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2009年7月21日 (火)

世の中あちこちで嘘や騙しが横行している時代ですが

いよいよ衆院解散で総選挙と言う話になってきたようですが、今回の選挙では医療問題も国政における一つの争点になってくるという説があります。
医療問題の難しいところは問答無用の正解というのは恐らく存在せず、何を医療制度の目標とするかによって全く答えが変わってくるところにあるんじゃないかと思っているのですが、どうもこの肝心な設問設定の部分をいい加減に流している議論ばかりが横行しているように見えるのは気になるところですかね。
そんな中で先日こんな記事があちこちのメディアに載っていまして、目にされた方も多いんじゃないかと思います。

医療費34兆1千億円 08年度、過去最高を更新(2009年7月17日47ニュース)

 医療費の動向を迅速に把握する概算医療費について厚生労働省は17日、2008年度は34兆1千億円で、過去最高だったと発表した。07年度より約6千億円(1・9%)増えた。概算医療費は03年度から6年連続で増加し、過去最高を更新し続けている。

 高齢化や医療技術の高度化によって、医療費は毎年3~4%程度の自然増が見込まれている。08年度の診療報酬改定で0・82%のマイナスとなったことなどを考慮すると「医療費の伸び率は、おおむね従来と同程度の水準」(厚労省)という。

 70歳以上の医療費は14兆8千億円で全体の4割を超えた。1人当たりの医療費は、70歳以上では07年度より千円減の75万7千円で、全体では5千円増の26万7千円となった。

 入院も含めた受診延べ日数は減少傾向にあり、07年度に比べ1・3%減となったが、厚労省は「病院に行く回数が減っても、1日当たりに使う医療費が増えているため、全体の医療費も増加した」としている。

 概算医療費は、社会保険診療報酬支払基金と国民健康保険団体連合会が診療報酬明細書(レセプト)を審査した医療費を集計したもの。医療費全体を示す国民医療費の98%程度とされる。

医療に対する要求水準が年々厳しくなっていることは、頻発する医療訴訟において「極めて稀であるとはいえ、○○を見落としたことは医師の過失である」式の判決が相次いでいる一事をもってしても容易に理解できることではないかと思います。
このあたりを極論してしまうと、以前ならばある水準以下のリスクに対してはないものとして扱い、何千何万に一人たまたまそれに当たってしまった人に対しては「運がなかったのだ」で納得できていたところを、いやそれは許されないと言う風に社会の目線が変わってきていると言うことですよね。
当然そうしたマイナーな疾患というものは普通の一般的検査ではそうそう引っかかって来ませんから、それらをわざわざ引っかけようとすればするほど検査や処置にも無駄撃ちが多くなるのは当然で、それは医療費も高騰しようと言うものでしょう。

一昔前には研修医相手に半分以上は教訓話のつもりで、ちょっとした風邪だと思っても心筋炎から造血系腫瘍まであらゆる疾患を疑っていくべきだなんてことを言う指導医も少なからずいたでしょうが、今の研修医なら真面目に「それではどんな検査を組んだらよろしいでしょうか?」なんてメモ帳片手に尋ねかねないような時代になってきたということです。
もちろんそうしたやり方によって確かに昔は見逃されていた病気も見つかっているのかも知れませんが、果たしてそれが医療の進歩ということなのかと言えば微妙なところですし、社会的に本来あるべき医療の姿なのかと言えば更に疑問なところではありますよね。

ただしこの場合に現場医療従事者が言うところの疑問とは医学的方面から呈されるところの「何かそれって正しい医療とは違うんじゃない?」という疑問であって、最近経済畑の人々が盛んに喧伝するところの医療の構造的歪み云々といった話とは全く別問題であるということにも留意しておかなければ、現場の危機感を(意図的に?)誤解され利用される可能性なしとしないところです。
また逆に見るならば、医療業界は異業種の人々が口にするところの「医療ってここがおかしい」という指摘に対していたずらに医療の特殊性を主張したり感情的反発をするのではなく、世間並みの水準に遠い部分は早急に改めるという姿勢を示すこともまた重要であると思うのですが、例えばその一例としてこういう声を取り上げてみましょう。

医療保険制度の崩壊は「救える方法がない」(2009年7月17日CBニュース)

 医業経営コンサルタントグループのMMPG(メディカル・マネジメント・プランニング・グループ、東京都中央区)は7月17日、第115回定例研修会を開いた。この中で、読売新聞東京本社の南砂編集委員は、「医療崩壊」について医療提供体制と医療保険制度の2つの崩壊を挙げ、医療保険制度の崩壊は「当面救える方法がない」との危機感を示した。

 初めに、済生会横浜市東部病院の正木義博院長補佐が「新設急性期病院収支改善事例~ベテラン事務長が語るこれからの急性期病院の経営ノウハウ~」と題して講演した。
 正木氏は医療界の現状について、金融不況などによる経済の落ち込みなどによって「外部環境が荒れている」と指摘。また、医療機関は「ちょっと診療報酬が削減されれば、すぐ赤字になってしまう体質だ」として、これに耐え得る強い組織をつくっていくことが必要と述べた。

 その上で、正木氏は病院改革のポイントとして、「病院のミッションやビジョンを確認すること」「チーム医療、チーム組織体制を整備すること」「マネジメントを充実させること」などを挙げた。
 この中で、マネジメントについては、「職員が入ってきて、50、60歳の時にどういうポストに就いて、どういうことができているか、どういう人間に育てたいかという人材のマネジメントすらない」と指摘。「一番、病院に抜けている」と強調した。
 また、病院改革の第一歩として、ビジョンをしっかりと立てる必要性を強調。「小さい改善を繰り返しても(方向を)見失う」などとして、「大きなビジョンを立てて、それと現状とのギャップを数年かけながらそれに近づけていくことが大事」とした。
(略)

 最後に、南氏は「マスコミからみた医療政策の行方」と題して講演した。
 南氏は、医療をめぐる新聞報道などの現状について、1980年代ごろと比較すると「量も大幅に増え、質も踏み込んだものが多くなっている」として、「医療がマスメディアの報道の対象となり、国民の意識が医療に向いてきた」と述べた。

 また、80、90年代の医療について報じるマスコミの姿勢として、「医療対患者」の対立構造で書き、最終的に「医療が悪い」という結論になっていたと指摘。さらに、メディアが弱い立場にいる国民側に付く性格があるとした上で、「医療提供側の論理を正しく伝えているつもりではあったが、医療提供者の非常に苦しい部分が伝えられていない部分が多々あった」と振り返った。
 南氏は、小泉純一郎首相(当時)の「聖域なき構造改革」で医療・介護分野もその対象となって初めて、医師不足や勤務医の過重労働の問題など、医療提供側の問題点が浮かび上がったと指摘。その後はインターネットの普及などにより、「洪水になるほどの情報に国民が右往左往している。そういう中にさまざまな改革の負の部分が出てきて、医療をコントロールしてしまっているのが現実」とした。

 また、南氏は「医療崩壊」という言葉について、一般的に考えられているのは「医療提供体制の崩壊」とした上で、「病院の医師がいなくなる、医療を受けようと思うところに病院がなくなるなどということを『崩壊』と呼んでいるようだが、これはある意味、医療提供体制がそれでよかったのかという議論が必要」と述べた。また、「どのくらいの人口規模のところに、このくらいの病院が必要だからつくるということが、最初から行われてこなかった」と問題点を指摘し、「本当はそこに病院が必要かという議論をしないといけない」と強調した。
 さらに、南氏は「医療保険制度の崩壊」を取り上げ、「医療提供体制の崩壊」よりもはるかに深刻だと指摘。医療提供体制については「年月をかけ、きちんと投入すべきところにお金をかければ救える」としながらも、医療保険制度の崩壊は「当面救える方法がない」と危機感を示した。

ちなみにこのMMPGと言う団体ですが、「医療機関の経営の安定化、近代化に資するとともに行政の施策遂行の円滑 化に寄与することにより、わが国医療界の健全な発展に貢献することを理念として」設立された医療経営コンサルタントグループ、なんだそうですが、会員リストを拝見しますと確かに税理士・会計士事務所がずらずらと並んでいますね。
ちなみに前半部分で語っている済生会の正木義博氏の略歴はこちらの通りですが、早大商学部卒業以降一貫して金属・製鉄業界に所属した後、平成7年より唐突に畑違いの済生会で事務長に就任したというなかなか興味深い経歴をお持ちの方のようです。

ところで病院にもよるのでしょうが、一般に済生会病院と言えば業界内では「とにかく多忙で安月給」「医者は徹底的に使い潰す」病院としてそれなりに名の知れているところですが、むしろ内部では安月給を誇りに思っているような節もあったようで、何にしろ世界トップ水準のコストパフォーマンスを誇ってきた日本の医療を支えてきた団体の一つとは言えるかと思います。
その済生会の事務系トップが語るところの「ちょっと診療報酬が削減されれば、すぐ赤字になってしまう体質」が病院経営の問題であるとか、人材のマネジメントがないのが「一番、病院に抜けている」ことであるとかいった指摘はなかなか耳を傾けるべき点があるように思いますね。
他業界からこうした人材を入れているというのは済生会が自己改革をしなければと決意を固めたからなのかどうかも興味があるところですが、異業種参入からかれこれ十数年を経て同氏がどれだけ改革の成果を挙げてきたのか、記事からは今ひとつ判りにくいのは残念なところです。

後段で登場する読売新聞の南砂氏も非常にユニークな経歴をお持ちの方で、日本医科大医学部卒業後数年間の精神医学のキャリアを経て30歳過ぎで同新聞社に入社、以後は医療問題などを中心とした解説などを担当してきたと言うことですから、言ってみれば読売新聞医療報道におけるブレイン格といってもよいかも知れません。
まさに問題の80年代より医療報道に携わった同氏による「内情暴露」にはそれなりに興味深いものがあるところではありますが、「医療提供側の論理を正しく伝えているつもりではあった」という下りには、さすが精神医学界という「別な医療の世界」で修練を積まれてきた同氏なりの微妙なロジックが垣間見えるようで面白いですね。
基本的に自社の従来の主張から大きく離れていないかなと言う内容と取ったのですが、医療体制の崩壊と保健医療の崩壊とをきちんと分けて論じている点に関してはそれなりに見るべきものがあるのではないでしょうか。

医療体制というものの維持に関しても一般的な企業活動と同じところがあって、その業界で食っていける余地があるのであればそれなりに人は集まるでしょうし、どうやっても食っていけないようになれば誰が何と言おうが人は去っていくものだと思います。
従来はその「食っていける余地」の範囲が保険診療という枠内であることを大前提とした議論ばかりが幅をきかせてきたところがありましたが、この分野の医療は保険診療の枠内ではどうやっても無理だと言う状況が拡大してくるようであれば、医療体制自体は別な形で残ったとしても保険診療内での医療は壊滅してしまうということもあり得るでしょう。
例えば交通事故による受傷というものは従来から健康保険の枠外として扱われてきていますが、事故外傷だけを専門に扱う非保険診療の救急医療施設なんてのも地域によっては成立し得るわけですよね。
保険診療上は救急医療が報われないという状況が今後も続くのだとすれば、いずれ多発外傷などを受け入れる施設として残るのはそうした保険外救急施設だけとなってしまう可能性もないことはないとも思います。

いずれにしてもこういう状況になってきますと行政の役割というものが非常に大事であって、単に「私が市長になりましたら医者を呼びます!新しい病院を作ります!」なんて連呼しているだけでは何の意味もないわけです。
公的に確保できそうな医療資源にはどんなものがあるのかということを正確にアナウンスしていくのと同等以上に、これは確保できませんよという部分がどこなのかということを住民に伝えていくことも行政の仕事として非常に重要なことだと思うのですが、どうも従来その一番肝心なところが抜けていたように思われるのは自分だけでしょうか?
その意味で注目すべきかなと思われる記事を一つ紹介しておきましょう。

医師不足を住民に説明 東近江市、蒲生・能登川病院めぐり /滋賀(2009年7月19日京都新聞)

 滋賀県東近江市は18日夜、医師不足に苦しむ蒲生、能登川病院の現状を伝える住民説明会を、同市市子川原町のあかね文化ホールで開いた。住民からは「医師が働きたいと思う環境を作るべきだ」などの意見が出された。

 病院再編の議論をする「市地域医療体制検討会」が27日に開かれるのを前に実施。地元住民ら約300人が集まった。

 森島章地域医療次長が、両病院の常勤医が6年前の27人から14人に激減し、整形外科で入院受け入れが難しい現状を説明。「市の医療体制について検討が必要」と訴えた。
 住民からも「絶対に蒲生病院をつぶさないで」などの要望があり、市側は「何としても、地域医療を守るつもりでやっていく」と回答した。

田舎では「オレが医者を呼んだ」というのが選挙での大きなポイントになるだけに、今まで失点につながるネガティブな部分についてはあまり公に語られることも少なかったわけですが、今後はきちんとそうした部分についても行政の責任で住民説明をやってもらわなければならないでしょうね。
何にしろようやくこうして行政が市民に向けて語り始めたのは非常に注目すべきところかなと思いますし、現場の実情無視の空手形を勝手に切られて反故にするよりは出来ないことは出来ないときっちり説明された方が住民にとってもよほどマシな話ではないかと思うのですけれどもね。
今度は国政レベルでの選択というものが行われるわけですが、医療に限らず現場の実情を知っていれば到底あり得ないような好き放題の「マニフェスト」を書き 連ねるような詐欺師紛いの行為は断固許さないと、国民はしっかり厳しい目で見守っていく必要があるのではないでしょうか。

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