた後で、国会で議論するのだと思います。今回の新型インフルエンザであるH1N1に関しては、6月15日に後者の指定に追加されています。

 フランスの場合はワクチンにとどまらず、02年に医療全体への無過失補償が導入されています。それ以前はワクチンと輸血によるエイズだけは国が補償する仕組みでしたが、普通は、補償を受けるには患者側が訴訟をするしかなくて、訴訟では公立病院とプライベートの病院で額が違うとか南北格差があるとかだったようです。患者団体が補償を受ける権利をちゃんとしろと働きかけて制度ができたそうです。医療事故の場合は受け付ける身体障害の程度に下限があるようですが、ワクチンや公衆衛生上の危機に関することはわずかな障害でも補償されます。補償金を受け取る際には裁判をしないという契約書にサインする必要があります。

――日本の場合はどうなっているんですか。

 日本ではワクチンの副作用に対する救済策は、予防接種法の法定接種に対するものと任意接種に対するものと2通りに分かれ、法定接種の中でも努力義務の課されている1類と課されていない2類という2つの分類があります。金額はそれぞれですが、共通しているのは救済を受けた後に訴訟もできるということです。特に任意接種に対する救済は一般の医薬品副作用の救済と同じようにPMDA(独立行政法人・医薬品医療機器総合機構)が担っていますが、その給付の原資はメーカーの拠出金なので、メーカーからすると二重に負担を強いられることになり、他の国と比べて突出してリスクが高いことになってしまいます。

 この構造が、ドラッグラグ、ワクチンラグの原因の一つになっていることは紛れもない事実です。また、医療を国の成長産業として育てようという場合にも、間違いなくネックになっています。

――なぜ、他国と異なる状況が放置されてきたのですか。

 役人は、歴史上、薬害で国が訴えられたら必ず負けると思っているので、副作用と救済の問題は恐ろしくて議論すらできなかったということだと思います。19日の記者会見で、大臣がワクチンだってゼロリスクではないと言ってくださって、ようやくオープンに議論しましょうという土俵に乗ったところです。

――ワクチンにだってリスクはあるんだという認識が共有されれば、他国と同じような制度をつくれますか。

 そんなに簡単な話ではないと思います。ワクチン被害救済について議論するにはワクチンの副作用リスクと、病気で死ぬリスクとを天秤にかけて、その上で被害に遭ったらいくら払うかというのもオープンに国民が議論を尽くして決める必要があります。しかし今回に関しては、副作用リスクも、病気で死ぬリスクも未知です。参考にできるものとして、過去の季節性インフルではどうだったかとか、過去の新型ワクチンの副作用はどうだったかというデータを眺めながら手探りで進んでいくしかないのです。

 しかし、このように未知のものに対して判断を下すということを日本人は忌避してきたと思います。科学的根拠なんかないんですから、理念に立ち返って、最終的にはどれかひとつに決め打ちするしかありません。過去には米国でも、インフルエンザに対する新型ワクチンによる薬害が発生して、CDCの長官が更迭される出来事までありました。しかし、その経験を踏まえて先ほど説明したような無過失補償制度が成立しているわけです。未知のものに触れた際に、国民が喧々諤々の議論を重ねて、失敗からも学びながら少しずつ進歩してきたのだと思います。

――官僚らしからぬ発言のような気もしますが、その認識は省内に共有されていますか。

 とんでもない。ワクチンの被害救済に関しても私の調べた範囲のことは担当課に教えてあげたのに、とても嫌がって、技官はそれ以上は調べようとしませんでした。後で法令事務官に話したときは、関心を持っていただけたようですが。

――担当課に教えた。どういう立場なんですか?

 私の今の担当職は昨年3月にできたものです。大臣に直属して、ラインの仕事からは離れ、少し長い視点から厚生労働行政に必要なことを調べ、省内外から幅広く情報を集めて、必要なことがあれば担当課と相談するというものです。ラインの官僚が忙しすぎるのは事実なので、こういう立場の人間も必要だと思います。

――この問題に関心を持ったのは、いつからで、なぜですか。

 ワクチンメーカーとの交渉がどうなっているかは全然知りませんでした。7月ごろから、大勢にワクチン打つならば絶対に副作用が出るだろう、下手をすると薬害になるかもしれないということを考え、でも世界中どこの国でも同じ状況のはずだから、他の国ではどうしているんだろうかと疑問に思ったのです。

 8月も、この問題をずっと調べていた感じでしょうか。ただ先ほども言いましたように、調べたものを元に、担当課の医系技官や薬系技官にきちんと調べた方がよいとアドバイスしても、やっつけ仕事しかしてこないんです。ちょっと訳して、大臣に「日本とは状況が違う」とちょっとだけレクチャーしてお終いでした。サイトのURLまで教えたのに、見向きもされませんでした。部外からアドバイスされること、外国の事情を調べなさいと言われるのを、ものすごく嫌がります。おそらく忙しいのと英語が読めないのと重要性がわからないのと、理由は色々だと思います。技官の存在意義って何なんだろうと悲しくなります。

――そう言う村重先生も医系技官ですよね。

私は日米での臨床を経てから入省したので、ちょっと毛色が変わっていると思います。多くの医系技官が、大卒後すぐ、または見学程度の研修後に厚生労働省に就職し終身雇用を前提に2年毎に部署をローテーションするという人事制度なので、どの分野に関しても素人で、そのうえ法律のことも分からない、憲法感覚すらないから平気で人権侵害の政策を立案する、そういう状態になってしまっています。誰でもこのような人事制度に組み込まれたらそうなってしまうので、彼らもかわいそうなのです。

――ケチョンケチョンですね。

 こんな集団が、国の公衆衛生をリードしている、リードしているとも言えない状態ですが、これでは国民が非常に不幸だと思います。

 新型インフルエンザ対策にしても、何のためにやっているのか誰も分かってないんです。健康局長が省内の対策会議で「この対策で感染ピークを抑制することに何の意味があるのか」と尋ねた時に、その場に居合わせた20人ぐらいが誰も答えられませんでした。

 各国のインフルエンザ行動計画を眺めてみると、結構いい加減なものもあるのですけれど、米国だけはこれでもかというぐらいたくさんあります。その中の集大成的なCDCのものを見ると、対策の目的は、①医療機関を守る。予測されるピーク時には、医療ニーズが、医療機関の物的・人的資源を大きく上回ると明記されていますが、それでも、患者が押し寄せて重症患者に対応できないケースを少しでも減らすために少しでも患者ピークを抑制する。そのために学校閉鎖とか渡航自粛もするんだと書いてあります。次に②ワクチンが出てくるまでの時間を稼ぐ。ダイレクトに死亡リスクを下げられる可能性がある、最も有効なものはワクチンなので、それができるまで時間稼ぎとして対策をする、と書いてあります。もう一つ③死亡者数、感染者数を抑制するというのも書いてありますが、ただ3番目に関してはエビデンスがない話なので、彼らも掲げないわけにいかないという立場にあるのだろうと思います。

 いずれにしても、国民の命を守るという目的が明確だから多少の経済損失があったとしても、行政が介入するということに対して国民の合意が得られるんだと思います。翻って日本の厚生労働省は一体何をしているのでしょうか。結果が使い物にならない調査の命令や朝令暮改の通知を乱発して医療機関を疲弊させて、患者さんを受け入れる能力を落としているのですから、本末転倒としか言いようがありません。要は、何のために経済損失を出してまで対策をやっているのかという所が全く整理されていない。この国の公衆衛生を担っているはずの医系技官は勉強不足で、この期に及んで未だに何のために対策をしているのか分かっていない。国民として心底恐ろしいと思います。

――先生は何を目的に対策すべきと思いますか。

 国民の判断を仰ぐということです。今回は、判断の根拠となるエビデンスがほとんどありません。ですから、最後は理念優先とか、専門家による政治的判断にならざるを得ないのです。途中の議論経過やデータを説明せずに結論だけ示して、これに従えと言っても国民は絶対に納得しないと思います。何が分かっていて何が分からないのか、季節性インフルエンザや過去の事例におけるエビデンスを示し、どういう可能性があるのか、議論を全部つまびらかにするしかないと思います。分からないことは分からないし、今後も状況次第で変わりうるということまで含めて全部公開して、そのうえで議論して決めるしかないと思います。

――国民にそれだけの素地がありますか。

 あると思います。不確実であっても判断の材料となるエビデンスを医系技官があまり公開せず、報道もされていないのが問題です。もっと数字や事実を挙げながら、幅広く議論する必要があります。それに、「お上頼み」の発想から抜けない限り、道も開けません。

 これは医師を始めとする医療者に対しても言えることです。国に何とかしてくれというばかりで、それを疑問に思わない人もいます。薬剤師も看護師も同じです。そもそも日本での西洋医療が、明治政府が漢方医を排斥し蘭法医だけを医師として認めたところから始まっているので、お上に与えられた資格という意識が抜けないのかもしれません。もっと自律する必要があると思います。

 話が脱線気味ですが、この機会に言っておくと、お上に与えられた制度から自律しようという動きがあまりなかったから、医系技官が診療報酬を抑制して補助金を増やすという構造になってしまったんです。補助金なんて、そのうちいくらが患者のために使われたのかデータは一切出てきてません。執行率が低いものも多く、現場の医師たちは「補助金なんて使えない」ことをよく知っています。利権ができて医系技官が天下りするだけです。同じ金額を診療報酬に入れれば100%患者のもとへ届くのに、このデータを明らかにしたら国民はどう思うでしょう。

――その問題は、ロハス・メディカル誌でも最近取り扱いましたが、話が深いところまで来ましたね。

 新型インフルエンザに襲われたことは災難ですが、いずれ日本人が直面しなければならなかった問題と向き合う時が来たのだと覚悟を決めるしかないと思います。

 この覚悟が、すべての問題につながっています。たとえば、ドラッグラグを解消するには世界同時治験に参加することが必要です。でも、そうすると世界のどこにもデータがない段階から治験に参加することになるので、日本人は今までより大きなリスクを引き受けなければならなくなります。一時が万事そういう話で、覚悟はありますか、万が一に備えた受け皿を作っていますかという話をしなければならないのです。たとえ被害を受ける人の数が少なくても、それを見捨てるのではなく国民全体で支えるんだという意識が共有されない限り、いつまで経っても世界から遅れたままになります。

いやあ、以前からあちこちで言われてきたような話も散見されて、なかなか面白い指摘がてんこ盛りじゃないかと思うところですが、いいんですかね(苦笑)。
村重氏の場合どうも以前から色々と憤慨されることも多かったようで、折からのインフルエンザ問題もあって疲れてらっしゃるんでしょうかね。
まあどこの組織であっても内と外との間にはそれなりに線引きが存在するものですから、こういう異色の経歴をお持ちだということはそれだけでやりにくいところも多々あろうかと想像は出来るところですけれどもね。

厚労省の医系技官と言えば臨床経験もない医系とは名ばかりのプロ医系技官も多いわけですが、これは臨床経験豊富な医療現場の人材を拒否している厚労省のシステムにも大いに問題があるとは以前から指摘されているところです。
考えてみれば医療という高度の専門性を要求される分野において、現場の専門家の声が医療政策を決める側に届かないまま素人が話を進める状況になっているわけですから、これは国民にとって大いなる不利益ともなりかねない事態だという危機感をもっと早くに誰かが指摘していてもいいはずですよね。
政権の行方がどうなるのかは判りませんが、民主党は以前から医療重視、官僚制度改革なんてことを言っていますし、自民党ならまたぞろ舛添さんの留任でしょうからさすがに経験値は高まっているはずで、どちらに転んでも今よりはマシになるんじゃないかと期待はされるところです。
このあたりのシステムは是非とも早急に改善を図っていただきたいところだと思いますが、改革が成功するにしろ失敗するにしろせっかくですから過程も全てオープンにして議論をしていただきたいと思いますね。

|

« 周産期医療の現状は医療崩壊の縮図か? | トップページ | 今日のぐり「お好み焼き月ちゃん」 »

心と体」カテゴリの記事

コメント

管理人様

いつも勉強になります。 
(仮に)民主党政権になったとして、官主導型の政治から
政府主導型に移行することがあると思います。
この件に関して興味深いのは官僚の責任問題です。
状況はご存じと思いますが、今までの新型インフルエンザ対策の官僚の責任として上田健康局長を民主党政権がどう扱うかが
ポイントと思います。政府主導型の政治の国民・医療関係者にわかりやすいパフォーマンスとして上田健康局長の解任・更迭もありうるのではと推測します。
裏読みして、逆に厚生労働省側から考えれば7月の人事で新型インフルエンザ関係者が多数移動しましたから上田健康局長がそのまま留任された理由として上田健康局長の解任・更迭で初期の新型インフルエンザ対策の責任は手打ちにする可能性もあるとも思いました。

投稿: 京都の小児科医 | 2009年8月29日 (土) 12時12分

7月の人事で新型インフルエンザ関係者が多数移動しましたから

7月の人事で新型インフルエンザ関係者が多数移動(責任問題から逃し・逃げ)しましたから
という妄想です。
もちろん、通常の人事異動ですが。。。。

投稿: 京都の小児科医 | 2009年8月29日 (土) 12時22分

ただ民主も素人ですから、いきなり官僚と全面対決するリスクも避けたがるのではないかとも思うのですが…
誰がやっても大変な時期ですが、厚労相はミスター年金氏あたりになるんでしょうかね?

投稿: 管理人nobu | 2009年8月31日 (月) 12時42分

管理人様

>ただ民主も素人ですから、いきなり官僚と全面対決するリスクも避けたがるのではないかとも思うのですが…
誰がやっても大変な時期ですが、厚労相はミスター年金氏あたりになるんでしょうかね?

はいそうも思いますが、ただ、事務次官会議を廃止とか出てますのでhttp://www.asahi.com/politics/update/0726/TKY200907260260.html
そこまでするのなら、何でもありかなとも思います

まあ、新型インフルエンザ騒動は来年の春までですから
その後、何事もなく上田健康局長の人事交代があるかもしれません。

投稿: 京都の小児科医 | 2009年8月31日 (月) 18時06分

まあ、こういう意見もあります。

国民無視の上田健康局長
http://www.kimuramoriyo.com/25-swine_influenza/ueda.html

投稿: 京都の小児科医 | 2009年8月31日 (月) 20時36分

四年間解散無しなんていっていたので、最初の一年くらいは経験値稼ぎに走るかと思っていたんですが、いきなり対決モードで来るとは少し意表をつかれました。
しかしあの「輸入に反対する専門家が」云々、確かに違和感のあるセリフだったんですが、具体的に誰がどのように言ったか明らかにして欲しいと思います。

投稿: 管理人nobu | 2009年9月 1日 (火) 14時45分

コメントを書く



(ウェブ上には掲載しません)




トラックバック

この記事のトラックバックURL:
http://app.cocolog-nifty.com/t/trackback/519753/46057881

この記事へのトラックバック一覧です: 流行のみならず情報も絶讚拡大中の新型インフルエンザ:

« 周産期医療の現状は医療崩壊の縮図か? | トップページ | 今日のぐり「お好み焼き月ちゃん」 »