« いつも期待を裏切らない人たち | トップページ | 久しぶりの新型インフルエンザ »

2009年7月24日 (金)

大丈夫なのか?と心配になる話

本日の話題とは全然関係ない話ですが、以前に紹介させていただきました記事でZAKZAKにコメントを寄せていた御高名なる元国立医療センター医師・黒木誠氏のお名前が、いつの間にやら当該記事中から削除されていたんですね。
せっかく内視鏡関連手技コメント専門家として全国に名を売られたのに、これは黒木先生にとっては非常に惜しいことをされてしまいましたね。

専門家も否定する…肛門と性器を間違える“ミス” (削除前)

専門家も否定する…肛門と性器を間違える“ミス” (削除後)

さて本日は、先日ご紹介いただきました話からまずは軽く引用させていただきます。

以前にも当ブログで御登場いただきました医療経済学者である井伊雅子氏(一橋大学国際・公共政策大学院教授)と民間シンクタンクの伊藤元重氏(NIRA理事長)の対談なんですが、主に厚労省ら省庁により医療統計の収集と公開の問題ということについての内容となっています。
井伊氏も冒頭で「医療全般の問題に関して、データに基づいた議論がしっかりされていない」との問題提起を行い、その一例として「介護は老健局、医療は保険局と、分かれていますので、介護保険と医療保険のレセブトを接続して分析し、施策を行うということがない」といった指摘を指摘を行う一方、省庁が関連するデータ開示に消極的であることを批判しています。

医療問題:議論の基礎にデータを(2009年1月8日NIRA対談シリーズNo.41)より抜粋

井伊 (略)例えば、国民医療費というのは、経済財政諮問会議や税制調査会のようなところでの議論に際しても、きわめて重要なデータですよね。国民医療費が、10年後、20 年後には何兆円になっていて、そのためには消費税を何% にしなければいけないとか、 そういう議論をする一番基礎となるデータが国民医療費の推計なのです。ところが、国民医療費の推計について非常に問題が多いと思う。厚生労働省の統計情報部が推計しているのですが、この推計値は、推計方法の詳細が公開されていません。SNA(System of National Accounts/国民経済計算)に準拠した形で、OECDが2000年から導入している方式では、医療だけではなく、福祉であるとか、予防的なものも含めて推計されていてグローバルスタンダードとして国際比較に使われています。 一方、 日本の国民医療費の推計には問題が多いと統計委員会で指摘しました。 議事録も残るところだし、 ここは学会ではないのだから、前もって問い合わせてくれれば、それに対して答えもする、そういうこともなしに問題を指摘するのはいかがなものでしょうかと言われました
(略)
伊藤 (略)お話を伺っていて、これは大変重要な問題だと思うのです。 先ほどのお話に戻りますが、 NIRA が統計に関する研究を行って、統計改革への提言―『専門知と経験知の共有化』を目指して」を報告書として出した時も、間接的なかたちで役所などからもいろいろな批判の声が聞こえてくる。「 学者なんかに情報を提供するために統計制度があるのではない」という意見があったりする。

井伊 そういう言い方をされますね。

伊藤 悪い意味での官僚・政府中心主義がある。結局、こういう制度の非常に重要なところは、どこからでも外から見ることができて、そのことによって、様々な専門家にサポートしてもらっているような仕組みでないといけない。それが情報公開の仕組みの本質的に重要なところだと思います。そのときに、特に専門性がある分野ですと、一人のジャーナリスト、新聞記者が何か情報をつかんでみても、この病院で何か問題が起こったとか、そういうことは明らかに出来るけれど、医療問題としてトータルに分析できるのは研究者しかいないわけです。データ処理や統計分析の手法が格段に進んでいることから、こうした情報公開による多くの専門家の参加が可能となっています。

井伊 そうです。医療統計で具体的にいえば、例えば国民医療費を推計するときには、社会医療診療行為別調査がベースになっているのですが、これは5月の診療実績分に限定されています。サンプルもランダムサンプルではなく、大病院に偏っていて診療所が少ないとか、政府管掌健保と国保のレセプトが主で組合健保は少ないなどの実状があり、それぞれのウェートがどれくらいなのかよくわからない。こうした問題点は、研究者が議論に加わって、明らかに出来ることだと思うのです。
また、「5月」というのは医療費が安定しているから、と言われているのですが、すべてのレセプトを電子化して、それを通年で積み上げたものにすればより正確な医療費が入手できるのです。5月の医療費をもとに推計しました、といっても、その推定方法も、初期値もわからない。アルゴリズムもはっきりしません。研究仲間と話していてもわからないことばかりです。私の理解が足りないからなのかと思っていたら、東京大学とか東京医科歯科大学で医療統計を専門に研究している医師たちと話してもそうなのです。詳細に公開されてない数字をもとに消費税であるとか、重要な様々な議論していいのかなと思います

伊藤 恐ろしいですね。
(略)
井伊 (略)先日も京都府庁で話を聞いて驚いたのですが、医療費適正化計画が始まり、各都道府県に計画を立てるようにと言いながら、二次医療圏レベルで診療科別、年齢別の医師の分布を京都府に関して知りたいと思っても都道府県庁レベルでは簡単に手に入らないというのです。有病率、つまり、どんな病気にかかわっているかということもわからないと言っていました。それと、病院を移ってしまうと、そこでデータが切れてしまうので、心筋梗塞の1年以内の死亡率さえわからない。医療政策をつくるために、地方自治体、都道府県レベルで持っているデータは多いのですが、日本では公的皆保険で誰もが保険に入っているといっても、国保と健保と政府管掌健保とをまとめて管轄しているところがないのです。ですから、京都府が計画を立てるときに、基本的なデータの入手が難しいということです。厚生労働省に照会すればあるのかもしれないのですが、変な話ですよね、もともと京都府にあったものを、それぞれが厚生労働省に持っていってまた照会するというのは。
(略)
伊藤 世の中の流行語をあまり使いたくないのですが、結局、医療だけではなくて、あらゆる統計制度に言えることだと思うのですが、ある種の「ガラパゴス化」が起こっている。医療のデータ、あるものはあるのでしょうが、昔ながらの人が昔ながらの仕組み、昔ながらの形で守ってしまっている。世の中は今、情報処理のテクニック、統計の手法、実際の計算するコンピューターの能力はものすごく上がっていて、それをうまく利用すれば、非常に大きな可能性があるのだけれども、「 ガラパゴス化」しているところが、大きな制度的なネックになっているということですね。

伊藤 ところで、2008年レベルで日本の総保険医療支出の推計は約 40兆円と言われていますよね。

井伊 介護とか予防などを含めての数値ですが。

伊藤 それがGDPの8%で、先進国の中で非常に少ないといわれています。ですから、どう考えても医療費を増やさなければいけない。将来的には増税や、あるいは他の保険の充実という話につながっていて、それは現場を見ていても何となく正しそうな感じはします。ただ、そういう数字の出所が非常に怪しいというか、よくわからない数字が一人歩きしているような気がして仕方ないのです。

井伊 財政的に問題なのは、公的な保険でカバーされる部分ですね。私的に出す分であれば、経済を活性化させるというか、レストラン産業とか娯楽産業と変わらないわけです。そういう部分を分けて考えないといけないと思います。

伊藤 長い目で見ると、公的にカバーする部分と私的に支出される部分とをどのように分けていくのか、その配分をどうするかということが、政策的判断ですが、そういう議論はあまりないのですか。

井伊 議論はあるのですが、コストに関するデータがないのです。統計委員会でもよく指摘されることですが、医療だけなぜ特別なのか。需要面では「患者調査」があり、供給面では「医療施設調査」があります。では、コスト面では何かというと、「医療経済実態調査」、これは中医協(中央社会保険医療協議会)に提出するための、病院や診療所、保険薬局における経営状態を把握する調査です。サンプル施設数が少なく、経営主体が自治体病院に偏っています。診療所に対する調査は少ないようです。また、会計準則はありますが、大学病院をはじめ、この準則に即した情報が集められていません。都立病院はグループ全体の財務のみ報告されていると思います。「 医療経済実態調査」は医療のコスト面を把握するには必須の調査ですから、サンプル数を増やすことが必要です。例えば、保険医療機関であれば全数調査にするべきですし、できれば、医療法の下で経営をしている医療機関に関しては全数調査にすれば、保険外の医療費も把握できます。行政記録で一番問題になるのは税務データを使えるかどうかということになると思うのですが。

伊藤 これがなかなかまた、別の問題を引き起こしそうですけれども。医療のコストがどれだけかかっているかということは、医療政策を考えるのに一番基礎的なことなのだけれども、その情報そのものが、統計的に見るとよくわからないものが一人歩きしている、これは恐ろしい話ですよね。しかし、非常にうがった見方をすれば、役人の方々には防衛本能のようなものがあって、不用なデータを外へ出すと何を言われるかわからないという思いがある。ガラパゴス島のイグアナという動物は、ガラパゴスの中ではそれなりの適応をしているけれども、本当に今の世の中に役に立つか。問題はかなりコアにありますよね。これをしっかりクリアしておかないと、本当の意味での国民が信頼できる医療の議論はできませんね。

井伊 統計情報部の方も本当に気の毒だとは思うのです。予算は驚くほど少ないですし、厚生労働省の統計情報部というのは、労働関係の統計があり、厚生関係の統計もある。厚生関係の統計にもいろいろあります。レセプトデータを活用すれば「患者調査」は今よりずっと効率的に調査できると思うのですが、そうすると「患者調査」用の予算が削られてしまうかもしれません。それどころか統計情報部として予算を減らされたら大変だとか、そういう問題もあると思うのです。私はそうした政治的なことはわからないので理想論を申し上げるのですが、消費者庁や観光庁が簡単にできるなら、ぜひ統計庁をつくってもらいたい。農水省農政局は統計関係が多くを占めています。農水省の人が、地方分権の議論の中で、農政局が廃止されて地方に移譲されると、農業統計はボロボロになってしまうと言うのです。でも、ボロボロというなら、医療もボロボロだし、予算を付けたらしっかりした統計を作成してくれるわけでもないでしょう。確かに統計の場合は権限を地方に移せばよいというものではありません。国家統計としてどのように統計を整備していくかという視点が必要で、各省庁を横断した統計庁がないことには、根本的な解決にはならないと思うのです。

井伊氏は予算の制約もあるしと比較的厚労省に同情的な話もしているようなのですが、どうも実際の話を聞いてみると必ずしも同情してばかりもいられないような状況にもあるようなのですね。
その一端をまずはこちら、例によってロハス・メディカルの記事から引用してみましょう。

「なぜ必要な調査項目実施しないか」「予算の制約上です」―厚労省の慢性期医療調査に相次ぐ指摘(2009年7月22日ロハス・メディカル)

  2010年度診療報酬改定に向けて厚生労働省が実施した慢性期入院医療に関する実態調査。しかしその内容は、本来なら同時期のデータとなるべき部分は揃っておらず、必要な調査項目は予算不足で実施できなかったという。このようなことで医療機関にとって正しい評価につながる診療報酬改定のための議論ができるのだろうか。(熊田梨恵)

  7月8日の中医協の「慢性期入院医療の包括評価調査分科会」(分科会長=池上直己・慶大教授)には、昨年度に厚労省が実施した「慢性期入院医療の包括評価に関する調査」の、「コスト調査」と「レセプト調査」の結果が報告された。6月11日に開かれた前回会合では、「施設特性調査」と「患者特性調査」結果が示されており、分科会として議論するために必要な調査が出揃ったことになる。分科会はこの調査結果をもとに議論し、結果を上部組織である中医協基本問題小委員会に提出する。慢性期医療の政策に関する基本的な方向性はそこで決められる。この調査は今後の慢性期医療の方向性や医療機関経営を左右する重要なデータだ。

 しかし、分科会に諮らずに事務局判断で実施されたこの調査については、委員から内容に関する不満や、データの不備についての指摘が毎回相次いでいる。

■5月27日第一回分科会-「慢性期医療への『質の評価』導入と、足並み揃わぬ中医協」

■6月11日第二回分科会-「報酬改定議論に必要な調査項目が足りない-中医協慢性期包括評価分科会」

 今回も椎名正樹委員(健康保険組合連合会理事)からの指摘に対して、事務局の歯切れの悪い返答が続いた
(略) 

これ以降に載っている事務局と椎名委員とのやり取りがまたなかなかにケッサクで是非ともリンク先の元記事をご一読いただきたいのですが、このやり取りを見るだけでもいい加減な公衆衛生のでっち上げレポートを出してきたダメ学生と口頭試問する指導教官のような趣が感じられて素敵ですよね(苦笑)。
ここまでの素晴らしいレベルを見せつけられてしまいますと、誰かこいつらにまともな統計データの取り方も教えてやる奴はいなかったのかよとも感じられるところなんですが、実態は更に斜め上という状況だったようです。

報酬改定議論に必要な調査項目が足りない-中医協慢性期包括評価分科会(2009年6月19日ロハス・メディカル)

  2010年度診療報酬改定で慢性期医療の評価に関して議論する中央社会保険医療協議会(中医協)の「慢性期入院医療の包括評価調査分科会」(分科会長=池上直巳・慶大医学部教授)。改定の議論の大元となる調査について、事務局は分科会に諮らずに独自の判断で実施したが、次期改定の主要項目である「医療の質の評価」に関する項目が不十分だった。分科会として報告をまとねばならない時期が目前に迫るためやり直しもできないが、委員からの指摘を受けた事務局は「追加調査の必要があれば、ご指示あれば検討します」と逃げ口上。調査の位置付けに疑問を呈した委員に対しては「ご議論できないということでございましょうか」と開き直った。(熊田梨恵)

 中医協の下部組織になるこの分科会は、国が06年度診療報酬改定で導入した、患者の疾患や状態によって診療報酬に差をつける「医療区分」や「ADL区分」をつくった組織だ。2008年度診療報酬改定の前には、区分の妥当性などを検証するための「2006年度慢性期入院医療の包括評価に関する調査」を実施し、2007年夏頃にまとめた報告書の内容は、医療区分の評価項目の見直しや療養病棟入院基本料の評価の引き下げなどに反映されている。

 今年度のこの分科会の主要テーマは、前回の報告書で検討課題として残されていた、慢性期包括医療への医療の質の評価の導入になる。このため、前回と同様に調査を実施するならば、その議論に必要な調査項目を揃える必要がある。事務局となる保険局医療課は「議論に必要なデータになるから」という認識の下、独自の判断で調査を実施していた。しかし、前回改定で見直された項目に関する調査は抜けているなど、内容は不十分。椎名正樹委員(健康保険組合連合会理事から指摘を受けた事務局は、他の団体が医療の質評価に関して「関係機関等でされていると聞いていた」と逃げ口上で、「追加調査が必要という指示があれば検討する」との返答にとどまった。 
 一方で、前回の議論を受けて、事務局が独自の判断で実施した今回の調査の位置付けについて疑問を呈した大塚宣夫委員(医療法人社団慶成会青梅慶友病院理事長)に対しては、「ご議論できないということでございましょうか」と開き直った。

 委員と事務局のやり取りを紹介する。
(略)

これもリンク先の元記事で事務局の珍答弁(?)をご一読していただけるとお分かりになるかと思うのですが、要するに分科会にも諮らず事務局が自己判断でデータを出してきたがそれがあまりにいい加減な内容で全く使えない、こりゃいったい何のつもりでやってんだと追求されると言い訳にもならないことしか口に出来ない。
こういう行き当たりばったりなことに勝手に好き放題金を使っておいて、こんなんじゃ話にならない、もっとまともなデータを出せと言われればいや予算がありませんからと開き直る、そういうのは予算が足りないんじゃなくて予算の無駄遣いというんですよ世間では。
それなりにいい歳をしてこんな学生レベルのことをやっているようではどうなのよという話なんですが、それがそれなりの国民の血税を使っての作業であり、しかもこんなものを下敷きに国民の健康を左右するような議論をやれと言うのですから、よほど神経が太いのか頭のネジが斜め上方向に飛んでいるのかと思えるような話ですよね。

目一杯追い込まれた仕事をしたことのある人なら誰しも身に覚えがあると思いますが、人間ある程度以上忙しくなってきますと自分では死ぬ気で働いているつもりでも回りの目から見ると意味不明の空回りばかりして周囲に迷惑のかけ通し、けっきょくいない方がまだマシということになってしまいがちなものです。
官僚などという商売もそれなりに忙しいでしょうし、こうした統計の仕事もそれなりの知識と経験がなければ手間取るわりに良いものに仕上がらないものですが、実際には大卒直後のろくに経験もない下っ端が上司から「あれやっといて」と丸投げされ四苦八苦しているんだろうなという事情は想像できるところです。
それでも言ってみれば国の行く末をも決めるような話の元ネタとしてこういう仕事しか出て来ない体制になっているということであれば、それは一部スタッフの未熟などという話にとどまらず省庁の内部システムという構造的な問題であって、当然今後も同様の事態が続くだろうと考えてみればこれは大変な話になってきますよね。

折からの衆議院選挙でも相変わらず官僚改革なんて話が俎上に登っているようですが、ひと頃世界に誇るべきなどとも言われた事がある日本の官僚システムの足許がこうまで頼りないものになっているという現実を直視しないまま、目につきやすいトップの人事などをいくらかいじって見たところで何一つ問題は解決しそうにない気がするのですけれどもね。
そういえば戦前には今の中央省庁官僚同様に知的エリート層のゴールとも目されていた高級軍人などというものもまた、明治、大正を過ぎて昭和の頃にはこんな感じで現実的問題解決に何ら対処できない人々ばかりだったようですけれども…

|

« いつも期待を裏切らない人たち | トップページ | 久しぶりの新型インフルエンザ »

心と体」カテゴリの記事

コメント

コメントを書く



(ウェブ上には掲載しません)




トラックバック

この記事のトラックバックURL:
http://app.cocolog-nifty.com/t/trackback/519753/45726063

この記事へのトラックバック一覧です: 大丈夫なのか?と心配になる話:

« いつも期待を裏切らない人たち | トップページ | 久しぶりの新型インフルエンザ »