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2009年7月 7日 (火)

非常識って、自慢できるようなことじゃないですよね

先頃舛添厚労相がこんなことを言ったと報道され、新聞等で目にされた方も多いのではないでしょうか。

「労働法、守られないのは日本だけ」舛添厚労相が嘆き節(2009年7月2日朝日新聞)

 舛添厚生労働相は2日、政策要望に訪れた連合の内藤純朗副会長らとの会談で、「日本では労働法が順守されていない」と嘆いた。労働法が守られているか監視するのは労働基準監督署を抱える厚労省の重要な仕事だが、「連合の大きな目標として、労働法を国民に意識させて」と逆注文する場面もあった。

 舛添氏は労働法の現状について、「スピード違反は捕まるからみんな順守する。労働はもっと大事なのに、労働基準法も(労働者)派遣法も、みんな目をつぶっている部分が相当ある」と述べた。

 労働法軽視の背景には旧労働省の力不足があったとした上で、「最大官庁の厚労省になり、前みたいに弱くなくなった」と自賛。労働法の定着に向け、連合にも組織率の向上などの努力を呼びかけた。

 会談で連合側は、09年度補正予算に盛り込まれた職業訓練中の生活費給付制度の恒久化や、最低賃金の引き上げなどを求めた。(江渕崇)

いや嘆き節って、あのですね、労基法を守らせるのが所轄官庁であるあなた達の大事な仕事であって、「僕たちこんなに仕事さぼってま~す」なんて自慢げに公言してしまっていいようなものじゃないんですけど(苦笑)。
厚労省のトップたる御方にこういう他人事の態度を取られると、それは現場の当事者達も「あ、そんなもんなんだ。なんだ適当にやっとこう」とみんな目をつぶっている部分が相当出てくるのもやむなきところかなとも感じられるのは気のせいでしょうか?
厚労省というところは以前からデータ捏造で「医者の労働時間なんて大したことないですよ」なんてことを言ってみたり、「院内拘束時間は勤務時間ではないんです」などと省の通達と異なる見解を大臣が答弁してみたりと、かねて含むところでもあるのかとも思えるようなことをやってきた役所という印象があるのですが、この機会に多少なりとも本業に精出すようになってもらいたいものです。

しかしながらもちろん、21世紀にも入って仮にも文明国において法律すら無視するというような暴挙がまかり通って良いはずがないわけであって、お上が頼りにならないのであれば現場の方から改善を図っていくしかありません。
例えば最近とみに政治力発揮が著しいとも噂される看護系団体も歩調を合わせるかのようにこんなことを言っているようです。

労働関連法順守へ適切な指導を―日看協(2009年7月3日CBニュース)

 日本看護協会は7月2日、看護職の労働環境の改善のため、医療機関などが労働関連法令を順守するよう適切な指導を行うことを求める要望書を厚生労働省に提出した。

 要望書は、同協会が昨年に実施した「時間外勤務、夜勤・交代制勤務等緊急実態調査」で、交代制で夜勤に従事する23人に1人が月60時間を超える時間外勤務をしていることや、未払い残業など労働基準法違反が強く疑われる実態が明らかになったと強調。
 その上で、保健・医療・福祉分野の従事者の労働時間管理の適正化は、これらの従事者の確保・定着だけでなく、「国民に安全で質の高いサービスを提供するためにも不可欠」として、保健医療関係事業所での労働基準法順守の徹底について実効力のある指導・監督の推進を求めた

 具体的には、▽保健・医療・福祉関係事業所への調査に基づく適切な指導・監督の推進▽労働基準監督署による改善指導の対象となった事業所への改善状況の確認など、実効ある指導▽都道府県労働局や各労働基準監督署と、管内の保健医療事業主、経営者団体、看護協会などの専門職能団体が連携した、関係法令の順守や実態改善に向けた説明会・研修会などの開催▽労働時間管理の改善事例・好事例の収集と提供―を求めている。

業界団体としてはこういう自業界の利益のために動いてナンボですから、当然のこととして強力に権利擁護を主張していかなければならないはずなのですが、以前から書いてきましたように「労働基準法?何それ食べられるの?」状態の医者稼業においては対照的に何とも面白い現象が見られています。
天は自ら助くる者を助くなんて言葉がありますが、全医連の言うところの「医療現場での違法な労働環境が長年放置されている事は、 世間一般に報じられないことはもとより、 医療界内部ですら問題として取り上げられてきませんでした」という不思議な現象が慣例化していたわけですね。

例えば以前にも取り上げました産科医・田村正明氏は、新聞記事中でこんなことを言っています。

 このころ、僕らに労働時間のアンケートがありました。労働時間超過を疑われたためです。改めて考えると、自分がすごい長時間、病院にいることに気づきました。でも、僕らはそれが普通のことだと思っていました。僕は途中まで記入したのですが、はたと思いました。このアンケートを真剣に記入して提出したら産科が立ち行かなくなると。ちょうど他科でも労働時間が問題になっていて、労基署による家宅捜索がありました。結局、僕らはアンケートを提出しませんでした。

あるいはせっかく「医師の過酷な労働環境!これが医療崩壊の原因だ!」なんて報道があっても、当事者である医師や医師団体にコメントを取りに行くと「しかし労基法を守っていたら医療は立ちゆかなくなるんですよ」なんてことを公然と口にしてしまう。
要するに医師の労働環境を改善するための最大の抵抗勢力こそが当の医師達であるという、何とも摩訶不思議な構図が成立してしまっているわけです。
労働者として何かそれっておかしいんじゃないの?という感覚を持っていないこと自体がおかしいわけですが、まずこのあたりの世間の常識から解離した感覚を是正していかないと、いつまでたっても「医者の常識は世間の非常識」なんて揶揄されることになってしまうのではないでしょうかね。

最近はようやくネットなどでの情報交換を通じて多少なりとも意識改革が進み始めている印象ですが、まだまだ国民として当然知っていなければならないことを知らない人間が多すぎるというデータが現実にあるわけなんですね。

消化器外科医、7割が労基法規定知らず(2009年7月 5日ロハス・メディカル)

多くの勤務医が労働基準法違反の時間外勤務や当直勤務を強いられていると問題になっているが、当の勤務医たちは法律の規定を知らないのかもしれない--。そんな実態が消化器外科学会が会員を対象に行ったアンケート調査から浮かび上がった。(川口恭)

 このアンケート調査は、7月16日から開かれる第64回日本消化器外科学会定期学術総会に合わせて、消化器外科医の労働環境を把握する目的で実施された。年齢層や性別を考慮して会員の0.5%にあたる1100人を抽出して無記名式での協力を依頼、うち471人が回答したという。回答者が勤務する先は、一般病院52%、大学病院39%、診療所6%。

 労働基準法に定められた「宿日直」は、現在の医療機関の当直業務とはだいぶ異なる。またその回数は、宿直は週1回まで、日直は月1回までとされており、そうしたものを含めた時間外労働の時間は週15時間以内、月45時間以内、年360時間以内と定められている。

 しかしアンケートによれば、これらの規定を回答者の69%が知らなかった。その裏返しとでも言うべきか、21%が明らかに法律違反となる月に5回以上の当直に従事していると答えた。また当直の翌日は、手術を含む通常勤務を行っているとの回答が94%を占めた。週の労働時間が80時間を超えているとの回答も29%あった。

 それだけ長時間いったい何をしているのかに関しても興味深いデータが出ている。消化器外科医の本来業務ではない「がんの化学療法」「緩和ケア」「救急」に8割以上が従事しており、「麻酔」を担当しているという回答も3割弱あった。麻酔に関しては担当している消化器外科医の93%が、「担当したくない」と答えたという。(略)

社会生活を送る上で当然知っておかなければならないことを知らないこと自体が罪とも言うべきことであって、「知らなかったから法律を守ってませんでした」 は法治国家においては通用しないという当たり前のことを、医者ももう一度再認識しておいた方がいいのではないでしょうか。
今どき自らが世間離れしていることを自慢できるような時代ではありませんし、そんな非常識ぶりでは「患者の心が判らない医者」などと非難されてしまうことにもなりかねないということです。
まずは余り前に向けての意識改革から行っていくなら、お金も何も必要ないわけですしね。

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コメント

医者を労働基準法内で働かせたらあと5万人くらいよけいに必要なのですがw
将来、救急医療などでは交替制勤務になるでしょうけど15年先でしょうかねw

投稿: 元外科医 | 2009年7月 8日 (水) 10時10分

仰る通り、現状の業務量を処理するという前提を元にしている限りでは明らかに人手が足りないという結論にしかならないでしょうね。
医療に対する需要は年々増す一方ですから、いっそ国民皆医師制度なんてものも検討すべきかも知れません(笑)。

投稿: 管理人nobu | 2009年7月 8日 (水) 10時54分

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