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2009年7月22日 (水)

介護は安上がりな医療ではない

昨日は医療費が史上最高記録を更新したという話題がありましたが、記事中にもありました通り高齢化というのは医療費増大を招く一つの大きな要因です。
若い人と高齢者では当然病気になりやすさも回復力も違いますし、多くの慢性疾患というのは一度治療を始めたら生涯にわたって治療を続けるというものが多いわけですから当然の話なのですが、高齢化が進んでくるということは特に介護絡みの話が今後ますます重要になってくるということでもあるわけです。
そのことにも関連して先日こういう記事が出ていまして、お読みになった方もいらっしゃるかと思いますがここで紹介しておきましょう。

療養病床、削減進まず 医療機関の動き鈍く(2009年7月16日日本経済新聞) 

 厚生労働省が医療費の抑制に向けて進めている「療養病床」の削減が難航している。2006年度の約35万床から12年度末に22万床まで減らす計画を掲げるが、今年になっても約33万床程度で高止まりしている。入院者の受け皿づくりや利用促進策を打ち出してきたものの、医療機関や患者の動きは全般に鈍い。医療費がかさみ続けるとともに、将来行き場をなくす高齢者が急増する懸念も生じている。

 療養病床は本来、長期療養が必要な患者が入院するために使う。ただ高齢者などが介護施設の代わりに利用し続ける「社会的入院」の温床になっているとの指摘が出ている。療養病床には医療保険が使えるものと、介護保険を利用できるものがあるが、厚労省は介護保険の適用型を11年度末までに全廃する計画。医療保険が使える療養病床も減らし、高齢者を体調に見合った施設に移動させることで、医療費を約1200億円削減できると見込んでいる。医師や看護師などが本来の仕事に専念しやすくなるともみていた。

いやあ、当の厚労省ですら当初の18万床までへの削減計画を緩和したという療養病床削減計画を今もこうまで熱心に追求していただけるとは、同省担当者も日経新聞の熱心さには頭が上がらないのではないでしょうか。
日経と言えば先頃は日経ビジネスにおいて「もう節約はしない 骨太09が示す「海図なき財政再建」」なる記事を掲載し、「この不況下に社会保障費に出費とはけしからん!医療にはまだまだ削れるコストがある!」と根拠も示さず断言されていらっしゃったようですが、最近与党も野党も医療費削減見直しなどと言い出しかねない状況で焦りでもあるんですかね?
いずれにしても二階に上がった途端にハシゴを外されるのが判りきってる状況で誰も率先して登るような馬鹿はいませんから、厚労省の計画遅延など過去の同省の行為の結果であり当たり前とも取れる話ではあるわけですが、そうこうしているうちに今度は同省トップの舛添大臣がこんなことを言いだしていたりします。

医療と介護、一体化し推進…調整会議設置へ(2009年7月17日読売新聞)

 舛添厚生労働相は17日、医療と介護を担う省内の医政、老健、保険3局の施策を横断的に調整するための「医療・介護改革調整会議」を新設すると発表した。

 24日に設置する予定で、次官が議長を務め、3局の局長らが参加する。会議で横断的な施策を打ち出すことで、高齢者へのサービスの充実や医療・介護従事者の連携強化を目指す考えで、将来的には医療と介護の保険制度の一体化も検討する。

っておい!わざわざ医療から分けて出したものをまたまとめますって、それは過去の政策に失敗して多額の国費と現場の労力を無駄遣いしましたってことじゃないんでしょうか?
舛添大臣もどうせ任期は残り僅かな状況ですし、現下の情勢から政権交代ともなればこんな話もあっという間に全部やり直しとなる可能性も高かろうとも思いますが、幾ら何でもこういうことを言い出すくらいなら何故こういう話になってしまったのかきちんと総括くらいしておくのが先なんじゃないでしょうかね?
舛添大臣もしかし色々と口では賑やかなことを言っていましたが、けっきょくのところ任期の中で何かしら実のある成果を挙げ得たかというとどうなんでしょうかねえ…

ところで介護と言えば同時期にこんな記事も出ていましたが、ご覧になりましたでしょうか。

「介護不要」の新規認定が倍増 新基準認定で(2009年7月13日産経新聞)

 要介護認定の新規申請者のうち、介護が不要として「非該当」(自立)と判定された人が、今年4~5月時点で5・0%と、前年同時期の2・4%に比べ倍増したことが13日、厚生労働省の調査で分かった。

 最も軽い「要支援1」でも前年比4・0ポイント増の23・0%だった。4月から導入された介護認定の新基準の影響とみられる。

 調査は全国1492市区町村のデータを集計した。

いささか話が脱線しますが、ど田舎とも言われるような地方に行きますと要介護認定に関わるのは域内に一つきりの公立病院ということが結構あって、そういうところでは申請する医者も認定審査する医者も同僚同士で、席を替わりながらお互いの患者を認定するという状況にあります。
ある意味で公平に出来ているのかなと思うのは、そういうところでは認定する側が地域社会の要介護者皆の顔と状態を知っているわけですから、どんな認定基準になろうが「より重症な人ほどより重い介護度に」という大原則は守られやすいように思いますね。
そうなりますと何が個々の患者の介護度認定を左右するかと言えば、トータルで見てどれくらいの財政負担に自治体が耐えられるのかという点に帰するわけで、そうしますと基準が変わっても最終的に介護度を決める要素になるのはやはり財政力なのかなという印象も持っています。

それはともかく、もともと介護保険初期には先行きの不透明感から「少し重めに認定しておくべき」という話があちこちでささやかれていましたから、ある程度状況が固まってきたところで適正な辺りに落ち着いてくる時期ではあるのでしょう。
認定の現場ではまず必要とする介護サービス先にありきでそれに応じて認定の申請を出してくるわけですから、今後は当初介護不要だった人々の中から要介護状態に落ち込んでくる人たちをどれだけ迅速に拾い上げるかといったあたりにポイントが移っていくのかなとも思えます。

さて、この件とも関連して面白いなと思うのはこちらロハス・メディカルの記事なんですが、長いものですのでまず冒頭部分だけ引用させていただきます。

要介護度同じでも、サービス受給量はバラバラ(2009年7月19日ロハス・メディカル)

 同じ要介護度の利用者でも、介護サービスを限度額いっぱい受けている人からほとんど受けていない人までが、階段状に存在している。なぜこのようなばらつきがあるのだろうか。今年4月に新しく見直された要介護認定について検証する有識者会議で、興味深い資料が厚労省から示された。(熊田梨恵)

 7月13日に開かれた「要介護認定の見直しに係る検証・検討会」(座長=田中滋・慶大教授)で、今年4月に新しく見直された要介護認定の方法について、現状の調査結果が報告された。1492自治体が4-5月に実施した約23万6000人分の要介護認定について、「非該当」と判定された人が5%で、前年同期の2.4%から倍増したことなどが示されたほか、事業者団体や専門職団体からヒアリングを実施。調査やヒアリングの間に議論が挟まれ、その中で下のグラフについて意見交換があった。会合の本筋からは少し離れているが、今後の要介護認定の方法の見直しや介護報酬改定にも絡む興味深い話だったので紹介したい。

 利用者が訪問介護などの居宅サービスを受けた量が、黒い棒グラフの部分で示されている。例えば要介護2を見ると、ほとんど受けていない人から支給限度額(表の「支給限度基準額(単位数)」を参照)いっぱいまで受けている人が階段状に存在していることが分かる。同じ要介護度で居宅サービスを受けていながらも、利用者によって受けているサービスの量はばらばらということだ。
 これについて意見交換された発言趣旨を紹介する。
(略)

この後に続く議論というのが実は結構興味深いところも多々あるのですが、リンク先のグラフなども参照にしていただきながら試みに幾つか抜き出してみましょう。

[池田省三委員(龍谷大教授)]
このグラフは大事なことを意味していて、要介護1以上は階段の踊り場が全くない、まとまりが全く見られないということ。要支援1、2は、ある程度まとまりが見られるが、これはサービスが包括払いになっているから。要介護1-5はみんな同じ形をしていて、使っている金額がゼロ円から支給限度額まで均等に分布している。要介護度というのは介護の手間がかかる程度で判定されている。要介護3なら3で標準的にどれぐらいのサービスが必要かということでまとまるはず。この白い部分について、「提供されいていない部分は家族がやっている」という話があって、私はそれを信じていないのだが、筒井(孝子)委員(国立保健医療課科学院福祉サービス部福祉マネジメント室室長)の方で克明な調査があって、家族の介護量とサービス利用量の間には全く相関関係がないということが知られている。要介護3、4、5のこの白い部分はネグレクトの可能性が強いとも考えられる。考えてみれば、人間は1日3回ご飯を食べなくても生きていける。おむつを随時取り換えなくても、2、3回取り換えていれば済むかもしれない。そんな状況が横行しているんじゃないかという、ここに危機感を持たなければいけないと思う。

[木村隆次委員(日本介護支援専門員協会、日本薬剤師会常務理事)]
要介護1-5の斜め線の階段は、自己負担の問題が大きいと思う。その平成12年度辺りは標準サービスケアプランのようなものが示され、要介護1の人だったら週何回、これぐらい、というようなパッケージ的に示された時期。今は、要介護1でも家族構成にしても何にしても状態が様々。その中でこういう風に契約で利用者と家族とケアマネが話し合って、こういうふうになっていくのは包括払いでない限りは、階段になるのは当たり前だと私は思う。必要なサービスが入っていないことについては検証すべき。自己負担が大きいと思う。

[池田委員]
自己負担の問題について。介護保険が始まってたくさんの自治体が利用者へのアンケート調査をした。200ぐらいの自治体を全部調べて集計したが、1割自己負担に抵抗感が高い方は2割いた。それで次に1割自己負担があるから支給限度額をめいっぱいつかわないという方は8%ぐらい。1割自己負担が払えないからサービスを減らしているとか、サービスを使っていないというのはわずか3%。したがって自己負担の問題はあるのは間違いないが、割合で言えば小さい問題。なんでこんなに使わないかというと、もっとほかに考えていく必要がある。包括払いにしなければ当たり前とおっしゃったがそうではない。データでも実証できるが、すべての保険者で国保連のデータを見てみると、自治体によって明らかに違う。(略)これを事業者ごとに見れる仕組みをつくってもらい、見てみるともっとはっきりする。明らかにまとまりを示している事業者がある一方、要介護4、5が3より利用量が少ないというのもざらに見られる。これは要するにケアマネジメント、ケアプランの作成が標準化されていないことなどに原因がある。

[三上裕司委員(日本医師会常任理事)]
池田委員の言う認定の恣意性、ばらつきについてお願いしたいのだが、要介護認定と福祉業者のサービスと介護報酬がばらついているということは利用者にとって良いようにばらつかされた、恣意的に変えられた、重度変更された、という風に理解していいか。

[池田委員]
平成15年にぽんと要介護度が上がっているが、これは認定システムがちょうど変わって、認知症の自立度が比較的認定に関して重くなるようになっている。すごく異常な上がり方をしている。(略)どうして起きるかと言うと、一番考えられるのは、直営で調査員がやっているところはあまりないと思う。データで調べてはいないのだが。ただ、施設でケアマネが訪問調査等をやっていると、非常にやりやすいことがあって、そうだと断定するつもりはないが、検証する必要がある。

ばらつきが少なければ少ないほどいいというのは賛成。ただ、今回のデータは経過措置適用後のものなので、次に出てくるデータによってくると思う。もう一つは、要介護認定審査会の人たちが、利用者のことを考えて大きな変化を避けるために現状のサービス利用に合わせた形にしたという可能性があるので、今回のばらつきの大きさがどうなのかというのはもう少し時間をかけてみる必要がある。

まあデータの解釈にはいろいろと諸説ありそうなところではあるのですが、こうした議論を見ていてどうも厚労省を始め中央の方々は介護認定についても「世の保険病名は医療の実態を表しておらずケシカラン!」式の考え方をしているのではないかという危惧が拭えないところです。
介護認定と受ける介護行為に相関があってしかるべきという考え方ももちろんあっていいと思いますが、現場で介護を受けている患者や家族を初めとする関係者にとっては必要な介護を受けられるかどうかが問題なのであって、「正しい」介護度認定が行われているかが問題なのではないはずですよね。
正しいことを追求する意味があるのであれば幾らでも追求すれば良いと思いますが、まずは現場の状況をしっかり見据えながらの議論というものが重要で、その意味ではせっかくネグレクト云々という話が出ているわけですから、そういう実データをきちんと出してくる事の方が先決でしょう。
特に未だに患者の目から見てブラックボックスの多い医療と違って、介護と言うものは利用者側の目線が極めてサービス提供者側と近いだけに、評価の基準もまた厳しくなってくるということを念頭に置いての政策決定というものが求められるように思いますね。

しかし、こうした話題も選挙絡みのゴタゴタの中で有耶無耶に消えていってしまうことになるんでしょうか(苦笑)。

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コメント

http://www.nira.or.jp/president/interview/entry/n090108_292.html
>厚生労働省でも介護は老健局、医療は保険局と分かれていますので
>介護保険と医療保険のレセプトを接続して分析を行い施策を行うと
>いうことがないのが現状です

おいおい

投稿: | 2009年7月22日 (水) 13時06分

わざわざのご紹介ありがとうございます。
ちょうどこのあたりも早めに取り上げようかと思っていたところです。

投稿: 管理人nobu | 2009年7月23日 (木) 09時22分

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