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2009年7月14日 (火)

医者って、医者であるというだけでけっこう損してますか?(社会的に)

世の中医学部人気は相変わらずなんだそうで、医者といえば食いっぱぐれることのない安全パイ、勝ち組商売の一つなんて認識が結構一般的なのかなとも思わされるところです。
もちろん需給不均衡のおかげで(?)当分仕事のネタに困ることはないだろうという意味ではずいぶんとカタい仕事とも言えるのでしょうが、その一方で世の中こうまで「報われていない」と不満を募らせている医者達が満ちあふれているのはどうしたことなんでしょうか?

まあ確かに「さっさと医者を全国津々浦々に強制配置するようにさせなければ!」なんて主張する某新聞あたりが世界最大の発行部数を誇る日本のオピニオンリーダーとも目されているくらいですから、それは我々の権利は不当に抑圧されていると主張する不逞な医者(笑)が出てくるのもやむなしといったところでしょうか。
そうは言っても人として労働者として他の人々と同様の権利が認められるべきなのは医者においても当然のことなのであって、逆に言えば医者だからこれくらい当然だ、黙って我慢しろなどという話は今の人権尊重の時代にあっては通用しないということは言うまでもないことですし、医者の側も主張すべきは主張する義務があるわけです。

その意味で世の中を眺めてみますと先日はこんな記事が出ていましたが、皆さん気を止められましたでしょうか。

滋賀医大病院 医師193人超過勤務 労基署是正勧告、改善されず(2009年7月11日付読売新聞社会面)

滋賀医大付属病院(大津市)が、勤務医約190人に月60時間以上の超過勤務をさせたとして、大津労働基準監督署から昨年末に是正勧告を受けたにもかかわらず、状況を改めず、7月上旬に再び改善を指導されていたことがわかった。
全国的な医師不足が言われる中、大学は「患者が第一の業務なので、ただ労働時間を減らすというのは、すぐには難しい」としている。
同大学などによると、昨年10月末に同労基署の調査があり、常勤医師193人について、労使交渉で定めた勤務時間を超えている実態などが確認されたとして、同労基署が同年12月上旬に是正勧告を行なった。
その後、同労基署は改善状況を確かめるため、7月上旬に再び調査を実施。超過勤務が続いていたほか、医師の宿直日数が基準の月4回を超えていることなどを挙げて、「改善がみられない」と指摘したという。
病院関係者は「医師の増員が追いつかず、労働環境は厳しくなるばかり」と訴える。大学は勤務実態を詳しく調べ、医師らの声も聞いて、改善を図る方針。

昨今では労基署もようやく医療現場の違法行為に対してツッコミを入れるようになったらしく、近年相次いでこの種の記事が出てくるようになりましたが、滋賀医大の場合はいささか状況がよろしくありません。
こちら「滋賀医大超勤未払い問題報道一覧」なるものをご覧いただいても判るとおり、既に2005年から労基署に是正勧告を出されているにも関わらず全く改善を行っておらず、このたび再度の是正勧告を受けながら「すぐには難しい」などと開き直っているというのですから悪質と言うしかありませんね。

滋賀医大というところは2004年から独法化されているのですが、どうもこの頃から労使間のトラブルが頻発していて、大学側は「超勤は45時間まで!」と言い、職員側は「それ以上働いてるんだから給料払えよ!」と反論し、これに大学側が「超勤命令簿に書いてないんだから払わないよ~ん」と言い返すといった塩梅で、何やら子供の言い合いじみた様相も呈しているようです。
もっとも2005年当時は赤旗の記事などの雰囲気を見ても判るとおり、訴えた教職員ら469人の内訳として看護師が354人、事務局が90人と言いますから、ハハンこれは独法化で民間並みに給与を改定された方々が「給料下がったぞ!どうしてくれる!」と大騒ぎしたんだなと察しがつくところではありました。
これに対して今回の記事はわざわざ「勤務医」「常勤医師」と名指しされている訳ですが、背後を読み解いてみますと看護師、事務局らの待遇改善のツケが医師らに回ってきたということなんだろうなと想像できますね。

しかしこうして見ますと、いかに独法化しようがやはり大学病院は大学病院の体質そのままなのだなとの思いを新たにするところで、こういう施設が地域の病院からかき集めた多数の医師を抱え込んで、患者さまの車椅子押しや薬・フィルムの運搬に日夜無給で医師達をフル活用しているわけですから、それは確かに日本全国どこにいっても医師不足にもなるだろうとは感じられるところですよね。
看護師、事務局らに対してはちゃんと改善出来たと言うことであれば、同じ労働者として医師らにも当然に同様の待遇改善を要求する権利はあるはずですから、それが出来ないということであれば法的ないし社会的に相応の制裁というものを受け入れていただくというのも当たり前の社会のルールというものですよね。
滋賀医大にしてもそれなりに経営は厳しいでしょうから、いっそ赤字削減などと思い悩む必要もなくなるくらいの大胆な決断をこの際ですから一つやらかしてみていただくのがよろしいのかも知れませんね。

さて、滋賀医大に限らず医師不足問題というものは実際に厳しいものがありますが、こちら宮崎でも妙なことで有名になったこんな記事がありましたことはご記憶かと思います。
いちおうデリケートな話題ですので当該の方の名前は仮名に改めさせていただいて引用してみましょう。

学生流出 歯止めに力(2009年04月02日朝日新聞)

 昨春、宮崎大学医学部を卒業した○○さん(26)は熊本市の済生会熊本病院で研修中だ。
 社会に貢献したい、との思いから医師を志した。出身地の熊本大学医学部を志望したが、「(入試が)ちょっと難しかった」
 宮大側からは、宮崎に残るよう暗に促されたという。それでも、卒業後の研修先は「医療設備などが充実している環境で働きたかった」と、宮崎を離れた。
 医学部卒業後の研修先を自由に選べるようになったのは、新しい臨床研修制度が始まった04年。以前は、卒業した大学の医局で研修を積むのがセオリーだった。
 大学卒業後も同じ都道府県にとどまる医師は、全国平均49・1%(08年度の文部科学省調べ)に対し、宮崎は20~25%。全国で最も低い。出身地の大学病院に行ったり、都市部の施設を選んだりした結果だ。
 ○○さんは今、整形外科を担当。1日2~3回は交通事故や労働災害による外傷や骨折治療の手術に立ち会い、最先端の技術を学ぶ。「ここを選んで良かった。宮大は医師免許取得の合宿所といったところ」と話した。
 宮大は、医師不足が深刻な県立延岡病院にも医師を派遣している。しかし、その宮大からも医師の卵たちは流出。結局、医局そのものの医師が足りず、派遣先から引き揚げざるを得なくなる。

黙って記事を一読してみますと、なんだか今風と言いますか、えらく軽い人がいるんだなあという印象を受ける記事ではないでしょうか?
新卒の意識なんて実際のところそんなものと言えばそんなものというのも一面の事実ではあるのでしょうが、逆にそうした裏をしっていない一般の読者ほど「なんだこいつは!こんな輩に数千万の税金がつぎ込まれているのか!けしからん!」なんてまたぞろ妙な勘違いを招きかねないところではありますよね。
実際に当時ネット上では「なんかお馬鹿っぽい研修医がいるぞ」と妙に話題になったこの記事なんですが、実は2週間ほどたってひっそりとこんなお詫びの記事なるものが掲載されています。

おわび 「医師不足の現場から 下」(2009年04月14日朝日新聞)

 2日付の連載「医師不足の現場から 下」の記事には事実誤認があるなど、取材、紙面化の過程に問題があったことが分かりました。研修医の○○さんに関する記述については削除します。○○さんや宮崎大学などの関係者の方々にご迷惑をおかけしたことをおわびします。宮崎総局は、報道にかかわる人権侵害を救済するための朝日新聞社の第三者機関「報道と人権委員会」(PRC)にこの問題の解決を求めて、申し立てを行うことにしました。結果については、後日、紙面でご報告します。

当時はいくらなんでもあの内容では宮大関係者あたりからクレームでもついたのかと軽く流していた話ですが、実は御本人が以下の如くこの件について「捏造記事である」とはっきり明言されているのですね。

朝日新聞記事について(某所掲示板)より転載

 ご無沙汰しております。14の○○です。
 先日、朝日新聞宮崎総局から私が勤務する済生会熊本病院へ【宮大出身研修医の研修ぶりについて】取材したいとの申し入れがあり、病院として取材を受けましたところ、取材内容と全く異なる記事を一度の確認もなく掲載されてしまいました。また実名・写真についても承諾なく無断で掲載されております。取材時に、掲載前の内容確認と、その内容によって実名や写真の掲載を私個人と済生会熊本病院が判断することを約束していましたが、全く連絡はありませんでした
 即日、宮崎大学と済生会熊本病院から朝日へ抗議したところ、社内調査が行われ、取材時の記者の取材メモと全く異なる記事であることが全面的に認められました。朝日新聞西部本社の報道センター長や広報室長等から直接謝罪を受け、宮大医学部の教授陣にも記事の経緯について説明の上謝罪されております。また記事も全文削除されております。
 しかし一度掲載された記事である以上、記事をご覧になったOB・OGの方や現役部員の方はさぞかし不快な思いをされたことと思います。マスコミは発言のニュアンスを変化させたりと、記事を歪曲する可能性があると考え、注意深く取材を受けたつもりでしたが、まさか、全文にわたって取材内容と異なる捏造記事を掲載されることになるとは不快を通り越して驚愕でした。
 今回の件は記事の内容捏造ばかりでなく、実名や写真の無断掲載など法律にも抵触する悪質なものでしたので、朝日からの申し出で【報道と人権委員会】の調査と人権救済を受けることになっており、現在調査が行われております。
 記事をご覧になった方に不快な思いを与えてしまい申し訳ありません。また心配して連絡を下さった方々、本当にありがとうございました。
 取材では宮大のポリクリ・クリクラが他大学より実地的であることや、グルコンの仕組みなど詳細にお話しし、親身で熱心な教育体制の充実を記者へ充分に伝えたつもりでした。しかし結局は記者が初めから書きたかったように完全に捏造されてしまいました。今回の取材は済生会熊本病院の広報室の立ち会いのもと行われたため、捏造であることがすぐに証明されたことは幸いでした。
 今後の人生でマスコミからいかなる取材の申し入れがあっても決して受けません。また、皆様にも、大手マスコミでもこのようなケースがあることをお知り頂き、気をつけて頂ければと思います。

この内容が事実であるとすればよくもまあこうまでデタラメを…と思わされるような話なのですが、上記文中にもあります通り第三者の立ち会いがあったからこそ判明した話であって、これが密室などであれば約束すら平気で反故にする朝日新聞社のこと、どこまでも知らぬ存ぜぬでとぼけ切られていただろうことは想像に難くありません。
読めば読むほど御本人にとっては好意の取材のつもりがずいぶんと高い授業料についたなと思わされる話ではありますが、同時に全国の医療関係者もこれを他山の石としてうっかりとした対応など間違っても取らないように、朝日に限らず取材を受ける際には文書による確約や録画録音といった証拠保全の準備をしておく方が良いのかなという感じでしょうか。

ところで上記文中にもありますようにこの件、これだけのデタラメブリを発揮した以上は当然のことながら公に取り調べが行われることになったということなのですが、その結果がそろそろ出てきているようなのですね。
まずは同社の恥ずかしい事後報告記事から見てみますとこんな感じですが、わざわざ「見解の全文」の掲載アドレスをコピペもワンクリックも出来ないよう全角リンク無しで表示しているあたり、同社の不満たらたらな姿勢があからさまに透けて見えるようで素敵です(苦笑)。

研修医めぐる記事に「報道と人権委」見解(2009年07月11日朝日新聞)

 朝日新聞社の「報道と人権委員会」(PRC)は10日、宮崎版の連載記事「医師不足の現場から(下)」(4月2日付)について、記事に登場する研修医の名誉や信用を著しく棄損している、とする見解を決定した。見解は、記者の思い込みから事実に反する記事の掲載になった、と指摘している。

 審理の対象になったのは、宮崎大学医学部を卒業し、済生会熊本病院で研修している○○さんに関する記述部分。○○さんは、発言していない言葉を自分の言葉として書かれるなど、発言の趣旨が著しくゆがめられて報じられたと主張していた。朝日新聞社宮崎総局は、○○さんの主張を大筋で認めて「おわび」(4月14日付)を掲載した。だが、朝日新聞社側の対応をめぐって意見の対立が解けず、双方が委員会に申し立てていた。

 見解は「宮大は医師免許取得の合宿所といったところ」など、○○さんが発言していないことを本人の言葉として書いたことを、記者の職業倫理に反するなどと批判。その他の記述でも、記者が思い込みから、○○さんの発言を都合よく解釈したり、拡大して受け取ったりした結果、誤報になったと判断した。また、掲載される記事内容を事前に○○さんに確認するという約束を、記者が守らなかったことも、職業倫理に反している、としている。

 さらに、こうした誤報が掲載された原因について、記者を指導する立場の総局長らの責任も大きく、「合宿所」などを○○さんの発言した言葉として掲載すれば、○○さんの社会的信用が傷つくことへの感性が欠如していた、と述べている。

 最後に、掲載された「おわび」の内容では、読者への説明や名誉・信用の回復が不十分であるとして、朝日新聞社に対して、記事が○○さんと宮崎大医学部の名誉と信用を傷つけたことを認めるよう求めている。

 PRCの委員は、本林徹・元日弁連会長、長谷部恭男・東大大学院教授、藤田博司・元共同通信論説副委員長の3氏。

      ◇

 見解の全文は、朝日新聞社のサイト(http://www.asahi.com/shimbun/prc/20090711.pdf)に掲載しています。

(略)

■大学と私への誤解を解いて
○○さんの話 今回の記事で、大変な精神的苦痛を感じていました。PRCの見解で、宮崎大学と私への誤解が解かれることを望みます。また、この見解を朝日新聞社が真摯(しん・し)に受け止めて、信頼される新聞づくりの糧にされることを期待します。

■真摯に受け止め、今後に生かす
宮川政明西部本社編集局長の話 ○○さんと宮崎大医学部の名誉と信用を傷つけ、済生会熊本病院にもご迷惑をおかけしたことをおわびします。見解の指摘を真摯に受け止めて、今後の記者の教育・指導に生かし、信頼される紙面づくりに努めていきます。

ちなみにこの「報道と人権委員会」というものは同社によれば、

朝日新聞社が発行する新聞、雑誌などの取材・報道で、名誉を傷つけられたり、プライバシーを侵害されたりなどの人権侵害の訴えや疑いがある場合に、社外の識者の目で公平に迅速に判断し、問題の解決を図る「第三者機関」です。2001年1月に設置しました。

なんだそうですが、そのメンバーというのはこちら御三方です。
昨今では何事にも疑い深くなければならないご時世ですので、念のため御三方の言説に関して何かしら参考になりそうなリンクをごく適当に見繕って張ってみました(本当に適当で申し訳ないですが)。

本林 徹氏 (弁護士)
長谷部 恭男氏 (東大大学院教授)
藤田 博司氏 (ジャーリスト)

さて、これら御三方の結論になるところの「報道と人権委員会」のレポートについても、少しばかり長くなるのですが見てみましょう。

宮崎版「医師不足の現場から㊦」についての申し立てに対する見解 (2009年7月10日朝日新聞社報道と人権委員会)より抜粋

3.主な記述上の問題点と委員会の判断
 ○○医師側は、以下の4点について発言内容と違っていたり、発言の趣旨が著しくゆがめられたりしており、「捏造したとしか思えない内容だ」と主張している。一方の朝日新聞社(宮崎総局)側は、大筋で○○医師側の主張を認め、記述の誤りは「記者の取材での思い込みや確認不足などに起因するもの」と説明している。○○医師側の指摘の順に従って、記述内容を検討する。

(1)「ここを選んで良かった。宮大は医師免許取得の合宿所といったところ」と話した。
イ)○○医師側主張
 牧野記者が「宮大は医師免許取得の合宿所という風に言う人もいますよね」と発言したので、「そういう風に言う人もいます」と答えた。その後は、宮崎大学の教育が充実していることを話した。宮崎大に「ネガティブな思いはありますか」との質問には「ありません」とはっきり答えた。
ロ)朝日新聞社側主張
 取材のとき、「言ってみれば宮崎大学は医師免許取得の合宿所みたいな感覚なんですかね」という質問に、○○医師は「そうですね」と答え、それを「同意」と受け取った。○○医師は「そういう風に言う人もいます」という言い方はしていない。○○医師が「合宿所」という言葉を使っていないのは事実だ。
ハ)委員会の判断
 牧野記者は聞き取り調査で、「同意」と受け取った理由について、やりとりした時の雰囲気が宮崎大に否定的だったためと述べている。しかしながら、牧野記者は委員会のヒアリングで、○○医師が宮崎大について批判的な発言をしなかったことを認めている。このことは、取材メモや初稿には、○○医師が語った宮崎大の医学部教育の充実ぶりが多く記述されていることからも裏付けられる。
 取材では、○○医師は宮崎大の医学部教育の充実ぶりを強調したと認められ、○○医師が「そうですね」と答えたという牧野記者の主張には疑問を覚える。しかし、たとえ○○医師の答えが「そうですね」であり、それを「同意」と受け取ったとしても、さらに質問を重ねて、同意と受け取ってよいかどうか、また「宮大が合宿所」を○○医師の言葉として使っていいかどうかを確かめて、明示的に同意を取り付けるべきだった。
 本人が発言していないことを、本人の言葉として使うことは、記者の職業倫理に反し、牧野記者の行為は許されない。

(2)出身地の熊本大学医学部を志望したが、「(入試が)ちょっと難しかった」。
イ)○○医師側主張
「大学受験だから、自分の学力に合ったところを選んだ。宮崎大か佐賀大かで迷った」と答えた。「熊大」は口にしていない。宮崎大に通っている知り合いが多く、宮崎大の良さを聞いていたことは話した。そもそも、熊本大は志望していない。
ロ)朝日新聞社側主張
「なぜ熊本出身のあなたが宮大を選んだのですか」と質問すると、○○医師は「熊大が難しい場合は、九州で医学部を探そうと思ったら佐賀大か宮崎大になるんですよ」と答えた。草稿では「熊本大はちょっと難しかったですからね」と表記したが、表現にあいまいさが残るため、指導役の先輩記者らとの間で推敲を重ねるうちに表現が変わってゆき、最終的に「志望したが、『(入試が)ちょっと難しかった』」との文言になった。志望した事実があるかどうかを確かめずに、○○医師の言葉を勝手に解釈した結果だ。
ハ)委員会の判断
「熊大が難しかった場合」と発言したかどうかにかかわらず、○○医師が熊本大を志望したことを裏付ける事実はない。牧野記者の思い込みと、○○医師の発言を勝手に解釈したことから生じた記述と認められ、記事の表現は事実に反している。

(3)宮大側からは、宮崎に残るよう暗に促されたという。
イ)○○医師側主張
 学生を集めた場で、大学側から「宮崎に残ってほしい」といった内容の話があったことを話した。「暗に促された」というのは事実に反する。
ロ)朝日新聞社側主張
「暗に」という後ろ暗い印象を持たれかねない表現は不適切だった。宮大は「暗に」ではなく、学生を集めた場で「公に」県内定着を働きかけている。
ハ)委員会の判断
 宮崎大医学部では、大学側が学生を集めて宮崎で研修するメリットを説いたことは、双方の主張から明らかであり、「暗に」の表現は不適切である。

(4)卒業後の研修先は「医療設備などが充実している環境で働きたかった」と、宮崎を離れた。
イ)○○医師側主張
 宮崎や宮崎大と熊本や済生会熊本病院を比較しての発言ではなく、若い医師は医療設備が充実した病院で働きたいと考える人が多いという一般論を述べた。熊本に戻ったのは、女性医師として続けるには家族のサポートが必要だと考えたからだ。「済生会病院の医療設備が充実している」と話したが、宮崎大の設備を非難するような発言はしていない。
ロ)朝日新聞社側主張
「なぜ熊本、なぜ済生会を」との質問に対し、○○医師は「地元であること、家族や親戚がたくさんいること」をまず挙げた。「宮大病院と比べてここ(済生会)はどうですか」との牧野記者の質問に、○○医師は「ここは入り口を入ってすぐ吹き抜けになっていたり、大きな絵があったりして立派でしょ。宮大は、牧野さんも知っているように、ああいう感じですよね」「(済生会病院は)患者数も多いし、先端的な技術がある。各ステージに合わせて最新の機器がそろっているんです」と答えた。今から思えば、○○医師の発言は、済生会熊本病院の良さの説明や、「一般的に学生はこうだ」という趣旨だったと思う。
ハ)委員会の判断
 文章全体の流れから、○○医師が宮崎大と比較して、医療設備や研修環境の整った済生会熊本病院を選んだように読める。しかし、○○医師への聞き取り調査やヒアリングから、熊本に戻った主な理由は、女性として医師を続けるためには、周りのサポートが必要と考えたためであり、熊本県内で済生会病院を選んだのは、設備が充実していたことや他の病院と比べて研修プログラムが合っていたからだと認められる。○○医師が宮崎大と済生会病院を直接、比較したと認めるだけの事実はなく、記事の表現は不適切である。

こちらを見てみますと、要するに記者の主張なり結論なり先にありきで発言を歪曲しているばかりではなく、しばしば有りもしない発言をどこからか捏造して記事としているといった話であり、当事者である記者ですら自ら行いの誤りを認めているくらいですから、それは取材先が怒るのも無理はないと思わされる話です。
しかしむしろ注目すべきはこの後の部分で、取材先の方では「記事の事前確認」を要求しているはずなのに全く音沙汰もないまま勝手に捏造記事を掲載されてしまったその経緯にこそ問題の根の深さがあるのではないかとも感じられるのですね。

(5)記述についての委員会判断のまとめ
 牧野記者の取材メモ、初稿の内容、聞き取り調査やヒアリング結果からみても、取材時に○○医師が宮崎大医学部について否定的発言をした形跡は見られず、むしろ、○○医師が宮崎大の医学部教育の充実ぶりを強調したと認められることは、前述した通りである。記述内容は、○○医師の話した趣旨に著しく反しており、「捏造記事」と○○医師が批判するのも理解できる
 しかしながら、記事掲載日に○○医師に連絡していること、○○医師から抗議を受けて即座に記事の誤りを認めていること、初稿には宮崎大の医学部教育の充実ぶりが書き込まれていること、聞き取り調査やヒアリングでの牧野記者の態度などからみて、「捏造」とまでは認められない。自分の強い思い込みから、○○医師の発言を都合よく解釈したり、拡大して受け取ったりした結果、誤報になったものと判断される。

4.掲載内容、実名、写真掲載の事前確認について
イ)○○医師側主張
 牧野記者は最終的に掲載記事の内容を確認したうえで、実名・写真の掲載を判断してもらえばよいと発言し、事前確認を約束した。その際、事前確認には条件はついていない。取材を受けたとき、掲載が延期になるという連絡を受けたときにも事前確認を求めた。しかし、一切、事前の連絡はなかった。写真については、事前確認の際に掲載を断るつもりでいた。
ロ)朝日新聞社側主張
 取材の際、○○医師は「これって名前が出るんですか」と気にしていた。牧野記者は「そうお願いしたいと考えています。ただ、微妙な問題が絡むので、きわどい内容を書くときは読んでびっくりすることがないよう事前にお伝えします」と答えた。牧野記者は、取材で○○医師が話した家族のことなどを「微妙な問題」としてとらえ、「微妙な問題」に関する記述が原稿にないため、事前に記事内容などの確認の連絡をする必要はないと判断した。牧野記者は相手が確認をどのように理解していたかを考えるべきだった。
ハ)委員会の判断
 取材の席で確認を約束した際に、牧野記者が前提条件を付けたとしても、○○医師がその条件を認識していなかったものと認められる。しかも、取材時のほか、取材を申し込んだとき、取材後に掲載時期の延期を連絡したときにも、済生会熊本病院から記事内容などの事前確認を求められていた。
 本件記事が実名・写真付きで掲載されれば、○○医師の社会的信用が失墜することは十分、予想されたうえ、記事の内容について事前確認を行っていれば、誤報は防げたはずである。実名・写真、記事内容の事前確認を、複数回にわたり○○医師側から求められ、それを約束していたにもかかわらず、怠ったことは記者の職業倫理に反している

5.取材・紙面化過程の問題点のまとめ
 牧野記者は、宮崎大医学部学生の宮崎県内出身者の比率が低下するとともに、卒業生の県外流出が増加していることから、同大学医学部に対して否定的印象を持っていたことが、聞き取り調査やヒアリングからうかがわれる。本件連載記事を取材し始めた初期の段階で、複数の取材先で聞いた「宮崎大医学部は医師免許取得の合宿所」という言葉で、さらに否定的印象を膨らませ、この言葉を本件記事のキーワードとして使おうと思っていたこと、この思いは指導役の先輩記者も共有していたことが認められる。
さらに、取材した際にも、宮崎を離れた○○医師も宮崎大医学部に対する否定的見方をしているという、一方的な思い込みが、自分の発言である「合宿所」という言葉に○○医師が同意したと受けとめたことにつながった。この思い込みは、○○医師と宮崎大医学部への否定的評価を結びつけた記述になったこと、初稿の段階では、宮崎大医学部の教育の充実ぶりが多く書き込まれていたにもかかわらず、先輩記者との間で原稿のやりとりをするうちに、その部分がそぎ落とされていったが、それを「原稿がよくなっていった」(牧野記者)と思ったことにもつながったことがうかがわれる。
 また、牧野記者は取材記者の経験が約2年半であり、先輩記者や取材・出稿の責任者である次長、総局の運営を担う総局長の責任も大きい。
先輩記者は、牧野記者の取材から原稿執筆までを指導していた。しかし、○○医師への取材時の模様や、「宮大は合宿所」などの言葉のやりとり、実名や写真を掲載することについての同意の取り付けについて、牧野記者に報告を求めなかった。そして、前もって牧野記者との間で作った記事の枠組みに沿うよう、原稿を書き直すたびに、宮崎大医学部への否定的記述をさらに強め、○○医師の話した趣旨からますます離れていったことが認められる。
この間、次長も当時の総局長も、本件連載が、医師不足という重いテーマを扱うのにもかかわらず、牧野記者の経験不足や力量を気にしながら、本件記事の企画立案から取材、原稿作成の指導を先輩記者に任せたままで関与しようとしなかった。
 医師の場合はとりわけ、母校や同窓会、同級生とのつながりが深い。宮崎大医学部について、「合宿所」など医療関係者の間では侮蔑的に使われている言葉を、○○医師の言葉として掲載すれば、○○医師の社会的信用が深く傷つくことは容易に想像できる。まして、○○医師は取材協力者であり、しかも宮崎県の隣で研修しているのである。ところが、牧野記者をはじめ先輩記者や次長の誰にも、当然持つべき感性が欠如していたと言わざるをえない。

記者があらかじめ予断を持ってそれに対して都合の良い証言を「捏造」する、そしてそれを誰一人是正する者もなく、むしろ社としての認識の赴くまま偏向の振幅を一層拡大させながら紙面へと載せてしまう。
それも事前に取材先と約束したはずの話すら一方的に反故にしてということであれば、これは記事つくりの体制として同社の体質そのものに大いに問題なしとしないところです。

委員会では担当記者の未熟さをもってむしろ上司らの責任こそが大きいと主張しているようにも取れますが、ここで注目すべきはたかたか経験二年半といういわば若輩(失礼)がこのような予断をもって記事を書く、そして取材先の意向など全く無視して構わないのだという同社流の考え方を既に濃厚に身につけているという点なのではないでしょうか?
そしてそれが取材する者の態度としておかしいのだと言う認識を組織の中で誰も持っておらず、しかも若輩記者の不十分な取材を更に同社流に味付けして掲載してしまう体制となっていたというのであれば、それは確かに同種の事件が幾らでも再発しても何ら不思議ではないのも道理ですよね。

この捏造の背景にあったのが当該記者を初め朝日新聞社の持っている医師という存在に対する社としてのイメージであり、それ故にこそありもしない「朝日にとって好ましい発言」が記者の空想の世界から幾らでも飛び出して来たのだと考えるならば、現場の人間がどうこうといった話ではなく背景にある同社の立ち位置こそが問題となってきます。
「当然持つべき感性が欠如していた」と言いますが、当然持つべき感性とは何かということを当事者の誰もが理解していないのではないかという点にこそ、繰り返される朝日新聞社の捏造問題の根があるようにも感じられるところですがどうでしょうか?
朝日が二度とアサヒらないようにするためにはこうしたレポートで小手先の謝罪と反省の真似をしてみたところで意味はなく、よほどの決意を持って社内体制を根本的に変革していくか、それとも同社の存在自体を地上から精算してしまうしかないのかも知れません。

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コメント

済生会熊本病院の被害者の先生には、ぜひ慰謝料を求める訴訟を起こしてほしいところなのですが、難しいですよねぇ。

投稿: cobonzu | 2009年7月27日 (月) 21時09分

時期的にはまだ可能性はあるかと思います。
あちらさんの対応がどうなるのかというところですが、何しろ天下の朝日ですから期待は裏切らないかなとwktkしているんですが(笑)。

投稿: 管理人nobu | 2009年7月28日 (火) 11時09分

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